表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
推しの衣装を手がけてます!  作者: 葵 紀柚実
三章 秘密の恋人
41/65

39 お祝い報道

芸能ニュースは朝から一日、稲尾くんの第一子誕生を取り上げていた。

外食してから帰宅したこんな時間でも、まだテレビを付ければその話題だよ。


アイドルで既婚者なのは、最近ではそこまで珍しくもないのだが、他にコレといった話題がなかったのだろうか。

『蝉時雨』では先に結婚した露木くんにもお子さんはいる。

そろそろ予定日だとわかっていたし、朝の誕生すぐに事務所は各局、関係先に情報提供と稲尾くん本人のコメントを通達した、らしい。

メンバーの二人が結婚してからグループには、食器用洗剤のCMがきたり、女性の愚痴をひたすら聞くだけの深夜バラエティーが始まったよね。

既婚者二人と独身一人、互いの立場で本音が聞けると好評なんだって。


テレビをつけっぱなしで化粧を落としていると、事務所の後輩たちからのお祝いコメントが届いているからと紹介が始まった。

待ってました!

いつもは見ない時間のテレビを付けたのは、これが目的。

《ご家族これからも、今まで以上に仲良くお幸せに》

なんて、当たり障りないコメントから

《ちゃんと父親として家族に尽くせよ!相変わらずゴミ出し行ってるかー?》

なんてものまで。

SSR公式のサイトでコメントを見れるようになっているが、テレビでは抜粋した何人かだけが紹介されていた。

他にもインタビューで生コメントをもらえたと、事務所以外のタレントからのお祝いなんかも流している。

うーん。

光稀くんのコメントは報道なしか。

なるほど、F2に結婚とか家族ってイメージつけたくないのかな。

事務所の根回しかテレビ局の配慮か。

結婚報道と比べると、インパクトに欠ける話題だから、ホントに今日は他の話題がなかったのかな。


とはいえ今日の出勤、朝は大丈夫だったのに帰りは本社ビルの周りに報道人が何人かいて、通りにくかった。

私のことじゃない、光稀くんとのことはバレてないって思っていても心臓に悪いったらなかったよ。


《赤ちゃん用品の買い物について楽しそうに話をしていた稲尾くんは、きっと良いお父さんになると思います》

公式サイトから特設ページに飛んで光稀くんのコメントを確認。

蝉時雨とF2の接点なんてなさそうだけど、いつ話をしたんだろう?

カウコン?

年末のエピソードを今?

それでも、ちゃんと稲尾くんに向けたコメントだ。

おざなりじゃない言葉。

シャワーも浴び終わって一息付きながら、コメントの三回目を読み返しをしているとき、電話が入った。

光稀くんからだ。

「もしもし、こんばんは」

『あ、りこさん?こんばんは。今、電話大丈夫?』

大丈夫だから取ったんだけどね。

気遣いを有り難く思う。

『本社に記者がいたって聞いて。広報が捌いたらしいけど、その、鉢合わせとか帰宅時間は大丈夫だった?』

人伝に聞いたような言い方。小泉さんかな?

「いましたよ、報道人。なのでまとまって帰るようにして、そのまま班のメンバーで食事してきました」

『良かった、小泉さんはたいした人数じゃなかったって言ってたし、スタッフにマイク向けたりしないだろうけど気になって』

あ、やっぱり小泉さんに聞いたのか。

要件はこれだけかな?

電話、切りたくないな。

まだ話していたい。

「お気遣いありがとうございます。嬉しいです」

『え、うん。余計なお世話かと思ったけど、電話して良かった。俺、いつでもりこさんのこと考えてるから』

うわー。

そーなの?

いつでも?

マジか!

そんな、鼻水出そうだよ!!

出ないけど。

家だと油断して出ちゃうかもだけどね!

はぁ、幸せだなぁ。


『男の子なんだってね。将来はSSR入りか?なんて騒がれるかと思ったけど、赤ちゃんの写真とか一切出てなくて、その分、後輩や知り合いからのコメントが流れたって感じ』

「あぁ、それで。奥様は一般の方ですし、男の子って今知りました」

『そうなの?じゃぁ、ナイショで。露木くんの時と勝手が違ってるな、とは思ったんだよね』

まぁ、あちらはお相手が大物女優ですから。

子供の顔は隠していても、子育て日記をSNSで配信しては幸せ家族ぶりをアピールしてる。

もちろん、本当に仲がいいんだろうけど、SSRのアイドルらしくない見せ方だと言うファンも多い。

配信してるのは奥さんの方だし、露木くんの肖像権は守られているので、私としては好きにすれば?って思うけど。

「お相手が一般人でも、赤ちゃんの小さな手ぐらいなら写真を載せる方がいますもんね。稲尾くんは、慎重になっているんだと思いますよ」

結婚発表でファンが大騒ぎしたからな。

わからないでもないけど。

叩き割った大量の蝉時雨のCDを聖地であるデビュー会見を行ったホテルの入口にばら撒かれた。

あの映像は衝撃だったな。

今ついてるファンは既婚者であることを受け入れているから、子供が生まれてもそこまで騷いだりはしないと思うが、用心するに越したことはない。

『稲尾くん、元々すごく優しいけど、奥さんの話してるとき、幸せそうだった。あの表情、みんなにも見てもらいたいぐらいだったよ?』

あれ、私が思ってるより光稀くんと稲尾くんって一緒になるときあるのかな?

えっと、番組のゲストに来たとき。F2がゲストとしてあっちに出たとき…。EGGの頃にドラマで?

昔の記憶を手繰り。

『りこさん、聞いてる?』

ごめんなさい、聞いてませんでした。

いや、聞いてはいたけど、同時に別のこと考えていました。

『ごめん、つまらなかったかな。その、何か楽しいこと…』

「つまらなくないです!」

うわー、大変だ。

光稀くんと電話してて萌の脳ミソが過去をリサーチしてたなんて言えない!

光稀くんの電話がつまらないなんてそんなわけない!

「ごめんなさい、私が昔のこと考えちゃって、それで!光稀くんの話題選びは悪くないです」

『りこさん、声だけでも可愛いね』

は?

なぜそうなる?

光稀くんの思考が読めない。

でも、いいや、楽しそうな声色だ。

今日もソファーで寛いでいるのだろうか。

『もっと声聞かせて。どんなことでもいいから、考えてたこと、教えて』

うわ、おねだりされた!耳元で!電話だからだけど!

右耳、くすぐったいよ。


「え。っと。本当に昔のことですけど。その、稲尾くんって六年のお付き合いを経て入籍発表したんですよね」

『六年?そんなにだっけ?』

ええ、そんなに。

「こんなことを言うのはよくないんでしょうけど」

『ん?言って。聞きたい』

「稲尾くんに限らず、マスコミは長年の想いを成就させてとか言うんです。けど、ファンからしたら、その間ずっと騙されてたことになる。あのコンサートの時はすでに?とか、あのドラマはギリギリセーフとかって。計算しちゃうんです。だから、今日、ちゃんとお子さんができたことを報告できて、稲尾くん良かったなって思います」

沈黙。

受話器越しの息づかいから察するに、なにか考えているような。

『それは、突然お子さんがいたってわかるより、きちんと発表すべきってことか。一般人だから、細かい報告なんかは今後ないだろうけど、いつの間にかファンの知らないうちに生まれていたのでは、また裏切られたって思われかねないってことか』

「そうですね」

ずっと喋っていたら喉乾いてきた。

相手側光稀くんだからよけいにカラカラだ。

『俺も。ファンを騙していることになるんだな。りこさんとのこと』

それは、どうですかね?正直、恋人らしいこと何もできてないと思うので、スクープされようがないんだけど。

でも、好きだと言ってくれる光稀くんに、報道する価値のない間柄ですね、なんて言えない。

「ちゃんと教えてほしいって考えも、知りたくないって人もいるから、正解はないと思います。光稀くんがファンを思って行動してることが大事なんじゃないですか?」

ドライブに行こうと誘われたけど、まだ実現できていない。

電話だけの関係だ。

『りこさん。キス、したい』

「へっ!」

あれ、聞き間違い?

光稀くんがキスとか言った!

うわ、うわー。

『あ、ごめん。聞こえ…ちゃったか』

「いえ、あの。その」

聞こえてたけど。

『俺たち、報道されるようなことまだしてないって思ったら欲が出た。あーでもいいんだ、聞こえてなかったなら、忘れて』

「聞こえて…はい。聞こえてません」

いやいや、聞こえてたけどね?忘れたくないし!

できたらもう一度言ってください!

キスって、どこに?

私に?

やー、もお、ひー。

『ごめん、やばい。照れるね』

「はい、あの。私も」

私も、なんだよ。

うわー、言葉が見つからないし、気の利いたことが話せないよ。

沈黙しちゃうし!

『また、電話する。おやすみ』

照れと沈黙に耐えられなくなった光稀くんからおやすみ宣言がきた。

私もおやすみを告げて電話を切る。


正直、私は電話だけで十分。

光稀くんはどう思っているのか。

察しは付くが、踏み出せない。

F2のファンだと職場に隠していても、ファンクラブに入ったままなので、会員限定サイトのコメントが見れるりこさん。

次回は、夏に向けての状況とEGG。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ