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推しの衣装を手がけてます!  作者: 葵 紀柚実
二章 揺れる想い
25/65

25 誤解

朝一番でデザイン課と資料のすり合わせをしてから自分のデスクがある部屋へ向かう。

「おはよう、昨日指示しておいた先方との日程、どうなってる?」

昨日は早めに帰ったから、本当はデザイン課へよる前に報告を聞きたかったけど、午後に外回りがあるセンパイが出社すぐにって時間指定したから。

雪乃ちゃんにEGGの話も聞かなきゃだし。

資料を作業台に置いてから席につくやいなや、班の後輩全員に囲まれた。

なに?怖い。


「りこさん!彼氏いるなら教えてください!」

ゆ、雪乃ちゃん?

「小塚に聞きました!社まで迎えに来てのデートってなんですか!羨ましい!」

あれ?

「雪乃がカッコいいっていうぐらいだからカッコいいんでしょう?」

「見たいです!写真とかないんですか?」

「ちょっ、待って」

「なんで隠してたんですか?私には教えられないんですか?」

「雪乃ちゃん?あのね、彼氏じゃないから」

…まぁ、彼女にならないかとは、言われたけど。

言われただけで、従兄弟だし。

「うそです!誤魔化さないでください。呼びすてだったし、親しげでした」

あー。どうしよう。

仕事してほしいんだけど。

「本当に誤解なの。郁ちゃんは…」

「郁ちゃん?りこさん彼氏さんを『ちゃん』付けなんですか?」

やば。

ついうっかり。

ほらそこ、うわ、意外。とか言わない!

人間、慌てているときほど、素が出てしまうものだ。

「あー、もう。私の言い分も聞いて」

従兄弟だってわかれば仕事するよね?

上司らしい毅然とした態度でちょっとだけ睨みを効かせたらみんなは一旦黙った。

まだ、何が言いたそうだけど。

確かスマホの中に…

「ほら、これ見て郁ちゃ…郁人さんは従兄弟。親族みんなで写ってるでしょ?」

卓ちゃんの結婚式での写真だ。

控室と披露宴で写したやつ。

「わ、このときのスーツもいいですね!」

「本当だ。背が高いしスラッとしてる」

「まぁ、確かに?カッコいい部類に入りますね」

納得した?

他にも写真ないんですか?と聞かれたけど、私用のスマホは光稀くんの写真とか入ってるし、気軽に渡せない。

ロック掛けたところにあるとはいえ、私が手に持った状態でないと、危険だ。

そんな私の用心深い態度が怪しく見えたのか、彼氏が親族枠にいる可能性を示唆してくる。

なんなの?

いつも恋バナとか、みんなしないよね?

郁ちゃんがハイスペックだから食いつくのか?

あ、わかった。

郁ちゃんって呼ぶからいけないのか。

「えっと…あ、これ見て」

良かった。まだ財布に郁ちゃんの名刺入ったままだった。

「同じ名字でしょ?倉沢って。従兄弟だって納得してくれる?」

昨日、雪乃ちゃんに名字で紹介するべきだったんだ。

教訓。これからは気をつけよう。

それにしても郁ちゃんが母方の従兄弟じゃなくて良かった。


だか、この名刺も彼女たちの興味を引くアイテムだった。

「やだ、サヅ!りこさんサヅじゃないですか!」

「え?ホントだ。私にも貸して!」

「サヅって言ったら超大手!」

あ…。

会社名じゃなくて、名字。従兄弟だって証明したいんですけど。

「なんで、従兄弟がサヅだって教えてくれなかったんですかぁ!」

えっと。

雪乃ちゃん?従兄弟は理解してくれたの?

「ご、ごめんね、話す機会なくて」

みんなの勢いがすごくてつい謝ってしまったけれど、普通は従兄弟の職場の話なんてしないと思うんだよね。

そうでしょう?


笹塚レコード(株)

大手家電メーカー、笹塚電気の音楽部門。

日本の音楽業界では老舗のレーベルだ。

元々はラジオを作ってたんだっけ?もしかしたら蓄音機とかそれぐらい前だったりして。

とにかく、国内では歴史ある電気屋さん。

レコード盤の販売から歌手の育成へ発展。電気部門から子会社化された。

笹塚の製品には『SAZU』とローマ字表記のロゴがついている為、一般にグループを指して『サヅ』と呼ばれている。

うちが、サンシャインレインボーではなく、SSRって呼ばれるみたいにね。

なんでも一度、社名からレコードを外そうとしたらしいんだけど、最古参だからこそ付けている誇り、みたいな社員の想いでつけっぱなしにしているらしい。

とはいえ、これは郁ちゃんから聞いた話だから、確かではないけれど。


「彼氏じゃないなら紹介してください!」

「なら、私も」

なんと、サヅの名刺効果よ。

肩書なんて関係ない。フリーターでも稼いでる人はたくさんいる今の社会で、それでも大手のレーベルって後ろ盾は無いよりあったほうがいいってことなのかな?

「竹下さん、彼いませんでした?」

「別れた!私から突き放したことにしてる!」

してる。って言い方、何やら訳あり?

どうやら、年末に年越しデート出来なかったことでギクシャクしてしまったらしい。

「付き合うときに土日も仕事入るって言ったのに。それでもいいって言うからオッケーしたのに、おかしくないですか?サヅだったら、不規則な職場でもわかってもらえそうじゃない?」

あぁ、大手だからじゃなくて、雇用形態が魅力なのか。

「りこさん、飲み会しましょう」

「みんなまって、落ち着いて」

そろそろ、ホント仕事して。

常日頃、センパイに倉沢班はユルイって言われてたのに、仲良きことは美しきかな。と思って、厳しくしてなかった上司としての私の落ち度か?

「仕事帰りに待ち合わせるぐらい仲がいい従兄弟さんなら、飲み会のセッティングぐらい…」

あ、従兄弟は確定されたのね。

「はいはい。話はおしまい。みんなはなんのためにここにいるの?」

少し低めの声ではっきりと告げる。


「職場の仲間と飲み会?親睦を深めるためにはそれもいいでしょう。けど、その話は今すること?」

部屋の空気が凍っている。

こーゆー雰囲気がやだから叱りたくないのに。

「まずはすべきことを、いい?」

一番騒いでいた雪乃ちゃんに目を向ける。

私の次にこの部屋を纏めるリーダーになるためには、もう少し自覚が必要だ。

…私もだけどね。

皆はすみませんと個々に謝罪すると、仕事に取り掛かり始めた。


すぐにパソコンに昨日のEGG資料が転送されてくる。

今後の流れと対応策が事細かに提示してある見やすい報告書。

うわぉ、雪乃ちゃん、仕事してあったのか。

その他にも、サンプルが作業台に積まれたり、下請けに出す指示書など、続々処理されていく本日のタスク。

やればできるんだよね、知ってたよ。

初めからしてくれてれば注意しなかったのに。

ちょっと褒めてあげたいぐらいの頑張りを見せてくれた。

が。

「終わりました!さぁ、飲み会の予定を立てましょう」

夕方、雪乃ちゃんに言われてしまう。

ちぇっ、忘れてなかったか。


そして、私と会う口実ができるなら、飲み会ぐらいいくらでも計画しそうな郁ちゃんに私の方から連絡を入れる。

うん。

あっと言う間に日程が決まるよね。

なんか屈辱。

雪乃ちゃんには弟がいそうなイメージ。

話に関係ないから書くつもりはないし、あくまでイメージですが。

次回は久しぶりのF2。

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