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推しの衣装を手がけてます!  作者: 葵 紀柚実
一章 恋心は内密に
15/65

15 密室にて

年が明けて春、俺はソロコンサートを開催する。

これはもう、公になっていて、ファンクラブではチケットの申込みも済んでいる頃だ。


F2に比べると小さめの会場でファンとの距離が近い。二ヶ月かけて五都市を回るツアー。

そこで、月下の演目を披露してはどうかと案が持ち上がった。

今年のミュージカル『月下掌握』はコンサートと違い都内の劇場のみで上演されたため、見に来れなかったファンも多い。数曲、セトリに入れてはどうかと。

オープニングの華やかな曲、下町での穏やかなシーン、二幕の謎めいたやり取り、そしてフィナーレ。

見どころはたくさんある。

演出家の久保田さんが決めたのは、開催地ごとに違う演目をニ曲。だった。

どこでどの曲を披露するかは当日まで秘密。

そもそも、現時点では月下を見せることすら極秘だ。

通路でりこさんが声をかけてきた。

月下パートの最終確認だろう。

そのまま使えるシーンの衣装もあれば、早替え用に仕立てた衣装もある。

ベリッと剥がせる衣装は今回の演出には向かない。改めて作り直しか別の衣装になるだろう。

その辺りも考慮して、スタッフは作業を進めているという。


「すいません、狭い場所で」

案内された部屋は本当に狭かった。

三畳ほどのそこは部屋というより物置で、奥に畳まれた長机とパイプ椅子が立て掛けてある。

一つだけ出されている長机にりこさんは持っていた荷物を置く。決定したデザイン画だろう。

普段なら俺を奥の席へ案内する彼女だが、ここは狭すぎて位置を変えることは困難だ。

オフレコの打ち合わせならこんな所で充分だが、通路にいるEGGたちが見たら秘密基地みたいだとはしゃぎそうだな。

…いや、実際、この部屋何だろー?と突然扉を開けられそうだ。

それはまずい。

りこさんが奥のパイプ椅子をニ脚出している。

俺は、部屋の鍵をカチリと閉めた。

…ん?密室…?


「光稀くん、おまたせしました。座って下さい。それにしても秘密って緊張しますね」

秘密。…そして密室。

「この仕事してると秘密だらけですけど、今回はSSR内でも一部だけで動いてますし」

俺が座らないから彼女もまだ立ったまま。こーゆーさり気ない気遣いが、好きだ。

好き?

いや、好きとかそうじゃなくて。

「あの、りこさん。その…」

変なことを考えたせいで動揺し、意味もなく声をかけた。

俺、何を言おうとしてる?

そ、そりゃ、最近りこさんのことを前より考えてるけど。密室だけど。

今は打ち合わせだし?

「…何か、その、気になって…」

でも、密室に二人って、今言わなきゃもうチャンスなんてこない。

だからなんのチャンスだよ、俺!

「突然、ごめん。でも、今言わないと…」

うわ、かっこ悪い。考え纏んない。

こんなグダグダな告白。

えっ?…告白、してるのか?俺。


「光稀くん?」

りこさんはちょっと首を傾げて困ったような顔をした。

「確かに今ならなんとかねじ込みます。ご意見伺わせてください」

「は?」

「え?今、光稀くんが気になることと言ったら、仙台公演の演目の赤い衣装…あ、資料見て話を…違うんですか?」

はぁ、こーゆー人だ。

俺がウダウダしてても、きっちり仕事してくれる。

だから、好きなのかな。

…好きなのか?俺。

「ごめん、衣装じゃなくてさ」

あぁ、もう認めるよ。

「好き、だと思う。たぶん、りこさんが」

机の上に何束かある資料のうち一番分厚い一束をパラパラ捲っていた彼女の手が止まった。

ゆっくりと俺の方を見る。

「何の…話でしょう?」

疑問符だらけの戸惑った顔。

そりゃびっくりするよな。俺だって自分の気持に驚いてる。

けど、もう随分前から好意を寄せていたんだとも、思う。

「りこさんのこと、好きです」

もう一度言った。

今度は、たぶんとか曖昧な気持ちじゃなくて、はっきり伝えたいと思った。


数秒固まったりこさんが、ようやくって感じに口をパクパクする。

声にならないような小声で、え?とか、そんな?って呟いている。

俺としても、急なことで、付き合ってほしいとか、そこまで考えが及んでなくて、ただ、伝えたかっただけで。

「ごめん、俺。好きって知ってもらえればそれで」

「や」

や?

どうにか聞き取れた小さな声。りこさんの返事?

聞き間違いじゃ、ないよな?

「いや」

もう一度、確かに聞こえた声。

ちょ、ちょっとまて、好きって言ったら『いや』って何だ?

りこさんの困った顔。

迷惑なのか?

どうなんだ?

『いや』って否定だよな!?

俺、振られた?

りこさんには「げっ!」と言わせたかったけど死語なので断念。

次回は告られた立場、りこさんの視点で。

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