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推しの衣装を手がけてます!  作者: 葵 紀柚実
二章 揺れる想い
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31 新規プロジェクト

最初にこのプロジェクトについて聞かされたのは、昨年の冬だった。


ちょっといいか。

そんな気軽な言葉で呼び止められたと思う。

外回りから戻った途端。今、席についたというのに。

上司の声に立ち上がると、相手は小声で続ける。

「倉沢、お前そろそろ…時期だろ?」

時期?あぁまたか。

これで何度目だろう。

「わかりました。次はなんです?」

「ちょっと極秘でな。すでにチームは組んであるんで近いうち顔合わせだ。身辺整理しとけよ」

いつも極秘ですよね?そう言い返したかったが、言ったところで何も変わらない。

担当が長続きしないのはわかっていたが、今回は俺が考えていたよりも早い。


国内屈指の音楽レーベル。

笹塚レコード(株)

俺はそこで宣伝広告部に籍を置いている。

宣伝といって一番に思い浮かぶのはポスターだろうか?それともテレビCM?

望まれればなんでもやる。

CDやBlu-rayなどの販売においてはアーティストからイメージや要望を聞き出しジャケットデザインの委託先に伝えたりする橋渡しもする。

広告の打ち方を検討するのも俺の仕事だ。

宣伝カーを走らせたり、駅構内に壁一面のポスターを貼ったり。

どんなむちゃな宣伝も具現化する。

あ、具体的に動くのは下請けで俺は指示出しだけどな。

それなら楽な仕事?

いやいや、責任は全部こっちだからな。苦労は耐えない。

珍しいものだと一口饅頭に発売日の焼印を入れて配ったり。

ストリートで見つけたド素人を、一人前にするための宣伝広告を打てと言われたり。

広告だけで売れたら歌唱力要らないっての。なぁ?

それも、ずっと担当させてもらえれば、一緒に苦労してきた連帯感も出てくるが、ある程度売れたら担当から外される。

担当の少ない後輩へ引き継ぐことが多いな。

とりあえず、最初の担当は倉沢でいいか。みたいな考えはやめてもらいたい。

俺の仕事ぶりを買ってくれてるのは有り難いが。

今担当している彼女だって、全く喋らない内気なところから、どうにか理想を聞き出して最初の一枚を売り、信頼を得られるようになって、最近向こうからアイデアを出してくれるようになったというのに。


はぁ。

ため息ぐらい出してもいいだろ?

座り直してどこから異動準備をするべきか考えていると、着信が入った。

実家からだ。

仕事中なのであえて無視していると、兄貴からも連絡が入る。

どちらも同じ要件だろう。

婆ちゃんの施設入りのことだ。

俺がどうこう言っても言わなくても、婆ちゃんが入るって決めた施設でいいと思うんだが。

次男だからと兄貴に任せっきりなのも良くないか。

今度会ったときに責められるのも面倒だからな。あとで候補に上がっている施設のサイトでも覗いておこう。

他にも俺を悩ませている事がある。


最近、彼女が少し重たい。

思わせぶりな言い方なんてしないで言いたいことは言えばいいのに。

ま、向こうもプライドがあるから、はっきりとは言いにくいか。

黙って隣にいてくれる分には十分すぎる彼女なのだが。相手はそろそろそれだけでは満足できなくなっているようだ。

気が詰まる。

新しいプロジェクトに集中できれば、気持ちが晴れるだろうか。


すでにチームが始動しているならば、素人発掘などではなく、デビュー済のタレントが歌を出すなどといったところか。

ある程度名が売れているなら、俺の仕事はそんなに難しくないだろう。

しかし、そんな予想は簡単に覆された。

数日後、俺に知らされたのは、SSRとテレビ局まで巻き込んだ、一大プロジェクトだったのだから。

SSR…アイドルか。

あそこの事務所はほとんどが傘下のレーベルに所属している。サンシャイン・ミュージック『SSM』かミュージック・レインボー『MR』のどちらかに。

一社に集中することを避けるため、サヅがプロデュースしているグループもあるが、ごく一部だ。


蝉時雨(せみしぐれ)HUG×HUG(ハグハグ)

元々この二つは別の老舗のレーベルに所属していたが、CDの売上不振によって音楽業界からレーベルが撤退する際、ほとんどのアーティストをサヅが引き受けた形で移籍した。

配信が普及したことによる円盤の売上不振はサヅにも影響しているが、母体の家電が好調なこともあり、なんとか持ちこたえている。

いや、最近は盛り返している。

移籍により、大物アーティストを数名獲得できたこと。

有料配信コンテンツをサヅ主体で運営すること。それらによって業界内での地位を揺るぎなくしている。


あとは…売上について不安があるとすれば、外タレか?

日本においての所属をサヅにしている外国人アーティストも多く、俺としては業界の活性化にも繋がるし外タレの日本デビューは有り難いと思う。

が、SSRにとっては頭の痛い話だろう。

アジアのアイドルとはターゲット層が被ってファンの取り合いになっているからだ。


そこで、今回のプロジェクトか。

なるほど。

サヅに一枚噛ませるのは、只のキラキラしたアイドルではなく、もっと多様性を持った売り込み方を。と、いったところか?

SSRはCDデビュー前からEGG-KIDSとして顔を売り、先輩のバックダンサーに付いて基本を学んでいる。

ある程度は売れて当たり前。

それ以上をどう引き出すか。 

…仕事として申し分ない。絶対に売れるグループにしてみせる。

多少の無茶でもあの事務所なら受け入れてくれそうだし、楽しくなりそうだ。


けれど後日、俺の考えた案などはるかに超えた決定事項を突きつけられる。

『楽曲提供F2』ってなんだよ!

そんなカード切れるのか?

三時間の生放送とか、シークレットとか。

やられた。打ちのめされる。

だが同時に俺だって凄い提案をしてみせる。出来る。と期待値が上がる。

三月にテレビ発表されてから、CDデビューの七月まで、全国民が知るような宣伝を打とうじゃないか。

…ちょっと言い過ぎか?

目標は大きく、だよな。


そんな思いで俺は、今日、SSR本社の会議室にいる。

郁ちゃんの仕事ってこんな感じ。

次回は会議室でF2と会いますが、郁ちゃんの視点で話は進みます。

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