表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
特異事例調査員 日奉菖蒲の調査ファイル  作者: 龍々
case10:ジャパニーズ・サイコ
33/91

第33話:未だに気の触れた世界のままだよ

 命ちゃんと別れた翌日、私は早速『霊魂相談案内所』に出向いて事の事情を話した。彼女の妹である魔姫ちゃんには『他所から異常に関心を向けられない』という異常性があり、その力が発動する境界線が分かっていないため二人に協力して欲しいと伝えたのだ。賽師匠は喜んで協力を申し出てくれたものの、何故か縁師匠は話を聞いているのかいないのか上の空といった様子だった。


「縁師匠? 縁師匠!」

「縁ちゃん?」

「……ん、え? ごめん。何?」

「何じゃありませんよ。昨日したメール、見てくれてますよね?」

「ん……そういえば、メール来てたっけ」

「縁ちゃんどうしたの? 昨日ちゃんとメール見てたよ?」

「……ん」


 どうやら縁師匠は既に魔姫ちゃんの異常性を受けてしまっているらしい。『他人から関心を向けられない』という他人からは気付かれにくい異常性ではあるが、こうして実際の状態を見ると明らかに異常であった。しかしここで気になるのは、何故ここに居る人の中で縁師匠だけがこの影響を受けているのかという点である。私と賽師匠、そして縁師匠の間にある違いとは何なのだろうか。


「縁ちゃん、大丈夫?」

「ん、大丈夫」

「お話ちゃんと分かってる?」

「……何の話?」

「あー……賽師匠、一旦縁師匠はそのままにしておいてあげましょう」

「え、でも……大丈夫なのかな?」

「はい。私も魔姫ちゃんの異常性がどこまで出来るのかまだ正確には分かってないんですけど、でも人に危害を加える能力ではないと思うんです。逆に被害を受けるのは本人だけ」

「その異常性っていうのは、本当に合ってるのかな?」

「どういう意味ですか?」

「殺月ちゃんや菖蒲ちゃん、それに魔姫ちゃん本人がそう思ってるだけで、実際は別の異常性なんじゃないかなって……」


 確かに私は命ちゃん本人の証言から『そういう能力だ』と勝手に決めつけていた。あの子本人から直接聞いた訳でもなく、JSCCOでもしっかりとした検査が行われた訳でもない。ただ命ちゃんが言っていただけである。あの証言も彼女自身がそう感じた事柄から推測して導き出したものだろう。だがあの能力に何か他の本質があるとして、私達はそれをどうやって調べればいいのだろうか。JSCCOの人間ですら魔姫ちゃんを認識出来ないらしい。これではそもそも検査すらも出来ない。


「でもでも賽師匠、他の異常性って何ですか?」

「それは私にも分からないけど……でも話を聞いた感じだと反認識能力じゃないと思うの」

「はい。それは私もそう思います。知り合いにそういったものに対する耐性が強い子が居るんですけど、その子でも認識出来なかったんです」

「見えなかったって事かな?」

「はい。写真を見てもらったんですけど、魔姫ちゃんだけが見えてなかったみたいで……」

「……他に見てもらった相手は居る?」

「居ません。でもでも、あの子をいじめてた同級生達には見えてるみたいでした」

「やっぱりそれだと反認識能力とは違う気がするね。でも脳か何かに作用してきてるんだとは思うんだけどなぁ……」


 縁師匠が窓際にある仕事用のデスク奥で椅子に座ってぼうっとしている中、私と賽師匠は二人何か鍵になるものが見つからないかと思案していた。すると事務所の扉がノックされ、外から命ちゃんが入って来た。


「失礼します。今日は話を聞いて頂けると……」

「うん。いらっしゃい殺月ちゃん。菖蒲ちゃんから色々聞いたよ」

「いらっしゃい。何か依頼?」

「あの、黄泉川さん?」

「命ちゃん、悪いんだけど今回は縁師匠はあんまり相談に乗れないっぽい」

「……そういう事ね」

「……何か聞き捨てならない事が聞こえたんだけど」


 縁師匠は少しムッとした表情でこちらに近寄って話に関わろうとしてきたが、命ちゃんが鞄に入れて来ていた写真を応接机の上にすっと置くと、それを見た瞬間突然興味を失ったかの様に元居た場所へと戻っていった。そんな縁師匠を見送ると命ちゃんは私の隣に座り、賽師匠に魔姫ちゃんの事について話し始めた。

 まず一番最初に魔姫ちゃんの異常な力に気が付いたのは彼女が八歳の時だったらしい。つまり小学二年生の時という事だが、その時期から発現したのかそれとももっと前からそうだったのかは命ちゃんには分からないらしい。しかし、当時所属していたクラスの担任から無視され始め、通信簿には不可解な空白が出る様になったそうだ。国語や算数などの基本的な科目の評価欄が全て空欄になっており、美術や家庭科などの他の教師が教えている科目には評価が付けられている事があったという。しかも奇妙な事に他の学年になればその空欄が出来る科目が異なったらしい。ある年では基礎科目がしっかり評価されているというのに、他の年では再び基礎科目の評価欄が空欄になっていたそうだ。


「やっぱり人によって変わる……?」

「あたしはそう思ってます。ただ違いが分からないんです。担任に聞いてみても何も違いが見られなかった」

「ねぇねぇ、美術とか音楽はずっと評価されてたの?」

「少なくとも小学生の間はそうだった筈」

「中学になってからは?」

「……行ってないから分からない。あたしとしても行かせたくない……」

「殺月ちゃん。私ちょっと思いついた事があるの」

「何ですか?」

「魔姫ちゃんが描いた絵とか、作品って言えばいいのかな。そういうの今も持ってる?」

「写真でもいいのでしたら……」

「少し見せてもらってもいいかな?」

「はい」


 命ちゃんは賽師匠に言われた通りに自身のスマートフォンに入っている魔姫ちゃんの絵の写真を開いた。彼女曰く、魔姫ちゃんが四年生の頃に描いた絵であり、リンゴを描いたものと思われる。まだ小学生の頃という事もあり、あまり上手という訳ではなかったが別に下手という程のものでもなかった。


「……菖蒲ちゃん、どう思うかな?」

「え? いえ普通にリンゴの絵だなぁって思いますけど」

「そうだよね。殺月ちゃん、少しこのスマホ借りてもいいかな?」

「え、ええ」

「ありがとう」


 命ちゃんからスマートフォンを受け取った賽師匠は窓際で呆けている縁師匠の所へと近寄ると、声を掛けてその写真を見せた。すると先程まで異常性の影響を受けていた筈の縁師匠は、その絵の写真を問題無く認識し、リンゴの絵に見えると発言した。それを聞いた賽師匠はこちらに戻ると命ちゃんへとスマートフォンを返す。


「何となくだけど分かってきたかも」

「あの、三瀬川さん? 今ので一体何が……」

「一番疑問だったのは、どうして人によって認識出来るかどうかが変わるのかっていう点だったの。それは二人も同じだと思う」

「はい。私もそこが引っ掛かってて……」

「それなんだけどね、こういう事なんじゃないかなって思うの」


 賽師匠は彼女の自論について説明し始めた。その自論というのは『魔姫ちゃんの能力は相手が持つ他者への関心の強弱によって変わるのではないか』というものだった。つまり昔から霊の姿がくっきりと見えて超共感能力を持つ賽師匠や、他人の魂を降霊させて固着させる私、そして家族であり元々他者への関心が強い命ちゃんは魔姫ちゃんの能力の影響を受けていないのではないかという事だった。逆に言えば、縁師匠の様に魔姫ちゃんを認識出来ない人は他者への関心があまり強い方ではないという事になる。


「別に縁ちゃんが冷たい子って訳じゃないの。それは私が一番よく分かってるし。むしろ私達が関心を向けすぎるタイプなんだと思うんだ」

「賽師匠とか命ちゃんは分かりますけど、私もですか?」

「うん。先生、菖蒲ちゃんは優しくていい子だと思ってるよ? お姉さんにJSCCOに入るのを反対されたのに押し切ったのも、困ってる人を助けたいって思ったからじゃないのかな?」

「……まっ、そういう事にしといてあげます」


 やはり彼女に嘘は吐けない。一度心や記憶を読まれているため私が何をどう取り繕おうとしても通用しない。


「それでそれで、その関心がどうこうですけど、いじめっ子達の件はどうなるんですか?」

「それもそのままだよ。誰かをいじめるっていう事は、少なくともその相手に対して一定以上の関心を持ってないとやらない事だよ。その感情が憎悪や嘲笑でもね」

「なるほど……感情はともかくとして、他者にある程度の関心を持っている人なら影響を受けないと……そういう事ですね三瀬川さん?」

「でもでも、それだとあの時の人だかりはどうなるんですか? あの子がいじめられてる時だけ、他の人の関心が強くなってたって事ですか?」

「……悲しいけど、話を基に考えるとそうとしか私には考えられないよ」

「そんな事、起こりえるんですか? だってだって、わざわざいじめられてる人を見に行きます? 止めに行くならまだしも……」

「……菖蒲ちゃんは、SNSとかってやってる?」

「いえ、私は特にやってないです。ネット上のコトサマ調査は他の人がやってるみたいなので」

「そっか。菖蒲ちゃんはやらないんだね」

「……あの、どうしたんですか?」

「うん。ちょっと安心したんだ」

「……そうですね。あたしも少し安心しました」


 一体どういう事なのだろうかと思い聞いてみると、SNS上では時折『炎上』と呼ばれるものが起こるらしい。それは私も知っている単語であり、何らかの言動によって誹謗中傷のまとになるというものである。賽師匠曰く、魔姫ちゃんのあの異常性はこのSNSと同様のものなのではないかと考えているらしい。つまり『誰かからいじめられている、批難されている時だけ周囲の人々から強い関心を向けられる』というものである。そしてそれが止まれば、連動する様にして彼女に向けられていた関心が一斉に喪失する。SNSでの炎上もそれによく似ていると言うのだ。炎上中は大勢の人間が関心を向けて意見を述べるというのに、いざそれが下火になれば、まるで最初からそんな出来事は無かったかの様に放置される。残るのは傷ついた炎上対象とそれが起こったという記録だけである。


「じゃあ三瀬川さん、あの子は……」

「こんな言い方良くないのかもしれないけど、魔姫ちゃんは多分、『SNSの特性そのもの』を持ってる子なんだと思う。普段の魔姫ちゃんは知り合いのフォロワーしか居ないアカウント。だけど何か彼女に少しでも関わりのある事件や事象があれば、何故かあの子がやった事になって厄が巡ってくる……」

「まさか……」


 命ちゃんは何か思い当たる事があるのか、冷房の効いたこの部屋で額から汗を垂らしていた。そして私自身も賽師匠の推測を聞いてあの時の一連の事柄に納得がいった。実際あの時、私がいじめっ子を追い払ってから周囲の人々は魔姫ちゃんに対する関心を失った様に見えた。そしてもし推測が当たりなのであれば、あの時のいじめっ子達は周囲に魔姫ちゃんに関する批難用の情報をばら撒いていたという事になる。もちろん彼女らにその自覚は無いのだろう。


「多分だけどもし今ここで魔姫ちゃんが誰かに批難されたら、縁ちゃんでもしっかり関心を向けて認識出来る様になるんだと思う」

「ねぇねぇ賽師匠、もしそれが本当だとしたらどうすればいいんですか? 家の外に出なければ安全かもしれないですけど、でもでも今のままだと……」

「そうだね……。殺月ちゃん、魔姫ちゃんが何か得意にしてる事ってあるかな?」

「分かりません……」

「え?」

「あの子、部屋にも入れてくれないんです。普段あたしが仕事をしてる時も学校の時も、何をして過ごしてるのか……聞いても何も話したがらなくて……」

「そっか……でもね殺月ちゃん、一度ちゃんと話してみた方がいいと思うの。何か得意にしてるものがあれば異常性の抑制に使えるかもしれない」

「どういう事ですか賽師匠?」


 賽師匠によると、彼女の推測が正しく、本当にSNSと同様の異常性を持っているのであれば、何らかの創作を行いそれを外部に向けて発信する事によって他者からの関心をある程度操作出来るのではないかとの事だった。今の彼女は一部の人間や批難されている時にしか関心を向けてもらえない名無しに等しいアカウントと同じであり、そこに何らかの付加価値を加える事が出来れば現状を多少は良く出来るのではないかと考えているらしい。


「……本当にそれで上手く行くんでしょうか?」

「確証は持てないよ。だけどもし当たってたら、効果はあるんじゃないかと思うな」

「命ちゃん、試しにやってみるだけの価値はあるかもよ。家族なんだったら趣味くらいは知っといてもいいと思うし」

「そう……そうだね……」

「一人で不安なら私も行くよ?」

「…………ごめん、お願い出来る?」

「了解了解。大切な相棒の頼みだからね」

「三瀬川さん、本日はありがとうございました」

「ううん、そんな気にしないでいいんだよ。また悩みがあったら来ていいからね」

「私からもありがとうございます賽師匠! 後で縁師匠にも伝えておいてくれませんか?」

「うん。縁ちゃんには私から言っておくから大丈夫だよ。それとね菖蒲ちゃん」

「はい?」

「人から愛してもらうには、人を愛さないとダメなの。一人の人間としてもだけど……コトサマに関わる一人の調査員としても覚えておいてね」

「……はい!」


 賽師匠からのアドバイスを受けた私は、魔姫ちゃんの異常性を抑えて彼女の心を少しでも救うために、命ちゃんと共に殺月家へと向かって事務所を出ていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ