表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
特異事例調査員 日奉菖蒲の調査ファイル  作者: 龍々
case21:夜明けと晩に
69/91

第69話:日奉萌葱と殺月真臥禧

本章は日奉一族シリーズの「日奉家夜ノ見町支部 怪異封印録」第79話、「約束の為日を奉り 宵闇照らす朋の月」とリンクしています。

 雨竜島から戻った私達は日浪さんと港で別れると碧唯さんの霊魂を墓場に戻してからJSCCOの本部へと戻り、宇曽吹所長に一連の出来事を話そうという事になった。しかし命ちゃんはロビーで足を止め、彼女の従姉である真臥禧まがれの事は話さないで欲しいと伝えてきた。


「感心しないなぁ~ミコちゃん。君も組織に所属する人間なら、報連相ホウレンソウは基本だよ~?」

「命ちゃん。私はちゃんと報告するべきだと思う。色々混乱してるのは分かるけど、もし死亡記録が間違ってるなら、ちゃんと報告して訂正しないと」

「……」


 命ちゃんはその場から動こうとしなかった。死んだ筈の親族が生きていたという喜びもあるのだろうが、それ以上に何故そんな知り合いが自分を殺しに来たのかが理解出来ずに戸惑っているのだろう。魔姫ちゃんへの態度を見るに、彼女は相当愛情深い性格である。今の心中が相当複雑なものになっているのは想像に難くない。

 しびれを切らしたのか化生さんはふらふらと歩き出した。


「悪いけど私は仕事だから報告させてもらうよ~。君らは勝手にするがいいさ~」

「化生さん、お願いです待ってもらえませんか?」

「待たな~い。……まっ、超能力者だのコトサマだのは今回の仕事の分には含まれてないし、頼まれてた分だけ言ってくるよ~」


 そう言うと化生さんは受付へと向かっていった。恐らく彼女であれば大丈夫だろう。飄々としていていまいち考えが読みにくい人ではあるが、わざわざJSCCOから仕事を依頼されるという事は信頼されている人物という事だ。きっと必要以上の事は言わないだろう。


「ねぇねぇ命ちゃん。蒐子さんには明日話したいって言ってたけどさ、やっぱり今日の方がいいんじゃないかな」

「……」

「その……多分信じたくはないと思うけど、真臥禧さんは私達を殺そうとしてる。もちろん他の日奉一族の人達も。そのためだったら飛行機の部品だって破損させるし『ゾーン』だって使う。分かるよね?」

「そう、だね……」

「一応、信頼出来る人達だけで話し合おう、今からさ」


 私はこの場では話しにくいかと考え、一旦外へと出て師匠達が居る『霊魂相談案内事務所』へと向かった。その間に携帯を使ってねぇねにも連絡を入れ、少しの間だけ時間を取ってもらえる様に頼み、誰も部外者が居ない事務所の中で詳しい話を聞く事にした。


 事務所に辿り着くと師匠達が出迎えてくれたが、只事ではない雰囲気を感じ取ったのかすぐに内鍵を掛けて少しの間だけ相談所を閉めてくれた。そしてソファーへと案内された私達は隣り合う様にして座り、スマートフォンのスピーカーをオンにした状態でねぇねへと再度電話を掛け、情報関連の協力者として蒐子さんとも無線を繋いだ。


「あのー、明日待ち合わせをする約束だったのではー……」

「ごめんごめん蒐子さん。ちょっと前倒しになっちゃったんだ。それでえっとえっと、ねぇねは聞こえてる?」

「お姉ちゃんの方は大丈夫だよぉ~」

「どうしたの菖蒲。急に」

「何か困った事でもあったの?」

「あのあの、今から話す事は師匠達も外に漏らさないで欲しいんです」


 私は話しにくそうにしている命ちゃんの代わりに今日雨竜島で起こった一連の出来事を話した。そこで姿を現した真臥禧という人物は命ちゃんの従姉であり、本来記録上では既に死亡済みの人物であるという事も伝えた。するとすぐにイヤホンからキーボードを叩く音が聞こえ、蒐子さんの声が聞こえてきた。


「殺月真臥禧さん……あ、ありました! 四年前の『黄昏事件』の際に死亡確認がされてます!」

「という事は少なくとも真臥禧さんらしき遺体が発見されてはいるんですね。師匠達は何か聞き覚えとかあります?」

「ん、私は知らない。そもそも四年前に殺月なんて苗字の人間なんて知らなかった」

「ごめんね、先生も知らないかな……。多分、あの時住んでた夜ノ見町にはそういう苗字の人は居なかったと思うんだけど……」

「そうですか……。ねぇねはどう?」


 通話状態になっているスマートフォンは少しの間沈黙していたが、やがて私の問いに対する答えが返ってきた。


「……もしかしたら、なんだけどねぇ……」

「え?」

「菖蒲ちゃん、四年前のあの事件の時、二人で亜実つぐみ地区に行ったの覚えてるかなぁ?」

「えぇっとぉ……」


 『黄昏事件』が起きたあの日に私は九年の眠りから目を覚ました。何が起きているのか何も分からなかった私は、ねぇねの運転する車に乗せられて当時管理していたという亜実地区へと向かった。そこはダムの決壊により壊滅的な被害を受けており、後に聞いた話によれば『ぬえ』が姿を現していたらしい。当時の私はまだ事態を把握出来ていなかった上に、しーちゃんの魂を固着させたばかりだったため記憶が混濁しており、はっきりとした事は覚えていなかった。


「ごめん。薄っすらとしか……」

「いいよ。あの時私達は何とかして鵺を倒したんだけど、その鵺を発生させてる物の傍に遺体があったの」

「もしかしてそれが?」

「ううん。その人は私達みたいに日奉一族に所属してる人だったの。お姉ちゃんは会った事無かったんだけど、確か名前が……」


 再びイヤホンからキーボードを叩く音が聞こえる。


日奉萌葱ひまつりもえぎさんですか?」

「……ねぇね。今蒐子さんが調べてくれたんだけど、その人って日奉萌葱って人じゃなかった?」

「そう、その子。お姉ちゃん、てっきりあの時は萌葱ちゃんが日奉一族として鵺を倒そうとしてくれてたのかなって思ってたんだけど……」

「ん。その言い方だと違ったんでしょ。大方、逆だったとかじゃない?」

「絶対にそうとは言い切れないけど……でも、記録によると萌葱ちゃんは真臥禧っていう子と面識があったみたいなの」


 ねぇねが『黄昏事件』以降に調べた記録によると、『物の記憶を見る事が出来る』萌葱さんにはある任務が命じられていたらしい。それは中途半端な出来の呪物の中に眠っている記憶を見る事でそれの制作者を特定するというものだったそうだ。力の無い人間が呪物を作っても、それは中途半端な物になってしまう。しかし高い霊力などを持つ人間が迂闊にそれに触れてしまうと、中途半端であるが故に誤動作を起こして暴走してしまうらしい。


もも、話が見えてこないんだけど」

「ちょっと縁ちゃん……」

「ごめんね。それで、『黄昏事件』が起こる前日に萌葱ちゃんが行方不明になったの。真臥禧さんと一緒に」

「あれあれ? じゃあじゃあ、その萌葱さんは真臥禧さんと一緒にどこかに行ってたって事?」

「そういう事になるねぇ。何かの偶然だと思ってたんだけど、今になって真臥禧さんが姿を見せたとなると……」

「ちょっと待って」


 縁師匠が話を遮る。


「その萌葱っていう子の行動履歴はいつ分かった?」

「それが、今でも分かってなくてぇ……」

「分かってない? あんた達のところには、あの小うるさい電子生命体とやらが居る筈でしょ。監視カメラとかで追跡出来ないの?」

「蒐子さん蒐子さん、萌葱さんの動きを追跡する試みとかは無かったんですか? それこそ携帯のGPSとか」

「それがですねー、記録によると携帯の電源が完全に切られてて、しかもどの監視カメラ映像にも映ってなかったみたいなんですよ」

「映ってなかった?」

「はいー。ただ、おかしな点もあってですねー?」


 蒐子さんによると、ある特定の地域に存在する監視カメラが一時的に同時に不具合を起こしていたというのだ。どれだけその時間帯の記録を確認しようとしても画面は真っ暗であり、データの復元も不可能だったらしい。あの雌黄さんですら、確認出来なかったというのだ。

 私は蒐子さんから聞いた話を他の皆にも共有した。するとそれを聞いた命ちゃんがスマートフォンの画面上に地図アプリを起動し、亜実地区を終点へと設定すると口を開いた。


「菖蒲ちゃん。如月さんに聞いてもらえる? 監視カメラが動かなかった地域と時間帯、それが分かれば萌葱さんの移動ルートが分かるかもしれない。もし君の、萌葱さんとまーちゃんが一緒に逃げたっていう仮説が正しいなら、何をやってたのかが分かるかも」

「お、オッケオッケ! えっとえっと、蒐子さん。監視カメラがおかしくなってた地域ってどの辺りだったか分かりますか?」


 こうして私達は萌葱さんの移動ルートの推測を開始した。蒐子さんが教えてくれたデータベースの情報を基にアプリで範囲を絞っていくと、おおよその移動ルートが見えてきた。

 まず萌葱さんは行方不明になった当日、飲食店で起きた爆発事故に巻き込まれて負傷しており病院へと運ばれている。しかし何故か昼過ぎの辺りで院内の監視カメラが一斉に動作不良を起こしていた。つまりこの間に萌葱さんが病院を抜け出したという事になる。


「少なくとも昼過ぎには病院から出たのは確かだと思います」

「えっと、ちょっといいかな殺月ちゃん。もしそうだとしても、誰か目撃者とかは居なかったのかな? 監視カメラを止める事が出来ても休日の病院だと人も多いと思うし……」

「ん、待って賽。もしその真臥禧っていう人間が本当に自由に不幸を振り撒ける能力を持ってるんだとしたら、別におかしくはないでしょ」

「えっとえっと、ちょっと待ってくださいね。……蒐子さん、当日、その病院で事故とかありました?」

「はい。確認されてるだけでも駐車場での人身事故、入院患者の呼吸器が外れる事故などがありますねー」

「そうですか……。あのあの、病院の敷地内で事故があったみたいです。駐車場でもあったみたいですし、もしかすると萌葱さんはその隙を突いて抜け出したのかも」


 地図アプリで確認してみると病院から少し歩いた所に駅があり、その辺りも監視カメラが誤動作を起こしていた。しかも電車内に設置されている監視カメラも記録が一部破損しており、その状態は電車が終着駅に着くまで続いていた様だ。つまり萌葱さんと真臥禧は、終着駅まで電車に乗っていきそこで初めて電車を降りたのだ。駅の名前は嘉良岬からみさきであり、写真を見るに静かな港町だった。


「ねぇね、嘉良岬って知ってる?」

「うーん……ごめんね、お姉ちゃんも聞いた事無いかなぁ。萌葱ちゃん達はそこに行ってたかもしれないの?」

「うんうん。何でここに来たのかは分かんないんだけど、蒐子さんの言ってた記録を見るとちょっとの間滞在してたみたいなんだよね。道にある監視カメラもコンビニの監視カメラも誤動作起こしてたみたいだし」

「菖蒲ちゃんの意見はあたしも正しいと思う。わざわざここまで乗らなくても、途中の駅で乗り継いだ方が亜実地区には早く着くし、何か意味があってここに来てる筈……」

「だよねだよね。……ねぇね、ねぇねが見つけた時の萌葱さんはもう亡くなってたんだよね? その時に何か変わったところとか無かった?」

「変わったところ……。そういえば、ゴーグルとか足ヒレとか、後は酸素ボンベみたいなのを肩から掛けてたかなぁ……あっ!」


 どうやらねぇねも私と同時に同じ答えに辿り着いたらしい。萌葱さんがこの嘉良岬という港町に寄ったのはダイビング用品を買うためだったのだ。萌葱さんの目的が何だったのかは未だ不明だが、少なくとも当時の状況から考えるにダムの中へと入ったのはほぼ間違いないだろう。

 その後の萌葱さんのルートはシンプルだった。嘉良岬から出ているバスに乗り込み、複数回乗り継ぎを繰り返しながらダムへと向かったのだ。その証拠に複数台のバスの車内カメラが動作不良を起こしたという記録が残っている。


「萌葱ちゃんの動きは何となくだけど見えてきたね。百さん、萌葱ちゃんの目的って何だったんでしょうか?」

「当時そいつの死体を見てるのはあんただけでしょ?」

「……あの子が持ってたのは、箱だったんだ」

「箱?」

「そう。絡繰り細工が施された箱。あの中には……人間の脳味噌が入ってたの」


 ピリッと空気が張り詰めた。ねぇねの予想外の答えに全員が圧倒されたのだ。


「……ねぇね、その脳味噌って、誰のものだったか分かる?」

「お姉ちゃんもそこまでは分からないかなぁ……。検査は専門外だったから……」

「じゃあじゃあ蒐子さん。亜実地区で発見された箱の中の脳味噌、誰のだったか分かります?」

「データベースに記録が残ってますねー……。該当する個人データはありませんが、萌葱さんのDNAと非常に近い遺伝子情報だったみたいです」


 それが意味するところは、萌葱さんと脳味噌の持ち主は非常に近しい存在だったという事だろう。姉妹、いやそれよりももっと近い『双子』だったのかもしれない。

 これらの情報を整理していく内に私の中で嫌な予感が浮かび上がってくる。恐らく移動ルートから考えるに、萌葱さんは双子の片割れを助けようとしたのだろう。では何故その脳味噌の持ち主はそんな姿にされていたのだろうか。わざわざ脳味噌だけを絡繰り細工の箱に入れる意味とは何だろうか。その箱がダムの中にあった理由は何だろうか。どことなくだが、日奉千草や日奉秘色が関わっていた『天美島』の一件を想起してしまう。


「DNAが似てるって事は萌葱とその脳味噌は双子か何かだったんでしょ。何があったのか知らないけど、萌葱は自分の姉か妹かを助けようとしてた」

「そうかもしれないね縁ちゃん……。本人が居たら記憶を読めたんだけど……」


 そこで萌葱さんに関する情報はピタリと止まってしまい、真臥禧に関する決定的な情報は手に入らなかった。一応蒐子さんにも確認してみたのだが、真臥禧だとされていた遺体は亜実地区とは大きく離れた場所で発見されており、死亡推定時刻などから逆算しても真臥禧がダムから離れてそこで亡くなっていても時間的に不可解では無いらしい。実際その場所ではコトサマが暴れた事による被害が出ていたのだ。


「……ねぇ一旦解散にしない? 私達にも仕事があるんだけど」

「えっとごめんね菖蒲ちゃん。流石にそろそろ事務所開けないとまずいかな……」

「わわっすみません! じゃあじゃあ、ここからは私達でやります! ありがとうございましたー!」

「うん。また何かあったら来てね~」

「……怪我とかしないでよ」


 急いで事務所をから出た私達は、賽師匠と縁師匠に見送られてビルの外へと出た。ねぇねもまだ仕事が残っているらしいので一旦電話を切り、今後どうするかを命ちゃんや蒐子さんと話し合った。

 命ちゃんとしては、亜実地区のダムや真臥禧の偽装死体の発見現場を一度見てみたいらしく、明日にでも出発したいと語った。私としても何故真臥禧が私達を殺そうとするのか確かめたいと思っており、裏に日奉一族本家が絡んでいる可能性も考慮して同行したいと考えていた。蒐子さんは任務外でのサポートはあまりするべきではないと上層部から言われているらしいが、今回は状況が状況であるため極秘で付き合ってくれる事になった。


「それじゃあ明日、朝に迎えに行くから」

「迎えにってすぐ隣じゃん~」

「……それもそうか」

「一緒に帰ろうよ。それにご飯も食べよ。魔姫ちゃんも一緒にさ」

「あたしはいいけど……どうして?」

「や~だってさ、一応ほら、命狙われてる身だし?」

「……そうだね。あの子を一人にしちゃいけないかもしれない」


 こうして新たな目標が出来た私達は、二人で一緒にアパートまで戻る事にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ