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特異事例調査員 日奉菖蒲の調査ファイル  作者: 龍々
case22:現と夢
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第73話:浮き彫りになった矛盾姉妹

 真臥禧が巻き起こした災害から復旧するまで一週間と掛からなかった。規模が小さかった上に超常技術が発展しているという事もあり、修復が簡単に行われたからだ。しかし被害自体は確実に発生しており、地震によって起こった二次災害などにより数人が行方不明になり、死傷者数は100人以上にも上っていた。

 そんな中、本部から私と命ちゃんにとある指令が下った。どうやら死者数などを計測している際に奇妙な点があったらしく、それについての調査をして欲しいとの事だった。そしてその奇妙な点について、かつて出会った日奉千草から情報を提供してもらえるかもしれないため、コンタクトを取って欲しいらしい。


「また……ここに来るなんてね……」

「命ちゃんさぁ~、一応嫌な顔とかしないでね? 今回は協力してもらう立場なんだから」

「分かってる。でも、もし何か妙な動きを見せたらすぐに取り押さえるから」


 当然ではあるが命ちゃんは千草の事を警戒していた。あれ以降大人しくしているが本家日奉一族を抹殺するための計画を立てていた千草は、間違いなく要注意人物だからだろう。とはいえ、今は普通に暮らしているのであれば、必要以上に刺激する様な真似をするべきではないだろう。あくまであれは未遂に終わっているのだ。私個人としても日奉濃紫の様な本家の人間を見ていると、千草の考えを完全に否定する事も出来ないのだ。

 念のため適当なデパートで買ってきた菓子折りを持ってアパートのチャイムを鳴らす。最初は反応が無いため留守なのかと思っていたが、やがてドアが開き千草が姿を現した。


「……お待ちしてました」

「いや~お久しぶりですね千草さん! どもどもです! あっこれ、つまらない物ですけど~」

「貴方から情報提供をして頂けると伺いました。お願いしてもよろしいでしょうか」

「……お上がりください」


 玄関を上がり、以前にも立ち入った事がある奥の部屋へと通される。部屋の隅では簸子ひるこが膝を抱え、まるで赤ん坊の様な体勢で横たわっていた。その周りには簸子を取り囲む様に粘土で作られたのであろう小さなオブジェが置かれており、何らかの儀式を行おうとしている様子だった。


「失礼ですが、あちらは?」

「あの子は……特殊な体質なのです。あの子の心は、たった一年しか持たないんですよ」

「心が持たない?」

「私が……いえ、以前の私が天美島そらみしまに行った時には、もう既に簸子はこの症状を発症していたのです」

「えとえと、そういう病気があるんです?」

「病気か呪いか、はたまた別の何かか……。何も分かりませんが、もし何もせずに放置していれば、あの子はやがて心を失ってしまう。記憶も感情も何もかも……全て無くなってしまう」


 千草によると簸子のその体質を知ったのは天美島から脱出して日記を読んでからだったという。どうやら島に居た頃は日奉秘色ひそくが簸子のために能力を行使していたらしい。しかし彼女は千草達を守るために自らの魂を分割して命を落とした。秘色が居なくなった以上は同じ力を受け継いだ千草がやらなければならない。もちろん彼女自身は、それを苦とは思っていない様だが。


「もうこれ以上、あの子に失わせる訳にはいきません。私は忘れられても構わない。ですが、お姉ちゃんの事だけは、忘れないで欲しいのです。命懸けで私達を守ってくれたあの人だけは、忘れてはいけない。そう思ってます」

「……分かりました。ちなみにですが千草さん、簸子ちゃんを検査機関で見てもらった事はありますか?」

「前にお二人から呼び出された時にしましたよ。でも何も問題は見当たらなかった。呪力も霊力も、何も異常は検知されなかったそうです」

「えっとえっと、私も本当は簸子ちゃんの事、気になってはいるんですけど~、一応今日は別のお話で来たんですが~」

「そうですね……では、お話しましょう」


 今回JSCCO本部が奇妙であるとしたのは、死傷者確認の際に記録に異常が見られたかららしい。身元確認のために戸籍や出生記録などを調べていたのだが、その際に何故か出生記録と死亡届が同時に存在している人間が居たらしいのだ。つまり生まれてすぐに亡くなったという記録と、問題無く誕生したという両方の記録が同時に存在しているのだ。明らかに矛盾した記録であるにも関わらず、今日まで誰もその違和感に気付けなかったらしい。


「あのあの、それでどうして千草さんが関係してくるんです?」

「偽名を使っていましたが間違いありません。私も彼女達の事を探った事がありますから」

「どういう意味ですか?」

「矛盾した二つの記録を持つ少女、現夢位色うつつめいしき……。またの名を日奉黄櫨こうろ

「まさか……」

「ええ。お姉ちゃんの日記に残されていた、本家日奉一族の一人です」


 どうやら、日奉黄櫨という人物は現在は偽名を使って暮らしているらしい。しかし抹殺計画を立てていた千草の調べによると、位色と黄櫨の顔は完全に同一のものだったという。虱潰しらみつぶしに調べていた当時は別人だと考えて候補から外していたらしいのだが、今回の本部の調査によって現夢位色には異常な点があると判断され、それを知った事で同一人物だと踏んだそうだ。


「本部から要請があったんですか?」

「はい。私の日記に本家筋の人間の名が記されている事はもう知れているのでしょう。本来ならば私が直接始末しに行きたいところですが、あの子のためにも今は捕まる訳にはいきません。なのでお二人にお話する事にしたのです」

「嬉しいんですけど、そもそも計画を実行に移すって発想をやめてくれません~?」

「千草さん、事前に聞いておきたいのですが、貴方は当該の人物をどう見ますか?」

「ふむ、そうですね……。あくまで私の考えですが、何らかの方法で蘇った可能性があります。両親が健在であればそこを当たれば良いかもしれません」

「つまり貴方と同じ様に何らかの儀式を行ったと?」

「私の力は理論の上書きです。一時しのぎは出来ますが、死人を生き返らせる事は出来ませんよ。吹けば飛ぶ様な机上の空論では、精々一日が限界です」


 確かに千草が考える様に儀式による復活は有り得なくはない。黄櫨が日奉一族本家筋の人間なのであれば、その両親もそういった力を持っていた可能性がある。少なくとも現段階の技術では、死者の蘇生は完成していない。仮に蘇らせたとしても、まるで映画に出てくるゾンビの様に自我が無い肉人形にしかならないのだ。それに倫理的な問題で死者蘇生は禁止されてもいる。本当に死者蘇生が行われたのであれば、重大な違反行為であり、それと同時に超常技術の急激な発展にも繋がる事になる。


「……とりあえず行ってみます。情報提供ありがとうございます」

「少しお待ちを。まだお話しなければならない事があります」

「あれあれ、まだ何か?」

「私の調べによると、日奉黄櫨には妹がいるそうです。名を日奉黄丹おうに。表向きには現夢当色とうじきと名乗っています」

「その人が何か?」

「そちらも本家筋の人間ですが、しばらく学校にも通っていない様です。それどころか外に出ている姿を見た者は一人も居ませんでした。つまり、戸籍だけでしか存在が確定していない人物という事です」

「えとえと、もしそうなら二人共強力な能力者の可能性がありますね」

「はい。お話は以上です」


 千草さんから必要な情報を聞き終えた私達は簸子を一瞥して部屋を出る。私達が話している間、彼女は一切その場から動く様子を見せなかった。ただ眠っているにしては恐ろしく静かであり、まるで全ての機能を停止させているかの様だった。しかし千草が彼女を殺しただとかは感じなかった。少なくとも千草にはそんな事は出来ない。簸子や秘色に対する想いだけは本物だと感じるのだ。

 靴を履き外へと出ようとした私達に千草が声を掛ける。


「お願いがあります」

「何ですか?」

「殺してくれとは言いません。ですがもし彼女が罪深き日奉なのであれば、必ず然るべき罰を与えてください。使命のためならば幼子すら殺す者達を、私は人と認める事は出来ません」

「……千草さん。貴方には霊魂相談案内所に呪物を送ったという前科があります。三瀬川さんと黄泉川さんが見逃してくださっているだけだという事はお忘れなく」

「……ええ。私も許してくれなどと都合のいい事は言いません。本家筋の人間を全員抹殺した後でなら、いくらでも殺してくださって構いません」

「あ~ダメですよ千草さん。私達って、調査員ですから。殺しは基本的に無しなんです。それに師匠達もそんな事を望む人達じゃありませんから。なのでなので、残念ですけど生きててくださ~い」

「…………そうですか。呼び止めて申し訳ございませんでした。ご武運を」


 千草に見送られた私達は、玄関を出てアパートから離れながらいつものイヤホンを付け、蒐子さんに連絡を取り、貰った情報を全て話す。すると蒐子さんから本部が掴んでいる情報について教えてもらえた。やはり千草が言っていた様に日奉黄櫨、黄丹姉妹は本家筋の人間である可能性が高いらしい。そして何故か二人共、一年程前から表に姿を現していないのだという。雌黄さんによる全域の監視カメラチェックにも一切該当する二人の姿が映っていないそうなのだ。本来であれば最低限買い物などはする筈だがそういった外出記録も存在せず、それどころか家に宅配で何かが送られているという形跡すら無いらしい。


「あのあの、それってつまりどういう事なんですかね?」

「そうですねー……。ワタクシとしてはですけど、食事を必要としない生物は存在しないと思ってるんです。なので、何かしらの能力で食料を調達しているのではないかとー……」

「如月さん、周辺での盗難記録は?」

「特にそういったものはありませんでした。あっても他の犯人によるものでしたしー……」

「分かった。じゃあまず現場に行ってみる。住所を教えてもらえる?」

「はい。お二人の携帯に情報を送信しましたのでご確認くださいー。それと、気をつけてくださいね。今まで誰も矛盾した記録に気づかなかったというのは、ワタクシとしてもどうも妙な感じがするので……」


 携帯に届いていたメールを開けてみると確かに住所と地図の情報が添付されており、東京でもかなりの山奥の方に住んでいるという事が分かった。最近は眞宮市子や土砂崩れの影響で、山にはあまりいい思い出が無いが戸惑っている暇は無い。真臥禧が次にどういった行動を取ってくるかもまだ分からないが、あの日すぐに本部へと報告したためそちらは本部でも捜索してくれるだろう。

 様々な気になる事を胸へと仕舞い込み、私は命ちゃんと共に姉妹が住んでいるという住所へと向かう事にした。

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