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特異事例調査員 日奉菖蒲の調査ファイル  作者: 龍々
case19:嘘から出た眞
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第64話:ミカタリ様の言う通り

 翌日、朝一の電車に乗るために私は鞄を背負って明るくなりかけの外へと足を踏み出した。電車の中には早朝から仕事に行く人々の姿があり、私達の姿はやや浮いている様に感じた。

 そんな状態の電車を何度か乗り継ぐと、私達は眞宮市子が住んでいるという聖名後みなしり村がある群馬県へと到着した。その村は山奥にあるらしく、タクシーに乗って人気の少ない山中へと入っていった。


「ここで大丈夫です。……すみません領収書いいですか?」

「命ちゃん先降りとくよ?」

「ええ。……JSCCO宛てで、ええお願いします」


 先にタクシーから降りて周りを見てみると、いかにもな田舎の風景が広がっていた。それこそテレビドラマなどで何度も見た様な絵に描いた様な場所である。一つ一つの民家はお互いに距離が離れており、そこら中に田圃が存在している。


「お待たせ菖蒲ちゃん。どう?」

「どうも何も……ぱっと見普通の田舎って感じじゃない?」

「…………いや。普通じゃないかも」

「なになに? どういう事?」

「向こうにある民家の二階。なるべく顔動かさずに目で見てみて」


 言われた通りに遠くにある民家の二階を見てみると、カーテンが掛かっている窓の向こうで誰かがこちらを見ているのが確認出来た。カーテンに僅かに隙間が出来ており、そこから顔が覗いているのだ。


「うわうわ。早速警戒されてる感じ?」

「かもね……眞宮市子の能力の本質が何にせよ、崇められてるのは間違いないと思う。なるべく怪しまれない様にしないと」


 少しでも妙な動きをすれば情報を隠される可能性が出てきたため、私達は雑誌の編集者というていで調査を進めていく事にした。まだ10代である自分達が編集者というのは少し妙ではあるが、正直にJSCCOの調査員だと堂々と告げてしまえば、調べられるものも調べられなくなってしまうだろう。

 そうして身分を偽装した状態で様々な家へと赴き、眞宮市子について聞き込みを行ったが、何も新たな情報は得られなかった。命ちゃんが見せてくれた雑誌の記事に載っていた通りの情報しか話してもらえず、何故眞宮市子がこの村に戻って来たのかという情報については何も分からなかった。


「うーん……とりあえず分かったのは命ちゃんが言う様に眞宮市子が崇拝されてるって事だね」

「ええ。こういう閉じたコミュニティだとああいうものが信じられやすい。今みたいな社会になってもね」

「むしろ余計に信じやすくなったんじゃないかな。超常的な力や存在が本当に実在するって証明になっちゃった訳じゃん、『黄昏事件』はさ」

「それもあるかもね。ひとまず如月さんに報告しておく」


 そう言って命ちゃんが蒐子さんに連絡を取っていると、離れた所から村人達が群衆となってこちらに歩いて来た。先頭には雑誌に載っていた通りの胡散臭い恰好をした眞宮市子の姿があり、私達の前で立ち止まると眞宮の隣に居る50代程のスーツを着た男性が声を張る。


「お座りなさ~~~い」

「えーっと……はい?」

「……眞宮市子さんですね?」

御語吏ミカタリ様の御前です。お座りなさ~~~~い」


 何とも怪しい雰囲気だったが、怪しまれない様にするために言われた通りにその場に膝をつき正座した。すると眞宮は私達の前に出ると、手首に嵌めている装飾品を外してそれぞれの頭の上で数回トントンと軽く叩く様に動かした。


「ようこそお出で下さいました。貴方方がいらっしゃるのは分かっていましたよ。わたくしには全て見えておりましたから」


 眞宮の後ろに居る村人達から感心する様な声が上がる。後から言うのであれば何とでも言える筈だが、既に彼らは眞宮の信者になっているという事だろう。


「本日はどのような目的でいらしたのですか?」

「…………ミカタリ様であれば当ててみてください」

「ふふっ、面白いお嬢さんですね。いいでしょう。貴方方は、わたくしを取材するために来た……」

「や~凄いですねぇ眞宮さん! その通りですその通りです!」

「皆さん、これが御語吏様のお力です。お崇めなさ~~~い」


 村人達は「ミカタリ様ミカタリ様」と呼びながら眞宮を崇めていた。


「が、それは表向きの理由……でしょう?」

「……はい?」

「……すみません眞宮さん。何の話ですか?」

「わたくしに隠し事は通じませんよお二方。貴方方は日本特異事例対策機構、つまりJSCCOの調査員といったところなのでしょう?」


 少しだけ驚きはしたが慌てる程ではなかった。私達はこれまでもコトサマ絡みの事件に何度か関わってきている。何かの拍子に私達の個人情報が眞宮市子に漏れているだけの可能性もあるのだ。この程度は予知など使わなくても再現出来る。


「わたくしの力をお疑いになって調査にいらした。それも非公式に。違いますか?」

「何の事を仰っているのか分かりません」

「そうですよそうですよ。私達、本当に――」

「わたくしに……嘘や誤魔化し、はったり、そういったものは一切通用しませんよ。天からの啓示があったのです。わたくしは神より遣わされし御子なのですから」


 村人達は私達二人を取り囲み、完全に逃げ道を塞いだ。力づくで脱出するのも不可能ではないが、一般人相手に力を行使する訳にはいかない。これが仕事中であれば問題無いが、あくまで非公式に事前調査として来ているのだ。

 命ちゃんはこれ以上隠すのは不可能だと感じたのか、その場で立ち上がり眞宮市子を真っ直ぐに見据える。


「仰る通りです。我々はJSCCOの者です。眞宮市子さん、貴方を調査するために参りました」

「ちょっと命ちゃん……!」

「やはりそうでしたか。正直な方は好きですよ」

「眞宮さん、現在未来予知やそれに類する能力は確認されていません。もちろん科学的にもオカルト学的にも再現出来ていません」

「ではわたくしの力が虚偽であると……そう仰りたいんですね? 殺月命さん」


 どうやら私達のフルネームまで彼女には割れているらしい。もちろんこれも手に入れようとすれば手段はいくらでもある。今のところ彼女がやっている事は、全て予知を使わずとも出来る事だけである。しかし眞宮市子には何かがある。未来予知では無いにしても、その自信を裏付ける何かがある筈なのだ。


「皆さん。余所者さんをお捕まえなさ~~~い」

「お待ちください。いいでしょうお二方。そこまでわたくしの力を疑うのであれば、実際にお見せしましょう」

「あ、あのあの~……別に眞宮さんをどうこうしようって訳じゃないんですよ? 何でもないなら帰りますし~……」

「分かりました。ではやってみせてください」

「命ちゃんちょっと……!」

「ええ、お見せしましょう。では早速」

「御語吏様の~お告~げ~~」


 スーツの男性の声と共に村人達はその場に膝をつき、眞宮は目をすっと閉じた。


「前田さん」

「は、はい!」


 前田と呼ばれた40代の男性は眞宮を見上げる。


「残念です。貴方はここまでの様です」

「え、は……?」

「申し訳ありません。こればかりはわたくしでも止められないのです。過ちの清算の時が来たと思って諦めてください」

「な、何を言ってっ……っ!」


 立ち上がろうとした前田さんは突然胸を抑えたかと思うと、そのままバランスを崩して倒れ込み、胸を押さえて苦しみ出した。


「覚えておられますよね前田さん。貴方はかつて、神の御子であるわたくしをこの村より追い出した一人でした」

「眞宮さん、何をっ!」


 眞宮を抑えようと動き出した命ちゃんだったが、眞宮はそれを手で制した。


「これはわたくしの力ではありません。わたくしはただ、神の御子として未来を告げるだけ。これを成しているのは神なのです。天誅と言えば良いでしょうか」


 彼女の発言を否定する事は出来なかった。実際『黄昏事件』以降、神の存在は証明されている。あの事件の最中にも神格存在が数体目撃されているのだ。コミュニケーションが取れる個体も居るが、全くこちらの言葉に反応しない者も居た。そのため眞宮市子の『天誅』という発言を完全に否定できないのだ。


「申し訳ありません前田さん。これは天命なのです。貴方に然るべき罰が下ったのです」


 前田さんはやがて動きを止め、ピクリとも動かなくなった。瞳孔は開き切っており、その視線は眞宮へと向けられていた。そんな彼の目を閉じさせると、眞宮はその場で合掌をして拝み始めた。


「皆様。前田さんは天へと向かわれました。その御魂は必ずや救済されるでしょう」

「これが御語吏様のお力です。お崇めなさ~~~い」


 異常な光景だった。目の前で人が一人死んだというのに、誰もそれを見て悲しんだり動揺したりしていないのだ。それどころか、見事に彼の死を言い当てた眞宮の事をますます崇拝している様に見える。この村の人間達はほとんど眞宮市子の支配下にあるという事だろう。


「どうですか殺月さん。これで信じて頂けますか?」

「……今のだけでは何とも言えません。ですがもし貴方が本当に力を持っているとして、故意にこの人を殺害したのであれば、殺人罪及び超常法違反に該当します」

「先程も申しましたが、あれは天誅なのです。わたくしはあくまで託宣を授かるだけ。人を呪い殺したりする力は持っていないのです」

「では遺体の精密検査をしても構いませんね?」

「ええ。ご自由にどうぞ」


 それを聞くと命ちゃんは蒐子さんへと再び連絡を取り、死亡した前田さんの遺体を回収して検査に回して欲しいと告げた。専門家が検査をすれば何故この人物が死に至ったのか解明出来る筈である。そしてその原因が分かれば、眞宮市子の力が本物なのか偽物なのかがはっきりする。いずれにせよ今の彼女は殺人の容疑がある危険人物となっているのだ。


「ではその間、また別の予言をお見せしましょうか」

「ええ。やって見せてください」

「いいでしょう。何度でも付き合いますよ。ですがまた後でもよろしいですか?」

「あれあれ、逃げるんですか?」

「違いますよ。わたくしの力はあくまで神の御言葉を基に予言する事です。いつでもその御言葉が聞ける訳ではないのですよ。とても気まぐれな方なので」


 いかにももっともらしい理由だった。しかしそれを嘘だとも真実だとも断定出来ない。あまりにも証拠が無さすぎる。


「その間お暇でしょうし、どうぞご自由にお過ごしください」

「そう言って監視する感じじゃないですか?」

「監視など致しません。神がどうなさるかは知りませんけれど……」


 そう言うと眞宮達はその場から立ち去っていった。同じ村に住んでいる人間が亡くなったというのに、前田さんの遺体はそのまま路上に放置され、誰も傍に居ようとはしなかったのだ。そのため私達は遺体に何らかの偽装が行われない様にその場で回収班が到着するまで待つ事にした。


「どれくらい掛かるって?」

「『ポータル』を使ってくるからすぐみたい」

「あれあれ、『ポータル』あったんだ? それ使って来れば楽だったじゃん」

「もしもを避けたかったの。眞宮市子は少なくとも予言者という形で通ってる。もしその力が本物で、先手を打たれたらまずいでしょ」

「でもでも、それって電車でも言えない?」

「多分だけど眞宮市子は威厳を保とうとしてる。だから無関係の人間を巻き込む事はしないと思う」

「この人は死んじゃったけどね」

「……さっきの眞宮の発言が事実なら、少なくとも彼女がここから追放される事になった時にそれを進めた一人でしょ。完全に無関係な人とは思えない。むしろ最高のパフォーマンスになってた」


 確かにパフォーマンスとしては最適だっただろう。かつて眞宮市子を追い出した人間が天誅という形で死亡すれば、ますます彼らは眞宮のご機嫌を取ろうとする。次は自分がターゲットになるかもしれないからだ。そしてご機嫌を取っていれば、その予言の恩恵を受けられるかもしれない。そう考えるだろう。自分の立場を強めるのにこれほど適したやり方は無いだろう。甘い汁を啜るかそれとも死ぬか。この二択で後者を選ぶ人間はそうそう居ない。


「命ちゃんはさ、あの力って本物だと思う?」

「何とも言えない。何かのトリックを仕込めば時間差殺人は可能だと思う。でもそれだけだと力を持ってない証拠にはならない。もしかすると本当に予言してる可能性だってある」

「じゃあじゃあ、もし力が本物だったとしたら?」

「……もしこれが故意の殺人じゃないにしても確保はしないといけない。これが神からの寵愛だっていうなら放置するのは危険すぎる」

「だねだね。放っといたら何起こすか分かんないし」


 眞宮市子にはまだ謎も多かったが、まずは何故前田さんが亡くなったのかを調べるために、回収班の到着を待つ事にした。

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