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特異事例調査員 日奉菖蒲の調査ファイル  作者: 龍々
case15:悪魔さんは浮かばれたい
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第49話:【特報!!】謎の倉庫内で行われていた奇妙な集会! それは恐るべき事件の幕開けだった!!

本章は、前作「日奉家夜ノ見町支部 怪異封印録」終盤に登場したキャラを登場させています。

 『SOS事件』からしばらく経ったある日、暇を持て余していた私は霊魂相談事務所へと向かっていた。ねぇねはJSCCOから仕事が入ったらしく家を空けてしまったため、一人ではどことなく寂しかったのだ。今まで一人でもそこまで寂しいと感じた事は無かったが、いざ居てくれるのが当たり前になるとやはり一人は寂しいと感じてしまう。

 事務所が入っている雑居ビルへと入り、三階にあるその扉を開こうとすると中から薄っすらと声が聞こえてきた。扉に嵌めてあるガラスから顔を覗かせて中を見てみると、縁師匠が妙に苛立った様子で事務所内をウロウロと歩き回っているのが見えた。時折応接用の椅子がある辺りに向けて声を荒げて何かを喋っており、いつも冷静な彼女がそこまで感情的になる相手というのが誰なのか想像もつかなかった。

 その時、歩き回っていた縁師匠と目が合ってしまい、こちらへと足早に近付くと少し強めに扉が開かれた。


「菖蒲……」

「あっいやぁ……あはは、ごめんなさいお忙しいですよね~?」

「……ん、そうだね。悪いんだけど、今日は帰ってくれる?」

「そうですね、それじゃあまた来ま~す……」


 必死に感情を抑えようとしている縁師匠を見てきびすを返そうとしたその時、室内から聞き覚えの無い声で私の名前が呼ばれた。

 その人は髪を後ろで二つ結びにしており、肩からはショルダーバッグを、首からはポラロイドカメラをぶら下げている女性だった。どことなく活発そうな印象を受ける人物であり、賽師匠と同年代の様に見えた。


「えっあのあの……」

「あんたは下がってて! 菖蒲の前に出てくるな!」

「いやっ文屋ふみやは謝りたいんですよ! せめてそのくらいは!」

「うるさいこのっ!」

「縁ちゃんダメだって!」


 文屋と名乗った女性に殴り掛かろうとした縁師匠を賽師匠が止める。あの縁師匠が暴力まで振るおうとするという事は、私には計り知れない因縁があるのだろう。


「あ、あのあの~……私ちょっと付いていけてないんですけど~……」

「帰って菖蒲!」

「えっとぉ……日奉菖蒲さん、ですよね?」

「え? ええそうですけど……」

「文屋は、文屋千尋ふみやちひろと言います。四年前の『黄昏事件』……あの時、皆さんに迷惑を掛けた者です」


 文屋さん曰く、『黄昏事件』によりコトサマがこちらの世界に溢れてきた際に、自身が持つ能力によって彼らの存在を社会に広めたらしい。つまり今のこの超常社会を作る元凶の一つとなった人物なのだという。


「えーっとえと……その文屋さんが何か?」

「あの時、文屋は若く未熟者でした……間違った正義のせいで皆さんに迷惑を掛けて、あんな事をしなければ菖蒲さんのお姉さんも……」

「しーちゃん……紫苑の事ですか?」

「そうです! あの事件の後、テレビで見ました。被害者一覧の中に日奉紫苑さんの名前もありました」

「……菖蒲ちゃん、立ち話もなんだから中に入って?」


 賽師匠に促されて事務所へと入ると、文屋さんと向かい合う様にして応接用ソファーに腰を下ろした。文屋さんは終始申し訳なさそうな表情をしており、縁師匠は今にも襲い掛かりそうな程睨みつけていた。


「……えっと千尋ちゃん。取りあえず私は怒ってないから気にしないで、ね?」

「ですが文屋は……三瀬川さんに酷い事をしてしまいました」

「そうだね。正直あの時反対を押し切ってあんたの事殺しておくべきだったって思ってる」

「ちょっと縁ちゃん……」

「返す言葉もありません黄泉川さん……貴方が怒るのも当然です……」

「怒ってる訳じゃないよ。殺してやりたいだけ」

「縁ちゃんお願いだから落ち着いて……」

「えっとつまり~……文屋さんはあの時に迷惑を掛けた人達に謝って回ってるって事ですね?」

「そ、そうです! 許してもらえるとは思っていません! 身勝手なエゴですがせめて謝罪をと!」


 別に今更そんな事を言われても怒る気にもならなかった。彼女が当時どれだけの事をしたのかは分からないが、語り口からして相当とんでもない事をしたのだけは窺える。だが彼女がしーちゃんを直接手に掛けた訳ではない。遠因ではあるのかもしれないが、少なくともその件については無関係である。それにしーちゃんはまだ私の中で生きているのだ。話そうと思えばいつでも話せる。もちろん既にその肉体派失われてしまっており、もうあの懐かしい温もりを感じる事は出来ない。だがそれでも完全に死んでしまった訳ではない。


「別にいいですよ。直接文屋さんが何かした訳でもないんですよね?」

「そ、それはそうですが……こんな文屋を許してくださるんですか……?」

「許すも何も初めから怒ってませんし。それにあの状況じゃ殺るか殺られるかだったじゃないですか、私は目覚めてすぐだったからよく分かんなかったですけど……」

「ありがとうございます! ありがとうございます!」


 文屋さんは応接机に額を擦りつける程に大袈裟に頭を下げた。別に本当に怒ってはいないのだが、これで彼女の気持ちが少しは楽になったのならいいのかもしれない。

 そんな文屋さんに縁師匠の冷たい目線が刺さる。


「用が済んだら帰って。仕事の邪魔」

「は、はい。ですがそのぉ……」

「何?」

「実はそのぉ……非常~~に申し上げにくいんですけども……」

「何!?」

「はいっ! ふ、文屋をここで働かせては頂けないでしょうか!」

「………………は?」


 更に苛立った様子の縁師匠の背中を賽師匠が撫でる。


「えっと……就職希望って事でいいのかな?」

「はい! バイトでも構いません! 何ならタダでも働きます! 雑用でも何でもやります!」

「何でもやるなら出てって……」

「縁ちゃんどうどう……。えっとね千尋ちゃん、ここって看板にも書いてある通り霊魂が専門なの。私や縁ちゃんみたいにそっちに精通してないと難しいお仕事なんだ。菖蒲ちゃんはまあそういうの慣れてるからいいけど、千尋ちゃんはちょっと……」

「お願いします! 文屋のこの力を社会の役に立てたいんです!」

「それやったせいであんな事になったんでしょ!」

「まあまあ縁師匠ちょっと落ち着いてくださいよ~……。あのあの、文屋さんってJSCCOには行ってみました?」

「は、はい。ですがダメでした……」


 どうやら真っ先に出向いて働かせてもらおうとしたらしいのだが、やはり『黄昏事件』での一件のせいであまり良く思われていないらしく、面接にすら通らなかったらしい。コトサマなどの超常存在を相手にする案件ばかりのJSCCOにとって、能力による前科がある人物は使いにくいのだろう。国際的な組織として当然の対応と言える。


「だからここに来た? ふざけないで。あの時私があんたを見逃したのは、それどころじゃなかったからなんだよ?」

「そ、そういうつもりではありません! 本当にお力になりたくて!」

「ごめんね千尋ちゃん……出来れば雇ってあげたいんだけど、千尋ちゃんにはあんまり向いてないお仕事だと思うの……」

「これで分かったでしょ。ほら帰って。帰ってったら」

「実は!!」


 文屋さんは突然大声を出すとショルダーバッグから三枚の写真を取り出した。一枚目にはどこかの倉庫らしき場所で黒いもやの様なものが複数集まっている様子が写し出されていた。


「あんたの能力に付き合う暇は無いんだけど?」

「そ、そういうのじゃないです! これは密告です! 撮れちゃったんです、新たな真実が!」

「撮れちゃった?」

「えっとね菖蒲ちゃん。千尋ちゃんには真実を写真の中に写し出すっていう力があるらしいの。そうだったよね?」

「はい! 覚えていてくださったんですね三瀬川さん!」

「……私は忘れたかったよ」

「あぅ、えっと……すみません黄泉川さん……」

「それでどうしたのかな? そこに写ってるのは?」

「はい! 文屋も最初は分からなかったんですけど、ここの背景見てもらえますか?」


 彼女が指差した場所を目を凝らしてよく見てみると、暗闇に紛れる様にして壁に何かの模様が描かれていた。はっきりとは見えないが魔法陣の様にも見える。


「それ何?」

「実はですね黄泉川さん! 文屋しっかり調べてきました! 色んな図書館で資料を漁って調べましたところ、これは悪魔召喚に用いられる魔法陣らしいんです!」

「うるさい」

「あっ、すみません……」

「じゃあじゃあ、文屋さんはこの黒いのは全部悪魔だって言いたいんですか?」

「そうです。それだけならいいんです。それで次の写真なんですけど……」


 二枚目の写真には倉庫内に置かれていると思われる古い機種のノートパソコンが写っていた。その画面には次の様な文章が表示されていた。


『悪魔族諸君、時は来たり。我らが迫害される時代は終わりを告げた。今こそ反逆の時である。我らに不当な風評を与えた者共に反旗を翻すのだ。実行日は9月9日、午前9時9分とする。新たなる時代を始めよう』


「えっと、これは?」

「悪魔達が何か行動を起こそうとしているんです! 誰かが指示を送ってるんですよ!」

「……千尋ちゃん、三枚目は?」

「これです!」


 賽師匠に促されて提出された最後の写真には、どこかの教会と思われる施設の正面入り口に貼られた一枚の紙が写っていた。かなり遠方から撮影した様な写真であり、その紙になんと書いてあるのかまでは読み取れなかった。


「どこかの教会ですかね?」

「少なくとも日本じゃなさそうだね……。千尋ちゃん、この紙をアップで写した写真はあるかな?」

「いえそれが……何度も撮影してみたんですけど、何回やってもこの角度からしか撮れないんです。文屋の力はあくまで誰かが隠している真実を写す力であって、どんな風に写るかは正直運次第なんです」

「……それであんたは何が言いたいの」

「さっきも見て頂いたかと思いますけど! 悪魔達がテロ行為を起こそうとしているかもしれないんです! 確証は持てないですけど、多分三枚目のこの紙には犯行予告が書かれてるんですよ!」


 つまり文屋さんは、この超常社会を利用して悪魔達が神格存在に攻撃を仕掛けようとしているのではないかと考えているのだ。この場合神格存在とは聖書などに出てくる神々の事である。日本では悪魔がどうこうという概念はあまり無いため、そういった概念が根強い海外が標的になるだろう。


「これは大変な事ですよ皆さん! もし実行されたら何が起こるか予想がつきません! 明確な実体を持たない神格や悪魔なら皆さんの専門なのではないかと!」

「……海外の事は海外の支部に任せておけばいい。他所にもあるんでしょ、そういうの?」

「そうですね縁師匠。国ごとにそういう機関があるみたいです」

「私も菖蒲ちゃんや縁ちゃんが言う様に、その国の人に任せた方がいいと思うかな……。国によってコトサマの種類も違うし、社会情勢も違うからさ……」

「ですねですね。それに全部が全部実体を持たない訳じゃないんですよ? 『黄昏事件』の時だって実体のある神格が出たって話ですし」


 縁師匠は机の上に置かれた三枚の写真を乱暴にまとめると、文屋さんに突き返した。


「分かったでしょ。ここにあんたの居場所は無い。密告したいならJSCCOに行って」

「本当にごめんね……。あっ生活に困ってるならご飯くらいは作るからね?」

「賽は甘やかし過ぎ。……ほら早く出てって」

「ど、どうしてもダメですか……?」

「あんたへの情けが殺意に戻る前に帰った方がいいと思うけど?」

「しっ失礼しました~!」


 これ以上は本当に逆鱗に触れてしまうと察したのか、文屋さんは慌ただしく外へと飛び出していった。彼女が雇ってもらえないのは前科や仕事の都合上仕方がないとは思えるが、私にはあの写真を持ってきた彼女が根っからの悪人にはどうしても思えなかった。もしここであれを見過ごしてしまえば、取り返しのつかない事態になってしまうかもしれない。


「あのあの、すみませんちょっと私出てきます!」

「は? ちょっと……」


 私を止めようとする縁師匠の言葉を無視して事務所から出ると、エレベーターよりも先回りするために急いで階段を駆け下りていった。

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