表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
推しの衣装を手がけてます!  作者: 葵 紀柚実
三章 秘密の恋人
39/65

37 ティータイム

二人きりで会いたい。

そう、呼び出した彼女と昼下がりにカフェでデート。

俺は遅めのランチでパスタを。

すでに昼食を済ませていたりこさんはケーキセットを注文した。

りこさんはオーダーの後もメニューを覗き込んでいる。

「そんなに気になるなら、もう一つ頼んだら?食べきれなかったら、俺が片付けるし」

「あ、いえ。大丈夫です。ここのケーキは一度、差し入れで頂いたことがあって。その時食べたタルトが美味しかったんですけど、季節限定だったのか、見つけられなかったので、ずっと探してしまいました」

差し入れか、事務所から近いしな。


俺がりこさんに指定したのは、落ち着いた雰囲気のカフェ。

大きな木が目印の、大通りから少し奥まった場所にある石造り風の建物。

ヨーロッパを思わせる造りだ。

ウッドデッキのテラス席は、まだ肌寒い季節だけれど、撮影スポットとしては人気のようで、ちらほら席が埋まっている。外用の薪ストーブとかもお洒落だ。

俺たちは奥のソファー席に通された。

店内の家具はアンティーク調で統一され、ゆとりを持った間隔で配置されているから、チェーン店の喫茶店よりプライベートが保たれている。

とくにここは奥まった分死角になりやすい。

取材や打ち合わせで何度も使っているから、店員もアイドルを見て騒いだりしない。

ほら、注文した食事が運ばれてきてもウエイトレスはすましたものだ。

…りこさんがタブレットとか資料とか広げてるせいで、完全に打ち合わせだと思われてるんだろうけど。

そうだよ、デートだってバレるぐらいなら、甘い雰囲気なんていらないけど。

でも、がっつり仕事モードなのもどうかと思うぜ?


「光稀くんはミートソースお好きですよね。ここのはゴロゴロ野菜なので、もはやミート感ないですけど」

「あぁ」

俺がクリームソースよりミートソースが好きなことなんて、りこさんはすでに知っているのだろう。

だから、なんて返せばいいか分からなくて、黙ってしまう。

そうだ、知らないのは俺の方だし、色々聞き出せばいいのではないか?

「りこさんは、さ。好きな…食べ物とか何?」

「え?っと」

あれ、迷ってる。そんなに難しい質問したつもり無いけど。

今日の天気は?ぐらいの気軽な会話のつもりなのに。

「その、パスタだったらクリーム系が。すみません、光稀くんの好みは存じてますが、どちらかというとってことで。ミートソースも美味しいですよね?なので、私の好みは気にせずお召し上がりください!」

ははは。なにこれ。

俺の苦手なもの知ってて、でも正直に自分の好きなもの教えてくれるんだ?

「あの、光稀くんが生クリームを脂っこいって言うのわかりますし、だからって牛乳が苦手なわけじゃないのも知ってますし。でも、私はグラタンが。ミートグラタンじゃなくてホワイトソースのグラタンが好きです、ごめんなさい」

「いや、謝らなくても。そっか、じゃぁ食事はお互い違うもの頼むから、色々楽しめそうだね」

「わかりました。違うものを頼むように…って、次とかあるんですか?」

「え、あるよ。付き合ってるんだし」

あれ?今日限りとか思われてた?

俺、ちゃんと好きだって言ったよな?

「あとは?好きな色とか、は。あ、いいや。青って答えそうだから。じゃぁ、趣味は?聞いていい?」

これも、F2鑑賞とか言いそうだな。

「あ、ごめん。ケーキ食べてからでいいよ」

向かい合わせに座るより、本当は隣がいいって思ったけど、こうして真正面から食べてるところを見れるなら、いいかも。

りこさん、緊張してるなぁ。

俺が見なきゃいいんだけど、見たいし。ずっと見ていたい。

今日のりこさんは、髪をサイドだけ纏めている。確か、ハーフトップとかいう、智史が時々メイクさんにされちゃう髪型だ。

食事をするのに邪魔にならないように。けど、少しはサラサラっと落ちる、絶妙な感じ。

これもいいな。

髪、触れてみたい。

幸せそうな顔して咀嚼してんな。

「甘いものは?好き?」

差し入れのケーキを覚えていたぐらいだ、嫌いではないだろう。

「はい。あ、ケーキは私もタルト好きです」

生クリームがたっぷり添えられたシフォンケーキ食べながら、タルト好きですとか言うんだ。俺がいちごのショートケーキを喜ばないの知ってて、生クリームのないタルトなら。ってことなんだろうけど。

なんでも知られている。

なんか、あれだな。

りこさんの知らない俺の話をしたい。

プライベートでしかしないようなこと。

「ドライブ、行こうよ」

「へ?」

なんだよ、その間抜けな返事。

敬語使ったり、ちょっと言葉乱れたり。さっきっから可愛い。

いや、いつも可愛い。

「丸一日オフじゃないと難しいかもしれないけど。あー、午後からでもいいか、ど?」

「はいっ。あの、それって助手席に座るんですよね?」

「そうじゃない?デートだし」

まさか、りこさん後ろに座るつもりなのか?それはあまりにも遠慮しすぎだろ。

「予定が合えば、善処します」

ん?オッケーってこと?

とりあえず、りこさんの知らない、想像の範囲外を話せたみたいだ。


ことあと俺はスタジオに予定があるし、りこさんは本社に顔を出すようだ。

「ずっと、一緒にいたいのにな」

ボソッと俺が呟く。するとりこさんはビクッと肩を震わせた。

「無理っ。これ以上はちょっ。ごめんなさい、もう少し慣れてからで」

はは。

まじか。じゃぁ、

「今夜、電話する。声だけならいいだろ?」

それはそれで緊張するんだろうけど、嫌って言わせない。


触れたかった髪に手が届くこともなく、手も握れない。

これじゃただの知り合いと同じだ。

仕方ないとわかっているが、じれったい。

あぁ。結局、誕生日を聞き出すのを忘れてしまった。

実にじれったい。

付き合い始めてイチャイチャするぐらいなら、告白までに一年もかけないと思うから、二人はこれでいいのです。

次回は郁ちゃんのターン。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ