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特異事例調査員 日奉菖蒲の調査ファイル  作者: 龍々
case16:月見れば ちぢにものこそ 悲しけれ 我が身一つの 罪にはあらねど
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第54話:咎来たる 因果を紡ぐ 厄付きよ 世が忘れども 厄月忘れじ

 玄関で命ちゃんを待っていた私の中に、嫌な予感が募っていた。そもそも何故か家の周りが海になっているというだけで異常事態な上に、命ちゃんには違うものに見えていた。今自分達が見ているものがどこまで正しいのか分からない状態で、一人で行動させるのはまずかったのではないだろうか。

 どうしても不安になった私は命ちゃんの後を追って魔姫ちゃんの部屋に入る事にした。見てみるとドアは閉じられており、命ちゃんの姿はどこにも無かった。あの魔姫ちゃんがすんなり入れた可能性もゼロではなかったが、それは自分の中にある印象とは少し違う様に思えた。


「命ちゃん? 魔姫ちゃん?」


 ドアノブに手を掛けながらノックをするも返事が無い。どちらの返事も無いというのはやはり異常であり、意を決してドアノブを捻ってみると簡単に中へと入る事が出来た。


「え……」

「姉ちゃん! 姉ちゃんっ!」


 異様な光景だった。部屋の真ん中では命ちゃんが仰向けに倒れており、自らの手を使って自分の首を絞めていた。魔姫ちゃんはそんな姉の異常な行動に動揺しつつも、何とかその手を引き離そうと引っ張っていたが筋力の違い故か上手くいっていなかった。


「命ちゃん! 魔姫ちゃん!」


 すぐに駆け寄り魔姫ちゃんへと加勢する。しかし命ちゃんは想像以上に鍛えているのか、首に掛けられた手はビクともしなかった。瞳孔は開いており何も見ていない様に見え、更に大粒の涙を流し続けていた。


「何が起きてんの!? 何で姉ちゃんっ……!」

「落ち着いて魔姫ちゃん。私が、私が何とかするからさ」


 単純な力技では命ちゃんを止められないと感じた私は、しーちゃんに語り掛けて自らの魂に固着させる。普段使いしているあの技であれば、ひとまず動きを封じる事が出来る。


「魔姫ちゃん下がってて。危ないからさ」

「な、何すんの……姉ちゃんに酷い事すんな……!」

「今回だけ見逃してね。今はこれしか思いつかなくて……」


 命ちゃんの手によって首はほとんど見えなくなっていたが、僅かに覗いている部分へと目掛けて蛇を模した突きを入れる。自身の霊素を流し込む事によって魂のアレルギー反応を引き起こさせる『霊拳 蛇痺咬』であれば、一時的に体の自由を封じる事が出来る。魂と肉体は密接に繋がっているのだ。


「っはぁ……!」

「命ちゃん聞こえる!? 命ちゃん!」


 即座にアレルギー反応が発生し、命ちゃんの両手から力が抜け落ちる。そのおかげで何とか自分で首を絞めるという現状を打開する事は出来たが、根本的な解決には至っていない。彼女にこういった事をさせた者が何者なのかを特定しない限り、何度も同じ事が繰り返されるだろう。


「魔姫ちゃん、何か服とかある? 上着とかでいいんだけど」

「な、何に使うの……?」

「命ちゃんをがまたやらない様に手を縛っとく。急いで」

「わ、分かった……」


 魔姫ちゃんは目の前で姉が自殺図ろうとしていたせいで激しく動揺していたが、何とか平静を保とうとしているのが窺えた。

 魔姫ちゃんが箪笥の中から服を一着取り出し、命ちゃんの手を縛っている間に話しかける。


「命ちゃん聞こえてる? 私の声聞こえてたらまばたき一回して。答えられそうになかったら二回ね」

「……」


 パチリと分かりやすく瞼が動く。


「何でああなったのか分かる?」

「……」

 

 反応は無かった。答えられそうにないというよりも、私と同じ様に誰がこうなる様に仕向けたのかが分かっていないといった感じだった。

 手を縛り終えた魔姫ちゃんはその場に座り込んだまま最愛の姉の手をぎゅっと握り続けていた。


「……魔姫ちゃん、魔姫ちゃんにも聞いてもいいかな?」

「ふざけんな! お前が来たからこんな事になったんだ!」

「落ち着いてって。私にも命ちゃんにも何でこうなってるのか分かんないんだよ」

「ふざけんなぁ……」

「……魔姫ちゃん。ゆっくり思い出して。何か変な事は無かったかな? 変な物を見たとか、聞いたとかでもいいよ」


 魔姫ちゃんは嗚咽を漏らしながら涙を流していたが、数回深めの呼吸をすると声を震わせながら話し始めた。


「音……音が、した……」

「音?」

「窓に何かぶつけられるみたいな音……」


 魔姫ちゃんの部屋にある窓を見てみるとカーテンが閉められており、外からの光もほとんど入って来ない状態になっていた。


「開けたりした?」

「窓は開けてない……でも、でも呼ぶ声がして……」

「声?」

「アタシの名前っ……『魔姫ちゃん』って……」


 彼女の名前を知っている人間は決して少ないとは言い難い。クラスメイトや少なくともJSCCOの人間は知っている。だがそれ以外の人間には知られていない筈であり、警戒心の強い彼女が呼ばれたくらいでそっちに引き寄せられるとは考えにくい。


「その後は?」

「姉ちゃん、呼ぼうとして……ドア開けた……」


 その発言には少し違和感があった。私がここに来てから魔姫ちゃんが部屋の外に出た様子は無かった。もしそれよりも前に出たのだとしても命ちゃんが気付いてる筈である。


「命ちゃんに言ったの?」

「わ、分かんない……姉ちゃんが居て、話した。でも、そしたらさっき姉ちゃんが入って来て、そしたら……急に……」


 どうやら魔姫ちゃんは二回命ちゃんに会ったらしい。家族なのだからおかしくはないのだが、彼女自身も理解が及んでいない様子からその時点で何かを仕掛けられた可能性が高い。本来であれば存在しない筈の海などが見えている事から、何らかの認識改変能力を仕掛けられているのかもしれない。


「……他には何か変な事あった?」

「姉ちゃん、服が何か違ったかも……」


 詳しく聞いてみると、一回目に会った時の命ちゃんは何故か夏場だというのに黒いコートを着ていたらしい。今の命ちゃんの服装を見てみると、とてもコートとは言えない薄手の物を着ていた。そして黒いコートと聞いてすぐにあの人物を思い出す。身元不明のあの謎の人物を。


「まさか……」

「な、何……何なの……?」


 もし魔姫ちゃんが会ったのがその人物だとすれば、既にこの場所がバレているという事になる。あの人物の目的が何なのかは不明だが、少なくとも私達を殺そうとしている事だけは確かである。今まではあくまで群衆に混じっている一人という形で仕掛けて来ていたが、ついに直接攻撃を仕掛けて来た。関係無い魔姫ちゃんまで巻き込もうとしているのだ。

 どうしたものかと頭を悩ませていると命ちゃんが体の自由を取り戻した。どうやらもう問題無いらしく、落ち着いた様子で手を縛っている服を解こうとしていた。


「姉ちゃん!」

「ごめんね魔姫……怖かったよね……もう大丈夫だから」


 命ちゃんが泣きついた魔姫ちゃんを宥めている間にその手を縛る服を解く。流石に彼女一人では出来ない様なので手伝いながら、魔姫ちゃんから聞いた事を確認のために話す。どうやら命ちゃんもこの事は初めて聞いたらしい。


「どう思う命ちゃん?」

「……どこかで尾行されたのかも」

「心当たりとかある?」

「全然……。でもここがバレてるならまずい。多分その人は、あたしや菖蒲ちゃんを殺そうとしてる」

「うんうん。それは私もそう思うな。まずはここから出なきゃだけど……」


 狙われる理由が全く無いとは口が裂けても言えない。今まで色んな事件に関わってきたのだ。私達に敵意を持っている存在などいくらでも居るだろう。だがあれが誰なのかはまるで見当もつかない。顔も丁度見えない様な立ち振る舞いをしており、あくまで事故に見せかけて殺そうとしてきた。


「……魔姫、立てる?」

「うん……」

「命ちゃん命ちゃん。これをやってるのがあの人なのかは分かんないけど、もし違うコトサマが絡んでるならそれを何とかしなきゃだよ」

「そうだね……幻覚、あるいは何かの改変能力を疑った方がいいかも」


 改変の可能性もゼロとは言い難い。だがもし改変能力なのであれば、私と命ちゃんの見ている景色が違っていた事に説明がつかない。だが幻覚、つまりは認識改変能力なのであれば、複数人に同時に違うものを見せる事が出来るらしい。この事から、そういった力を持っているコトサマがこの一件に絡んでいる可能性が高い。


「……さてさて、それじゃどうする?」

「まずは中から探す。菖蒲ちゃん、ステッキが要るから一緒に部屋まで来て」

「うん。一緒に行った方が良さそうだもんね」


 魔姫ちゃんが見た人物が本当にあの謎の女性と同じなのかはまだ確証が持てなかったが、少しでも可能性が出てきた以上は単独行動は避けるべきである。一人で居る所を狙われると命ちゃんの様になってしまうだろう。今回は何とか間に合ったが、もし少しでも遅れていれば命は無かっただろう。


「魔姫、お姉ちゃんから離れないでね」

「ん……」

「いいよ命ちゃん。こっちは準備オッケ」


 命ちゃんは無言で頷き、自室のドアをゆっくりと開いた。

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