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推しの衣装を手がけてます!  作者: 葵 紀柚実
三章 秘密の恋人
42/65

40 夏休みの運動会

三月下旬の月曜日、芸能ニュースは週末に放送された『F・F』の話題で持ちきりだった。

《SSRから新人デビュー!その名もTIME!》

《七月CDデビュー!手がけるのはF2だ!》

など。

『F・F』同局では番組の模様を流しながら、メンバーに選ばれた四人へのインタビューを流している。

他局では、四人のEGGでの活動を取り上げている。

EGGのコンサート映像や、ドラマ出演したときの共演者からのコメントなど、CDデビュー前でもSSR所属のアイドルなら、ネタに事欠かない。

私もやっと、四人の名前を口に出せる。

碓氷(うすい)くん、デビューしたら私のことを『倉沢さん』と呼ぶなんて言っていたけれど、私が担当することになっちゃったし、今後も変わらず『りこさん』って呼ぶのかな。


春は別れと出会いの季節。

新メンバーが発表されたのは、TIMEだけではない。

私の班に新入社員が一人配属された。

現場のほとんどを雪乃ちゃんに任せて新人研修をするように。と並木センパイが言うけれど、それは新人研修というよりも、私の上司としての力量を図るもののように思う。

雪乃ちゃんの事を信頼してないわけじゃないんだけど、そっと裏で手を回したくなっちゃう。

それをしてたら部下が育たないから、りこは新人を見てろ。ってこともあるし、改めてイチから仕事を教えることで見えてくることもある。

自分が理解してないと教えててもあやふやになるからね。


仕事の一連の流れ、指示書の見方、書き方。素材の名前、特徴。衣装の保管、手入れ。

得意先のテキスタイル商社へ顔見せと打ち合わせ。

付属屋さんなど取り引き先への挨拶回り。

あっという間に一月がたち、五月の大型連休も過ぎていた。

古谷さんに合わせて仕事をしているため、何年かぶりにカレンダー通りの休みだった。


現場行きたい。生地触りたい。

そんな衝動に駆られて久しぶりに自分の服を作ったり、積んでる光稀くんを消化したり。見てはいるけど、編集してディスクに落とすとこまでいってない録画がてんこ盛りなんだよなぁ。

光稀くんとは、やっぱり電話だけの仲だし。

私が休みでも、あちらは仕事。

特に今は夏ドラマの撮影が始まって、一番忙しいときだと思う。

髪を、少し染めたんだよね。

役作りでほんのり茶髪に。

ずーっと黒髪だったから、すごく新鮮!

撮影が終わったらまた黒に戻すって言ってたから、めったに見れないレアモノになる。

茶色の間に撮影されたブロマイドは全種類買い揃えなきゃだ!

それにしても、どんなドラマなんだろう?

情報解禁まで、光稀くんも教えてくれない。

もう、学生の役は来ない年齢だと思うんだ。茶髪ってことは刑事とかじゃないでしょ?

大学生?フリーター?

なんだろ、楽しみ。


EGGの集まる『スタジオ』のレッスン室。

大型連休が開けたばかりだが、夏休みの打ち合わせが始まった。

参加人数が多く、したがって衣装の数も桁違いの今回は、雪乃ちゃんではなく私が責任者だ。

古谷さんの研修も一通り落ち着いたからってのもある。

うー、久しぶりのこの空気感。

やる気出るなぁ。

先輩のバッグに付くことが多いEGGでも、年に三回主体となるステージがある。

『卒業コンサート』『夏休み』『クリスマスコンサート』だ。

夏休みにはコンサートが付いていない。

その年によって、ガッツリ演劇だったり、歌や踊りのミュージカル、お笑いや一発芸を盛り込んだコントまで、演目は自由に決められる。

「みんな、もっと前に。聞こえるか?」

演出の久保田さんが声をかける。

しばらくEGGは別の演出家さんだったから見知った久保田さんなのは嬉しい。

何人かいるSSR専属の中で一番話しやすいし。

「今年の夏は『運動会』だ」

あ、EGGたちがキョトンとしてる。

うん、そうだよね。私も最初に聞いたときは何言ってんだろうと思ったよ。


《スポーツとミュージカルの融合。

それこそが新たな舞台。

さあ、エンターテインメントの勝者を見届けよ!》

だ、そうです。

それでさ『オリンピア』とか『ニューゲーム』なんてタイトルならカッコいいし、2.5次元俳優がやってそうなスポーツアニメをミュージカル化しました。的な舞台が想像されるんだけど。

『運動会』って。

まぁ、ダサカッコイイのはSSRっぽいからありなのかとも思うけどね。

カッコイイ要素皆無だけど。

久保田さんの説明は続く。

観客を巻き込んでの演目に、安全性の確保。

大玉転がしはお客様も客席から手助けするし、借り物競走は客席からお題のものを借りてくる。

それって凄いよね。後でお返しするから席番チェックとかの細かい処理がスタッフの負担になるし、責任問題だ。

けど、メンバーが舞台から降りて来るわけでしょ?

想像しただけでも楽しそう! 

私の、この、メガネ持って行ってぇー!

私物を私をさわってぇーっ。

こっち来て!

って、阿鼻叫喚が目に浮かぶ。

やば、私も客席にいたい。

「質問があれば後でまとめて聞く。最後は組体操だ。これは練習の成果を見てメンバーを選抜する。怪我が付きものだから生半可では舞台に上げないぞ」

運動会と言えば組体操か。

普段からバク転などのアクロバットを得意としてるメンバーはヤル気の顔だ。

「タワーは四段を想定しているが、危険と判断すれば本番当日でも三段へ変える。今日から本番と同じ緊張感を持て」

久保田さんから全体への話は終わった。

これからは個々に指示が出る。

四段タワーか。

成功しても失敗しても泣いちゃう。

てっぺんは、小柄な子だろうから小学生が上がるのかな。

もう、不安でドキドキが止まらないよ。 運動会なんて変なタイトルだと思ってごめんなさい。

もう、期待しかないよ。

ミュージカルってことは、仲間との頑張りや葛藤、挫折と栄光。

そんな楽曲が競技種目の間に歌われるんでしょ?

基本、EGGは先輩の曲を使うから、どのグループの何を持ってくるかも楽しみだ。


夏休みはコンサートと違ってホールではなく、劇場で一週間ほどの日程を組む。

仕事として衣装チェックに入るけど、これはぜひ、客席から見てみたい。

関係者席でもいいけど、以外と遠いから通しリハで前の方の客席に座りたい。

ま、結局裏でバタバタしてるんだろうけど。

今回の衣装は、ほとんどのシーンでスポーツウエアを着用する。

その為、有名スポーツブランドがスポンサーに付いた。

舞台用に装飾をするにしても、社名のロゴを隠さないように、アレンジは最小限。

そこで私達の役回りは、発注と管理が主な仕事になってくる。

そうだ、靴も同じスポンサーで提供されるから。みんなのサイズを…。


「ねーねー。りこさん!」

古谷さんに説明しながら考え込んでいたら、長岡くんに声をかけられた。

今年もS−F−C入りした人懐っこい小学生だ。

休憩になった途端、駆け寄ってくるとは可愛いな。

「りこさん、スマホ貸して!ね?」

「スマホ?何に使うんですか?」

今、使う必要ないと思うんだけど。

私が訝しく思うと、萩原くんが来て説明してくれる。

「松本がスマホ新しくしたとかで打ち合せ前までいじってて。で、連絡先がまだまだ少ないってさ、そんな話で」

今年S−F−Cに選ばれた松本くんは今までキッズ用のスマホを持たされていたけれど、選抜入りのお祝いに、キッズ用ではない新機種を買ってもらえたそうで。

メンバーお互いの連絡先を入力している時に、スタッフも入れたら一気に増えるんじゃないかと。

「けど、大人にそんな、聞けねぇじゃん?りこさんぐらいにしか」

はぁ、経緯はなんとなくわかったよ。

これだけの人数がいるEGGで『お前の登録先これだけかよ、保護者のみじゃん』って言われたら、増やしたいなって思うよね。

けど、私なら聞きやすいってのが、ちょっと納得いかないな。

まぁ、いいか。

「本当に失礼だって、俺は思ってるよ?けど、良かったら俺とも交換してくれない?ほら、りこさんは仲間だし」

しょうがないな。萩原くんの頼みなら。

「ごめん、鞄の中に。今取るから」

まぁ、仕事用のスマホなら関係者って事でEGGの連絡先が入っても問題ないし。

鞄のポケットに入ったスマホを取り出しながら、話のテンポについてこれていない古谷さんに資料の見直しを指示していたら、手の中のスマホを奪われた。

えっ!

落した?と、思ったけどスマホは長岡くんの元に。

「りこさんのスマホ、カバーとかシンプルすぎだね。仕事用?」

「ちょっと、ダメ!返して」

「なんで?俺のも登録してあげる」

ダメだって勝手に見たら。光稀くんの連絡先が入ってるんだよ。

怪しまれたら大変だ。

スマホを取り出すのと古谷さんに指示出すのと、片手間にしたから隙ができたんだ。どうしよう。

「りこさんパスワード何?開かないよ」

「長岡、ふざけ過ぎ。登録してくれるって言ってくれる人に対して失礼だぞ。勝手に取るな。ほら、返せよ」

さすが萩原くん。一睨みで私のスマホを取り返した。

所属アイドルに強く出れないスタッフとしての私がダメダメなんですけど。

リーダーとして本当に頼りになります。

「久保田さん言ってただろ、今日から緊張感!な!」

長岡くんも普段は良い子なんだよ。子役としてドラマも映画も評判いいし。けど、一度羽目を外すと。ちょっとね。

「ごめん、りこさん。スマホ返すね」

手元に戻ってはきたが、画面を覗かれるように登録してたら、情報ダダ漏れだ。

結局、最初の目的である松本くんとの交換だけでなく、長岡くんの声かけによってEGG何人かの連絡先が入ってしまった。


「あれ?F2!りこさん、二人と連絡先交換してるの?スゴっ。いいなぁ」

遠慮気味にしていた萩原くんがみんなの去った後に近寄ってきて声をあげた。

うわ、見られた。

いや、さっきから見られてるとは思ってたけどそんな、わざわざ声に出さなくても。

言い訳。なんて誤魔化したら?

それともあたり前の顔でスルー?

「りこさん。やっぱり、倉沢班といったらF2って感じだよね。普段から衣装のアイデアとか話してるの?だよね?」

あー。私が光稀くんと普段から連絡取ってると思われてる。

衣装のアイデア?ってことは智史くんとの繋がりだとでも?

「ごめん、遠慮しようと思ってけど、やっぱ俺も登録していい?F2みたいに」

「はい。仲間ですから」

なんだ、見られたらマズイと思ったのは杞憂か。

それより、これでEGGの連絡先が入ったことでより一層、F2が登録されていることが自然なことに映る。


実際に電話したり連絡を取っているのは私用の方だ。

あっちは絶対人目に触れさせてはならない。改めて思い知った。

F2の登録を見られる。って書くだけが、運動会の開催が決まってしまった。楽しそうだからいいか。

りこさんと光稀くんの進展がトロイので、今後突くための次回。

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