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推しの衣装を手がけてます!  作者: 葵 紀柚実
三章 秘密の恋人
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46 まるで修羅場のような

ホテルのロビーにて、断ったはずの見合い相手と遭遇。

偶然じゃない、待ち伏せされた。

そこに突然割って入る声。


「嫌ならイヤってはっきり言わねぇと、つけ上がるよ、りんりんちゃん。つか、宮内さん?アンタも立ち話で告るとかどうよ?けっこう声、聞こえてんだけど」

「な、なんで郁ちゃんここにいるの?」

やだ、絶対にいないはずの人が。

「ん?俺、りんりんちゃんの事なら大抵わかるし。ウソ、真美さんから連絡きた」

真美さん?うぅ、助かりました。

ありがとうございます。

「なんか、うちの母親が迷惑かけそうだって。ま、真美さんは俺からセッティングなんてやめとけって連絡入れてほしかったみたいだけど?俺としては現行犯で締めたかったワケ」

なんだそれ。締めるってまさか首じゃないよね。いつもより口調が荒いし。

「あれ?じゃぁどこから見てたの?」

「ん?最初から」

うわ、趣味悪い。

「あの、すみません。こちらの方は」

あぁ、宮内さん置き去りだ。

「従兄弟です」

「いいや。彼、みたいな?」

「やだ、従兄弟です」

「あー、彼氏って言えばこんなやつすぐに撃退できたのに。りんりんちゃん正直すぎ。じゃぁ、兄ってことで」

そっか。撃退ねぇ。

でも、彼なんて言えないよ。

ピンチを救ってくれるのは、確かに兄のよう。

けど、郁ちゃんどこにいた?全然気が付かなかったよ。

普段、明るくて存在感あるからオーラ消されるとわからなくなるのかな。

見られてる距離で存在消すとか、怖っ。

それか、私が突然の宮内さんに動揺しすぎて見えてなかったのか。


目立つから、ほらこっち。って郁ちゃんが別館に続く人気の少ない通路へ手招きする。

あー、もう帰りたいんで出口へ行きたかったんですけど。

「りんりんちゃん、正直に言えよ。なんで即答で断わんなかった?」

う。郁ちゃんに迫られたときはすぐに嫌がったもんね。根に持ってる?

「あれでも、断ってたんだけどね?そうだな。伯母さんとかに迷惑かけちゃうし」

「正直に。繕わない」

「従兄弟くん、私が一方的に。彼女は」

「アンタの話は後。今はっきりしとかないとまた、りんりんちゃんにチョッカイ出すだろ?」

うー。郁ちゃん怖い。

光稀くんの名前出せないから、どうやって断ろうと考えてて沈黙してた。なんて言えないしな。

「じゃぁ、正直に。その、誰だっけ?って思いました。ごめんなさい」

二人の顔が唖然とする。

「あ、もちろん。見合い相手だってのは、割とすぐ思い出したんですけど。名前が」

「割と?りんりんちゃんそれ、すっかり忘れてたってことだよな?」

郁ちゃんがクスクス笑い出した。

正直にって言うから答えたのに。失礼な。

「それで、ちゃんと断ったよね?とか、あれー?とか思ってて、即答しにくくなっちゃって」

そんなに印象薄いのかと宮内さんは落ち込んでしまったようだ。

すみません、私が人の名前覚えるの苦手なだけです。

「あとは、宮内さんツアコンだから。その、聞いた部署からしてロケとか?の、セッティングかと」

「ほぉ。萌が発動して断りにくかったと?あわよくば聖地巡礼的な?」

「仰る通りで」

ふぅ。郁ちゃんの大きな溜息。

「なるほど、わかった。けど、連絡先は交換するな。いいね?」

はい。ドラマのロケ地めぐりは自力で探しますよ。どうせSNSに情報出てるしさ。

「で、宮内さん。今お聞きの通り、りんりんちゃん記憶から消えてたみたいだし。アンタじゃ相手できねぇよ」

郁ちゃんは挑戦的な低い声で宮内さんに言い放つ。

けれど宮内さんも引き下がらない。

「そうでしょうか。結婚後も仕事は続けていただいて結構ですし、趣味が多いと聞いていますが、それらに私から口出しするつもりは」

結婚後。そんな単語がするっと出てきちゃうんだ。

「違うね。りんりんちゃんの趣味が何かちゃんと理解してる?ちょっと想像できるレベルじゃねぇ。俺でも引くぐらいの熱量だから。こっちのことは置いてっていいから突っ走ってこい!って手放す覚悟で受け入れなきゃ隣にはいられねぇんだよ?」

やだぁ、私そんなに酷い?一般人には迷惑かけない程度にネコ被れるよ。

同業者の郁ちゃんだからぶちまけ過ぎちゃうだけだって。

「りんりんちゃんモノにしたいなら、まず、俺に認められてからにしてくれない?」

「いやいや、郁ちゃん関係ないっしょ」

思わず突っ込んてしまった。

それでも、連絡先の交換がうやむやになったのだ、郁ちゃんには感謝しておこう。

「宮内さん。アンタでもきっとりんりんちゃんを幸せには出来るよ。けどそれは、ごく一般的な夫婦像。それも悪くはないと思うけど。りんりんちゃんにはもっと輝ける相手がいると思う」

「それが、君?」

「さぁ?そうなりたいとは、思ってる」

宮内さんが寂しそうな目で私を見た。

「なるほど、断られた理由は貴方ですか。倉沢さん、素敵なお兄さんですね。お幸せに」

って、あれ?

完全に私と郁ちゃんの関係を誤解した?

まてまて、違うから。

帰らないで。

郁ちゃん、兄でもないし、ただの従兄弟だから!

わけわかんない!

「なんだ、誤解してくれるとは宮内さんっていい人かも」

はぁ?

「郁ちゃん、何言ってんの。もぉ、言葉汚いし、怖いしドキドキしちゃったよ」

「お、俺にドキドキ。いいねぇ。じゃ、このまま夕食付き合って。デートしよ」

なんでそうなる。

けど、いつもの明るいノリの郁ちゃんだ。

「ピンチから助け出した兄の願いは聞き入れられないわけ?お腹、すいてない?」

「すいてます。助けてくれて、アリガトウ」

はい、じゃあ地下鉄の駅はこっちの通用口からもいけるよ。じゃないよ。


夕飯には早かったけど、駅の近くの居酒屋はもう開いていた。


私と一緒なら洒落た店に行きたかったけど、この辺りの土地勘がないからと、当たり障りない店に入る。

すでに何席か埋まっていて、雑然とした雰囲気。

「立ち入った話になりそうだし、静かな個室より、雑音があるぐらいのがいいかと思って」

そう言って郁ちゃんはカウンターに席を取る。

ここ、隣が近いな。

「俺、怒ってんの。耳元でガツンと説教するつもりだから隣座れ。いい?」

テーブル席でもいいじゃん、って言ったら早速怒られた。

うー。

「説教ってなに?私だって宮内さん来るなんて知らなかったし、郁ちゃん来なくても次会う約束なんてしなかったよ」

「いや、りんりんちゃんのことだから、愛想よくあしらって、よけい相手に気に入られるのがオチだ」

とりあえずのビールやつまみをオーダー。私は一杯目からカクテル。


「まずさぁ、見合いって聞いてないんだけど」

あ、そっか。言ってなかったか。

「今回、真美さんに聞いてびっくりした俺の気持ちわかってる?何かあったら俺使えって言ったよな?彼氏のこと秘密なら俺と付き合ってるから見合い出来ないって言えば回避できたんじゃねぇの?」

「え?あ。そっか」

「りんりんちゃん、彼氏はいないって言わないんだ?」

やば。

もう、いるのバレてるみたいだから、うっかり。

「だって。えっと。郁ちゃんを彼ってことで見合いしないなんて、初江伯母さん本気にしたら困るよ」

「そんなん、見合いを断るための言い訳とか言えばいいし、それかホントに恋人になっちゃえばいいだろ?」

郁ちゃんの声のトーンが荒くなっていく。

「俺は、彼氏いないって言い張らなきゃいけない状態ってなんだよ。って思うわけ。相手を隠すために見合いまでするとか、なんだよそれ。相手は見合いのこと知ってんの?」

どうしよう。郁ちゃんの中では彼氏がいるって確定だから、ここで正直にいるって言わないと、もっと探りを入れられてしまうだろう。

「ちゃんと言ったよ。見合いするって」

「で?」

「仕方ないって。二人の関係は表に出せないから」

「相手、妻子持ち?…不倫?」

「は?ええー!えっ私が?ふ、不倫?」

「あ、違うならいいけど。じゃ、誰だ?」

びっ、びっくりした。そっか、ナイショって普通はそうゆう関係連想すんのかぁ。

郁ちゃんだって、まさかアイドルが相手とは思わないよね。だよね。


「ごめん、りんりんちゃんに見合いって、たぶん。俺のせいなんだ」

唐揚げアツアツだよ。って言ったのに被せてボソっと郁ちゃんが呟く。

「真美さんの叔母さんの趣味が仲人って知ってたし。で、正月さ。相手いないのか親に聞かれて。あーほら、年末に別れてフリーだったじゃん?母親は正月に彼女紹介されるとか思ってたらしいんだわ。それが一人で顔だしたもんで、見合いしないかって、春ぐらいかな、話がきた」

「あー。うん」

今の説明で郁ちゃんの恋愛事情がわかるぐらい、今年は例年に比べて郁ちゃんと話をしていたと理解した。

なんかヤダ。

「けど、俺はもうりんりんちゃんのこと好きになってたし。それで断ったから次のターゲットにされたのかと」

「え。じゃぁ、宮内さん巻き添え食らった感じ?申し訳ないね」

「いや、なんでそうなる?そうやって優しい態度見せるから付け込まれるんだって」

優しくはないよ。フツーに感想を述べたまで。

そうだ、郁ちゃんの相手候補だった人と宮内さんで見合いすればいいじゃん。

うん、我ながら冴えてる。

って、私に仲人の趣味は無いからね。


カタカタ。カタカタ。

郁ちゃんのスマホがバイブでカウンターを鳴らす。

「あ、悪い。一本メール打たせて」

そっか、今日は平日。

私は前もって有休取ったけど。

「ごめん。本当は半休取ってホテルに迎えに行きたかったんだけど、午後イチでどうしても抜けらんない会議あってさ。その後外回りって事でりんりんちゃんのナイト役を。で、俺今直帰扱いなわけ」

「外回りって、得意先とか行かなくていいの?」

「あー、行った行った。隣の駅にさ、取り引き先が。電話で済ませることもできたけど、足運んだっていいだろ?だから直帰」

なにそれ。

仕事のメールなら、急な外回りで連絡取れない郁ちゃんに迷惑してる人いるんじゃない?大丈夫かな。

「スマホで思い出した。りんりんちゃん、後で真美さんにお礼言っといて。叔母さんの趣味はともかく、今回のこと教えてくれたし。SSRの名刺はもらったけど、りんりんちゃんの直の連絡先知らないって言ってたけど?」

「んーと、交換してないか。従兄弟のお嫁さんに連絡することなんて無いと思ってたし」

「じゃ、スマホかして。教えていいって言われてるから」

は?ダメだよ。私用のスマホの取り扱いは厳重に。

「渡せない、郁ちゃんが見せて。登録するから」

「ふーん。ま、無理に見ようとはしないけど。履歴でバレる間柄ってこと?じゃあ、真美さんのアドレス送るから。っと、いった?」

「んー。あ、きたきた」

アドレスの名称を卓ちゃんの嫁。とかにしそうになったけど、普通に真美さんで登録しとけばいいよね。


「彼氏さん、さぁ。詳しく相手のこと言えないなら、いないのと同意ってことで、この後、酔った勢いでりんりんちゃんのこと頂いちゃっても、そいつ文句言えないよね?」

なんか、説教っていうより、光稀くんのこと探られてる。

いることは認めても、誰かなんて絶対に暴かせないからね。

「郁ちゃん、酔っても紳士でしょ」

前もおでこ止まりだったし。

「は?もういい加減、我慢できねぇし。見合いできるんなら、食われても文句言えねぇんじゃん?」

「何度も言ってるでしょ、見合いは断るの前提」

どうせ光稀くんとはキスしかしてませんよ。デートだって出来ないし。

でも、それでいいんだ。

記者に見つかるぐらいなら、進展がなくても、私が他の人に抱かれて、光稀くんと別れることになっても。

私にとっては、秘密であり続けることが何より重要なのだから。

「…わかった。郁ちゃんが一度きりで私を諦めるって言うなら、してもいいよ」

ごめん、光稀くん。

好きだと言ってくれてるのに、他の男にこんなことを言ってごめんなさい。


最低な私のことは、いっそ嫌いになってくれて構わないから。

平日に仕事がさぼれる職種の人たち。

次回はもちろんこの続き。郁ちゃんの視点で。

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