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推しの衣装を手がけてます!  作者: 葵 紀柚実
一章 恋心は内密に
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5 打ち上げ・凛々子視点

さて、どうしよう。とりあえず食事を取りに行くか。

私の大好きな光稀くんが主演の舞台『月下掌握』の打ち上げパーティー。

光稀くんの挨拶も終わり、金屏風前では着物を着た舞台評論家がなんか喋っている。きっととても有名で偉い人なんだろうけど知らないや。

挨拶はまだ何人か続きそう。後で並木センパイにどうだったかと聞かれたとき、説明できる程度に聞き流してしまえ。

食事はローストビーフに列。並ぶのは嫌なので取りやすそうなとこから回って、先ほど覚えたばかりの裏方さんに話しかけてみよう。

よしよし、いい感じ。

次も誰かに話しかけるか、食事をもう一度取ってこようか迷っていると後ろから声をかけられた。


「りこさん」

ビクっ。

うわ、光稀くんの声だ。間違えるはずがない。ほら振り返るとフォーマルスーツの王子様が!

「ごめん、後ろから声かけて。少し時間ある?」

「はい。お疲れさまです」

私はめちゃめちゃ時間あるし、なくても光稀くん優先ですけど!

先ほどまで囲み取材を受けていた彼はどうやら私を探していたらしい。なんで?マジで?

「…りこさんと話がしたかったから」

少しはにかんだ微笑み、優しい声音。いつも以上にカッコいいよ、好きっ。

私と話がしたいなんてなんだろう、告白かっ?おいおい。

瞬時にあらゆる妄想が炸裂。

表面上は優雅に微笑み返してみる。私なりの精一杯の優雅さではあるけれど。

「来てくれて嬉しいよ」

何?私が来ただけで光稀くんが嬉しい?

うひー!

良かったぁ参加して!

「私も、お声がけ頂き恐縮です」

やばい、まともに光稀くんが見れない。視線定まらないのも挙動不審すぎてやばい。落ち着け私。

「…食事、取りにいこうか?」

まだ食事をしていない光稀くんが華麗にエスコートして空いたテーブルを指定してくれる。

半歩前を歩いてるだけでエスコートかどうかは定かでないけど、私が勝手にエスコートだって妄想するのは自由じゃない?

「私、伊勢海老初めて食べました。あと、ポークソテーがしっとりしてて…」

無言は気まずくて食事の話をしてみるけど、光稀くんは私よりごちそう慣れしてるに違いない。今日よりずっと高級な食事をしたことなんて何度もあるのかな。


好きな人と食事なんて緊張しちゃうけど、楽屋でお弁当とかコンサートのケータリングとか。今までも光稀くんが食べてるところも私が食べてるところも、お互い見たことがあるし。

そう、今は仕事中。平静を保つんだ。

久保田さんの名前を出したりして光稀くんから意識をそらしたいんだけど、どうしても彼の服装に目が行ってしまう。

ワイシャツ、グレーかぁ。いいねぇ。立食と格式ばった場ではないから白ではなくカラーシャツにしたってところかな?

壇上にいたときは距離があって暗めのシャツとしかわからなかったし、スーツも近いからこそわかる、高級フォーマルブラック。

生地感を確かめるために触りたい。手を伸ばしたい。

それにしても、光稀くんから話しかけられて、それっきりの気がする。私が舞い上がって妄想してる間もたいしたことは話してないし。

それに、なんだか見られてる?

え?何々?

「何かついてます?」

光稀くんとする食事において、チョイスするのは旨さより食べやすさ!だからへまはしてないと思うんですけど。

「あ、いや。いつもと違うなって…」

「あぁ、ただのワンピースです。サブチーフになる時、正式な場に出る事も増えるからって並木チーフに言われて。正直、これしか持ってないんですよ」

なんだ、粗相をしたわけじゃなかったか。いつもは動きやすいパンツが多い。スカートなんてめったにはかないからな。

次にパーティーに参加することがあったらまた同じ服だと思われないように、何着か購入しておいたほうがいいだろうか。そもそも自分で作れよって話なんだけど、暇ないな。

作れるよ?技術はあるけど服を作る時間があったら積んでる光稀くんを消化したい。


「あの時は助かった、ありがとう」

「いえ」

食事をする光稀くんの口元をさりげなく観察しながら、考えにふけっていたら、なんか急にお礼言われた。

「…どの時ですか?」

「え?っと、髪がジャケットのボタンに。イヤモニでりこさんが対処してくれるって聞いて、それで、大丈夫だって安心したから」

あぁ、あの事故。裏の状況は光稀くんにも伝わっていたのか、そりゃそうだよね。

「すみません、絡んだのは装飾重視のボタンを付けたせいですよね。衣装班の落ち度です」

衣装には普通の洋服のようにボタンホールで脱ぎ着するものと、面ファスナーでベリッと着替えるものがある。例のジャケットは次の黒ベルベットへ着替えやすくするため、見せかけの飾りボタンだった。

照明が当たりキラキラと輝くそれは、ボタンにしては大きすぎた。

「いや、会議で大きいと意見が上がってたのに通したのはこっちだし、あの日以外は問題なく進行したんだから、衣装班は悪くないよ」

「いえ、その…お心遣い感謝します」

今更何を言っても後の祭り。彼の言葉を素直に受け入れつつ、今後の課題としておかなければならない。

舞台の話は続く。

あの時、ジャケットを脱いでしまおうと思ったと打ち明ける光稀くんに思わず私はダメだと意見してしまった。襟をなぞる振り付けがあるではないかと。

少し振り付けを変えれば乗り切れると光稀くんは言うけど、それはダメ。

だってじゃぁ、ベストのノーカラーを、ふちを触るの?それともシャツの襟?そもそも手は首近くには来なくなるの?

ジャケットの襟、ラペルをなぞるのが、なんかエロくていいんじゃん!

あの中指がいいんじゃん!

彼はスタッフの意見も嫌な顔せず聞いてくれる。そんな光稀くん、好き。

そして代わりのジャケットを持って走ったあの日の私グッジョブ。

振り付けまで覚えていることを指摘する彼に、あのシーンは会議で話し合いが長引いたので特に印象に残っているのだと返答する。

ホントは光稀くんのシーンの振り付けは全部ちゃんと覚えたいんだけど、仕事しながらだときちんと見れないんだよ。

「まぁ、それもこれも千秋楽までやり切れたから言えることだよね」

安心しきったような笑顔を光稀くんが見せたから、つられて私も笑顔になった。

話したかった事とは、このことだろうか。

光稀くんが何やら言いたそうな、言いにくそうな、そわそわした感じになっている。

お皿も空だ。

じゃあまた。とか言えばいいのに。

知り合いになってからずいぶん経つけどまだ打ち解けられていないのだろうか。

そりゃそうだよね。私はただのスタッフだし。

「光稀くんビンゴカード手にしてますか?そろそろ始まるみたいですし、お食事すんだのならいかがです?」

ずっと二人でいたい。と思うよりも、あのスタッフいつまで二人きりでいるの?と睨まれるのが怖い。

ビンゴなんて無理やりな話題変換だとは思うけど、このさい仕方ないんじゃない?

そもそも私、舞台関係者と面識を持たなければいけないのだった。

まだ挨拶のすんでいない人がいるからとその場を離れる私に、

「この後も楽しんで」

別れの言葉までくれる光稀くん。

あぁ!なんて眩しくて爽やかな微笑み!

わかった、楽しむよ!


ビンゴの景品も気になるけど、さっきまで列ができてて近づけなかったローストビーフもゲットしたい。

デザートもカシスのムースタルトが気になってるし。

私が幾分かパーティーを楽しめるようになったころ、ふと光稀くんに視線を向けると、彼は一人で食事をしていた。

…アイドルが一人きり。

そうだ、彼がビンゴするわけないよね?景品用意する側が持って帰るの変だよね?

そりゃ、光稀くんがこの会場設営してるんじゃなくても、座長は主催者側だよね?

内心オロオロしてると久保田さんがグラスを二つもって光稀くんに近づいていた。

よかった、ぼっち回避。

視点が違うとその人の覚えていることが違うので、こんな感じになりました。

次回は軽く素材の話し合い。

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