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推しの衣装を手がけてます!  作者: 葵 紀柚実
一章 恋心は内密に
17/65

17 未練

俺は、ずるい。

逃げてきた。

俺から言い出したことなのに。なのに、りこさんをそのままにして、面倒事から逃げるみたいに部屋を出た。

楽屋までの通路。慌ただしいスタッフ、緊張感ある本番前。

今日はSSRにとって最も大事なステージなのに、何やってんだか。

はぁ。

仕事以上に気にかけるほど、りこさんは俺の中で大きな存在になってたんだな…

あぁ、なのに、自分でこの気持ちを無かったことにするなんて。


F2の楽屋。

智史がいるかと思うと入りにくい。だが、他に行くところもなく扉を開けた。

「お帰りさん。思ったより早かったなぁ、りこさんに呼ばれたって聞いたで」

「あ、うん」

とりあえず、椅子に座ろう。落ち着け、俺。

「大きな楽屋にはテレビがあって、歌合戦を見てるんやて。誘われたんやけどこーきに一言伝言せな…って。こーき?打ち合わせでなんかあったん?」

「打ち合わせ…?あ、すっぽかした」

「はぁ?なら、何してたん?」

何って、言えるかよ。

スマホ。暇つぶしとか、話題転換とか。

スマホいじってれば…あぁ、どこだ。

楽屋に置いたままの手荷物に手をのばすが、すぐに見つからない。

「なぁなぁ、何してたん?白状せぇや」

ちらっと見ると、ニヤニヤ顔の智史。

これは答えるまでずっと聞いてくる。今日諦めても別の日に聞いてくる。

智史なら他に漏らさないって知ってるけど。

けど、なんて言ったらいいんだ?

「なんかあるんやったら言ったほうが楽やない?」

そうだよな、口に出して、すっきりしてからステージに立ったほうがいい。

えっと。

「告白…した」

「何を?懺悔(ざんげ)でもしてきたんか?」

懺悔?

あぁ、告白ってそーゆー意味もあるんだっけ。

「そうじゃない。…その、好きって言って。…振ってきた」

「ほぉ!りこさん相手にようやく言えたんか!ん?振ったってなんで?」

「なんで、って。ファンって言われたからかな。なんか、もういいやって思って。…サトの言う通り、声に出したら少し気が軽くなった、ありがと」

あ、スマホ見つけた。

「ちょっと待てこーき。一人で落ち着くな。スマホ見んなや、話聞かせろ、なぁ」

報告したのにしつこいな。

このまま黙っていれば智史は満足しないだろう。

俺はスマホを置いて、先程までの事をざっくりではあるが智史に説明した。

全部が全部覚えているわけではないけれど、話しているうちに思い出してきて、事の次第は理解してもらえた。


「見たかった」

智史の呟き。

「サト?何を?」

「なぁ、次。次、またりこさんへ告白する時は俺呼んでや。まさかの大晦日告白か、予想より早いやん。よりによってノーマークの日に」

智史の言ってる意味がわからない。ノーマーク?

いや、それよりも。

「次なんてねーよ。あったとしても呼ばないし。そもそもないし。言ったよな?振ってきたって」

「それがようわからん。こーきが振った?」

「仕方ねーじゃん、ファンだって言うし。それもあれだぞ?めちゃくちゃ…すごい、なんかすごいファン」

同じこと二回言ってしまった。だって言葉がそれしか出てこない。

「早口でいろいろ言われたし、しょ…小学生のころ…の、写真持ってるって。いつのだよ?なぁ、すごくないか?」

「せやな、それは…こーきにはしんどいな」

俺に届いたファンレターの件を智史も覚えている。

少し暗い顔になって、でも何も聞いてこないから、俺もあの事件の事は言わない。

「なぁ、こーき。お前、無かったことにしてきたって言うけど、一度は好きやったってバレたんやし、相思相愛…ちゃうの?」

俺の好きとファンの好きは種類が違う、相思相愛にはなれないんじゃねーの?

ん?

『俺の好き』?

あれ?俺、まだりこさんのこと好きなままなのか?

「俺の小さい頃の切り抜きやったら、オカンが大事にしてるけどな」

そりゃ、うちの家族も雑誌二冊買ってたぞ。

…昔からのファンは有り難いし。最近ファンになっても有り難い。

いつからのファンなんて、気にしない。

何がきっかけでF2を好きになったかなんてそれぞれだ。

「でも、りこさんが、まさか。急すぎてびっくりしたし、それで」

それで部屋を後にしてしまった。

「ホンマになかったことにできるか?」

できるかどうかじゃねぇよ。

あの部屋のことはなかったんだ。

とっさに決めたのは俺。


トントン。

突然のノック音。

「あの、倉沢です。光稀くんいらっしゃいますか?」

扉の向こうからりこさんの声。

「どうぞ、入ったって」

ちょっ、なんで智史が応える?

俺、どんな顔して会えば。

「おくつろぎの所すみません、先程の…」

そっと扉を開けて入ってきたりこさんは、会釈をしたあと俺を見た。抱えるようにして持つ資料の束。

「俺、他に漏らさへんし、ここで打ち合わせしてもええよ」

「いえ、そろそろ入り時間ですから。気になさっていた点には付箋で改善点を、こちらからお知らせすべきことはメモを添えましたのでご一読頂ければわかるかと。私か並木には小泉さんからの返答で対応いたします」

小泉さん経由で衣装班へ連絡?

それって直接俺とりこさんが話さなくってもいいってことか。

避けられてる?

「倉沢班は久々の連休なんやて?小泉さんに資料渡すよう見張っとくから、こっちのことは気にせんとゆっくり休んでや」

え?連休?

そうだった、世の中は正月休み。

うわ、まさか俺、仕事納めをすっぽかしたのか。

りこさんはファンだと言っていたのが嘘のように、すっかり落ち着いたいつもの様子。

俺を避けたりしてるんじゃなかった。

「光稀くん、こちらを」

先程から智史が口だすから、俺はまだ何も話せていない。

「わざわざ…」

持ってこなくてもいいのに。こんな気持ちで会いたくなかった。

そう思いつつも、あのままで終わりたくなかったって考えてる。

「その、わざわざ来てくれて、ありがと。目を通しておくよ」


りこさんは入ってきたときと同様、そっと退室していく。

「引き止めたり話したりせんで良かったんか?」

「震えてた」

「はい?」

「資料持つ手が震えてた。言葉遣いもいつも以上に、変に丁寧だった」

「ホンマか?気ぃつかんかった」

確かに震えていた。

ずっと隠していたことが俺にバレて、それでも仕事するためにここへ来て。

やっぱ、りこさんはスゴイな。

「りこさんはこーきに迷惑行為なんかせぇへんよ」

「わかってる」

ファンだとしてもりこさんは信頼出来る。

わかってる、俺はまだ彼女が好きだ。

F2二人の会話を書くのが好きです。方言男子、良い。

光稀くんが智史に話して気持ちが落ち着いたように、

次回はりこさんが密室での出来事を相談します。

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