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特異事例調査員 日奉菖蒲の調査ファイル  作者: 龍々
Final case:大禍
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第81話:禍る世界 化生side

 何やら事件が起こりJSCCO本部から退避命令のメールが来ている事には気づいてはいた。『ゾーン』専門の特別顧問として私も所属しているのだから当然だ。しかしその命令に従う気にはなれなかった。私にとって『ゾーン』とは興味深い研究対象であり、生涯を懸けてでも完全に解明したいと思える存在なのだ。

 夜ノ見よのみ大学の自身の研究室で色々と資料を見ていると新たなメールが携帯に届く。それはJSCCOからのものではなく、『ゾーン』の対処を手伝ってくれた事がある日浪凪ひなみなぎからのものだった。


『化生様、JSCCOからのメールは確認されましたか?』


 彼女がわざわざこちらにメールを送ってくるなど珍しいと思い確認してみると、私が退避命令メールだと思っていたものは私に対する協力要請だった。本当に危険な際には退避を優先する様にと以前言われていたため今回はそれだと思っていたが、どうやらそうも言っていられない程の事態になっているらしい。

 流石に協力要請を無視する訳にはいかないためすぐに日浪凪へと返信をする。すると彼女はずっと携帯に張り付いているのか、即座に返事が返ってきた。


『蒼乃宮集落に向かいましょう』

「おっけぇ……っと」


 短く返事を打つと封印用のお札を入れたショルダーバッグを掛けて研究室から飛び出し、大学構内を駆けて外へと飛び出す。幸い私が普段過ごしている夜ノ見町では何も起こっておらず、かつて『黄昏事件』を目撃した身としては信じられない程にいつものように落ち着いていた。

 タクシーを捕まえて急いで港へと向かい、そこで私は既に待機していた日浪凪と合流した。以前JSCCO本部から呼び出しが掛かった際は、わざわざ新幹線に乗って東京まで向かった訳だが、やはり彼女の様に船を持っていると道路など関係ないためすぐに着くようだ。


化生けしょう様、ご協力ありがとうございます」

「気にしないでいいよヒナちゃん。それより、わざわざ私に声が掛かるって事は、またあそこの『ゾーン』が活性化した感じかな~?」

「はい。磁場などに異常な乱れが発生した後、『ゾーン』の再活性化が確認されました。故に私にも要請が掛かった次第です」

「磁場の乱れ、ねぇ……」


 一時期から磁場の乱れによって発生した『ポータル』という時空間異常が各地で発見される様になった。磁場が乱れる事によって空間が歪んでいるらしいのだが、専門外であるためどういう理屈でそうなっているのかは分からない。しかし磁場の乱れが異常な数値を示したというのであれば、『ゾーン』と無関係とも言えないだろう。

 船へと乗り込み蒼乃宮あおのく集落が存在する雨竜島へと向かう中、日浪凪へと質問をしてみる事にした。


「ヒナちゃ~ん。君、今東京の方で何が起こってるのかは知ってるの?」

「無論理解しています。殺月真臥禧という人物が何らかの攻撃を仕掛けてきているものと思われます」

「ふぅむ……ミコちゃんが言ってた子ねぇ~……」


 殺月命の従姉だという殺月真臥禧という人物が何らかの理由でJSCCOに恨みを抱いているというのは噂には聞いていた。実際私は殺月真臥禧が『ゾーン』を活性化するのをこの目で目撃した。どういった原理で活性化させたのかまでは不明だったが、彼女は『ゾーン』がどういった存在なのかを知った上でやっていた様に見えた。


「……ヒナちゃんさ。これって罠ってやつじゃな~い?」

「……私もそう感じてはいます。しかし活性化した『ゾーン』を放置するのは非常に危険だと感じます」

「そりゃそうだけどね。でもさぁ~……殺すつもりは無いにしても陽動されてる気がするんだよね~」

「化生様、いずれにしても『ゾーン』を止められるのは貴方か翠様のような封印術に造詣が深い人だけです。今すぐに動けるのは貴方と私だけです」

「夜ノ見町における最大戦力の翠ちゃんをあそこから離す訳にはいかない……って事ね」

「はい。我々の一族は古くから日奉一族に協力してきた一族です。なので私も直感的に感じるのです。もし殺月真臥禧の狙いが東京の陥落なのであれば、夜ノ見町そのものも襲う筈だと」


 夜ノ見町は風水的に非常に穢れが溜まりやすい位置にある。本来こういった立地に人が住める様にするのは避けるべきなのだが、夜ノ見町はずっと昔からあそこに存在しているらしい。文献が少ないため推測になってしまうが、恐らくあえてそういった場所を作っておく事でコトサマなどの影響が分散しないようにしているのだろう。この仮定がもし当たっているなら、殺月真臥禧は必ず夜ノ見町を落としに来る。溜まりに溜まった穢れは解放され、各地に大いなる厄災となって振りかかるだろう。


「有り得なくはない話だね~。エネルギーは必ずどこかに存在する必要がある。だけどもしその場所が無くなれば、行き場を失ったエネルギーは予測不能な動きでどこかに飛んでいく事になる」

「ですが、殺月真臥禧がどのような手を打ってくるかは不明ですが、雅様と翠様が残っていれば被害は抑えられるかもしれません」

「ふぅん。ま~、『ゾ~~ン』が囮にせよ何にせよ、行かなきゃいけないか。無視して拡大して全員死亡とか洒落にならないしね~」

「ええ」


 日浪凪の船に乗せられて雨竜島へと少しずつ近づいていき、やがて島へと到着して上陸した。相変わらず島内は静まり返っており、各地で点灯している電灯や信号機などの光は波形が停止してしまっており、少なくとも見た限りでは特に変わった様子は見られなかった。

 『ゾーン』が活性化したとの事だったが特にそういった様子は確認出来ず、以前に日奉菖蒲達と共に訪れた際に電柱に貼っておいたお札もそのまま残っていた。更に人気ひとけも無く、誰かが潜伏しているといった様子も無かった。


「……ヒナちゃん。やっぱりこれ囮じゃな~い?」

「だとしたらあの要請は一体……。確かに磁場の乱れと『ゾーン』の活性化が確認されたそうなのですが……」

「その情報は確かなものって信じていいの~?」

「間違いありません。いつものJSCCOからのアドレスでした」

「ふぅむ。まっ、念のため厳重に結界張っとこうか~。仕上げは翠ちゃんの力が必要かもだけど、ひとまず食い止められればいいでしょ」


 ショルダーバッグからお札を数枚取り出すと電柱だけでなく道路にも貼り付けていく。『ゾーン』相手であれば時間稼ぎにしかならないが、それでも数時間は持つため無いよりはあった方がいいと言える結界である。


「よし、これで最後――」


 そうして最後の一枚を貼り付けようとした瞬間、私の右手の指先の第一関節から先が突如消滅した。咄嗟によろめく様にして後ろへと下がり右手を見てみると、出血は一切しておらず消滅面は完全に塞がっていた。まるで、最初からその部分は存在していなかったかの様に。


「化生様? どうされました?」

「ヒナちゃんこれは真面目にヤバイかもだね~。指、やられちゃった」

「まさかっ!?」

「『ゾ~~~ン』が目の前に来てる。急に出現したよ」


 何となく見えてきた。磁場の乱れと共に『ゾーン』の活性化が検出されたにも関わらずさっきまで感知出来なかったのはこれが理由なのかもしれない。殺月真臥禧がやったという断定は出来ないが、『ゾーン』をより強力な存在にするために何者かが何らかの方法で時空間異常の中に隠したのだ。いくら私の能力を使っても時空間の乱れまでは感知出来ない。私ですら感知出来ないそれは、誰にも出現位置を予測出来ない最悪の超常兵器と言えるだろう。

 どのような方法で時空間異常の中に『ゾーン』を隠したのだろうかと頭を巡らせながら距離を取っていると、突然目の前に見えていた『ゾーン』の波形が消失してしまった。何の前触れも無い消失であり、結界によって抑えられたといった様子でもなさそうだった。


「化生様、私に何か出来る事は?」

「いや、頼める事は無いかな~。『ゾ~~ン』消えちゃったよ」

「消えた?」

「そそ。急に現れたと思ったら今度は急に消えた訳さ。そして……これによって考えられる可能性は……」


 携帯に着信が入る。


「はいこちら化生明子~」

「こちら日奉雌黄、JSCCOの者です」

「丁度良かった~。話したいと思ってたんだ。言われた通りに雨竜島の方に来たんだけどさ~何か急に『ゾ~~ン』が消えちゃった訳ね。それで――」

「その消滅したと思しき『ゾーン』ですがただいま新宿方面で発生が確認されました。突如避難途中の人々が消滅していき磁場の乱れなどが確認されたため化生さんが話してるそれかと」

「おっと……」

「化生さんこちらで発生した以上は我々で対処する他ありません。雅さんと翠さんの方に協力して頂けますか?」

「そっちはいいの~?」

「貴方のご意見は頂きたいところですが動ける人員が限られてきています。さっきから連絡がつかなくなった調査員が増えてるんですよ。それに殺月真臥禧の出来る事の上限が分からない以上貴方方をこれ以上は巻き込めません」

「……オッケ。じゃあこっちはヒマちゃん達を援護しとく」

「お願いしますね」


 通話を切り日奉雌黄から聞いた話を日浪凪へと話すと、私と彼女は夜ノ見町へと戻る事になった。『ゾーン』は囮であり最大の武器として使われたという事になる。現在確認されている『ゾーン』はあれ一つだけではない。もし殺月真臥禧が『ゾーン』を使った大量殺人などを目論んでいるのであれば、被害者数はまるで想定出来ない。下手をすれば『ゾーン』は地球を包み込み、全ての生命体を取り込んでしまうかもしれない。東京に居る彼女らがどうにか出来なかった場合、最悪のパターンを迎える事になるだろう。


「ヒナちゃん、港に着いたら君はどっかに逃げた方がいいよ~? それこそ国外とか」

「申し訳ございませんが逃げるつもりはありません。私も日奉一族に仕える者の一人として、最後まで戦うつもりです」

「……まあ止めはしないよ~。ただ、今回は『黄昏事件』の時とは訳が違う。もしかすると相手は本当に世界ごと滅ぼすつもりなのかもね~」


 普段は穏やかな夜ノ見町周辺の海が少しずつ荒れている様な気がした。

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