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推しの衣装を手がけてます!  作者: 葵 紀柚実
一章 恋心は内密に
10/65

10 EGG -KIDS

十二月上旬。私たち倉沢班は総出で衣装合わせに向った。

SSRが所有するいくつかのビルのうち、これから行くのは本社から比較的近場にある『スタジオ』と呼ばれているビル。

中には撮影機材の入った部屋や防音設備の施されたレコーディング室。ボイストレーニングのできるレッスン室や片側の壁一面が鏡のダンス室などが入っている。

CDデビュー前の研修生が日々練習に励む場所。アイドルになるために必要なものが揃ったスタジオだ。

実際にCDを作るのは各グループが所属するレコード会社になるけれど、ここまでの設備があれば練習には事欠かない。

いや、練習にはもったいない設備といえる。


約束の時間に合わせて一番広いダンス室へ入ると、先に届けさせていた衣装を着た子供たちが私を見つけて声をかけてくれた。

「りこさんだ。久しぶり!」

「見てみて!俺サンタ!」

赤を基調とした上下に白のアクセント。いわゆるサンタクロースの恰好はクリスマスに行われるコンサートの衣装。

「ちょっと待て。おはようございます。って挨拶ちゃんとしろ。お前らがきちんとしてないと俺が怒られるんだからな」

「りこさん怒んないもんねー。ほら、僕もサンタだよ」

わらわらと集まってきた男の子達に囲まれる。

か、可愛い…。くぅー、EGG(エッグ)は癒やされるね。


EGG-KIDS(エッグ キッズ)

SSRの研修生を総称してそう呼ぶ。

アイドルの卵の子供たち。そのまんまの意味だ。

公式にデビューしていない彼らでも、先輩のバックダンサーを務めたり、子役としてドラマに出たり。すでに活躍しているメンバーもいる。

普段学校に通っている彼らが集まれるのは、週末や今日のように平日の遅い時間。

「おはよう、みんな。サイズ見に来てるんだから遊ばないで」

子犬のように可愛い子も、猫みたいにツンな子も、たくさんいると選びたい放題だな。と、思ってるけど顔には出さない。

それに、こんな小さい子たちにまで『りこさん』って名前で呼ばれてたら、また並木センパイになんか言われそう。いやいや、親しいことはいいことだ。そーゆ―ことにしておこう。

「ごめん、りこさん。さっきまでの振り付けが結構厳しくてさ。息抜きっていうか、気が緩んじゃって」

声をかけてきたのは、EGG内の小・中学生十人程度で構成されるユニット、S-F-C(エスエフシー)のリーダー萩原(はぎわら)くん。

S-F-Cは春の進級と共にメンバーが入れ替わる。その中で、小四から中一の四年間変わることなく中心となって活動してきた彼が今年リーダーになった。

彼より年齢が上のメンバーもいるが、EGG歴は萩原くんの方が長い。

几帳面で真面目な性格もあって、みんなに頼られている。

「気分転換は大事だから気にしないで。私の方も、甘やかしすぎないように気をつけます。あれ?萩原くん、また背伸びた?」

「えっ?ゴメン、りこさん。丈…おかしい?」

「ううん、伸びるだろうと思ってたから大丈夫。丈が変わるほどじゃないから気のせいかも」

念の為、軽く採寸させてもらおう。

育ち盛りのEGGの衣装は縫い代を多めにして、サイズ調整できるようにしてあるし、作り直しに対応できるよう、生地も多めに確保してある。

私が萩原くんのサイズチェックをしているうちに他のメンバーも衣装合わせが終わったようだ。

「りこさん、これ大っきくない?」

少し離れたところにいる天野(あまの)くんが聞いてくる。彼に対応している雪乃ちゃんが、本番は重ね着してるから丁度いいんだよ、と。

私はタブレットに送られている資料を見ながら改めて確認。

「メインの三人は数曲サンタのままだけど、周りは途中から次の衣装、この場面転換で早替えでしょ?下に着込む衣装は前回一度袖を通してるよね?」

納得した天野くんの横で胸元の大きなリボンをふわふわさせながら

「僕にリボン、僕がプレゼントだよー」

なんて浮かれているのは長岡(ながおか)くん。

「こーゆーのってファンが喜ぶセリフでしょ?」

確信犯か!いや、天然か?

ショタコンじゃない私でも、ぐらっとくる愛おしさだ。

今日はまだ合わせる衣装がある。さ、テキパキいくよ。

途中から演出家の久保田さんも参加して、全体のバランスを見たりするが、特に問題もなく進む。

「フィナーレも華やかでいいね、よし」

オールオッケーが出た。

年末に向けて細かい仕事が多いから、クリスマスコンに目処がついてほっとしたよ。


「ねーねー、りこさん今暇?」

碓氷(うすい)くんが声をかけてきた。

衣装合わせが終わってすぐに着替えたようだ。衣装のままで騒いているメンバーもいる中で、すでに私服。

仕事中なので暇ではないが、話をする時間はある。

「衣装に何かあった?今なら直しできるよ」

「あ、違くて。この前綾戸(あやと)と会ってさ、衣装の話になったんだよね」

綾戸くん?

去年デビューした『Triangle(トライアングル)』の一人だ。

碓氷くんはオーディションを受けたのが遅めだったので、今は中二…か中三?

S-F-Cのメンバーより、既にデビューした綾戸くんとの方が年齢は近いはず。たぶん。

「俺、SSRじゃ綾戸とわりと仲良くて。で、さ、りこさんって名前なんだっけ?」

ん?なんの話だ?

「凛々子ですけど」

「違っ、名字。…え?あれ?りこじゃねーの?りりこって誰?」

あ、なんかテンパってる?

それにしても人に名前聞いておいてこの態度は、萩原くんがもっとちゃんとしろって言うのがわかる気がするよ。

「綾戸が、りこさんのこと別の呼び方してて、2ndシングルの件で」

あぁ、もしかしたら白いパーカーの事かな。

「倉沢だよ、名字」

「あ、それ。倉沢…さん」

「私のことを下の名前で呼ぶのは担当でよく顔を合わせる人が多いから、F2とかCOUNTRY(カントリー)の関係者かな。綾戸くんもEGGの頃は名前呼びだったけど、デビューして今の衣装担当はは西森班でしょ?いつの間にか呼び方変わってたし」

碓氷くんは神妙な顔つきで聞いている。

「俺も、デビューして倉沢さんって呼ぶ!頑張る。絶対デビューする。その、馴れ馴れしい話かなって思ったんだけど、ちゃんと話聞いてくれて、ありがとうございました!」

ぺこん、とお辞儀をして碓氷くんは離れていった。

失礼だってわかってたのか。彼なりに礼儀を尽くしたつもり?

デビュー待たずに、今から倉沢さんって名字で呼んでもいいんだよ。

でも、まぁ。デビュー前の子供っぽいところから、段々と成長していく姿を見守っていけるのも、SSRのいい所なんだよなぁ。

ほっこりする。


S-F-Cを帰して、私達も片付けを急ぐ。

雪乃ちゃんに指示を出して私は久保田さんの元へ。

「年末のスケジュールの件いいですか?次の会議には全ての資料が揃うって聞いてますけど」

「あぁ、会議前には各班に情報回すから会議では確認程度で済むはずだ」

SSRでは毎年、全てのデビュー組が一堂に会するカウントダウンコンサートが開かれる。

「各班、準備始まってるだろ?」

カウコンでは既存の衣装を使用するので、手直しが主な仕事。

「冬が来たって気がしますね。この忙しさがないと年が越せない、というか」

私がヤレヤレと首を振ると、久保田さんもヤレヤレと肩をすくめた。

「何いってんだ、年を越しても忙しいぞ」

そうだった。

忘れていたわけではない。思い出したくないだけ。

むしろ忘れてみたい。

久保田さんと二人、わざとらしいため息をついてそれぞれの仕事へ戻る。

みんなでワーワーしたかったので、名前がたくさん出てきました。凛々子と光稀の恋愛に関係ない気もしますが、必要な部分が入っています。

次回は凛々子の自宅での様子。光稀は出ません。(12話でガッツリ出します)

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