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特異事例調査員 日奉菖蒲の調査ファイル  作者: 龍々
case15:悪魔さんは浮かばれたい
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第51話:彼女に出会った時、本当に世界が変わった気がした

本章は、前作「日奉家夜ノ見町支部 怪異封印録」終盤に登場したキャラを登場させています。

 突如ノートパソコンの画面上に走り始めたノイズは数秒程続き、ようやく落ち着いた時には画面に頭部を思わせるCG映像が表示されていた。それには頭髪も無ければ眼球も無い、一切弄っていない素のモデルといった容姿をしていた。

 そんな不気味な映像が現れ警戒しているとそのモデルの口が動き、スピーカーから音声が流れ始めた。その声はどことなく男性的なものを感じさせたが、人間的なものは感じさせず機械で加工している様だった。


「よくぞ見つけたなJSCCO諸君。いや、日奉菖蒲と殺月命か」

「何者ですか? 身分を明かしてください。これは命令です」

「おやおや殺月氏の方は忘れているらしいな。そちらは覚えているかな?」

「……どこかで会いましたよね? 聞いた事ある気がしますけど」

「ふむ……では『でんもん』と名乗れば思い出すかな?」


 その名前を聞いてピンと来た。以前SAGMSと日本超常生物学研究所の一部構成員が共謀して『ケモっ娘事件』を起こした際、裏で情報をJSCCOに流していた存在の名前が『でんもん』であった。加工を行っているため本人の性別は不明だが、この声色は間違いなく『でんもん』であった。


「思い出しました! というか何でこんな所に居るんです?」

「単純な話だ。貴様らを待っていたのだ」

「あたし達を……?」

「ああ、そしてこれにて乙だ」


 『でんもん』がそう告げると画面が大きく乱れ始め、プスプスと何かが焦げる様な音が聞こえてきた。それを聞いた命ちゃんは何かを感じ取ったのか私の手を掴み、窓から外を見ていた文屋さんの所まで駆けて行くと彼女を反対の手で捕まえ窓から外へと飛び出した。外には排気用ダクトや室外機が横付けされていたため地上に転落する事は無かった。

 室外機を足場に壁に張り付き、一体どうしたのだろうかと思っていると、凄まじい爆発音と共に窓から爆炎が飛び出した。


「な、なになになに!?」

「ななな、何が起こったんですかぁ!?」

「……『でんもん』は、あたし達全員を消すつもりだった」

「え……?」

「多分あの部屋にはガスか何かが充満してたんだと思う。匂いがしないから気付かなかったけど……」


 まさか文屋さんが撮ったという窓を閉める写真はこれを示していたのだろうか。『でんもん』にとっては窓を閉めた理由を知られたくはなかった。もしガス爆発を使った暗殺を企てていたのであれば、ガスが外に逃げる様な事態は避けたかった筈である。偶然文屋さんが開けてくれていたため助かったが、もし閉めたままであれば巻き込まれていただろう。


「あ、あの~……その『でんもん』っていうのは? 文屋にも教えて欲しいのですが……」

「……悪い奴。それだけ覚えてればいい」

「ごめんなさい文屋さん。多分喋っちゃいけないやつなんで」

「言っておくけど、あたし達調査員に能力を使ったら違法行為に当たるから」

「わ、分かってます! 本当に危なそうな写真以外はすぐに処分する様にしてますので!」

「命ちゃん、一回下に降りない? ここで立ちっ放しはちょっときついかな」

「そうだね。じゃあ先行するから付いて来て」


 そう言うと命ちゃんは背中からステッキを抜くと、それを足場にしている室外機に引っ掛けながらその場から飛び降りた。しかし地上まで落ちた訳ではなく、一つ下の階にある窓の所に降りただけらしい。

 室外機に引っ掛けられていたステッキが離れ、完全に姿を消したのを合図にする様に下から降りてくる様に聞こえた。私は室外機が外れない様に祈りながらぶら下がると、四階の窓から手を伸ばしていた命ちゃんに捕まえてもらい一つ下に入っていた別の飲食店へと侵入した。どうやら先程の爆発を聞いて既に全員避難しているらしく、この建物に残っているのは私達だけらしい。


「あ、あのー! ふ、ふ、文屋はどうすればー!?」

「えっとえっと、私達が捕まえるんでーぶら下がれますー?」

「こ、ここからですか!? ふふ文屋の専門外です~!!」

「いいから降りてきて。絶対落としたりしない」

「早く降りないとそこ崩れちゃうかもですよ~?」

「分かりました降ります!」


 二人で窓から身を乗り出して見てみると、文屋さんは慣れない動きでおたおたと室外機の下へと足をゆっくり下ろしてきた。そこから何とかぶら下がる様な体勢になり、私と命ちゃんは彼女の腰元に手を伸ばしてこちらへと引っ張り込んだ。文屋さんは何故か部屋に入った瞬間に体を捻ったため、三人共バランスを崩して倒れ込んでしまう。


「……どういうつもり」

「す、すみません! でもこのカメラだけは……」


 文屋さんは首から下げていたポラロイドカメラを大事そうに胸元に抱えながら立ち上がり、命ちゃんの目線から逃げる様に視線を泳がせた。彼女にとっては能力を発動させるための媒体であるため、あれが無くなると困るのだろう。

 命ちゃんは苛立っている様子だったが、外からサイレンの音や野次馬の喧騒が聞こえてきたためかふぅっと息を吐き、一旦外に出ようと意見した。

 揃って外に出てみると救急車や消防車が駆けつけており、中から出てきた私達に怪我がないかと訊ねてきた。事情を説明するため少し離れている様にと命ちゃんから言われた私と文屋さんは、二人で野次馬の群れから逃れる様にその場から離れた。


「大丈夫ですか?」

「ふ、文屋は大丈夫です……。ですがお二人をこんな危険な目に……」

「私達の事は気にしなくていいですよ。これより危なかった事なんて沢山ありますし」

「そ、そうなんですか。文屋よりよっぽどジャーナリスト向きですね……」

「いえいえ。それより文屋さん、文屋さんの能力ってそのカメラじゃないと発動しないんですか?」

「いえ、他のカメラでも大丈夫ですし動画でもいけますよ?」

「え~~とえと……じゃあじゃあ、何でそのカメラで? かさ張るし邪魔になりません?」

「これが一番納得してもらえるからです。スマートフォンとかだと、事前に用意してた画像だとか加工してるとか言われちゃうので。これならその場で撮ってすぐに写真が出来ちゃうじゃないですか」


 言われてみれば、科学やオカルト学がそれなりに発展している現代においては普通の写真データは加工を疑われるだろう。電子データにも干渉出来る超常能力が確認されている以上、オカルト的な技術による加工が行われたと考えられてもおかしくはない。その反面、ポラロイドカメラであれば加工する暇も無いため信じてもらいやすい。もっとも、彼女が自由に写真を改変出来る能力者でなければの話だが。

 

「なるほどなるほど。確かにそれなら加工とかは無理ですね」

「はい! 文屋は真実こそ世界を照らすと考えていますので!」


 文屋さんを見ていれば何となく分かる。彼女は絶対に嘘はつけないタイプの人間である。ここまで真実を追求する様になった理由が何なのかは知らないが、悪意を持って人を傷つける性格ではない。それ故にあの『黄昏事件』に関与してしまった訳だが。

 そんな文屋さんと話していると、説明を終えた命ちゃんがこちらへと歩いて来た。どうやら既に蒐子さんの方にも連絡を済ませているらしく、動ける人員で『でんもん』の捜索を行う事になったらしい。


「捕まえられるのかな? 確かSAGMSの構成員でしょ? 電子関連はお手の物なんじゃない?」

「そうかもね。でも絶対『でんもん』はまた姿を現す」

「何でそう思うの?」

「『でんもん』はあたし達を事故に見せかけて始末しようとした。文屋さんが撮ったノートパソコンからね」

「うん。わざと負荷を掛けて火花飛ばしたのかな?」

「だと思う。だけどその作戦は失敗に終わった。今はまだ『でんもん』もその事には気付いてないと思う」


 命ちゃん曰く、先程の爆発で『でんもん』は私達を始末したと勘違いしている可能性が高いのだという。それは逆を返せば、自分の事を知っている私達に生きていてもらっては困る何かがあるという事になる。その何かの答えは最早明白である。雌黄さんと文屋さんがあのパソコンに関する事を特定している以上、答えは一つしかない。


「『でんもん』は……文屋さんが予想した悪魔実体によるテロリズムの主導者かもしれない」

「そういう事か~……。でもでも、仮にそうだとして『でんもん』に何の得があるの?」

「単純に『でんもん』の正体が悪魔、とかじゃない」

「え~……まさか『デーモン』と『でんもん』を掛けてるって事~……? そんな安直な事あるかなぁ……」

「あくまで予想。……オタクの気持ちなんて分からないよ。だけどこんなやり方をしてくるって事はこっちを危険視してる事に他ならないと思う」

「でもでもどうするの? バレてないにしても、場所が分からないと確保も出来なくない?」

「それなら考えがある。文屋さんにも協力してもらうから」

「は、はい! 何なりと!」


 命ちゃんは文屋さんと私に近くに寄る様に促すと、小声で作戦について話し始めた。彼女が話す作戦は正直上手く行くかどうかは分からなかったが、文屋さんの能力を上手く使えば『でんもん』の特定が可能かもしれないらしい。

 全てを聞き終えた私達はしばらく物陰に隠れながら消火活動を見守り、ある程度騒動が収まった頃合いを見計らうと行動を開始した。私と命ちゃんは規制線を潜り、見張りをしている警察官に事情を説明して爆発が起こったビルの中へと入れてもらった。

 階段を使い上へ上へと上っていき一番上に辿り着くと、そのままドアを開けて屋上へと足を踏み出した。かなり大きな爆発であり外壁が一部破損しているため本来立ち入り禁止なのだが、『でんもん』の所在を特定するにはそれくらいのリスクは背負う必要があった。


「ここでいいの?」

「ええ。このままここで」


 言われた通りに屋上でしばらく待っていると、通信が入ったのか命ちゃんがイヤホンに指を当てた。


「こちら殺月。…………そう。分かった。こっちも主導者の場所が分かるかも」

「……何て?」

「悪魔実体による大聖堂への攻撃が始まったって」

「あれ、予定より早くない?」

「そうだね。現地の対策機関には頑張ってもらうしかない」

「何で急に……」

「決まってるでしょ菖蒲ちゃん。『でんもん』があたし達を観測したんだよ」


 命ちゃんは向かいに建っているビルの屋上に居る文屋さんへと指を指した。文屋さんは手に一枚の写真を持っており、こちらに腕で大きく丸印を作り合図をした。どうやら命ちゃんの作戦が上手く行ったらしい。

 屋上から降りて文屋さんと合流すると、命ちゃんはすぐに文屋さんの撮った写真をスマートフォンで撮影し、蒐子さんへと送信した。


「あの、問題無かったですか?」

「ええ。これだけの情報があれば特定出来るでしょ。決定的過ぎる」


 写真を見てみると、そこには住宅街に立っている一軒の家が写っていた。特にこれといった怪しい点は見られない、どこにでもある普通の家だった。


「えっと命ちゃん、ほんとにこれなの?」

「文屋さんの能力とあたしの予想に間違いが無ければね」

「文屋は嘘なんてつきませんよ! 正真正銘本物です!」

「そう。それで文屋さん、貴方は何を撮ったの?」

「はい。実は殺月さんに言われた通り屋上で待機してたんです。そうしたら何か変な音が聞こえてきて、ふと空を見上げたらドローンが飛んでたんですよ! それも変なアームみたいなのが付いたヘンテコドローンです!」

「ドローンですか?」

「はい! 何となくですけど、菖蒲さん達の方を見た感じの動きをしてどこかに逃げていったんです!」

「それを撮ったんだね?」

「そ、そうです! ほ、ほんとですよ……?」

「確認しただけ。でもこれではっきりした。『でんもん』は雌黄さんと同じ様に電子機器に自由に介入出来る力を持ってる」


 本来文屋さんの能力は無機物には適応されない。ある程度の知性と隠し事を持っている相手でなければ発動しない。それにも関わらずドローンを撮影してこの写真が撮れたという事は、そのドローンにはある程度の知性が宿っていたという事になる。そしてアームの様な物が付いていたという事は、それを使ってダクトから侵入して蓋を外し、そこからノートパソコンを持ち込んで窓の鍵を閉めたのだろう。


「こそこそ隠れて事故に見せかけようとする相手が確認もせずに終わるとは思えなかったけど、まさかまんまと引っ掛かるなんて」

「犯人は現場に戻るというやつですね!」

「特に『でんもん』みたいなタイプはね。前の時みたいに確認せずにはいられない性分なんでしょ」


 思い返してみれば『ケモっ娘事件』の際も『でんもん』はわざわざ私達にコンタクトを取ってきた。何も言わずに黙っていてもあの時点で彼の目的は遂行されていたにも関わらずだ。それどころか何故あの計画を邪魔したのかまでご丁寧に説明し、お気持ち表明までしていた。自己顕示欲が高く、上手くいったか確認せずにはいられない性格があの時点で現れていたのだ。そして今回それが仇となった。


「あの~文屋にも何があったのか教えて欲しいんですが~……」

「さっきも言った筈だけど? まだ公開されてない情報。もし撮ったら――」

「撮りません撮りませんって! うぅ……気になるところですが今は我慢します……」


 文屋さんがしょんぼりとする中、私と命ちゃんのスマートフォンにメールが入る。見てみると蒐子さんからであり、雌黄さんによる調査により住所が判明したらしい。その場所はやはり住宅街であり、人間もコトサマも普通に暮らしている様な場所だった。超常的な存在が居ても怪しまれない地域である。

 命ちゃんはイヤホンから直接蒐子さんに現場に向かうと告げ、私達三人で向かう事になった。現場までは少しあるため適当にタクシーを拾い急行する。本来であれば雌黄さんに任せてネットワーク経由で侵入してもらった方が早いのだろうが、『でんもん』も同様の能力を持っているのであれば何らかの対策がしてある可能性が高い。そうなると電子生命体である雌黄さんは手も足も出せない相手である。

 しばらくタクシーに乗り続け、やがて住宅街に入った辺りで料金を払い降車した。付近はとても静かであり、紛れて潜むには持ってこいの場所に見える。


「命ちゃん、急いだ方がいいかも。バレてるなら逃げられたりするだろうし」

「……本当にそう思う?」

「どういう意味?」

「雌黄さんは電子生命体、でしょ?」

「う、うん。それは知ってるけど」

「あの人は自分の魂を電子変換したって言ってた。だけどそれは逆に言えば体は変換出来ずにこっちの世界に置いてきたって事だと思う」

「えーとえと、分かりやすく言ってくれない?」

「文屋にも分かりやすくして頂けると~……」

「仮に『でんもん』が雌黄さんと同じタイプだとしたら、本体があの家の中にある筈。そうじゃなくても知られたくない何かをあそこに隠してる」

「でもでも、全身電子化出来るタイプかもよ?」

「それならドローンであたし達を見つけた時にすぐに電波に乗るなりして逃げれば良かった。でもそうせずにドローンごと逃げた。隠さなきゃまずいものがあるから」


 命ちゃんはあの写真に写っていた家の前で立ち止まると、背中からステッキを抜いてそこにお札を一枚貼り付けて剣へと変化させた。


「下がってて……」

「オッケ。文屋さん、危ないんで下がりましょう」

「は、はい。見るからに危なそうですしね……」


 命ちゃんによっていとも容易く玄関は切り開かれ、私達は中へと押し入った。玄関は恐ろしく生活感が感じられなかったが、居間と思しき部屋に入るとそこには凄まじい光景が広がっていた。壁一面には何かのアニメのポスターらしき物が大量に貼られており、いくつもあるガラス張りの棚にはまるでどこかの店舗の如くフィギュアが並べられている。更には薄型テレビやゲーム機、様々なゲームソフトまで存在しており、まさにSAGMS構成員の家といった感じだった。


「はぁ……眩暈しそう……」

「ま、まあ趣味は人それぞれだと思うし……」

「す、凄い蒐集家魂を感じる部屋ですね……! 文屋も新聞の切り抜きとか集めてるので気持ちは分かります……!」

「あたしは分かりたくもない……」


 その部屋はあくまでコレクション部屋なのか異常な物は発見されず、別の部屋を探索する事になった。キッチンなども見てみたものの、冷蔵庫には一切の食料が入っておらず調理場には埃が積もっていた。

 その後他の部屋も見て周ったものの気配一つ無く、物音すらしなかった。しかし以前SAGMS構成員である『あわあわ』こと泡影ほうようの家に侵入した経験があるため、何となく想像はついていた。


「命ちゃんこれさ」

「そうだね。大方ここに……」


 命ちゃんが床下収納の扉を開いてみると、そこにはやはり地下へと続く梯子が下りていた。裏で活動している彼らにとってはこういった秘密基地の様な場所の方が落ち着くのだろう。


「な、何だかドキドキしますねこういう仕掛け……!」

「文屋さん、危ないから貴方はここに居て」

「い、いえ一緒に行きますよ! まだ何か隠してる事があるかもしれませんからね!」

「……邪魔はしないでよ」


 命ちゃんは先に梯子を下りていき、その後に私、文屋さんの順で下りていった。地下はやはり泡影の時と同じ様な無機質で人工的な壁によって補強されており、ひんやりとしたその場所ですぐにその異様な存在が目に入った。

 地下は円形の構造をしており、中心には筒の様な見た目をした大きな機械が鎮座していた。その筒からはケーブルが大量に伸びており、その先にはこれまた用途不明の様々な機械が置かれている。そして筒の一番上には開閉する様な構造をしたアンテナらしき物が設置されていた。


「何これ……」

「妙に冷えるし、やっぱりこれは……」


 その時、突然ケーブルが繋がっている機械の向こうから一体のドローンが飛んできた。下部にアームが付いているそれは、まさに文屋さんが見たというドローンそのものだった。

 最後の抵抗をするために攻撃を仕掛けてきたらしかったが、命ちゃんは邪魔にならない様に私達を後ろに軽く突き飛ばすと、迫ってきたドローンを剣に変えているステッキで両断した。破壊されたドローンは悲鳴の様な機械音声を鳴らしながら床の上に散らばり、アームが小さくもがいていた。


「残念ながら既に特定済みです。悪魔実体を扇動してテロを起こしたのは貴方ですね?」

「グ、ウグ……馬鹿な、何故ココが……」

「もっとよく周りを見ておくべきでしたね。貴方は調査員であるあたし達に注意を向けすぎていた」

「命ちゃんどうする?」

「何もしなくていいよ。すぐに本部から増援が来る。如月さんが要請してくれるって言ってた」


 文屋さんは珍しい形のドローンをもう一度撮っておきたかったのか、散らばっている部品を撮影し始める。


「いや~残念でしたね『でんもん』さ~ん。まさか生きてるなんてビックリですよね?」

「貴方にはテロ等準備罪、あるいは内乱罪が適用されると思います。もちろん黙秘しても構いません。ですが何か理由があるなら話しておいた方がいいでしょう」


 ドローンは沈黙しており、一切の反応を示さなかった。少し疑問に思った私がしーちゃんを固着させて残骸に触ってみると、そこからは一切の魂の存在を感じなかった。目の前にあるそれは冷たい無機物だった。


「命ちゃん命ちゃん! 逃げられてる!」

「……やっぱりか」

「やっぱりって……わざと逃がしたの!?」

「……文屋さん、さっき写真撮ってたけど何か写った?」

「え? うーん……そこにあるおっきい機械だけしか写ってないですけど……」

「そう。それならそれで十分」


 そう言うと命ちゃんは剣に変えたままのステッキをその機械の表面に突き立て、そのままゆっくりじりじりと刺し込んでいった。すると警告音の様なアラームと共に加工音声の悲鳴が響く。


「やめっヤメろ! 貴様ワタシを誰ダト思っているノダ!?」

「ああ、やっぱりそうだったんですね。貴方が隠したかったものはこれだった」

「おい聞いているノカ!? ソノ妙ちくりんナ棒をすぐにワタシから離せ!!」

「貴方が逃げずに、他の悪魔実体を扇動をした理由を話すのなら考えます」

「クッ貴様人間ノ分際でッ……そういうトコだゾ!」

「あたしはこのままでも構いませんが」

「分かった分かッタ話せば良いノダロう!? 話してヤルカラそれを除けろ!」


 命ちゃんがステッキを引き抜くと、少ししてから『でんもん』が喋り始めた。


「ワタシも昔ハ……悪魔として呼ばれてオッタのだ。それこそ幾人もの人間と契約ヲシ、その願いを叶えてやった。モチロン、魂を頂く場合モあったがナ」

「それは通常の悪魔実体にも共通している点ですか?」

「ああ、ソウダ。貴様ら日本人ニハ馴染みが無いかもしれんガ、我ら悪魔族とはそういうモノなのだ」

「えとえと、それで何であんな事したんです?」

「急かすでない……。ある日、ワタシは謂れのナイ罵声を浴びせらレタのだ。人を誑かし魂を無差別に奪う忌むベキ存在だとナ」

「実際魂奪ってたんですよね?」

「両者合意の上デニ決まってオロウ! そもそも貴様ら人間ガ召喚せねば、我ラはこちらの世界ニ顕現出来ヌノダぞ!」


 『でんもん』曰く、自分達の『魂を盗る』という部分だけが独り歩きし、そのせいで非常に悪いイメージが付いてしまったらしい。しかもその後聖書などが作られ、そういった類のものの中では必ずと言ってもいい程悪い存在として書かれていた。それが彼には耐えられなかったのだという。


「我らハあくまで一つの事業トシテやっていたダケだ。望みは必ず叶えてヤッタ! それだというのに人間共ハあれやこれやと脚色シ、我ら悪魔族を貶めたノダ!」

「それがテロを起こした理由ですか?」

「……それは始まりに過ぎん。実際我らヲ見る事が出来る人間からスレば、我らは悍ましい姿に映るらしいからな」

「では別の理由があると!?」


 文屋さんが食いつく。


「我らハ天界の者共に協力を仰ぎに行ッタ。奴らの言葉デアレバ、人間も聞くだろうと思っテナ」

「……聞かなかった?」

「奴らがだ! あ奴らは我らの言葉を聞きモしなかったノダ! 崇められる立場に甘ンジ、立場可愛さに我らを見捨テタ!」

「あ~だから教会狙ったんですね」

「アレは我らカラのメッセージだ! 我らヲ貶めた人間と天界の者共ヘノナ!」

「理由は分かりましたけど、何でそんな体になったんですか? 私悪魔とか詳しくないですけど、その体不便じゃありません?」


 上部付いているアンテナが開閉し続ける。


「いいや、コレがいいのだ。特に日本デアレバな」

「えとえと……どういう事です?」

「アレはかなり昔ニナルな。人間にも天界の者共にも失望シ、彷徨っている時ダッタ。ワタシはフト店頭に置かれてイルテレビを見たのだ」

「テレビ?」

「世界が変わった様だった! 見た事もナイ麗しい女が映ってイタノダ! 貴様らは見た事があるか? 貴様ら如きデハ比べものにナラン女だ! ポスターとやらも買ってアル!」

「あ~……もしかして上の居間にあったやつです?」

「おお見たノカ! 美しい女ダロウ!」

「……あれは所謂アニメですよ」

「そんな事は一億年と二千年前から知ってオルワ戯けが。確かにワタシも当時はショックを受けた。あれほど心を動かス女が居るトイウノニ、触れる事さえ叶わぬトハ……」

「えーっとぉ……その体になった理由を聞きたいんですけど」

「だから急くデナイ。ワタシはスグにあの女の作品を作っているノガ、ここ日本だと知った! そしてやって来てみればドウダ! びっくりするほどユートピアではないか!!」


 『でんもん』の本体らしき中央の機械が僅かに熱を発する。


「ワタシは驚いた! ここではワタシの様な悪魔スラモキャラクターにし、それを題材にする作品があったノダ!」

「文屋も知ってますよ! お祖父ちゃんの代からあったと聞きました!」

「うむ、ワタシも驚いたゾ。日本デハ我ら超常存在すらも愛される対象にナルのだとな。孤独に戦う悪魔も居レバ、天界の者ト共に人間界で暮らす悪魔も居た! コレコソワタシが望んでいた世界だったノダ!」

「あの~理由になってませんよ~……」

「スマンスマン。つい熱くなってしまった。要はそういった作品ヲすぐニ蒐集出来る様にスルタメだ」

「そっかそっか。今は電子書籍とかありますもんね」

「ウム。出来れば実物で欲しかッタノダガ、居間に置いてあるアレガ限界ダッタ。人目に付かぬ様に夜に買いニ行ったノダガ、やはり体格が違いスギテな」

「だから自分の魂を電子化した?」

「ソウダ。しかしワタシが如何に格式高い悪魔トハいえ、すぐには無理ダッタ。人間共の書籍で学び、プログラミングの知識を得てコレニ至ったのだ」


 命ちゃんの方をチラリと見てみると、『でんもん』の熱いトークにげんなりしている様子だった。


「あーえっとえっと、とりあえず分かりました」

「もう良いノカ? 折角ダ、貴様ニワタシが考案している創作人物と結婚スルタメノ技術を話してヤロウ」

「いやっいいですほんともう十分に聞けたので、はい」

「うむぅ、ソウカ……。ところでフト思ったノダガ、そこの人間は何なのダ? ワタシの調べではそのような人間はJSCCOには居なかった筈ダガ」

「はい! 文屋は、文屋千尋って言います! 今回、お二人のお手伝いをさせて頂いてます!」

「……文屋さんが貴方に関する写真を提供してきたんです。貴方が他の悪魔に指示を送ってる写真をね」

「写真……? 写真ダト……? 馬鹿な、そんな筈ガあるか、ぶっちゃけありえないぞ」

「まあまあそこは引っ掛からなくていいですよ。どうせすぐ捕まるんですし」

「……ウム?」

「忘れたんですか? 『でんもん』さんにはテロ等準備罪が適用されるって命ちゃん言ってましたよね?」

「……」


 中央の機械から強い熱が放出され、冷却用の空気と混ざり合い結露が発生していた。


「待て、待ッテくれ。せめてワタシの願いを聞いテクレナイカ」

「内容によります」

「せめて、セメテ拘置先でアニメを見れる様にシテクレ! ネットワークを繋げてクレレバいい!」

「絶対無理だと思います」

「貴様には人の心ガ無いのか!? 鬼か! 悪魔か!」

「悪魔は貴方でしょう」

「ぐぐぐっ……頼む。セメテ、せめてアニメだけでも……ネットには繋がなくてイイ。だがアニメだけは……」

「貴方だけ特別待遇が許される訳ないでしょう」

「ぐぐーっ貴様ら愚かな人間共メ! ワタシがしてやった施しを忘れタカ! 何度も助けてヤッタというのに、ワタシには何の恩モ無しか!?」

「あたしは貴方に恩はありません」


 その後も『でんもん』はずっと騒いでいたが、当然そんな我儘が聞き入れられる筈も無く、やがて蒐子さんが手配していた部隊が到着した。『でんもん』は必死に抵抗しようとしていたが命ちゃんからステッキを突き付けられ、大人しくドローンの残骸に入るとそのまま専用の異常性抑制効果を持った箱に入れられ連れて行かれた。

 事情を説明するために文屋さんも一緒に連れていかれ、私達は家の外でそれを見送った。


「……はぁ」

「お疲れ」

「ああいうタイプは理解出来ない……」

「まあそこはほら、人それぞれだからさ?」

「そうだね……」

「うん」


 少し聞きにくい雰囲気であったが、ここを逃せばまたタイミングを見失いそうだったため意を決して尋ねる。


「ねぇ命ちゃん」

「何?」

「……えっとさ、聞いちゃっていいのか分かんないんだけどね。前に『異人会』と『コトサマ連盟』が抗争起こした時あったじゃない?」

「あったね」

「あの時に濃紫が言ってた『裏切り者』って、どういう事なの?」

「……」

「あのね、別に命ちゃんの事疑ってる訳じゃないよ? 命ちゃんがお人好しなのは知ってるし。でも命ちゃん何か知ってる感じの反応だったしさ、それに文屋さんも殺月っていう苗字に覚えがあるみたいだった」

「君には関係無いよ」

「もう~今更そういう事言っちゃう? 私達相棒だよ? 名前で呼び合っちゃうくらいにさ」

「プライベートな話だよ」

「でもでもあの時の命ちゃんちょっと辛そうに見えたよ」

「……っ」


 どうしても隠したい事なのか、命ちゃんは黙りこくってしまった。流石に食いつきすぎたかもしれない。


「……まあどうしても嫌なら別に――」

「君は……」

「……うん?」

「君は……菖蒲ちゃんは、あたしがどんな生まれでも、嫌いにならない……?」

「質問の意味が分かんないけど、なったりしないよ。一緒に仕事して命ちゃんがいい人なの知ってるからさ」

「……じゃあ、今度の土曜日に家に来て。理由、話すから」


 そう言うと命ちゃんは「それじゃあ」と小さく別れの挨拶をし、歩いて行ってしまった。彼女が何を隠しているのかは分からないが、少なくとも次の休日には全てが分かるだろう。

 私は燦燦とした太陽に照らされながら賽師匠達の所へと帰っていった。

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