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推しの衣装を手がけてます!  作者: 葵 紀柚実
三章 秘密の恋人
51/65

49 髪色

ラジオ収録のブースの中で。


残暑はいつまで続くのか。

九月になると今年は厳しいって、毎年言われる気がする。

焼けるような日差しの屋外と、冷房のガンガン利いた室内。

気温差で頭が痛くなる。

そんなオープニングトークから番組のタイトルコールが入り、そのままリスナーのメールが差し込まれた。

『ドラマもいよいよクライマックスですね』

ここ最近で一番多い質問は撮影でのエピソードについて。続いて多いメールは、髪型についてだった。

撮影が終わったら元に戻すのか、と。

「戻す。なんか、鏡見てても俺らしくないっていうか」

「即答なんやね。ドラマの撮影が始まってすぐから言うてたけど、茶髪続行に気持ち変わらんかったか」

「あれだろ?ファンの中にはもう少し明るい色でもいいって意見があるらしいね。でも、黒に戻してほしい人が多いみたいだし。どっちの意見もあるなら俺のしたいようにする」

「確かに、全員が納得するんは難しいし、好きなようにしたったらええやん。え?すぐ?」

「撮影は終わったけど、放送終わるまでは」

最終回の当日。朝のワイドショーから夕方まで局をジャックするように番宣がある。そこまでは役のイメージでいるつもりだが、まだその出演については電波に乗せられない。

けど今の言い方でファンは各番組へのゲストを察しただろう。

「サトは?撮影まだあるって?」

「けっこうギリギリなスケジュールやな。コレが放送される頃には丁度、終わってると思うけど」

そっか、クランクインも遅かったからアップも俺より遅いと思っていたが。

そろそろ、という感じか。

「俺はどないしよ。黒もええんちゃうかなと思ってきててん。これだけ色変えてるとさすがに髪も傷んでしゃあないわ」

智史の髪色なんて俺にとってはどっちでもいい。

ま、ずっと淡い色だったから、なんか黒は見慣れないとは思う。

前は、白っぽい紫なんて突飛だとか思っていたはずなのに。

慣れって怖いな。

「メール来てたんだからファンの意見で決めれば?」

「そうやね。けど、収録的にタイムラグあんねんやんか。このラジオの放送後から募集したら俺の髪色決まるん随分先や。待ってられへんかも」

なら、SNSで投票したら?

そんな流れになって話題は落ち着いた。

黒のままか、淡い色か。

毛先の痛みを気にしている智史は、どんな色に決まっても短く切ると言っている。

とはいえ、スタイルはマッシュだというから、俺より長いんだけどな。


んー。

大きく伸びをする。

ついでに欠伸がでた。

ラジオ二本撮りの合間休憩にて、甘い炭酸をガブ飲みしてる智史と、軽くストレッチをしている俺。

そして今日付いているマネージャーは小泉さん。

丁度いい。小泉さんには昨晩の姉との話をしておかなければならない。


「へぇ、お姉さんが。それはおめでとう。四月なら大丈夫だと思うけど、今確認してみるね」

姉の婚約と結婚式の日程。

俺の休みと出席の確認。

小泉さんはタブレットでスケジュール管理のツールでも見ているようだが、一度俺たちにチラリと視線を向けたあと、休憩室を出ていった。

まだ、F2本人達にも秘密のスケジュールがあるのだろうか。

「二本目までに戻れると思うから」

それって裏を返せば次の収録ギリギリまで席を外すってことか。

「こーき。なーなー清香(さやか)さんホンマに結婚してしまうん?寂しくなるね」

「そうか?お互い実家出てるし。これからも変わらないと思う」

「変わるやろ。それより…」

智史が声をひそめる。ガタガタと椅子を引き寄せて近づき一度扉を確認した。

まだ、戻ってくる様子はない。

「りこさんはどないするつもり?」

どない、とは。 

「弟の彼女ってお式と披露宴に出席するんかな?どうなん?」

「俺が聞きたい案件だが」

「そうなんや?なら、清香さんにも打ち明けんかったんか」

「まぁ」

そうなんだよな、そもそも結婚式なんて話題、誰になんて聞けばいいのかわからないし。

「すぐ別れる彼女なら後々しんどいけど、結婚する気なら、親族に顔を繋ぐいい機会なんちゃう?」

「別れるつもりなんてあるわけ無いだろ」

けど、結婚とかもまだ、あり得ないって思ってる。

俺たちは、全然、そんなもののずっと手前で立ち往生しているから。

「あ、そや。俺も出てえぇ?こーきがオフになるんやったらF2もオフちゃうの?したったら俺も出席できんるんとちゃう?」

「勝手に決めるなよ。そーゆー調整を小泉さんがしてくれんだから、出たいなら小泉さんに相談しろよ」

「あと、清香さんにな。で?りこさんはなんて?」

「まだ話せてない。多分、出ない。って言うと、思う。秘密なんだし」

「アホか。出席でええやん、お祝いごとやし、清香さん喜ぶと思うで」

「どうだろ。内々の何人かならまだしも、盛大な披露宴なら出席者全員にりこさんのこと秘密にしろなんて念を押すのは無理だと思う。絶対に映像が流出するよ、だから彼女のことはいいんだよ」

「なぁ、それは。悲しくはないんか?」

智史は苦い顔をしているけれど、俺は彼女のことを誰かに教えるつもりはない。

「家族に言えてたら、とっくに言ってる。そしたらりこさんだって見合いなんかしなくて済んだんだ。ここまできて、今更言えねぇよ」

そう、お互い家族にすら言えてない。


思うところがないわけではない。

違った愛し方だってあると思う。

SNSや芸能ニュースで騒がれる誹謗中傷。

それを思うと、巻き込ませたくなくてりこさんのことを表に出せない。

それで、いいんだよな。


ときどき、ふと思う。

俺は今、彼女を幸せに出来てるのだろうか。

二人のラジオ番組のタイトルを決めていないのですが、きっと「F」が付くのでしょう。

次回は、あるタレントのスクープ記事が出てしまいます。

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