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特異事例調査員 日奉菖蒲の調査ファイル  作者: 龍々
case3:頭でっかち
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第8話:正直の頭に神宿るも竜頭蛇尾

 『巨頭』達が襲い来る中、何故彼らがこぞって私達を狙ってくるのかを調べるため、殺月さんと共に村内の調査を開始した。『巨頭』は皆頭部が肥大化している影響からか、移動速度はあまり速くはなく、こちらが全力を出して逃げれば簡単に距離を取る事が出来る程だった。そのため二人で走って逃げながら怪しい所が無いかと見て回る事にした。

 まず最初に入ったのは一軒の廃屋だった。別段目についたからという訳ではなく、彼らがここでどういった生活をしているのかを確認したかったからである。


「日奉さん、すぐに済ませるよ」

「分かってる分かってる」


 内装は一般的な日本家屋といった感じであり、畳敷きの居間の上に卓袱台や箪笥が置かれており、ここが磁場の乱れる異常空間であるという前提が無ければ、普通の家に見えた。卓袱台の上にはどす黒く変色した米が茶碗に盛られており、箸なども置かれていた。この事から彼らには人間と同程度の知能はある事が伺えた。しかし知能があるのだとしても少し違和感がある。何故彼らは言語による意思疎通を取っていないのだろうか。


「日奉さん!」

「……あらら、ここは時間切れかな」


 入口には一体の『巨頭』の姿があり、その向こうには後から続こうとしている仲間達も見えた。出入口からの逃走は不可能であると感じたのか、殺月さんは肩に掛けているベルトからお札を一枚剥がし、ステッキの持ち手へと貼り付けた。それによって以前の様に持ち手の先が白く発光し始めた。

 それを剣の様に振るい壁を切りつけると、まるでレーザーか何かを当てられたかの様に壁が切断され、外へと繋がる穴が作られた。


「ここから!」

「うん」


 家の裏側へと脱出した私達は追撃されない内に奥へと進んでいった。途中再び発見されたりしたが、そこでもやはり彼らが言葉を発している様子は確認出来なかった。それにも関わらず、複数のグループに分かれて行動したり、遊撃する様に個人で動いていたりと何らかの方法でコミュニケーションが取れていなければ不可能な動きを見せてきた。幸い動きが遅いため捕まるといった事は無かったが、やはり一定の知能が存在している事は確実であり、何か目的があって私達を進ませない様にしている気がした。

 しばらく奥へと進んでいると徐々に民家の数は減っていき、最終的には一軒の小屋が建っている行き止まりへと辿り着いた。周囲は薮によって囲われており、先程の村からここに来るには自分達が通ってきた一本の道を通る以外には他に方法が無い様に思える場所だった。その小屋はつるが巻き付いていた民家と比べるとかなり綺麗にしてあり、定期的に外部の清掃が行われているのが伺えた。


「ここは……」

「入ってみようよ」

「……そうだね」


 後ろを振り返り、まだ『巨頭』との間に距離があるのを確認すると扉に手を掛けて押してみた。すると、鍵が掛けられていないのか簡単に扉が開き、すんなりと中に入る事が出来た。内部は灯りになる物が存在しないのか薄暗く、殺月さんのステッキが多少の光源になっている程だった。


「何か怪しいねここ。この場所を隠したかったのかな?」

「ねぇ何か扉を抑えられる物無い?」

「んー……あれとか?」


 私が見つけたのは小屋の奥にある布を被せられた何かだった。丁度あれくらいの大きさであれば扉の前に置けば障害物になると感じ近くに寄ってみると、ふと奇妙な物に視線が移った。

 それは床の上に置かれた皿に乗せられた魚だった。長期間ここに置かれているのか、その体からは水分が失われておりミイラの様に干からびていた。通常であれば腐敗などが生じて白骨化する筈であり、このような空間でミイラ化するというのは少し不自然に感じた。


「ちょっと日奉さん何してるの早く! まだ追われてる……」

「いや……何か変なんだよこれ。何でこんな所に置かれてるんだろ」

「それは後でいいから先に扉を――」


 そう言いながら殺月さんが布を被せられた何かに手を触れた瞬間、突然布越しにもぞもぞっと動きその手をガシリと掴んだ。あまりに突然の事に殺月さんが動揺し硬直したため、自分でその布を捲ってみる。するとそこからは一人の人間が姿を現した。

 それは一人の少女だった。恐らく自分達と同じく10代程であり、木製の椅子にもたれるかの様に座っていた。その瞳孔は開き切っており、長く伸びた彼女の黒い髪は床の上にまで伸び切っていた。彼女の右手は布越しに殺月さんの手を掴んだままだったが、私が上からそっと触れてみると力が抜ける様にその手を離した。


「殺月さんびっくりしすぎでしょ」

「……別に驚いてない」

「いやいや驚いてたじゃん」

「驚いてない」

「いやでも――」

「お・ど・ろ・い・て・な・い」

「はい」


 少女の方に目を向けると、その目は相変わらず虚空を見つめていた。布を完全に取り除き手首に指を当ててみると、非常にスローペースではあったが脈を確認する事が出来た。一応霊体などではなく、そこに確かに実在する存在らしいがここまで脈が遅いというのは少し奇妙に思えた。


「……生きてる?」

「うん。でも何でこの子だけ普通なんだろうね」

「普通?」

「うん。だってだって、私達と同じ様な見た目でしょ? 頭もおっきくないしさ」

「……もしかしたらここの住人に監禁されてたのかもしれない。如月さんと連絡が取れれば行方不明者情報も聞けるんだけど……」

「もしもーし。聞こえますか~?」


 正面で屈んで頬をペチペチと軽く叩いてみたが、彼女は何の反応も示さなかった。通常であれば叩かれた刺激で瞬きの一つでもするものだが、まるで死亡しているかの様に無抵抗だったのだ。しかし間違いなく彼女は心臓を拍動させて生きており、何故この様な状態になっているのかが不明だった。

 そうして私達が気を取られていると扉が開け放たれ、外から『巨頭』が侵入してきた。一人、また一人と内部へと入り、あっという間に追い詰められてしまった。しかし奇妙な事に、何故か彼らは先程まで見せていた敵対性を見せず、その場に正座するかの様に膝をつくと両腕を大きく上げ、唸り声の様なものを一斉に上げ始めた。


「……崇めてる?」

「ぽいね。……もしかして神様みたいなもの?」


 異様な光景に困惑していると、突然先程まで虚空を見つめていた少女の瞳孔が小さくなり姿勢を正した。


「つまりこれは元より想定されていたという事に他ならない訳ですでも誰が最初に思いついたんでしたっけ? お姉ちゃんが最初に言い出して皆に話してそしたら皆がそれでいいよって言ってくれておじさんと相談してこうなったんだよわんわんわんわんわん僕が見えますか? 僕が見えますか? 応答してください応答しないと貴方の両親を殺すこれは我々の総意ででででででで勝手な発言は慎みましょう作戦成功作戦成功作戦成功任務を終了しまままますすす皆さん私あたし僕わんわんわんの脱出次第生活に戻ってください聞こえますか聞こえますか聞こえますか答えないと貴方の愛玩動物を殺す」


 何もかもが滅茶苦茶になった支離滅裂な発言の後、『巨頭』達は雄叫びの様なものを上げてその巨大な頭部をぶんぶんと前後に振り乱した。室内は異様な空気に包まれただただ唖然とする他無かったが、彼らからは敵意が失われているのは確かだった。

 やがて室内が静かになると少女は再び椅子にガクリともたれ、瞳孔が開いて動かなくなった。それを見た『巨頭』達はふらふらと立ち上がり、私達には目もくれず一人ずつ小屋の外へと出て行った。


「何……今の……」

「さ、さあ……? 取りあえず、襲ってはこない感じ、かな……?」


 殺月さんは開けっ放しになっている入り口から外を覗く。


「……どうも見張ってはいるみたい」

「ねぇ殺月さん。もしかしてなんだけどさ、あの人達、この子を連れて行って欲しいんじゃないかな?」

「どうして?」

「いや、さっきさ、凄い早口だったから聞き取れたか自信ないんだけど、脱出がどうこう言ってた気がするんだよね」

「それはあたしも聞いたよ。多分言ってたと思う」

「だよね。あの脱出ってこの人の事を指してるんだと思うんだ」


 彼らの動きには明確な目的とチームワークがある様に見えた。最初は私達を追い詰めるために行動していると勘違いしていたが、もしかするとここに誘い込むために敢えてああいった動きをしていたのではないだろうか。この場所を守るためというよりも、この場所を教えるために動いていたのではないだろうか。私と殺月さんは最初から彼らのてのひらの上だったのかもしれない。


「理由は? あのコトサマはこの子を神みたいに崇めてる様に見えた。そんな対象をわざわざ脱出させる?」

「いやいや……そこまでは私にも分からないけどさ、でもでもいずれにしてもこの子は普通じゃないよ。少なくとも連れて帰れそうなのはこの子くらいだし、JSCCOで一回見てもらった方がいい」

「……分かった。じゃあ君が背負ってくれる? あたしは念のために備えておくから」

「はいはい。了解了解」


 殺月さんに言われた通りに椅子に座っている少女を背中に背負うと小屋の外へと足を踏み出した。外では狭い道の左右にズラっと『巨頭』達が並んでおり、私が通ると同時に一人一人両腕を上げて声を上げた。それは言語というよりも原始的な発生に近く、何らかの感情を表現している様に思えた。

 結局彼らは攻撃をしてくる様な真似はせず、村の入り口と言える林の所まで私達の後ろを付いて来た。しかしそこから外へは行こうとせず、林を完全に抜けて舗装された道路へと出た時には私達三人だけになっていた。そして蒐子さんとの無線接続も問題無く回復した。


「……さん! 聞こえますかお二人共!」

「あっ蒐子さん」

「良かったぁ……急に繋がらなくなって……」

「大丈夫。それより如月さん。調べて欲しい事があるんだけど」

「えっ? あーはい。何でしょうか?」

「今から写真を送るから、その被写体と行方不明者情報を照らし合わせてくれない?」

「分かりましたー。じゃあお願いします」


 殺月さんは私の背中でじっとしている少女の顔をスマートフォンで撮影するとメールで蒐子さんへと送信した。そこからしばらく蒐子さんは沈黙しカチャカチャとキーボードを叩く音が聞こえていたが、やがて返事を返した。


「うーん……行方不明者自体は結構居るんですけどー……写真の人は見当たりませんねー……」

「数年経ってる可能性も考慮してよ?」

「はいそれも考慮したんですけどー……似た顔の人は居ないと言いますかー……」

「どうなってるの……? この子は一体……」

「ねぇねぇ殺月さん。まずは一旦JSCCOに行かない? 私達だけじゃ調べようがないしさ」

「……そうだね。行こう」


 これ以上襲われる様な事は無いだろうと考え、呼び出して共鳴させていたしーちゃんを魂の中へと帰すと『日本時空間管理局』を目指して片道一時間の道を歩き始めた。


「はぁ~……何があったの~ほんと~?」


 背負っている重さのせいで少し愚痴をこぼしてしまう。そんな何気なく言った独り言の筈だったのだが、それを言った直後、突然背中に少女の激しい心臓の拍動が伝わってきた。先程まで死体でも背負っているかの様に静かだったというのに、まるで急に息を吹き返したかの様だった。


「我らが祖国のため我らはその身を捧げげげげげげ愚か極まりないとは思わないのだろうかこの様な年端もいかない少女を捕まえてわんわん救えましたか救えましたか救えましたか救えないと貴方の祖国を滅ぼす実を言うと簡単なお話で何人揃っても同じなんだよ失敗作失敗作早く焼却処分してください臭い物には蓋をせよとはよく言ったもの僕が見えますか僕が見えますか僕が見えますか見えているなら貴方の祖国を滅ぼすわんわんわんわんわんわんわんわんお姉ちゃんはそのために何やっても無駄なのにどうしてこんな事を発言を慎んでください発言権はははははありますか? 無いのなら貴方を殺す」


 まるで複数の人間の発言を適当に繋げたかの様な喋り方だった。全く声色が違うにも関わらず、それが一人の少女の口から発されているという事実が何とも不気味だった。そして再び静かになり、心臓の動きはまた静かな拍動へと変化した。

 殺月さんはあまりの支離滅裂な言動に気味の悪さを覚えているらしく、少し顔色が悪くなっている様に見えた。


「……急ごっか?」

「……そうだね」


 このままだと殺月さんが言葉だけで体調を崩してしまいそうだったため少し歩みを早める事にした。

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