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推しの衣装を手がけてます!  作者: 葵 紀柚実
一章 恋心は内密に
16/65

16 告白

光稀くんの様子がおかしい。

煮えきらない態度も、はっきりしない話し方も。

何かあったのだろうか。


大晦日。カウントダウンの日にわざわざ打ち合わせするのもどうかと思うのだが、明日からの長期休み前に話をしておきたかった。

極秘の月下衣装は大まかにスタッフ側で決めたけれど、公演ごとに演目が変わることで、一番負担になるのは光稀くんだ。

歌はもちろん、振り付けも日替わり。

ミュージカルの雰囲気を楽しんでもらうため、曲と曲の間に短いシーンを演じなければならい。

その為、光稀くんからは詳細が決まり次第、資料に目を通しておきたいと言われていた。


狭い部屋で二人。

勧めた椅子に座ることなく、気になることがあると切り出す彼。

あぁやはり、仙台公演のことかな。ソロコン初日は念には念を入れても不安が残るもの。それをバックアップするのが私たちの仕事なのだから、遠慮せずに話してくれたらいいのに。

「衣装じゃなくてさ。好きだと思う。たぶん、りこさんが」

ん?…衣装じゃない?

なんで?打ち合わせに来てるのに?

いや、それより私の名前でた?

「何の…話でしょう?」

覗き見るように光稀くんを見ると照れたような、はにかんだ表情。

うわ、可愛い。

じゃなくて!…今、何の時間?

戸惑っていると、もう一度告げられる。

「りこさんのこと、好きです」

今度ははっきりと聞き取れた。

え?

光稀くんが?誰を?私を?

いやいやいや…

ないないない…

そんなことあるわけない。

「ごめん、俺。好きって知ってもらえればそれで」

聞き間違いだろうと結論付ける私に、追い打ちで告げられた言葉。

…ほんとに?…好き、なの?

だってそんな、アイドルで王子で騎士様の光稀くんだよ?

そうだよ!国民的アイドル藤枝光稀に好きな人がいるなんて、そんなの。

「や」

いつでもファンの為に仕事してたでしょ。

誰か一人を、一人だけを想うなんて。

「いや」

あぁ、でも。

恋愛に臆病な光稀くんが心を許せるようになったのは、いいことだよね。

そっか、そんな特別な人がいるのかぁ、って、それ私?

…うそうそ、違うよ、間違いだよ、ありえないし。


「そう、だよな。ごめん。俺、嫌われてるのに、こんな話して」

見るからに落ち込んでます、って雰囲気の光稀くんがなんか言ってる。

(きら)って?

やだやだ、嫌いなわけないじゃん、むしろ好き。

「あ、あの。違います、いやなのは光稀くんのことじゃなくて」

「慰めはいいよ、りこさん優しいから。こんな時まで気を遣ってくれなくても」

「違うんです。光稀くんは嫌われるような方じゃないし。その、素敵な方だと思ってますよ」

「うん…ありがと」

ああ、何をいっても嘘くさい。

そりゃあそうだよね、取り繕ったよそ行きの言葉じゃ気持ちは伝わらないよね。


光稀くんは元々、消極的な性格をしている。

それでもトップアイドルとして芸能界の第一線で活躍しているのは、ファンのおかげだと言う。

応援してくれるファンがいるから応えたいし、頑張れると。

積み上げてきた練習量もあるけれど、ファンへの思いが確固たる自信に繋がるのだと。

なら。

「ファンなんです。光稀くんの。だから、そんな自信をなくした表情はやめてください」

「ファン?」

うつむき加減の彼の視線がこちらを向いた。

「そうです。それも気休めじゃないですよ。ずっと前から、EGGの頃から好きです」

「本当に?」

ホントだよ!

「はい。藤・藤コンビって言われてた頃からチェック入れてたし、何ならその頃の切り抜きだってまだ持ってます!雑誌に初登場とかの小学生の頃のやつ!もちろんファンクラブにも入会してるし、それも発足と同時の入会です!会報は、あ、初期のは実家にあるけど…全部取ってあるし。あとは…CDも!コンの円盤もなんでもあります!『F・F』なんて第一回放送からディスクに落としてるんですよ!あと、あと…とにかく好きです。応援してます!」

勢いついてなんだか言わなくてもいいことまで言ってる気がするけど、止まらない。これでアイドルとしての自信を!

「歌声も大好きですがダンスも!ぴしっと止まった時のシルエットがたまりません!箱推しだけど最推しは光稀くんで、王子様だと思ってます!!」

あぁ、もう。光稀くんを元気づけるためだからもぉ、いいや。

「なので、ファンとして推しに好きな人なんてちょっとな、嫌かな。って思っただけで、光稀くんを否定したわけではないです。ので、その、私の発言は気にしないでください!」

そーそー。私の言葉なんて戯言だと思って、またカッコイイ光稀くんになってくれたらいいんだよ。

「りこさん」

澄んだ声。

沈んだ気持ちから浮上したみたい。良かった。

「りこさんは嘘なんてつかないと思うから、俺を否定してないってことはわかったよ。でも、もう、いいよ」

済んだ声というより冷めた声?

あれ?なんか、光稀くんが怖い。

「ファンの応援はありがたいけど、りこさんのは。その、受け入れられない。ごめん、なかったことにしよう」

ん?どーゆーこと?

「すみません、なかったこととは?」

あぁ、私、光稀くんに聞き返すとか、失礼な。

「俺が、りこさんを好きだって言ったことも、りこさんがF2のファンだってことも、何もかも。この部屋に入ってからのこと、全部」

「え?…あ、はぁ」

怖いんじゃない、青ざめた顔だ。

そうだ、光稀くんはファンにトラウマがあったのに。

私、知ってたのに。

デビュー前の恋愛疑惑、数年前のファンレター騒動。

「あの、すいません私。ファンって、そんなつもりじゃ」

知ってたのに言い過ぎた。

「いいんだ、もう。なにもなかったんだから」

罪悪感で光稀くんが見れない。どんな表情をしているだろう。怯えさせてしまったに違いない。

「じゃあ」

部屋を出ていく彼になんと声をかけるべきかわからないまま、立ち尽くすだけの私。

扉の締まる音がやけに部屋に響く。


うわぁぁー。

なんだよこれ。

どうすればよかったの?

ねえ、どうすれば?

ドッキリとかじゃないよね?

むしろその方が?

いやいや。

最初に好きって言われたときに、私もですって言えばよかったの?

そしたら、彼女になれたのかな?お付き合いが始まったり?

ないない。うん、ないない。

今だって、職場で光稀くんに会うのにドキドキしちゃってるのに、彼女とか。心臓もたないでしょ。即死。

えぇ、即死。

緊張しすぎて変なミスしでかしたりしそうだし。

無理。


なら。

ごめんなさい、気持ちは受け取れません。って断ってればよかったのかな?

…それは、ないな。

だって、あの、天下のアイドル藤枝光稀の想いをだよ?断るってどうよ?

光稀くんにお断りの言葉なんて、失礼すぎる!

そんな、酷いことできない。

光稀くんを振るなんて、そんなことする人がいるとしたら絶対に許せない!

許さない!


て、ことは?

「お気持ち大変有り難く、私も好意を寄せておりますが、身に余ることですので、叶うなら辞退させて頂きたく…」

とか、言えば正解?

あの状況で…この言葉はでないでしょ。

正解とも思えないし。

はぁ、結局、なんどやり直してもこの惨状になりそう。

あーもぉ。

やりきれない思いでバシバシと机を叩く。

と、紙の質感。束の資料だ。

資料…?

「あ、打ち合わせ、すっぽかされた…」

まじか、今が仕事中だってことをすっかり忘れていたよ。

光稀くんに、家中の写真をニヨニヨしながら見てるとか、妄想でいろいろやらかしてるなんて言わなかっただけ、りこさんは言葉を選んでいるほうです。

次回は楽屋に戻った光稀の心情を。

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