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特異事例調査員 日奉菖蒲の調査ファイル  作者: 龍々
case14:SOS止めてください
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第47話:SOS アンノウン

 翌日、朝早くから家を出た私は宵野駅で待つ命ちゃんの下へと向かった。ねぇねは未発見のコトサマが関わっているかもしれない事から心配そうな顔をしていたが、それでも私や命ちゃんの事を信じてくれているらしく、優しく見送ってくれた。

 駅へと到着した私は命ちゃんと合流するとすぐに電車に乗り込み、大阪へと繋がっている『ポータル』がある場所へと向かった。その『ポータル』は東京のとある田舎町の片隅で発見されたらしく、シャッターが下りてほとんどが閉業してしまっている商店街を侵食する様にして建てられている施設の中で管理されているそうだ。


「行くよ」

「うん」


 電車を降りて人気の無い商店街にある施設へと入っていく。『ポータル』は時空間異常であるため、予測出来ない現象が起こる可能性がゼロとは言い切れない。そのためこんな早朝でも施設で働いている職員が居り、交代制で働いているらしい。


「大阪までお願いします」


 命ちゃんがそう言うと職員の人はすぐに私達を『ポータル』のある部屋へと案内した。どうやら蒐子さんから既に連絡が行っているらしく、私達がいつでも行ける様にと事前に準備してくれていたらしい。そのおかげで私と命ちゃんはいつもの七色の空間へと足を踏み入れ、あっという間に大阪にある別の施設へと辿り着く事が出来た。

 大阪にある『ポータル』を扱う施設はどうやら川の中央に建っているらしく、外に出てすぐに川が目に入った。もちろん陸地へと続く足場が架けられているためすぐに川から離れる事は出来たが、磁場の乱れを発生させる『ポータル』をこんな場所で管理しなければならないというのはかなり危険に感じた。もちろん『ポータル』はその場所から動かす事が出来ないためこうするしかないのだが、もし何かの拍子にこの建物が壊れれば何が起きるか想像も出来ない。


「ねぇねぇ命ちゃん。あれってどうにかならないのかな?」

「あれって?」

「ほら、あの建物。川の真ん中で『ポータル』を管理するって……」

「あれしか無いんだから仕方ないでしょ。固定化は出来ても沈静化は出来ない。少なくとも今の技術じゃ無理だと思う」

「あれ、コトサマとかから襲われたらアウトじゃない?」

「そのためにあたし達が居るんでしょ」

「まあそうだけど……」


 実際方法が無いのだから仕方がないが、もしあの施設が壊れれば川の水が『ポータル』へと引き込まれ、東京にある『ポータル』から放出される事になるだろう。わざわざ私が心配する事ではないのかもしれないが。

 その後、バスや電車を使って市内を移動した私達は、問題である千里丘の小学校へと辿り着いた。校門には宿直をしていたと思われる教員らしき40代程の男性が立っており、JSCCOから派遣された私達を出迎えてくれた。


「お待ちしておりました。本日は宜しくお願い致します」

「今回こちらに尋ねたのは『SOS』という存在に関する調査のためです。失礼ですが……」

「山田です。山田とお呼びください」

「では山田さん、貴方は『SOS』についてはご存知ですか?」

「はい。実は以前からこの学校で語られている、所謂いわゆる怪談話の様なものです」

「あのあの、実はネットでその『SOS』が起こしたちょっとした騒動みたいなのが載ってたんですけど、あれって事実ですか?」

「騒動というと……旧校舎の窓向こうから顔が覗いていたという、あれですか?」

「それですそれです!」

「それなら存じております。ですがあれはただの勘違いだったのです」


 山田さん曰く、やはりその当時目撃された『SOS』は作り物だったそうだ。『SOS』が目撃されたその時、旧家庭科室では用務員による清掃が行われていたそうだ。そして聞いてみたところ、掃除のためにその場から動かしたりしていたという証言がされたため、子供達が見ていた茶色いギョロ目の怪物は結局作り物を本物と錯覚した勘違いという事だった。


「それは生徒さんには?」

「言ってません。かなりの興奮状態でしたから、言っても聞かなかったでしょうし……」

「それから『SOS』は確認されましたか?」

「いいえ。噂だけは残っていますが、流石に姿までは見られてません。それに……『SOS』は起源もはっきりしているのです」

「あれあれ? そうなんですか?」

「ええ。あれは、この学校で起こったある事件が発端なんです。どうぞこちらへ」


 そう言うと山田さんは敷地内を歩き出した。


「ある年の事でしたが、この学校の生徒が体育館裏のボイラールームに閉じ込められるという事件があったんです」

「それは人為的に起こされたものですか?」

「分かりません。生徒本人に聞くと『高校生くらいの男の人に閉じ込められた』と言っていましたが、結局犯人は見つからなかったんです」

「警察には言いました?」

「はい。それでも見つからなかったんです」


 やがて山田さんは体育館裏にある扉の前で立ち止まり、ポケットから出した鍵を使ってボイラールームへの扉を解錠した。その後、再び歩き始めた彼に付いて少し歩くとすぐに立ち止まった。


「その時、閉じ込められた生徒がこれを書いたんです。これが『SOS』の始まりです」


 見てみるとボイラールームの壁には、何かを強く擦りつけて書いた様な『SOS』の三文字があった。恐らく石の様な硬い物を使って書いたものなのだろう。


「その子は大丈夫だったんですか?」

「はい、怪我も無くその日の内に救助されました。ですがその生徒が話した『誰かに閉じ込められた』という話と、ここに残された『SOSという文字』が合わさってああいった噂が出来てしまったのだと思います」

「……菖蒲ちゃんお願い出来る?」

「うん」


 試しに何か霊的な存在が居ないかを確認するために『不死花』の形を手で作ってみる。しかしこの場所には漂っている霊魂は存在しておらず、少なくとも霊的な存在が関わっている事象ではないという事は分かった。


「……ここには居ないかな」

「分かった。山田さん、旧校舎の近くに倉庫がありますね? そこも見せて頂いても?」

「ええ、構いません。こちらへどうぞ」


 山田さんはボイラールームの鍵を閉めると歩き出し、木造の旧校舎の方へと向かった。付いて行ってみると確かにすぐ隣にトタン屋根の倉庫が建っており、鍵を開けてその中へと入れてくれた。内部は天井まで吹き抜けており、建物二階くらいの高さがあった。その中には様々な備品が置かれており、パッと見た限りだと変わった物は置かれていなかった。


「失礼ですが山田さん、この倉庫はいつも施錠を?」

「昔はそのままにしてたんですが、イタズラしたり備品を盗む生徒が出たので最近は鍵を掛ける様にしてるんですよ」

「あのあの、数年前はまだ鍵掛けてなかったですか?」

「数年前というと?」

「えーっと、私が今高校生なんで、同年代の子が小学生くらいだった時です」

「でしたら当時は鍵は掛けてなかったと思います。あの……それが何か?」

「いえいえ、ちょっと聞いてみただけです」


 天井を見上げてみると薄っすらとだが中央に足跡の様なものが三つ出来ていた。命ちゃんは棒の様な物に靴を引っ掛けて天井に跡を付けたのではないかと考えていた様だが、その形を見ると明らかにその考えは外れていた事が分かった。


「命ちゃん、あれ」

「……あるね」

「靴じゃ出来ないねあれは」


 天井に出来ている足跡は靴の形ではなく、人間の素足の形をしていた。裸足でペタリペタリと逆さまになって歩いたかの様な跡であり、小学生くらいの人物が棒を使ってもこれをやるのは少し難しいのではないかと感じた。


「山田さん、あの足跡はいつから?」

「い、いえ……あんなものがあるなんて知りませんでした」

「そうなんですか? 私の知り合いの人によると当時からあったみたいですよ?」

「何年も前から……ですか?」

「……梯子はありますか?」

「え、ええ。確かのこの辺りに……」


 山田さんは倉庫内から梯子を見つけてくると部屋の真ん中に設置してくれた。命ちゃんは私に支えている様に告げると足を掛けて上へ上へと上り出した。二階分の高さのある天井近くまで届く梯子という事もあってそこそこの長さであり、確かに私が支えていなければバランスを崩してしまうかもしれない程だった。


「命ちゃーん、どうー?」

「……多分本物だと思う。ここだけ埃が付いてない」

「でもさでもさ~それっておかしくない~? そこだけ埃が付いてないって事は、結構最近出来たものなんじゃないのー?」

「……そうだね。山田さん、旧校舎の方も見せてもらえますか?」

「は、はい」


 梯子から降りて片付け終わった私達は、倉庫を出ると隣に建っている旧校舎へと向かった。ここもまた普段は鍵を掛けられているらしく、山田さんが開けてくれた事によって普段は立ち入り出来ないであろうこの場所へと入る事が出来た。電気は点いていなかったが、既に空も明るくなっているため問題無く室内を視認する事が出来た。


「家庭科室はどこに?」

「二階です。あの騒動があった時に用務員が居たのもその場所でした」


 二階へと上がり旧家庭科室へと入ってみると、そこには様々なオブジェが置かれていた。それこそネット上で語られていた怪獣の被り物や何かの絵など、以前この学校に通っていた生徒達が作ったものと思しき物達がそこら中にあった。私は怪獣の被り物へと近寄ると、それを手に取って窓の外を眺める。


「ここからだと向こうの校舎の二階が見えるね。向こうの方がちょっとだけここより低いのかな?」

「それなら位置関係的にその頭だけが窓から出てる様に見えたかもね」

「用務員が動かしたと証言していましたから、間違いないと思います」


 その被り物はボール紙の様な素材で出来ており、表面の触り心地からして絵の具か何かで茶色く塗装しているらしかった。その目はギョロっとした見た目をしており、確かにこれが窓から覗いて動いていればパニックにもなるのも納得だった。


「命ちゃんどう思う?」

「……少なくとも現段階だとコトサマだとは言い切れない。だけどあの足跡……あれだけが引っ掛かる。精巧な足の模型でも作ればやれなくもないけど、そこまでやる理由が見えてこないし……」

「だよね。私も見た感じあんまりコトサマが関わってる様には見えないかな」


 室内にある他の制作物にも触れてみたものの、どれも普通の物品であり異常な性質を持っているとは思えなかった。こういった制作物の中には作者の情念や執念が籠って超常的な現象をもたらす物もあったりするが、そういった現象はまるで見受けられず普通の物ばかりだった。


「……山田さん、念のため他の部屋もいいですか?」

「ええ、もちろんです。何も無いとは思うのですが……」


 実際、山田さんの言葉は正解だった。他のどの部屋を見てみても何も異常な物も現象も無かった。どこにでもある普通の建物であり、ただ使われなくなっているというところ以外は何の変哲も見られない。


「そういえば山田さん、ここって何で使われなくなったんですか?」

「単に古くなったからです。木造ですから安全面を考慮してですね」

「確かに結構古そうですもんね。床とか何かの拍子に抜けちゃいそうですし」


 そうして調べ終わり、どうしたものかと考えていると外が賑やかになってきた。どうやら生徒達が通学してくる時間になっていたらしく、気付かない内にそれだけ調査をしていた様だった。これ以上校内に居ても必要以上に生徒達に不安を感じさせてしまうだけであるため、一度私達は学校から出て調査結果をまとめる事にした。そして山田さんも受け持っているクラスがあるため職員室へと小走りに駆けて行った。

 生徒達の目につかない様に通学時間が終わるまで旧校舎内で待機していると、突然新しい校舎の方から悲鳴の様な声が聞こえてきた。次第にその声の数が増えていき、何事かと窓からこっそり見てみると新校舎の廊下にある窓の向こうで生徒達が旧校舎を見ながら騒いでいた。


「な、なになに!? 何が起きてるの!?」

「菖蒲ちゃん静かに……」

「え?」

「……」


 命ちゃんは窓の内鍵を解錠すると窓を少しだけ開け身を屈めた。私もそれに倣ってその場に屈むと、新校舎の方から生徒達の声が一斉に聞こえてきた。それは全て同一の言葉だった。


「SOSやめてください! SOSやめてください!」


 まるで全員で示し合わせたかの様な男女混ざり合った合唱の様な声だった。

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