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特異事例調査員 日奉菖蒲の調査ファイル  作者: 龍々
case23:アンリアル
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第76話:どうして?

 黄櫨黄丹姉妹の一件からしばらく経ち、10月になってから一週間後、私達調査員全員が本部へと召集された。どうやら以前の『ゾーン事件』の時の様に使える人員を総動員しなければならない事態が発生したらしい。一瞬あの姉妹の事がどこかから漏れたのかと思ったが、宇曽吹所長の発言によりその考えは杞憂だとすぐに分かった。


「諸君、日頃の君達の働きには大変感謝している。前回のゾーンの一件についても、君達のおかげで収拾出来たと言っても過言ではない」


 そう話し始めた所長の近くへと車椅子に乗せられた小柄な少女が運ばれてくる。その少女は情報生命体である雌黄さんが誕生するきっかけになった人間の方の雌黄さんだった。所長によると、どうやら今回発生した事件を最初に発見したのは彼女であり、今回の捜査の指揮を執ってもらうために病院から来てもらっているらしい。


「あのあのー。雌黄さん大丈夫なんですか? もう一人の方は?」

「彼女の方にも無論動いてもらっている。しかし雌黄君一人では限界がある。そこでこちらの雌黄君にも頼む事になった」

「……よろしく」


 雌黄さんはか細い声でこちらに挨拶をすると所長に視線を向け、続きを話す様にと促した。


「では、これから諸君に捜査してもらう事件について話そうと思う」


 そうして所長が話し始めたのは、とある幽霊についてだった。

 数日前からネット上にとある儀式についての情報が拡散されており、雌黄さんが消した傍から増え続けているらしい。どうやらそれはかつてネットの掲示板にて少し話題になった話であり、当時の日奉一族はそれ以上の被害が出ない様にと書き込みを行っていた人物を拘留して代わりに偽装情報を書き込んだそうだ。それによってその儀式や幽霊に関する情報は不自然な形に偽装され、本来の情報が拡散されるのを防げた。


「現在も雌黄君が情報の抑制に動いてくれているが、未だに止められていない。そこで諸君には情報を拡散し始めた人物の特定と拘束、不可能であれば儀式により召喚された霊体実体の拘束か対処を行ってもらいたい」


 今回の対象は非常に危険な存在らしく、一人で行動するのは危険なため必ず三人以上で組んで行動するようにと説明された。そのため今回は命ちゃんだけでなく、他の仕事から帰ってきていたねぇねも含めての三人で行動する事になった。

 そうしてそれぞれ行動を開始した私達だったが、九年間も昏睡状態だったという事もあって私にはかつて話題になったというその掲示板の書き込みがどういったものなのかが分からなかった。


「ねぇ命ちゃん。さっき所長が言ってた話ってそんなに有名なの?」

「一部のオカルトマニアの間でだけ。正直かなり作り話っぽかったし、絶対嘘だと思ってたんだけど、まさか本物だったなんて……」

「ねぇねは知ってる?」

「そうだねぇ。お姉ちゃんも一応知ってたよ。確かに作り物っぽかったし、そんな訳ないと思ってたんだけどなぁ……」

「でもでも、きさらぎ駅とかも昔有名になったやつだったんでしょ? 今は収容されてるけど、あれの時もここまでの捜査にはならなくなかった?」


 ねぇねによると、その幽霊は悪意を持っている訳ではないらしい。しかし儀式を行った人間の下へと現れるとその人物に憑依し、その強すぎる霊力によって悪影響を与えてしまうのだという。つまり、悪霊といった類ではなく、一種の神格存在の可能性が高いそうだ。

 そういった性質のため一切の悪意無く人を狂わせたり死に追いやったりしてしまう。そのため正式な儀式手順が漏洩しているというのは非常に危険であり、もしこれを興味本意でやってしまえばどれだけの被害が発生するか想定出来ない。それほどまでに危険な存在らしい。


「でもでも、だったら何で捕まえとかなかったの? 書き込みをしてた人は捕まえてたんだよね? その人に憑依してたんでしょ?」

「うん。そうなんだけど、どうもその幽霊はこの世界のあらゆる物からの干渉を受けないみたいなんだよねぇ……」

「干渉を受けない……?」

「前に君と二人で結城さんの事件を担当した時の事、覚えてる?」

「え? うん。確かあの霊体の方の結城さんは別の世界からやって来た可能性があるんだよね」

「そう。あのもう一人の結城さんと同じ様に、その幽霊も本来は別の世界の存在なのかもしれない」

「ん~でもでも、その幽霊はこっちに色々出来てるんだよね? だったら少なくとも、誰かに憑依してる間はこっちからも干渉出来るんじゃないかな?」

「お姉ちゃんもそこが疑問なんだよねぇ……。一時的にとはいえこっち側に来てるなら、同じ次元に居る以上はこっちからの干渉も可能な筈なんだけど……」


 どうやら今回対処しなければならない相手は今までのコトサマ達とは違うらしい。これまでのコトサマはどれだけ厄介でも、しーちゃんを憑依させた状態での攻撃を当てる事は出来たし、命ちゃんのステッキによる拘束も可能だった。しかしそれらが通用しない可能性があるという事は、これまでの経験は一切意味を成さないと言える。

 まだどういった方法で対処するべきかが決まっていなかったが、私達は儀式を実行して問題の対象を呼び出すために姿見を購入し、タクシーに乗って都市部から離れていき、やがて人けの少ない住宅街にぽつんと立っている廃ビルへと辿り着いた。

 耳に着けているイヤホンから蒐子さんの指示が入る。


「では皆さん、今から手順をお話ししますが、もし危なそうならすぐに撤退してくださいね」

「逃げられないでしょ。能力の限界が見えない相手なんだから。それより如月さん、早く話して」

「は、はいー。ではまず、姿見の鏡面が北向きになる様に配置してください」


 廃ビルの二階にある一室に言われた通りに姿見を置き、スマートフォンの地図アプリなどを利用しながら細かく調整を行う。


「よし、置きましたよ蒐子さん」

「分かりました。えーと、実際の儀式を行うのはどの方ですか?」

「あたしが――」

「いやいや私がやるよ」

「ちょっと待って菖蒲ちゃん。お姉ちゃんがやるから……」

「君はもしもに備えておいて。君は戦力として残っててもらわないと」

「菖蒲ちゃん。今回のお仕事は本当に危険なものなの。だからお姉ちゃんにやらせて」

「ダメダメ。二人が何て言ったって私がやるよ。私は生まれついての霊媒体質だよ? 降霊に関してはこの中で一番上手いんだから。なるべく一発で成功した方がいいでしょ?」


 二人はそれを聞いて何も反論をしなかった。私の事を大切に思っているからこそ、自分がやると二人が言いたいのは分かる。しかしこの二人のどちらかに憑依した場合、対話が行えない可能性がある。もし問題の幽霊が本当に悪意無くその力を使ってしまっているのであれば、それを問題無用で捕まえたり消滅させたりするのはあまりにも可哀想だ。話し合ってそれで理解してもらえるのなら、そっちの方がお互いにとって安心で安全と言える。八尺様ですら魂に固着させる事が出来た私であれば、今回も上手く固着させられる筈だ。


「異論無しだね。蒐子さん私がやります。次の手順を教えてください」

「菖蒲さんですねー。まず正面に立って、右の指が上になる様にして両手を組んでください」

「ほうほう」

「次につま先を見ながら、足を45度右に回転させてください。次はお辞儀してるみたいな感じです」

「んっ……結構難しいんですね」


 命ちゃんがステッキを背中から抜き、お札を貼り発光する鞭へと変化させている様子が視界の端に映る。


「次は?」

「次が最後です。その姿勢の状態で両手を離してください。そうすれば儀式は完了です。……気をつけてくださいね」

「はい。それじゃあいくよ二人共~」


 蒐子さんの指示通りの姿勢を取った状態で組んでいた両手を離す。すると体に強い寒気の様なものが走り、一瞬だが視界が青いもやの様なものに包まれた様に感じた。するとねぇねによって引っ張られる様にして姿見から離され、私と姿見の間に命ちゃんが立ち塞がった。


「え、ちょっ何々!?」

「……蒐子ちゃん。噂は本物だったみたい。鏡に映ってる」

「我々は日本特異事例対策機構の者です。会話は可能ですか?」


 冷静ぶって話してはいるが、ねぇねも命ちゃんもかなり警戒しているのが分かる。そしてその理由は私にも理解出来た。現人神であるセンと対峙した事があったが、あの時と同じ様に凄まじい霊力が命ちゃんの向こうにある姿見の鏡面から覗いているのだ。これは恐らくセンが体から放っていた白いオーラの様なものと同じ類なのだろう。


「そこで止まりなさい!」

「命ちゃん待って! 私が話してみるから!」


 ねぇねの拘束を振り解き命ちゃんの隣へと駆け寄った私の目に映ったのは、鏡の中でこちらに向かって足を引き摺る様にして歩いてくる奇妙な幽霊の姿だった。

 死に装束の様な真っ白な和服を着た女性の姿をしており、ぼさぼさの黒い髪は腰の辺りにまで伸び切っていた。そして何より目を引いたのは、その顔に貼り付けられている大量のお札だった。そのお札と暖簾の様に垂れている髪によって、どんな顔をしているのかまるで見当もつかなかった。

 青い霊力をまとったその存在は、ひたり、ひたりと歩みを進め、やがて鏡面ぎりぎりまで来ると、どこぞのホラー映画の幽霊の様に鏡の表面からこちら側へと這い出してきた。それと同時に凄まじい悪臭が鼻を突き、鏡面からはヘドロの様な物がぼとぼとと床へと滴り落ちた。


「ドォシッテ? ドォシッテ?」

「え……?」

「菖蒲ちゃん、話しが通じないかもしれない。備えて」

「い、いやいやでも……うっ……何か言いたそうじゃん……」

「ドォシッテ? ドォシッテ? ドォシッテ?」


 疑問を投げかけ続けるその霊は、悪臭を放つヘドロを残しながら、少しずつこちらへと足を動かし始めた。

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