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推しの衣装を手がけてます!  作者: 葵 紀柚実
三章 秘密の恋人
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53 本気の気持ち

決して誰も入れないように。

秘書の方にきつめの口調で告げる社長。


あれ?

考えてた話し合いと違う感じ?

他の者もそう考えたのか、部屋の空気がピリッとした。

演出の久保田さんがいるのだから、ツアーに関することで間違いはないと思うんだけどね。

「今日は光稀から話があるそうだ。俺も内容までは聞いていない」

このメンバーを指定したのも光稀くんとのこと。

応接用の立派なソファーに深く腰掛けている社長が腕を組み直す。

先に知るべき立場にあって、打ち明けられていない話に少し苛立っているようだ。

それに対峙しているF2は悠然と構えた感じ。

社員の私達は少し離れた位置で立ったまま、どうしていいかわからないでいる。

久保田さんは座ってもいい立場だと思うんだけど。

私が呼ばれてるのってなんか、間違いじゃないよね?

と、おもむろに光稀くんが立ち上がる。


「俺、好きな人がいます。恋人だと思っています。きちんと彼女と向き合うため、公表したい。皆さん、力を貸してくれませんか?」


しばしの沈黙。

あれ?これって私とのこと言ってるよね?

だよね?

なに急に。

あ、いや。秘密にしてるのに限界があるんじゃないかと悩んでる。っぽい話はされてたよ?

ゆずゆずちゃんの件で考えさせられたというか。

けど、こんな形で打ち明けるとは聞いてなかった。

すぐ隣りにいる並木センパイから、私に飛ばされる視線。きっと『聞いてないけど?説明しなさいよ』とか言いたいみたい。

智史くんは笑い押し殺してる。肩が揺れてるもの。

小泉さんと久保田さんは、私からは表情が見えない。

社長は。怖くて伺いたくないけど、ちらっと視線を向けると、あぁ。

これが、開いた口が塞がらないってやつなんだなって顔だった。

「あの、その。なんだ」

ほら、なんか言いたそうなのに言葉になってない。

これだけの会社の頂点に立っていても予想だにしなかった出来事なのか。

うぅ、ごめんなさい。私のせいでしょうか?


「光稀?あー、それは。付き合ってる彼女が出来たってことか?」

「いや、社長。光稀くん『恋人だと思ってる』と。まだ一方的な片思いかも」

社長の呟きに近いボソボソした声に小泉さんが冷静な突っ込みを入れた。

「あ、ごめんなさい。恋人なんですけど、ちゃんとそれらしいことができてないから、光稀くんがそんな言葉選びをしたんだと思います」

思わず訂正を入れた私に部屋にいる全員からの注目。

そして、同時になぜ倉沢がいる?衣装のサブチーフを呼んだ意味は?

って顔。

「光稀くん、りこさんにも力を借りたいってこと。かな?」

いまだ混乱してる社長と違い小泉さんは適応が早い。もう、進行役は小泉さんだね。

「あ、いえ。彼女は当事者です。すみません、順を追って話を」

光稀くんの目が泳ぐ。

言いたいことはちゃんとあるけど、どう説明したらいいか迷っているみたいだ。

そうだよね。

智史くんと並木センパイは私達のことを知ってるし。

でも、イチから説明の必要な人もいる。

すると、智史くんが耐えきれずに笑い声をあげた。

「ははっ。いや、もぉ我慢できひん。こーきの言葉足らずが。りこさんに事前に話してへんの?困り顔やで?」

「えっと。その、電話で。隠すのも限度があるのかって考えてる。とかそんな感じのことは言ったけど。ごめん。俺も今日の打ち合わせが社長室とか、こんなことになるの、さっき知ったし」

あぁなんだ。それで。

「急ぎの話だって言っただろ?週末には海外だから今日ぐらいしか」

「うわ、アジア視察行く言うてた話?社長、お土産期待してもえぇ?」

智史くんの明るい声、和む。

「智史くん、お土産は後で相談して。えっと、りこさん?なのかな。光稀くんの相手は。当事者なんだよね?」

小泉さんの言葉で話が本題に戻る。


光稀くんが付き合いを認めて、けれど発覚しないよう、電話ぐらいしかしていない状況を伝える。

「二人で出かけたりしてない?ごめん、プライベートの話を聞くことになるけど、何かあったとき、何も知りませんて訳にはいかないからね?」

う、小泉さんグイグイくるな。

久保田さんなんて、聞きたくなかった、自分は部外者だよな?って三歩ほど壁際に下がったのに。

「事務所の判断として『プライベートは個人に任せています』と対外的にコメントを出すにしても、経緯や今後を把握しないってことにはならないからね?それも、スタッフ相手だと社内で何やってるんだとか憶測でありもしないこと言い出す人だっているだろうし」

はい。そうですよね。

アイドルの相手が芸能人でも一般人でも、言いたい放題SNSに書かれるとは思いますが、社内の衣装スタッフって立場は職権乱用とか、アイドルに近づくために就職したとか。

他のスタッフもアイドル目当てなんじゃないかとか。

ちょっと考えただけでもバッシングが強そう。

「経緯と言われても。気がついたらりこさんのこと考えてて、好きになってたし」

光稀くんがボソボソ口にする。

「そうなの?それいつ頃?」

気がついたらか。あ、思わず質問してしまった。

「すみません、私もよくわかってなくて」

「え?りこさん。俺が好きって何度も言ってるのちゃんとわかってるよね?」

「はい。そこは理解してます。気がついたらの部分が気になって。年末のカウコンの前あたりですか?」

いつも電話だから、顔を見て話すの新鮮だな。

でも、周りに人がいるし、場所が場所だけに話しにくい。

「んー?ほら、石井さんの噂かな?あ。もしかしたら月下のトラブルぐらいかも」

月下掌握?トラブルって?

「おぉ、ジャケットの!倉沢の対応早かったからな。あれで惚れたのか!」

やっと話に参加できるとちょっと嬉しそうな久保田さんに対して社長はさっきから理解不能だと言わんばかりの表情だ。

ちょっとしたトラブルなんてどの担当でもあるから、すっかり忘れてたよ。あれか。

「月下からだと一年半?それ以上隠してたの?光稀くんにしてはすごいね」

「いえ、きちんと付き合い出したのは…3月です。というか、きちんとしてないので協力してほしいと思ってます」

「電話だけなんだよね?りこさんは?光稀くんに告白されて、すぐに受けたの?アイドル相手に」

小泉さんの口調が厳しくなった。

SSRのアイドルに手を付けるということは、自社製品を傷つけるようなものだ。

自由恋愛が尊重されたとしても、社員なら遠慮すべきことなのかもしれない。

そんなの私だってわかってるよ。

「一度目は、恐れ多くて。それで、光稀くんの告白ごと()()()()()()になりました」

「ん?」

あ、理解されてない。

その時のことを知っている並木センパイは小さく笑い、智史くんはニヤニヤ笑う。

それでも、もう一度告白してきたのは光稀くんのほうなんだからね。


仕方がない。これからの対策に必要だろうし、黙っていて後からバレるよりは今がいいだろう。

私は、話が長くなることを伝えてから、昔からF2の、藤枝光稀のファンであること。

ガチ恋相手に告られるとかないない。って思ったけど、二回も好きだって言われたので、彼女になることを了承してること。

電話だけって言ってるけど、実はキスだけしてること。

光稀くんのこと明かせないでいたら、お見合いすることになったこと。

断ったのに、お見合い相手が逢いに来たことを話した。

その、キスの下りでは光稀くんが嫌そうな顔したけど、いい歳した大人が電話だけなわけ無いだろって思われてそうなので、変に探り入れられるよりいいかと思って。

ほら、芸能人の恋愛報道って、まず、できちゃった婚かどうか見定められるでしょ?

最近の結婚報告って『おめでたはありません』とかってコメント付けることも多いし。

小泉さんの鋭いまなざしは、恋人だとか言っておいて実は私が産休したりしないよね?って釘刺されてるようにしか感じない。

っていうか、普通はそれぐらいの事してるはずなのかな。恋人なら。

頑張ってバレないようにしてきたのに、ここにきてしてないわけないだろ。と思われるなんて理不尽だ。

だからこそ、キスだけです。そこまでなんです!って上層部に報告しとかないと、変な誤解されかねないから。

私だって、言いたくて言ってるんじゃないからね?


「りこさん、俺聞いてないけど。見合い相手にもう一度会ってるの?どこで?」

「あ」

やばい。言ってなかった。

「あ。じゃないよ?何があった?大丈夫だったの?」

「…結論、大丈夫でした」

「それ、大丈夫じゃなさそうだよね?あとで問い詰めるから」

う。どうしよう。郁ちゃんに助けられました。って言っても、良かったね。にはならないだろうし。

そのあと、飲んだ勢いで変な会話しましたってことを黙っていれば、なんとかなるかな?

なるといいな。


「倉沢さんのことはいい。経緯は理解したしキスまでってのも本当なんだろう。それで光稀、力を貸すってのは?」

天井眺めて考え込んでいた社長が意を決したように話し始めた。

私のことはいいんだ。

そっか。なら、お見合いうんぬんってところで質問してきそうだった小泉さんも追及してこないかな。

「これだけのメンツ集めたんだ、ツアーでファンに直接発表する。ってことでいいんだな?」

「ええっ!光稀くん、それ良くないよ。言われたファンが卒倒する!」

やば。社長の話遮っちゃった。

おもわず。

「光稀くん、彼女であるりこがこう言ってるけど。決めたの?」

「はい。りこさんだって、推しが無理してるのと、楽しんでるのだったら、自由に生きてほしいって思うでしょう?他のファンもわかってくれると思う」

「めちゃくちゃ叩かれるし、離れるファンも多いよ?」

「わかってる。けど、大切に思ってるからこそ、ファンに隠し事はしたくない」

光稀くんの決意。

私は、最近の彼が関係を隠すことに対して迷いを感じていることを知っているから、この提案を受け入れるしかなかった。


「よっしゃ、そしたら発表は最終日やね。取材日もそこやろ?TIME狙いで来はった記者が、度肝抜かれる顔見れんるは今からワクワクするなぁ」

「裏方には俺からTIME絡みでMCの時間を多めにするって言えば極秘に事を進められるだろう」

智史くんと久保田さんがサクサク当日の進行を決めていく。

なんか楽しそう。

「待ってください、今部屋の外にはF2とTIME六人でステージに立った際の衣装について話し合っていると思われてます。そちらも決めてしまいましょう」

解散しようかという段階に来て、本来の目的に言及するセンパイ。

衣装自体は、もう随分前に提案があって、今日は細かいところと舞台演出についてなんだけど。

すっかり忘れそうになるところに指摘入るとか、やっぱセンパイ凄いな。


「りこさんが、砕けた物言いで光稀くんと話すなんて。本当に彼女なんだね」

全ての段取りが整ったあと、部屋を出る前に小泉さんが感想のように声を出した。

「す、すみません。あの、そうですよね、今後気をつけます」

部屋入ってすぐは仕事用の言葉で対応してたはずが。

「いや、二人のこと。全く気が付かなかったから、僕もまだまだだと思って」

え、何?

まだまだって?

「智史くんは知ってたんだ?そう」

なんか小泉さん、ショック受けてるみたいだけど?


ツアー最終日、Xデーまでのカウントダウンが始まった。

やっとここまできました。アイドルが恋愛するとしたら?ガチで純愛なら?

を、テーマにしてたのでファンに言う!は、初めから決めてたこと。

次回はツアー最終日の本番前まで。

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