56 囲み会見にて
拝啓
歳の瀬も近づき、慌ただしい中ご健勝のことと思います。
ファンの皆様、又、関係各所の皆様。
この度、私、藤枝光稀は春からお付き合いさせていただいている恋人がいることをご報告させていただきます。
突然のご報告、不躾とは思いますが、隠しておくこと隠し続けることへの限界があると考え、発表させていただきます。
婚姻など具体的な話が出ているわけではありません。また、そのような話が出るような付き合い方ができておりません。
というのも、皆様に知られないよう、恋人らしいお付き合いがないためです。
好きな人を好きと人に言うこともできない。
その状況に疑問をもち、公にする決意をしました。
ファンの皆様は、知りたくなかったと思うでしょう。けれど、大好きなファンの皆様に秘密がある、そんな私で、いいのでしょうか?応援してもらっていいのでしょうか?
皆様の応援が私の原動力です。
それは、今までもこれからも変わりません。
皆様に胸を張って自分をさらけ出したい。
この発表が良かったのか、無駄なのか。
どんな言葉で紡げばいいのか、正直、まだ迷っています。
けれど、ファンの皆様に嘘を付きたくない。
それが心からの私の本心です。
彼女に告白をしてから数ヶ月、真実を黙っていたこと、
書面での報告になってしまったこと、を改めてお詫びしたいます。
敬具
20〇〇年 12月○日 藤枝光稀
コンサートの終わりと同時に公式SNSと、各局関係先に配られた俺のコメント。
正式な文章ってどうやって書くかなんてわからなくて。
関係先ならもっとビジネス敬語を使うべきだし、けど、ファンに向けてならいつもの言葉で語りかけたい。
季節の挨拶?前文?なんてまどろっこしいもの付けたくないけど、それだと前略になるんだっけ?それは砕けすぎかも。
検索して調べようとも思ったが、それはそれで俺の言葉じゃなくなる気もする。
何度書き直しても納得がいかない。しかたなく、まだましかと思う一枚を社長に見せたら、苦笑いしながら受け取ってくれた。
苦笑いした文章なら書き直したほうがいいのでは?
「光稀らしいんじゃないか?」
なにか見たりして書いたわけじゃないんだろ?
だから、そのまま採用になる。
コンが終わっての囲み会見。
通常は始まる前に行われることが多いのだが、今回に限っては記者の聞きたいことがMCについてだろうから、後のほうが丁度いい。
客も引いて、ステージのバラシが始まっているだろう時間。
軽く汗を拭いて、アンコールの衣装のまま、記者に囲まれる。
TIMEとのコラボとか、十周年の活動についても発表したのに、質疑は恋人についてのことばかり。
予測してはいたが、こうも質問が偏るとは思っていなかった。
興奮ぎみの記者からの質問と、返答は次の通り。
《芸能人でないなら知り合ったきっかけは?》
やっぱ、そこからか。
俺、遊びに出歩かないし知り合う機会がないと思われてるんだな。
「スタッフです。関係者ではありますが、何度も言ってるように芸能人ではないので、詳しい部署などは話せません」
《相手の容姿、年齢など》
あれ。詳しく話せないって言ったよな?
でもまぁ、この程度は教えていいって許可とってあるし。
「二つ年上です。背は、女性にしては高めで。すらっとしてて、髪は長くて、あとは…あ、以上です」
《なんて呼び合っているか》
もし、可能なら教えてくれって。
「普通に。下の名前ですけど。呼び捨て?いえ、光稀くんと」
《今まで何処かへ出かけているか》
「出かけたいから公にしたって、言いませんでしたっけ?」
観覧車へ行きたいと仰っていましたが、今までは、って。
「お互いの家?まさか。写真取られたら終わるようなことしてませんよ」
あなた達報道関係者が普通の恋愛できなくしてる要因なのに、なぜ、デートぐらいしてるんでしょう?と疑いの眼差しを向けてくる。
やばい、イラッとしてきた。
《合法的な浮気の提案は誰が?》
「彼女です」
あ、沈黙した。
彼女とは恋人、ですよね?なんて確認してくる。
「そーやよ。彼女、発想が面白いんや」
「あぁ、そっか。普通は彼女が彼氏に浮気とか言わせないですよね」
けど、俺たち見合いしたり恋人疑惑の報道出たりしてるし。
発想が面白いかはよくわからないけど、ファンが喜ぶならりこさんも喜ぶだろうし。
《今後も進展があったら報告してくれるのか》
「進展ってなんですか?そりゃ、結婚するなら報告すると思いますけど。だから、そーゆー話にならないから、こそこそしたくないって、俺言いましたよね?あ、デートは報告義務ないですよね?」
「年末年始は忙しい時期やし、観覧車デートもいつになるか予定立たへんしな」
そう、年末の歌番組特番と、カウコンが待っている。
これからの話が出たからか、やっとTIMEが登壇した件について質問してくる記者がいた。
これからも後輩をプロデュースするのか。とか。
「ご要望があれば、考えることもあるでしょう」
正直なところ、今後はない。と言いたいが、思わせぶりにしておくのがベストな回答だと俺は思う。
そして、取ってつけたかのように十周年のイベントについて聞かれた。
ステージ上、最後のMCでいつものソロ活時期に二人で舞台をする。と、発表したことを復唱するような情報しか今は出せない。
本来なら、もう少し詳しく話すつもりだったが、恋人宣言のインパクトが大きくて、マスコミの扱いがおざなりになると困る。
数日置いてから、改めて会場と日程、チケット申込みの詳細を発表することになった。
これでもう、俺、りこさんに話しかけたり二人で出かけたりしていいんだよな?
早く会いたい。
声聞きたい。
まだ、裏にいるかな?
「こーき、最後にファンへ一言やて」
やば。聞いてなかった。
ファンへ?
俺が考える時間を稼ぐためか、智史からコメントを始めた。
「今までの十年も、これからの十年も、永遠に俺たちはみんなのアイドルやよ」
「アイドルでいるときは、今まで通り全力でみんなを幸せにする。だから、受け止める準備をしておいてほしい」
智史と目が合う。
自然と右手でピースサインを作っている。
俺も智史も。
それは、デビュー当時に散々させられたキメポーズ。
十周年とか節目がデビュー当時を思い出させるからか。
ファンへ重大な告白をしてユニットの絆が強まったからか。
作ったピースをおでこにチョンチョンと、二回つけたあとそのまま唇へ。
「ビュア&クール、F2!」
キャッチコピーと投げチューをかます。
智史もいるから質問は平等にしてあげて。
次回は時間を少し戻して、郁ちゃんの視点を。




