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推しの衣装を手がけてます!  作者: 葵 紀柚実
三章 秘密の恋人
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38 勘違い

休日に予定が入ったら、それは休日ではないと思う。


今日、わざわざここに来たのは責任とか義務とかそんな気持ちでだ。

婆ちゃんが入院した。

いつの間にか骨折、という俺には全く聞き馴染みのない理由だった。

施設に馴染んできた矢先に痛みを訴えて、系列の病院へ。そのまま入院。

肋骨だっていうから、くしゃみや咳で折れたのではないかと母親は医者から聞いたらしい。

安静にしていなければならないので、面会に行ってもたいして話はできない。ならば行く必要もないかと親からの電話を適当にあしらっていたら、兄貴から見舞いに行けと連絡が入った。

施設と違って病院には運動の時間やサークル活動がないため、筋力の低下から寝たきりになったり、急に痴呆が進んだりする。

今のうちに一度会っておけ。どうせ施設にも一度しか行ってないだろう。だと。

病院にだってリハビリみたいに体を動かすことはできるのでは?

なんて思ってみたが、詳しくわからないことは口に出せない。

「すぐにでもあの世行きみたいに言うな、縁起でもない。見舞い、行けばいいんだろ」

兄貴の笑えない脅しに仕方なくレンタカーを借りた。


土曜日の午後。

()のエレベーターを使って3階の左手奥を左に入って?右手側の通路を?ん?

やべ、迷いそう。

あ、案内図あった。

母親の説明じゃたどり着かないって。

よし、この先すぐの部屋だな。

中から話し声が聞こえる。

看護師さんが検査か何かしてるのか。

ノックをすると、どうぞとの返事。

「失礼します。あれ、叔父さんに叔母さんも。りんりんちゃん久しぶり」

「あら、郁人くんもお見舞い?偉いのね。凛々子なんて何度か連絡してやっと来たってのに」

「あ、俺もです。母親と兄貴に言われて。婆ちゃん、元気?って元気なら入院しないか」


婆ちゃんは、転んでもいないのに骨折なんて歳だとか、お医者さんが厳ついけど看護婦さんは優しいなんて話をする。

さっきまでりんりんちゃん達にもしていたらしく、見舞いに来ると必ず同じ話を聞かされるらしい。


「郁人くんは車?この後特に予定なければ凛々子を送ってくれないかしら」

「は?お母さん何いってんの。郁ちゃんに迷惑でしょ」

ナースステーションに面会を終えたことを告げて、出口へ向かう。

「だって、凛々子を駅まで送ってから買い物行くと遅くなるじゃない。ねぇ郁人くんとなら帰る方向一緒でしょ?」

「いいですよ。確かに方向は一緒ですからね」

叔母さん、ナイス。

まさかりんりんちゃんとドライブできるとは。

今日、見舞い来て良かった。ホントに。

「いいよ。郁ちゃん断って。私、駅までバス乗るから」

「なんで?断る理由ないよ。りんりんちゃんは俺が責任持って送りますんで、叔父さんも叔母さんも買い物へどうぞ、行ってください」


さて、これからどうしたものか。

このまま何処かへ連れ出すこともできるけど、そんなことしたら二度と会ってくれないだろう。

警戒されている。

車に乗るときだって、俺がエスコートしたから助手席に着いてくれたけど、りんりんちゃんは後ろに座るつもりだったようだ。

普通ないだろ。

二人きりなのに後ろって。

「りんりんちゃんはどっか寄りたいところある?遠出もできるし、重たいものなんかも買えるよ」

「別に。車返す時間は?」

「今日は遅くまで借りてるからそこは大丈夫。ほら、病院の見舞いってしたことほとんどないし、時間わかんなかったから。その、会えると思ってなくて驚いたよ」

「そうだね」

だめだ、さっきからりんりんちゃんが単語で会話してくる。

確かに俺は警戒させるようなことしたよ?けど、キスだって唇じゃなかったし、こないだのSSRの会議室じゃ普通に話しかけてくれたのに。

あくまで従妹としての態度だったけど。

けど今は?

更によそよそしく感じるのは俺の気のせいか?

何か、あったのかな。

会議から今日までに、何が?

「やっぱ土曜に休みってたまたま?忙しいよね。その、F・FでTIMEのこと発表されたし。俺の周りも大変だよ」

「あー。うちはそこまででも」

って、続きは?そこで話は終わり?

「どこか寄るとこなければこのまま高速乗るけど、いい?」

「うん。道分からないし任せるよ」

極秘の仕事が多いから、無口になるのはわかるし、SSRの事を聞き出そうとは思わない。

でも、もっと普通の日常会話があってもいいはずだ。

「りんりんちゃん、何かあった?俺、なんかしたかな。あー好きだって言ったのは一旦置いといて。相談乗るし、俺ができることならなんでもするけど」

「何かって?」

うわ、会話にもならないよ。

「俺だからいいけど。もう少し、当たり障りない会話とか、出来るようにしといたほうがいいよ。今までとちょっと、雰囲気変わったんじゃない?あ。彼氏とかできた?」

「へっ?」

お。反応あった。

相変わらず一言だけど。

「いない。よ。」

何だその言い方。いるって言ってるようなもんじゃないか。

「そっか、それで俺の助手席乗りたくなかったんだね。それで、会話も弾まない、と」

いつからだ?コンスタンスに会ってればもっと変化に気づけたのか?

俺が迫った時にはいなかったはず。

ってことは最近か?


「彼氏さんとは上手くいってないの?」

「か、彼?いないって言ったよね?」

聞いたけど。不自然だから気になるんだよな。

「俺、りんりんちゃんのことならわかるよ。好きな人ができた、とか。告白したけど振られた?」

あれ。違うか。

カマかけてみたけど、視線の動きからして、恋愛関係なのは当たってそうだ。

本当なら、食事にでも行ってゆっくり探りを入れたい。

いろんな話したいけど、付き合ってはくれないだろうな。


「んー、じゃ。彼氏いないならまた飲みに行こうよ。こないだの話聞いたやつがメンバー変えて食事にでもって言ってて。新人のプロジェクト落ち着いてくる頃だし、時間作れるかって他部署に言われて」

りんりんちゃんは俺を見ない。

だが、物憂げな顔で薄暗くなった景色を眺めた横顔が窓に写っている。

元々、飲み会に率先して参加するタイプではないから、普通に行かないって言えばいいのに。

参加も不参加も言えないのは、やっぱりりんりんちゃんらしくない。

もし、本当に彼氏ができたなら言うよな?俺に宣言して、りんりんちゃんへの気持ちを諦めるように言うだろう。

俺、諦めないけど。

りんりんちゃんに何が起きている??

SSRって社内恋愛禁止じゃないよな?

隠さなきゃいけない恋愛って?

まさか、不倫?

りんりんちゃんが?

ないなー。

とは思ったが、どう切り出したところで、本人から明確な返事はくれないだろう。


高速に乗らなければよかった。下道で、のんびりと二人きりの時間を過ごしていたかったな。

「じゃあさ、りんりんちゃん」

話しかけても俺を見ない。

「俺に、乗り換えない?」

あ、やっとこっち見た。すっごく嫌そうな顔。

予想通りで笑える。

「せっかく付き合ってるのに、りんりんちゃんのこと幸せにできないなら、そんなヤツやめて俺にしたら?」

「やだ。幸せかどうかなんて他人が決めるものじゃないでしょ?どんな付き合い方だっていいじゃない」

なるほど。これは彼氏いるな。

社外か?

「あ、違うの。彼氏とかいないし」

あれ?やっば隠すんだ?なんで?

不倫…いや、それはないだろ。

「そっか。もし恋がしたくなったらいつでもご指名くださいよ。飛んで行くし。デートいっぱいしてあげる。『愛してる』もサービスしとくから、また会おう」

フリーなら、断る理由ないよね?

受け入れる理由もないのだが、そこはそれ、無視してみる。

「郁ちゃんって、しつこい」

バッサリきた。

だから、りんりんちゃんって好きだ。

呆れたような顔。

無気力よりよっぽど良い。

「冗談言ってないで運転に集中してよ」

真剣な気持ちだったのだが、冗談にすれば、従妹どうしの仲のいい雰囲気になれるのだろうか。

仕方ない、今日は諦めてこのまま送り届けよう。


『なんで秘密かわからないし、聞かないけど、限界まで苦しくなる前に俺使えよ。愚痴でも聞くし、美味しいものご馳走するから』

りんりんちゃんと別れたあと、俺はそんなメッセージを送った。

相手が郁ちゃんだからバレたんでしょう。職場ではきっちり秘密が守られています。

さすがの郁ちゃんもまさか相手が光稀だとは思うまい。

次回は、りこさんのアイドル観を。

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