誰でもいいので私を愛して下さる方、募集します!
お暇潰し程度にお読みください。
空は雲一つとない快晴、喉もこれ以上ないくらい潤っています。これは私があれを宣言するのに神様女神様お殿様が用意してくれた絶好の日なのではないでしょうか。
「……おい、城の上に誰か立ってないか?」
ふふふ、思った通りたくさん集まってきていますね。周りには私のことを何だろうと見上げてる人ばかり。大臣もメイド長も止めていたけれど、やっぱり一番手っ取り早くてしっかり聞いてもらえる舞台はここが合っていましたのね。
「……おいまさか……なぁ」
「ち、違うよな……み、見間違いだよな」
皆さんが少しどよどよし始めましたし、そろそろ始めましょうか。もし、大臣たちに気づかれてしまう前にやらなければきっと止められてしまいますしね。私はすぅっと大きく息をすってーー
「皆さーん!!私、フィアモーゼル国王ゾロアザーク・フィアモーゼルの娘、シャルロ・フィアモーゼルと申します!」
ようし、まずは自分が何者か自己紹介から入ります。でも、本題はこれからじっくりと……。と思っていたのですが。
「待って……っお待ちを、姫様ぁ!!」
城の階段を駆け上がってくるのは大臣と使用人たち。あら、もう気づかれてしまったのですね。いけない、早く本題をお伝えしなければ。捕まってしまったら私の計画は水の泡ですもの。
「こほん。突然ですが……私、誰でもいいので私のことを愛してくれる殿方募集中です!」
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……あれからどれくらい経ったのかしら、私はお部屋で軟禁状態のまま放置されています。一応、この国のお姫様なんですけどねぇ。いつもなら部屋もメイドさんたちで埋まるスペースが余って、ちっとも落ち着きません。
というものの、あれから私は瞬きする間もなく、大臣たちに担ぎ上げられてしまって、虚しくも逃走は失敗。こんなに重いドレスと苦しいコルセットなんて付けていては逃げられないことは分かっておりましたが、彼らがあんなにも怖いお顔で迫ってきたのは初めてです。
それにしても、お紅茶もお菓子もない部屋で待つのは退屈です。誰かお話しの相手に居てくれればよろしかったのに、大臣が皆さん連れていってしまうのだもの。
ふぅ、とため息をつくと扉ががちゃりと音をたてて開くと見知った仲良しのメイドが入ってきました。
「まぁ、ジュナ!良かった、私退屈で退屈で死んでしまうかと思ったわ。こんなところで1人にするなんて、大臣ったら少し酷いのじゃないかしら?」
幼い頃からずっと一緒のメイド、ジュナは私の唯一のお友達。他の方たちは私と友達になるなど恐れ多い、と言って仲良くはしてくれません。だから彼女は特別、お母様やお父様と同じくらい大切な存在です。
いつも笑っている優しいジュナ。ほら、今だって天使のような微笑みで……
「……シャルロ姫様、貴女様が仕出かしたことの意味をお分かりですか?」
「ひ……っ!」
あ、悪魔の微笑み……!!
あれはジュナなのでしょうか、何か黒々しいオーラを放っています……!いつもの天使のような笑顔はどこにいってしまったのですか……!!昔ジュナの好物のマカロンを横取りしてしまった時くらい怒っています……。
「……わ、私、皆様に向けてお声掛けを……ほらジュナにも前に話したでしょう?私を愛してくださる殿方を募集しておりましたのよ。姫とか関係なく、ありのままに愛してくれる方なんてほら、乙女の理想でしょう?」
「だ、か、ら……!!それをしたら駄目なことくらい分かりますでしょう……!?前に却下したのをお忘れですか!?」
ぴしゃりと落ちたジュナの雷に思わずひぃ、と小さな悲鳴が溢れます。ジュナの顔は悪魔を通り越してこれでは大魔王の顔をしています。
これはお年頃の女性としてはいいのでしょうか……。でも、一度却下されたくらいで止める私ではありません!
「で、でもねジュナ……」
「一国の姫ともあろうお方が、自ら殿方を募集するなんてあり得ない奇行です!まさかの事態に大臣は驚いて持病が再発され、メイド長は慌てて階段から転げ落ち、全治1ヶ月の怪我をなさりました!これが、どなたのせいか、お分かりですか……!!」
「……わ、私ですぅ!!」
そうだ、とも言わんばかりにジュナは大きく首を縦にふりました。ジュナの勢いと大臣たちの報告に思わず罪を認めてしまいます。持病に怪我なんて大臣たちは大丈夫でしょうか……。
その私の様子を見て、ジュナに呆れたようにため息をつかれるとぐぅのねも出ません。
「大臣たちの恨みは長く、濃いですからね。きっとこの仕返しは来ること、覚えておいてください」
「……す、すぐにでも忘れたいですね」
大魔王ジュナにそんな怖い宣言をされると脅しとはいえ、背筋が凍る思いです……。
「……第一、そんな宣言なさらずともシャルロ姫様にはいくらでも愛してくれる婚約者を探すことはできます。あなた様は我が国の唯一の姫なのですから」
たしかにジュナの言う通り、いつかは私のことを愛してくれる人が出てくるでしょう。……いえ、お父様たちが無理矢理探しだすでしょうし。
「それに、あの方のことはもうよろしいのですか?」
そう言ってジュナはちらりと私の机を見てまたもやため息をつきました。そこには、大量に積まれた書類があります。
「……それはいいんですよ。きっと、どうにかなりますし」
ふいっとそれらを知らぬふりをしてそっぽを向きました。乙女には誰しも触れられたくないものがあるのですよ、ジュナ。
「……まぁ、姫がいいのなら、私もいいですけど。ですが、先程宣言なされたことは撤回されるということでよろしいですよね?さすがにこれだけは姫、駄目ですからね」
頭をかかえるジュナは私の瞳を見てそう言いました。これではうら若き乙女だと思えませんね……うぅん熟練!
……と、それより。そうですね、彼女を困らせるのもよくありませんし、そろそろはっきりくっきり私の意見をお聞かせしなければ。そう、明確に揺るぎない私の意志を。
「ーーそれはできません。私は宣言通り、無条件に私のことを愛してくれる殿方を募集しますもの!」
がしゃん、と紅茶ポットが倒れます。ジュナったら相変わらず面白い反応をしてくださるのよね。でも、私が生きている限り、絶対にこれだけは譲れませんもの。うふふふふ。
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ーーその頃、シャルロの両親である王と妃は他国の会談に向けて馬車に揺られていた。大きな体躯と素晴らしい武勇で名を轟かす彼にとって馬車は小さく窮屈なものでしかなかったのだが、愛娘が他国とも交流を深めるのは良いことですわ、とすすめてきたため片道に半月かかる遠国に向かっていた。
「国王様、取り急いでご報告が……!!」
がたん、と急ぎで馬車が止まるとぜぇぜぇと息絶え絶えの従者が一つの書を差し出しきた。ずしゃあと音を立てて姿を表した従者に何事かと隣に座っていた妃と顔を見合わせる。
……それに書の差し出し方に詳しい取り決めはないがまさか滑り込んでくるとは思わなかった。これは王に即位してから初めての出来事だからさすがに驚いた。
「……あなた、何かあったのかしら?」
「リアナ……なに、大丈夫だ。お前も知っているだろう、私は百獣の王の獣を素手で倒した男だ。国に何があっても必ず私が対処するから、な……」
書の文字を追っていくとだんだん尻すぼみになっていく言葉に隣の妃の瞳は泳ぎ始める。無敵の王と名の知れた彼が文を読むだけで、こんなにも戸惑うなんてどんなに恐ろしいことが書いてあるのだろう。王に付く従者たちは不安に額をぐっしょりと濡らしながら王の言葉を待つ。
「……ねぇ、何が書いてあるの。教えてちょうだい」
「……シャルロが、シャルロが……城で勝手に婿を探し始めた、と」
「「「………………え?」」」
一国の姫ともあろうお方が婿探し……?
結び付かないワードたちに思わず声が漏れでる従者たちは顔を見合わせた。豆鉄砲をくらった鳩のような反応の妃は聞き間違えかと首を傾げる。
「ど、どういうことなの?……ね、ねぇそこのあなた。あなたがこの書を持ってきてくれたのよね?どういうことなのか、教えて下さる?」
妃が訳を聞こうと馬車から出ると、滑り込んできた従者は死体のように地面に寝そべっていた。ぜぇ、ぜぇ……と息絶え絶えの彼はなぜか馬を連れていないようだった。
「シャ、シャルロ様は……一昨日、国民に対して……宣言をなさいました。……ふぅ、『誰でもいいので愛してくれる殿方を募集中です』と……はぁ、今では我こそはという男たちが毎日のように城につめかけておりますぅ……」
「な、何ですって。それは大変!!」
リアナは騎士たちがほぼ死体の彼を回収しているのを見送り、馬車に戻る。まさか王たちの不在に姫であるシャルロがこんなことをするなんて前代未聞だ。
「あの子……私にまでついて行くように勧めたのはこのせいね……。くぅぅ、あの子が教えてくれた隣国名物の絶品ディナーにつられたのが悪かったわ」
……そういえばリアナは上品な見た目によらず、食いしん坊だった。そして私は親バカだったのが悪かった。頭を抱えても仕方ないとは分かっていても不甲斐なし!まさか一国の王も妃も揃って娘に謀られるとは……!
「……い、今すぐ帰らないと。シャルロがどこの馬の骨が分からぬ男たちに汚されてしまう……急がないと……」
手紙を無意識にぐしゃりと握りしめ、指揮を取るため馬車から降りようとする。……と何かに袖を捕まれ馬車の中へ戻される。
「うげっ!!」
「あなた、何を言ってらっしゃるの。このまま前進ですわ!」
「え、いや、ちょっと……リアナ……!?」
「ふふ、たまには自由にさせないと女は腐ってしまいますもの」
そ、そういえばリアナとシャルロは似た者同士の気分屋で自分の思うことは絶対実行主義者!!
「う、嘘だろ!?シャ、シャルロォ~!!」
百獣の王を素手で倒した男も愛する妻には勝てずにそのまま馬車に揺られるのだった。
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「……という訳でして王様とお妃様はそのまま会談に向かうとのことです」
「「「はあぁぁ~!?」」」
王宮では報告を受けた使用人たちの悲鳴とも抗議ともとれる声が溢れかえりました。
さすがお母様、私は食欲に忠実なお母様ならそうするだろうと思っておりました。親馬鹿なお父様を押し退けて決定する人など、昔も今も彼女だけでしょう。ふふ、それが決まれば、全ては私の計算通りです。
「……皆さん、そろそろ私語は慎んでくださいね。それでは今日も始めますよ」
私は王座に座り、ふふふと微笑む。
「この国やばくね?娘の奇行を無視して会談に行く両親もやばくね?この国まじで大丈夫なのかよ……」
あらあら、皆さんぶつぶつと不服そうなお顔をしていますね。でも、それは無駄ですよ。だって今日こそ見つかるかもしれませんからね、私の運命の王子様というものが。
がちゃり、と開けられた扉の向こうには数えきれないほどの男、男、男。国外にも話が届いたのか、格好が民族的な人だったりもいますね。……それも殿方候補から外す原因にはなりませんが。
「……さぁ、皆様。お集まり下さりありがとうございます。今日も私は、私を愛してくれる殿方を探しております。どうぞよろしくお願いいたしますね」
にこりと微笑んで私は3回目の殿方探しを始めます。もうこうなれば、ジュナたちも口出しはできませんからね。ふふふ。
「……では、初めにあなたは普段何をなされているのですか?」
「僕かい?僕はこの相棒のフルートを持って旅に出るのさ。ほら僕ってば美しいだろう?いつもはちょいと愛らしい小鳥のもとで羽休みするんだが……姫様も今夜どうだい?」
「あら、お誘いですか?では今夜ですね……「いや、意味分かってる!?絶対駄目だからね!!」」
「こんにちは、特技とかありますか?」
「もちろん、毒薬を作ることさ!僕ってば天才で我ながら惚れ惚れしてしまう、ほらこれ見てくれよ。毒々しい毒薬だろ……?一滴飲めば前進麻痺、二滴飲めば意識が遠退く、三滴飲めばあっという間に天国さ……ぎゃはははは」
「まぁ本当!指先ほどしか舐めていないのに手先が痺れてきましたわ「ほんと死ぬよ!?やばいから止めて!!」」
「はじめまして、あなたのご趣味は何ですか?」
「ギャンブルさぁ!勝って負けてを繰り返す楽しいゲーム……神に祈ってもわからない最高のスリルある遊び……!!今はちょいと家5つ建てられるくらい金を借りてはいるが、いつかギャンブル王に俺はなる!」
「まぁ格好いいですね!ではそのギャンブル王とやらに私と共に目指しましょ……「この姫ほんとやりそうだよぉ!!国潰れるから誰か助けて!!」」
「……もう、皆さん先日から言っているでしょう?文句をおっしゃるのはいいけれど、お邪魔だけはしてはいけないと。そんなことをしているうちに候補として来ていただいた方はほとんどいなくなってしまったではないですか」
もう、と頬を膨らませると使用人たちはげっそりしたお顔をしています。まぁ大変。
「シャルロ姫様って思っていた以上に箱入り娘だったのか……。夜の誘いには乗るわ、毒は飲むわ、ギャンブルの王様を目指そうとするわでいくつ心臓があっても足りないぞ……」
まぁ、失礼してしまう。箱入り娘なんて心外です。私はしっかりと相手のお話を聞いて、その方のご希望通りに行動しようとですね……まぁ半分は何をおっしゃっているのか分からなかったですけど。
「今日はもうお開きにしてはどうですか、シャルロ姫。もう3日続けて理想の殿方を探してもそう見つかるわけがないのですから」
ようやくベッドから起きた大臣がそう言うものですから、私も頭を悩ませます。確かに連続で来られているお方もいらっしゃいましたし、効率悪いですし……。
「……そうですね。それに、大臣の持病の再再発するのも恐ろしいので、今日はここで止めといて差しあげましょう」
ほっと胸を撫で下ろす年老いた大臣を見ると、振り回したようで少し胸が痛みますが今日のところはですからね。もちろん、私のことを愛してくれる殿方探しは続けますけれど。
ぐぬぬ、と唸る大臣たちとバチバチと視線を交わしてお開きです。うふふ。
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「よくぞやって来てくださいました、フィアモーゼルの国王女王方……ってあれぇ?ちょいちょいあれ、どうしたのぉ?」
「父上、旧友だからといえ"あれ"と指差すのは駄目ですよ……ってどうしたんですかあれ……」
王のもとへシャルロの報告が来てから2週間もの月日がたち、隣国シャルフィナではフィアモーゼルの国王たちの出迎えがされていた。
シャルフィナの国王ソルト・シャルフィナとその息子リヒト・シャルフィナは覇気のないフィアモーゼル国王の姿に思わず"あれ"扱いをしてしまった。
「まぁ、お出迎えをありがとうお二方。ここに来る前に少しハプニングが起きまして」
うふ、と楽しそうに笑う女王が馬車から降りてくる。ふわふわとした雰囲気で説明するものだからそんなに大変なハプニングではないのだろうが、何があったのか……。
「リアナ女王様、差し支えなければ何が起きたのかお聞きしても?」
リヒトはつんつんと灰になった国王をつつく父の変わりに事情を聞く。まったく、国王というのに父はそういうところは適当で困る。それにあのフィアモーゼル国王があんな様子になるなんて大体のことは検討がつくが。
「ええ、娘が婿探しを始めたのよぉ」
「……申し訳ございません、もう一度お聞きしてもよろしいですか?」
「ええ、娘が婿探しを始めたのよぉ」
「…………はい?」
「まぁ、嬉しい反応。そうなるわよねぇ、まさか私たちが外出している間にそんなことをするなんて思わないものぉ」
どうやら嘘ではないようで、女王も驚いた様子だ。俺の耳もおかしくはないようで、なおさら驚きだ。
確かに、娘に何かあったとは予想づいていたが、まさか彼女自体が原因とは思わなかった。喧嘩した、とか臭いとか嫌いとか言われたとかそんなものだと思ったのに。
「……それはシャルロ姫が自ら、ということですよね」
ええ、と頷く彼女の様子にうわぁ……とリヒトは頭を抱えた。まさかシャルロがそんなことをしでかすなんて……いや、あの見掛けによらず自分勝手な彼女だからやってもおかしくなかったけれど。
「それにしても、リヒト王子ったらますますイケメンになってぇ……あちこちの姫からお声がかかってるって噂聞いてるわよ」
「え、えぇ……ありがたいことに」
……相変わらずこの人も自分勝手な人だ。娘のことも大抵フリーでのびのびと生活させているし不思議な雰囲気をしている。
成人してぐんと身長が伸びたリヒトはすらっとして格好いいと有名である。母親似の美しい顔立ちも姫たちを虜にする要因だった。父似の鋭い勘と豊かな創造力も他国に名を轟かせている。
「……でも、誰も良い返事をしていなのよね」
「そりゃあ……まぁ……。といいますか王女様、意地悪ですね。どうして俺がそうしているのかご存知のくせに」
王女の素知らぬふりについ不満がたまり、リヒトが素を出すと待ってましたというように王女は笑った。本当にシャルロはこの人に似たんだなと思わされる瞬間だ。口を尖らすリヒトは微笑む彼女に何ですか、と文句のような言葉を返す。
「いいえ、娘は愛されてるわと思って」
「……そうですよ。俺はこれでも、あの姫にご執心なんです」
まぁ、と女王は裏表もないその言葉にこちらが恥ずかしくなる。数年前からそうではないか、と思っていたけれどそこまで素直に言うとは思わなかったらしい。
「それを彼女も知っていると思っていたのにですけどね……まさかそうくるとは予想もつきませんでしたよ」
「ふふ、そうね。あの子は私達でも予想のつかないことをするのよ。……でもそんなところも嫌いじゃないでしょ?」
にこにこと聞いてくる彼女は俺に恥ずかしいことを言わせて面白がっているようにしか見えない。……そうしているのだろうけど。
「……そうですよ。彼女に惹かれてからもう何年経っていると思っていらっしゃいますか。……もうずっと、彼女のこと一筋で日々辛いことも乗り気ってきているので」
「ふふ、それなら今すぐにでも駆けつけないと。シャルロのことだもの拗ねちゃって誰か貴方以外の人を間違えて捕まえちゃうかもしれないわよ」
「……えぇ、それでは困りますからね。きちんとお約束は守っていただかないと。そこでリアナ王女ご相談が」
伝えた気持ちを馬鹿にされているのか、それともこれっぽっちも俺のことに興味がないのか、それははっきりさせないと納得いかない。これでは弄ばれたようでしゃくにさわるし。
彼女のことは好いているけれど、やはり一方通行の恋ももうそろそろ終わりにしたい。それに、彼女との約束も忘れていないと伝えにいかなければいけない。
「あ、その前にこの国の美味しいと有名なディナーをいただきたいわ」
「…………分かりましたよ」
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「…………シャルロ姫っ!!」
「あら、大臣とメイド長?どうしたのかしら、まだ早朝よ」
まだ身支度を終えていないのに、突然開いた扉に驚きを隠せず問いかけました。メイド長も脚の調子が治ってきたようで安心ですが、さすがにノックせずには駄目ですよ~。処刑ですよ、処刑っ!なんてね。
「……その冗談は止めてください。冷や汗が滝のように流れます……っとそれより、大事なご報告がありまして」
「ふふふ、何かしら」
「今日の夕方に国王たちがご帰還なさります」
えっ!と声が漏れでると隣にいたジュナも驚いた様子です。むむむ……馬車出してからまだ1ヶ月もたっていないのにお早いご帰還ですね。やはり私のやったことが伝わったのですね、大臣たち侮りがたしです。
「分かりました。では今日で終わりにします」
「……それでも、今日もやるんですね」
「ええ、もちろん」
こうなれば最後の足掻きです。目的通りにはことは進まないものだとこの年齢になれば分かりきっていましたし、彼も最後まで来ませんし。
「もう、嘘つきの意気地無し王子ぃ……!」
おっと、ついつい本音漏れでてしまいました。でも、あの人が約束を破ったのが悪いんですから。
「……?姫、ご用意いたしますよ」
「えぇ、ジュナ。私は今日こそ結婚相手を決めます」
またまたえ!と驚いて鏡を落としたジュナには悪いですけど、これはもう知りませんから!もう、知りません!!決定事項なんですから。
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「……ええということでして、今日をもってシャルロ・フィアモーゼル姫の募集は終了となりますことをどうぞご理解下さい」
大臣が前置きとして説明をすると、あちこちから抗議のような声が上がりましたが大体の人たちは納得していただけたようです。
「それでは、皆様、お集まり下さりありがとうございます。私、シャルロ・フィアモーゼルは今日で伴侶となっていただくお方をここで決める所存ですわ」
「ちょっ!姫様!!」
大臣たちはまた慌てていらっしゃいますが、ここは引けません。彼にまた子供のように拗ねている、と言われてもそんなことは知りませんし。私の意志によりこれはやり遂げるつもりですから。
「ではそこのお方からーー」
「ちょっとお待ち下さい」
私の声を遮るように響いたその声にそこにいる誰もが振り返りました。もちろん私も。そこには堂々とした立ち振舞いでこちらに向かって一直線に歩いてくる長身の男性の姿。彼は目深に帽子を被り、身体全体をすっぽりと覆う上着を着ていてまったくどのような人なのか分かりません。
……でも、どこか逃げなくてはいけない気がしてたまらないのはなぜでしょうか。
「あの、順番はきちんと守っていただかないと……」
「おや、そうですか。それでは私めが一番だとお約束したはずですが、シャルロ姫様?」
上着から出た長い腕が視線を捕らえて、すらりとした脚で優雅に片膝をつき、帽子を取るとそこに現れたのはーー
「リ、リヒト様……」
な、なんとも気まずい再開でしょう。今一番会いたくない人ナンバーワンの彼に対面してしまうなんて運のつき。さっきもう知らないと割り切ったばかりの相手に会ってしまうなんて。
……いえ、それよりなぜ彼がここにいるのでしょう。
周りを見てみると、奥にはお父様とお母様もいらっしゃるし……。まさか……!と大臣たちのほうを見るとぐっと手でマークを作っています。……だ、騙しましたね!!
きっと睨み付けても素知らぬ顔をしていて尚更憎たらしいぃ。それに思い返せばジュナが恐ろしい脅し文句を言っていたのを思い出しました。うぅ、こんな風に返されるとは誰も思わないでしょう……!!
「ねぇ、シャルロ姫?どうしてこうなったか、私めにお教え願えないでしょうか。このリヒト・シャルフィナは数年前から貴女だけに、求婚をしているつもりですが」
「うっ……!」
た、確かに彼は好意を伝えてくれてはいましたけれど……。決して嫌ではなかったし、まんざらでもなかったですけど……。で、でも……。
「わ、私は1人の女性として愛してくださる殿方が望みだということは貴方にもお伝えいたしましたでしょう?だ、だから……」
「だから?」
彼がこてんと首を傾げるとさらりと髪がなびきました。むむむ……この自分の容姿の良さを理解している感じがムカつきます。でも、それに抗えないのを分かっていますからもう半分はやけくそです。
「……私が成人したらどんな状況でも必ず君を迎えに行く、と仰ったから!リヒト様が以前お会いした時にそう言ってくださいましたでしょう……!だから、私のもとに来ててくださると信じて、お待ちしていたつもりでしたの……よ?」
周りの皆さんの視線が恥ずかしくてゴニョゴニョと口ごもってしまいました。
ーー何を隠そう、この婚活パーティーのようなものは私は彼が来てくれるのを待つための口実だったのです。……ええ、誰に何と批判されようと何を言われようとも、これは変えがたい真実です。……それにどんな方がいらっしゃるのか興味本位だったことも少しありますけど。
シャルフィナの王子リヒト様とは長年の付き合いもあり、彼の良いところも悪いところも知っていくうちにだんだん好意を抱いていく私がいました。けれど、彼と会うことは国同士で会う時だけ。
そんな簡単な口約束とか国同士のためにとかそんなロマンも何もないのは嫌だったのです。
彼が私に伝えてくれる好意を素直に受けとりたかったのです。だから、ある時彼にそう言いました。そうしたら、必ず、と約束してくれたのです。成人したら私のもとへ会いに来てくれると。
きっと彼なら来てくれるだろうと、過信していたのです。だから……国民の皆様も使用人の皆様だって巻き込んでまでこんなことを実行したのに……。
まさかこんな事になるとは思わないでしょう……?だから今この瞬間まで、意地とプライドでどなたかを夫として選ぼうと暴挙に出ていたのに。こんな時に来るなんて卑怯です。それに私の決意を踏みにじるようです。
リヒト様は顔に手を当ててうわぁ……と呟いていらっしゃっていても、もし忘れてたとか言うならば一発お見舞いしてやろうと手を温めます。乙女の気持ちを踏みにじったこの悪漢め!
「……何か、ご説明がおありでしょうか」
「もう、そういうところがずるいんだよ。……可愛い」
「ふぇ!?」
リヒト様はそう言って私をぎゅっと抱き締められました。彼の胸板に埋められた私の顔はとくんとくんと早鐘を打つのを聞きました。それはとても、激しくて、優しくて私のわがままを全て飲み込んでくれるようで。
「……ごめん、遅くなったけどあの約束は覚えてるに決まってる。逆に君は忘れてるかもなんて思ってたくらいだし」
「……詐欺じゃありません?」
「ああ、誓って嘘じゃない」
「……子供みたいと思ってません?」
「ふふ、思ってないよ。……もう、立派な女性だ」
優しい声音に胸が高鳴り、彼を抱き締め返してしまいます。だって嬉しくて、嬉しくて……。
「俺はシャルロ、君が好きだ。愛している。俺は誰でもよくなんてない、他の誰でもない、君がいいんだ」
「リ、リヒト様ったら……もう、意地悪」
私への皮肉のような言葉に思わず睨み付けるとふふと笑われました。それに甘い蜂蜜のようなお声でそんなことを言われてしまうと、さっきまで尖っていた気持ちも丸くなってしまいます。
「私も……リヒト様だけをお慕いしています」
「そうか……良かった」
ふにゃりと笑って頬を染める彼は私の胸をきゅんと高鳴らせます。ずっと夢見ていた理想の相手……どんなことが起きても彼となら寄り添っていける、いきたいと思った相手と思いが通じたことに嬉しさが溢れてしまいそうです。
「……もう、私のことなんて忘れちゃったのかと思いました」
「そんなことはない。だって毎日のように君へ手紙を出しているだろう。それに、約束もこんな勝手に執行されるとは思ってなかった。……時間をしっかり取って迎えにいくつもりだったのに」
……確かに手紙はいただいてますけど。
ーー思い出すのは私の机の上。書類のような分厚さでくる手紙は捨てずににきちんと取っ手おいてはいますけど。私への好意も綴られていて文句のつけようもないのですけど。
少し自分の子供っぽいところが見えて恥ずかしくなる。こんなにも明確に好意を伝えてくれていた人を信じないでこんなことをしたなんて……言葉が詰まってしまいます。
「……でも、やっぱり早く直接会いたかったんです」
「っ!……そう、か」
「ふふっ、なんでそこで赤くなっちゃうんですか」
「……急に可愛いことを言うからだろ」
これくらいしないと、私だけ恥ずかしくて割に合いませんからと私は笑いました。私のことを騙したのですから、耳まで真っ赤なリヒト様なんてざまあみろ、ですよ。してやったり!ですよ。
「ちょっと、お2人さん。周りもお忘れないでね」
「「っ……!!」」
遠くから聞こえる母上の声に正気を取り戻すとみんな、視線をさ迷わせて恥ずかしげにこちらを見ていました。そうだぞー!!とお父様が野次をあげると、まさか皆が見ているては思わず恥ずかしさで全身が熱くなります。
「そうですよ!お二人がいない間どれだけ大変だったかお伝えしなければ気がすみませんっ!」
それに乗じて使用人の皆さんが文句や意見を言い始めました。ひぇ~!恐ろしい反乱です。そんなこと彼に聞かれては恥ずかしくて顔から火が出てしまいます。
「ご、ごめんなさいっ。それに勝手に報告しないで下さいぃ!」
ついつい彼に会えたことに舞い上がってしまってしまいました。私が勝手に集めた方々にどうでもいい光景を見せてしまってお恥ずかしいやら、気まずいやら……。
「甘酸っぺー!!俺も嫁欲しいー!」 「こっちがこっぱずかしいわ!!はよ、結婚せえ!!」
「あ、あわわわ……」
「ちょっ、止めてくれ……」
あちこちから飛んで来る優しい野次と、もっとくっつけと押してくるみんなに私もリヒト様も慌てながら顔を赤く染めています。もうっ、こうなったらこうするしかありません!!すうっと大きく息を吸って私はーー
「もうっ!誰でもいいから、私達を助けてください~!!」
アホらしいお話を読んで下さり、ありがとうございます!評価や感想、お待ちしてます。