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異世界から召喚された聖女は眼鏡のおっさんでした。  作者: 流花@ルカ


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ユイカの主張1

しばらく応接室で待っていると部屋のドアがノックされる。


「失礼致します、聖人エドワード様がおいでになられました」


「はい、どうぞー」


「失礼致します」


そう言って部屋へと入ってきた人物を見て、ユイカはソファから立ち上がりピョコンとお辞儀しながら


「改めまして! 私、立花ユイカっていいます!」


「これはご丁寧にありがとうございます。私の事はエドワードとお呼びください、急にお時間を取らせて申し訳ありませんね……お約束した後に少々予定が立て込んでしまって、中々時間が取れなかったもので」


笑顔を浮かべたまま丁寧な態度で挨拶をするエドワードに対して、ユイカも笑顔で


「いえいえ大丈夫ですよ。……えっと、それで今日は何のお話をするんでしょうか?」


と問いかけた。


「はい、実はですね……」


パン!と両手を討ち合わせながらユイカは


「あっ! やっぱり私のお話先にさせてください!」


と、エドワードの言葉を遮った。


『ちょっとこの世界の人には聞かせづらい話なんで日本語で話しますけど大丈夫です?』


ユイカの勢いと話の流れに戸惑いながらもエドワードは


『えぇ……大丈夫ですよ……ではお聞かせください』


と苦笑しながら話を促す。


『良かったー!じゃあいきなりですけど……実はこの世界マンガの世界なんですよ!』


『……はっ? ……マンガとは確か絵で構成された書物でしたよね?』


『はいそのマンガです!』


『……つまり、そのマンガの世界だというのはあなたの頭の中だけの物語という事ですか?』


暗にユイカの妄想なのかと問いかけるエドワード。


『いえいえ違います、ちゃんと実在するマンガなんですよ!私が知ってる限り全部で9巻まで出てるんですよー。だから間違いなくここはマンガの世界なんです』


『……なるほど、しかし実は違う可能性もあるのではないですか?』


『う~ん、まぁいきなりこんな話しても信じられないですよねぇ……でも私、この先この大好きな物語の世界で起こることを、全部この目で見てみたいんです!』


そう言ってユイカはキラキラとした瞳でエドワードを見つめる。

それに対してエドワードは少し困ったような表情を浮かべながら

(どうやら本気で言っているようですね……。)

と思いながら、まずはなぜ彼女がこのような主張をしているか確認せねばなるまいと、ため息を押し殺して話し出す。


『ユイカさんの主張は分かりました。ではその根拠であるマンガの内容をお聞かせ願えませんか?』


するとユイカは待ってました、とばかりに嬉しそうな顔で語りだす。

彼女は自分の知っている9巻までの内容を全て語った。

それをずっと黙って聞いていたエドワードだったが、彼女の話が終わりに近づくにつれて、どんどんとその眉間にシワが刻まれていく。


そんな様子に全く気づかず、語り終えたユイカがさぁどうだ!と言わんばかりの表情でエドワードの顔を見ると、彼は無の表情でユイカを見ていた……。


『エ、エドワードさん……?』


『……お話は分かりました。つまり要約すると世界の危機に聖女召喚でミリアという少女が呼び出されて、その聖女が王太子スカーへと勇者としての加護を授けて、その後騎士団長の男性と3人で旅に出ると……で、紆余曲折あって恋の三角関係になった聖女、勇者、騎士団長の3人が魔王の城で魔王を討伐する際に、聖女をかばって騎士団長が命を落としてしまうと』


『そう! そうなんですよ……もうあのシーンほんと泣けて泣けて……ティッシュ箱がカラになりましたもん!』


そういいながら涙ぐんでいるユイカ。


『で、最後は聖女と勇者が結ばれてめでたしめでたしで終わると』


『そうなんですよっ! 最後の2人の結婚式のシーンがすごい綺麗でめちゃくちゃ感動したんです!』


と、若干興奮気味のままユイカが答える。

それに対しエドワードは冷たい視線を向けたままさらに続ける。


『それで……ユイカさん自身は、その物語の中でどんな役割を持っているんですか?』


彼の口から飛び出した言葉に今度はユイカの方が無になる番だった。


『え?』


エドワードからの質問の意味が全く分からなかった。


『お話を伺った限りでは、ユイカさんの描写はマンガではされていないようですが? ですがここはマンガの世界だと貴女はおっしゃる。ならば今ここにいらっしゃるユイカさんもマンガに登場していなくてはおかしいのでは?』


その問いかけに思わず口ごもってしまう。

確かにあのマンガにはユイカなんていうキャラは登場していない。

『そ、それは……直接描写がないだけで実は登場しているかもしれませんし……』


エドワードはさらに冷めた目でこちらを見つめながらこう言った。


『その時点でもうマンガとの差異が発生しているのでは? そういえば、貴女は王太子スカー殿下と交流がおありだとか……マンガにそんな描写ありましたか? それに何より聖女ミリアではなく私という聖人が呼ばれた時点でこの世界がマンガだと頑なに信じられる根拠がどこにあるんでしょうね?』


エドワードは淡々とユイカを追い詰めていく。

(どうしよう……エドワードさんの言う通りだわ……)

異世界転移という信じられない現象と憧れのマンガの世界にそっくりな世界、その事実に浮かれに浮かれて正常な判断を失っていた自分にやっと気が付いた。

エドワードの話を聞きながら、今まで自分は何をしていたんだろうと思う。

そして、マンガと同じ未来が来ないのだとすれば、私のやったことって、おせっかいで余計なお世話でただの迷惑極まりない嘘つき人間じゃないの……。

と、今更ながらに王太子に対して申し訳ない事をしたと後悔するのであった。



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