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愛する貴方の心から消えた私は…  作者: 矢野りと


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11.待ち受けていた真実①〜ラミア視点〜

記憶を取り戻したジョンはエドワード・ダイソンという立派な伯爵だった。


私は貧乏男爵家の三女で正式な妻ではない。これからどうなるのだろうと思いながら生まれたばかりの我が子を抱きしめる。


平民同然の私を残して彼は去っていくのだろうか。きっと伯爵である彼は私なんかよりも素敵な上流貴族の女性を望むはず…。

 


 こんなことなら記憶なんて戻らなければ良かったのに…。 



喜んでいる彼の隣で私はそう思ってしまった。これからどうなるのか不安で堪らない。



けれども彼は本当の自分を取り戻しても何も変わらなかった、私と息子への愛もそのまま。

変わったのは呼び名だけ。


『これからはジョンではなく、エドワードと呼んでくれ。いや、エドワードだとなんか固いな…』

『それならエディでどうかしら?』

『ああいいね、これからはエディと呼んでくれ、ラミア』


そう言ってお互いに微笑みあうと、不安は一瞬で消えてなくなった。


そうだ、私は彼の誠実な人柄に惹かれたのだ。彼を疑うような気持ちを抱いた自分が恥ずかしかった。




記憶を取り戻したエディに連れられ彼の母国へと一緒に向かった。

私達は向こうで正式に婚姻を結ぶつもりだった。

貧乏男爵令嬢に伯爵夫人が務まるのか不安で仕方がないが、愛する彼と離れることは考えられなかったし、なにより私達には息子がいる。

この子の為にも母として頑張らなくてはと思った。


だから私はダイソン伯爵家に到着し馬車を降りるまで『精一杯頑張って認めてもらおう』と前向きに考えていた。





だが待っていたのは悪夢のような現実だった。




私達…いいえ、彼を待っていたのは義父母と義弟と彼の妻だった。


目の前で気を失う彼の妻、声を荒げる義家族達、混乱しているエディ。そして使用人達の突き刺さるような視線。



 …これはどういうことなの…?

 だって彼は独身で…妻はいないはず。

 でも『奥様っ』と、『義姉上!』って…。



私ではない『彼の妻』が目の前にいる。

『う…そ、嘘よ…』と呟きながら震える身体をケビンを抱きしめることで必死に誤魔化していた。






その後の義父母達との話し合いで全てが明らかになった。


彼は記憶を正しく取り戻していなかった、実際に取り戻していたのは妻となった女性と出会う前までの記憶。


記憶を取り戻したエディは自分が流れ着いた時は24歳で独身だと思っていたが、実際にはその時点で26歳で既婚者だった。


空白の二年間に彼は妻と出会い婚姻を結んでいたのだ。


24歳までの記憶は完璧に取り戻していたから、彼も私も医者もまだ失っている記憶があったとは考えていなかった。


家族からの捜索願をよく読めば年齢の違いに気づいただろう。だが身元が判明したことに気を取られていたし、なにより足りない記憶はないという先入観から簡単なことを見落としてしまったのだろう。



 どうしたらいいの…。

 まさか彼に奥様がいたなんて。

 こんなことって、…これからどうなるの…。



記憶喪失の彼を愛したことを初めて後悔した。


彼が何者であっても受け入れる覚悟で結ばれたけれど、まさか結婚しているとは思わなかった。


だって彼は出会って暫くすると『ラミア…』と夢の中でも私の名を呼ぶほどに愛してくれていた。

だから彼の愛する人は私だけで、妻などはいないと思い込んでいた。



…いいえ違う、それは言い訳だと今なら分かる。



私は彼を愛するあまり『他に愛する人などいないわ、だって私を愛してくれているのだから』と自分に言い聞かせ、いつしか『妻はいない』という事が私の中で真実になっていただけ。



その愚かさが今、私に返って来ている。



義家族は彼の本当の妻を守ろうとしている。

それは当然だろう、彼のことを待っていたあの人は正式に婚姻を結んでいるのだから。


彼らから見たら突然現れた私は迷惑な存在だろう。



正妻が正しくて私は間違った存在。



混乱して何も言えない私を彼は必死に守ろうとしてくれる。


『俺には結婚していたという記憶はない。

ラミアに助けられ、俺は彼女に惹かれ結ばれたんだ。その記憶が今の俺にとって真実であり守るべき現実だ。


俺に妻がいたことは頭では理解している、それを否定はしない。


だがいきなり知らない女性が本当の妻だと言われても『はいそうですか』と、愛する妻と息子を捨てる事なんて出来ない。

誰だってそうだろう!

記憶がない俺にとって正式な妻は初めて会う女性で他人でしかない。その人の手を取り、愛する妻子を投げ出すなんて絶対に出来ない!それとも初対面の正妻を優先しない俺がおかしいのか?もし父上が私の立場だったらあなたは非情にも家族を捨てるんですかっ!

俺はどんなことがあろうと大切な家族を守る、これだけは譲れない』



義父母達は彼の剣幕に圧倒され、私は彼の想いに涙した。


運命に翻弄され結果として間違いを犯してしまったが、私と彼の愛だけは偽りのない真実。


それは『ラミア…』と私を呼んでくれたあの時から変わらないこと。



それだけは揺らがない。



だから私もこの試練を乗り越えようと覚悟を決めた。どんな事があっても私は彼を信じてついて行くだけ。



彼の正妻にはこんなことになって本当に申し訳ないと思っている。

けれども私と彼の間にはすでに息子もいる。

だからなかった事になど出来ない。


どんなことにもこの子の為に耐えてみせようと思った。彼が隣にいてくれるなら耐えられると思っていた。



それなのに揺らがないと思っていた私達の真実がすぐに揺らぐことになるなんて…。



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