第28話:≠
※本章は「日奉一族シリーズ」の一つ「真夏の夜と魂結び」とリンクしている内容です。
蒐子さんに連絡を入れてから少しすると、職員の人に連れられて髪を長く伸ばした葦舟簸子が取調室に入ってきた。命ちゃんが読んでいた資料によれば現在彼女は10歳であり、今は都内にある小学校に通っているらしい。彼女の右目は資料に書かれていた通り機能していないらしく、瞳の色素が薄くなっており周囲を見渡す時に左目だけがキョロキョロと動いていた。
「初めまして葦舟簸子さん。お席にどうぞ」
「お姉さんどこ行ったん? まだ検査あるん?」
「ええ、すぐに済むので席にどうぞ」
「そうなんじゃね。ほいじゃ失礼します」
ペコリと頭を下げた彼女はひょいっと椅子に座り、私達の方へと視線を向けた。
「今日は聞きたい事があるんです。あの日、あなたが確保された時の事です」
「ウチとお姉さんが?」
「ええ。天美島……という島があったそうですね。JSCCOの調査によると、その島がある日忽然と姿を消したそうです」
「うん、そうみたいじゃね。ウチもね、何でか知らんけどあん島が無うなったって聞いたよ」
「それは誰からですか?」
「えーとね、お姉さん」
「お姉さんというのは?」
「千草お姉さん」
どうやら簸子と千草の二人の間では出身地が消滅しているというのはお互いに共有しているらしい。
「ねぇねぇ、簸子ちゃん達が居た島って、いつ消えちゃったのかな?」
「んー分からん。ウチな、お姉さんと先生と一緒に船に乗ったんよ。ほいでな、朝になったら無うなっとった」
「無くなるところは見てないの?」
「うん。お姉さんも知らん言いよるし……」
「蒐子さん、天美島の事調べてもらえませんか?」
「いやーそれがですね……凄く資料が少ないと言いますかー……」
「どういう事ですか?」
紙が捲れる音やキーボードを打つ音を出しながら、蒐子さんが天美島の事について語る。
話によるとその島は、何故か時代によって地図に載っていたり載っていなかったりするそうなのだ。ある時代では間違いなく瀬戸内海に浮かんでいたというのに、また別の時代では何故か瀬戸内海にも他の海域にも存在していないらしい。つまり、本当に実在しているのかどうか今の時代では他者からは確証が持てないという事である。簸子が嘘をついているという可能性もあるのだ。
「命ちゃん聞こえた?」
「ええ。……葦舟さん、あなたの証言を証明してくれる何かはありますか?」
「そんなん言うても……ウチあそこにホンマに住んどったし……」
困った様な顔をした簸子を見て賽師匠が優しく語り掛ける。
「住んでた記憶はあるのかな?」
「お姉さん誰なん?」
「私は三瀬川賽。簸子ちゃんのお話が聞きたくて来たんだ」
「賽お姉さん言うんじゃね。ほいでな、記憶じゃけどちゃ~んとあるよ」
「そっか。それじゃあ簸子ちゃん、ちょっと触ってみてもいいかな?」
「え? どうしたん? 別にええけど」
賽師匠の突然の提案に困惑している様子を見せながらも、葦舟簸子は触られる事に抵抗は示さなかった。千草とは違い、あまり警戒心が高くない子なのだろう。賽師匠がそっと彼女の手に触れて記憶を読み取り始める。何をされているのか分かっていないらしく目をパチクリとしていたが、やがて賽師匠の手が離れる。
「……どうですか賽師匠」
「嘘は言ってない……と思う。島での記憶もちゃんとあった。……ねぇ殺月ちゃん、さっき見てた資料に三人目の記録もあった?」
「発見時に死亡していたあの人物の事ですか? 死亡済みとなっていますが一応書かれてました」
「先生の事言いよるん?」
「簸子ちゃん。あの島で先生って呼んでた人って、何て名前だったか覚えてるかな?」
「えーと……何て言うんじゃったっけ。確かえーと……ひま、ひまー……」
「ねぇねぇ、もしかして『日奉』だった?」
「あっそうそう! そんな名前じゃったよ!」
「下の名前は分かるかな?」
「下はウチもよう知らん。先生そういうんはあんまし教えてくれんかったもん」
まさかまた日奉という名前が出てくるとは思わなかった。日奉一族は古くからコトサマの類を秘密裏に封印してきた一族であり、私達姉妹は両親を亡くし更に特殊な力があったため一族へと迎え入れられた。そしてそんな彼女らは『黄昏事件』以降、JSCCOの一部に組み込まれた。未だに当主の人は高い地位を与えられているらしいが、最近は忙しいのか滅多に表に出てこない。そんな今では当たり前になった一族と同じ名前を持っているのであれば、資料に残っていない筈が無い。少なくとも日奉姓なのであれば一族の資料に残っていなければおかしいし、すぐに身元が分かる筈なのである。それにも関わらず、今こうして葦舟簸子の口から聞くまでは、誰もその人物が何者なのか分からなかった。
「如月さん、当時発見された三人目の人物について分かってる事は資料に書かれている事だけ?」
「えーと……痛っ……ええ、そうですねー。検死記録も書いてますし指紋も採ってますよ」
「何なん? 何かあったん?」
「……ねぇねぇ簸子ちゃん。簸子ちゃんがその先生と会ったってのって、その島なんだよね?」
「ほうよ。ウチ、昔っから体弱ぉてな~。先生に見てもらっとったんよ」
「それにしては元気そうだね?」
「うん! 何かな~? 本州の方のお医者さんに色々見てもろうとったらいつの間にか治ったんよ。でも先生は凄い偉い人じゃ~って聞いとったんじゃけどなぁ……」
「簸子ちゃんが体弱かったのって3歳から6歳くらいの時かな?」
「ほうよ~。凄いんじゃねぇ~なして分かったん?」
「うん。ちょっとね」
賽師匠の聞き方を見るに、恐らく彼女の体が悪かったのは本当に一時的だったのだろう。持病という訳ではなく、何らかの要因によってもたらされていたという事なのかもしれない。
命ちゃんが机上に置いていた資料を開き、あるページを相手に見せる。
「あなたの言う先生というのは、この人で間違いありませんね?」
「うん、ほうよ。後で知ったんじゃけど、先生、死んでしもうたんじゃね……」
「ええ。死因は心停止となっています。実は彼女のこの死因に嫌疑が掛けられていて、あたし達はそれを調べてるんです」
「けんぎ?」
「疑わしい、おかしい部分があるという事です。何か知りませんか?」
「ウチもよう分からんのんよ……あん時、朝になって目ぇ覚ましたら先生が船ん中で倒れとって……最初は寝とるだけなんかな~思うとったんじゃけど……」
「その時に何か気になる点はありましたか?」
「そんなん言われても~……」
「例えばね簸子ちゃん。船の上に何か変な物が落ちてたりしなかったかな?」
「変なもん?」
賽師匠から誘導された葦舟簸子は少しの間過去の記憶を辿っている様子だったが、やがて何か思い出したのかあっと声を上げた。
「何か、何かな! 鏡っちゅうんかな、それと糸がな、先生とお姉さんの指についとったよ」
「……資料にもそれは書かれてますね。儀式的な意味も効果も無いと書かれてます」
「他には何か無かったかな?」
「えっと、えっとなぁ……うーんでもこれ言うてええんかなぁ……」
「あれあれ? 何か言っちゃまずい事があるの?」
「うん。お姉さんが絶対に人に言うちゃいけんって……」
「それって何なのかな? 私に教えてもらえないかな?」
「そ、それは出来んよ……賽お姉さんは悪い人じゃない思うけど、でも言うたらウチぶち怒られるもん!」
「……うーんそっか。それってそんなに大切な物なんだね?」
「ほうよ。何でかは知らんのんじゃけど、お姉さん家に隠しとるもん」
「そっか。ごめんね無茶言っちゃって」
「ううん、ええよ。賽お姉さんええ人そうじゃもん」
その後、命ちゃんからいくつか質問をしたものの何も有力な情報は得られず、取調は終了となった。これ以上時間を掛ければ千草の方に何かを感づかれる可能性があったのだ。別段何か悪い事をしている訳ではないのだが、警戒しているであろう彼女に必要以上に気付かれるのは避けるべきだった。
話を終えた葦舟簸子は「何か手伝える事があったら呼んで欲しい」と伝え、部屋の外へと出て行った。彼女は千草とは真逆で一切の警戒心を見せなかった。
「ふぅ……」
「お疲れ様命ちゃん」
「謎が増えただけだね……日奉姓に消える島……おかしい事だらけ」
「……ねぇ二人共、ちょっといいかな?」
「どうしたんですか賽師匠?」
「うん。さっきあの子の記憶を見た時に他にも気になるところがあったんだ。まずは千草ちゃんと簸子ちゃん、両方に共通する記憶」
「共通する?」
「あのね、あの二人は島から出るために先生と船を使った。その後沖に出て、そこで千草ちゃんが何かを歌ってたみたいなんだ」
「歌ですか?」
「うん。歌詞はこう。『ねんねこ しゃっしゃりませ 寝た子の かわいさ 起きて 泣く子の ねんころろ 面憎さ ねんころろん ねんころろん』」
賽師匠の口から出るその歌は、どことなく子守歌を思わせる曲調だった。
「『ねんねこ しゃっしゃりませ 今日は 九年さ 明日は あん子の ねんころろ 海詣り ねんころろん ねんころろん』」
「……」
「『死出へ 参った時 なんと言うて 拝むさ 一生 あん子の ねんころろん 出でぬように ねんころろん ねんころろん』……これだよ」
「……子守歌ですね」
「そうなの殺月ちゃん。多分これは子守歌。その後に千草ちゃんは船の上に倒れた」
「それを二人が覚えてたんですね?」
「……って言いたいんだけど、もう一つおかしい点がそこにあるの」
「どういう事ですか?」
賽師匠曰く、先程の千草が歌を歌っている場面を見ているのは、何と簸子と千草本人らしいのだ。間違いなく千草の魂に触れてその記憶を覗いた筈だというのに、何故かその記憶では千草を横から見ているという視点だったそうだ。本人の記憶なのであれば、一人称視点でなければおかしいというのに。
「あ、あれあれ……? 何かそれ変じゃないです?」
「うん、おかしいんだよ。千草ちゃんが自分で自分をあんな風に見れる訳ないの」
「……別人の記憶?」
「有り得ない話じゃないと思うよ殺月ちゃん。菖蒲ちゃんっていう前例がある以上は否定出来ない。さっき千草ちゃんだけを見た時は何かの間違いかとも思ったけど、簸子ちゃんのも見て事実だって分かった。きっとあれは……もう一人の日奉さんの記憶だよ」
「じゃあじゃあ、もしかして……!」
「うん……千草ちゃんの中には、先生って呼ばれてる人が入ってる。正確には憑依してるって言うのが正しいかも」
「では彼女は本来の日奉千草ではないと?」
「そこなんだよね……私達の前に居たあの人が本当に『先生』なのかが分からないの」
「ん~~? どういう事です賽師匠……?」
詳しく聞いてみると、千草の記憶の中には『葦舟簸子を診察していた』という記憶がどこにも存在していなかったらしいのだ。もし彼女が本当に『先生』なのであれば、その記憶も残っている筈である。しかしその記憶は存在せず、それにも関わらず歌を歌っている千草を見ている記憶は残っているのだ。
「魂の形がちょっとおかしかったって言ってたの覚えてるかな?」
「言ってましたね」
「それなんだけどね? 千草ちゃんの魂には虫食いにあったみたいに不自然に欠けてる部分があったりしたの。それで、その内のいくつかは後から継ぎ足したみたいに補修がされてた」
「ん~何かよく分かりませんね?」
「私も何て言えばいいのか迷ってるの……どうして最初の記憶が二つあるのか、どうして変な魂の形をしてるのか、その理由が別人が憑依してるからだとしたら、何で部分的に記憶が無いのか、別人なんだとしたらどうして記憶を見た時に自我が間違いなく日奉千草ちゃんだったのか……おかしいところが多過ぎるよ……」
「……そういえば三瀬川さん、さっきあの子に何か質問してましたけど、あれは?」
「あっそうそう! 記憶の中に変な物が映ってたからね、一応聞いてみたの」
「あれって何なの? 効果無いんだよね?」
「資料にはそう書かれてる。ただ、一つ気になるのがさっきあの子が隠してた物。三瀬川さんには見えたんじゃないですか?」
「うん。あれはね……」
賽師匠によると、簸子ちゃんの記憶の中にはある日記帳らしき物を読んでいる千草の姿が残っていたらしい。朝になって船上で目を覚ました千草の手には糸が結び付けられており、その後、鞄の中に入っていた日記帳を取り出し、読み始めたそうだ。葦舟簸子はその内容までは読んでいないらしかったが、あの証言から考えるに千草にとっては相当大切な物という事だろう。
「その日記、千草さんの記憶には無かったんですか?」
「あったよ。でも読んでる記憶しか無い。あれを書いたのが誰なのかは分からないけど、あの記憶に残ってる感情を見るに……多分『先生』なんだと思う」
「だとしたら彼女自身の記憶に残ってる筈では?」
「それが残ってないの。多分だけど、何らかの理由で記憶が部分的に抜けてて、偶然その日記を書いたところが抜けたんだと思うの」
「……という事はという事は、その日記を見つければ……」
「全てが分かるかもしれないね。もう一人の日奉さんの事も……今の千草ちゃんが何者なのかも」
「……如月さん、日奉千草と葦舟簸子の現住所は分かる?」
「えっはいー。分かりますよ」
「後で携帯に送っておいて」
「分かりましたー。えーっと……聞き取り調査は以上で十分だと思います。証言は後でまとめておきますねー」
「お願い」
取りあえず自分達が今日出来る事はここまでとなったため、三人で取調室を後にした。その後、資料を元あった場所へと返しに行った命ちゃんが戻ってくると本部の外へと出た。蒐子さんが情報をまとめてあの二人の住所についてのメールを送ってくるまでの間、少し休憩をしようという事で全員で『霊魂相談案内所』へと帰った。
帰ってみると不機嫌そうな顔をした縁師匠が待っていたが、命ちゃんも一緒だという事に気が付くとすぐにいつものクールな表情へと変わった。
「ただいま縁ちゃん」
「ん、おかえり。殺月も一緒なんだ?」
「そうなんですよ縁師匠~。ちょっと休憩に来たんです」
「あの、お邪魔でしたら……」
「ん、気にしなくていい。座ってて、お茶でも淹れるから」
「あっ縁ちゃん。私も手伝うよ」
そう言うと二人の師匠は給湯室へと足早に入っていった。命ちゃんは流石に縁師匠の態度の変わり方に気付いたらしく、少し気まずそうに立ったまま座ろうとしなかった。
「ねぇ菖蒲ちゃん……あたし、やっぱり邪魔なんじゃないの?」
「いいよいいよ~縁師匠って基本あんな感じだし。かっこつけたいんだよ他の人の前だと」
「いやカッコつけというか……」
「ほらほらいいからいいから。横座りなよ」
「……じゃあ、失礼して」
命ちゃんは失礼のない様にと気遣ってか、そっと私の隣に座ると無線を切ってイヤホンを外した。考えてみれば彼女にとってはここはアウェイな空間なのだ。来るのは初めてではないが、私と比べれば居心地の違いはかなりあるだろう。
そんな彼女と二人で師匠達の事を待っていると事務所の扉がノックされた。普通依頼人であればノックもせずに入ってくる事がほとんどなのだが、何故か誰も入ってこようとはしなかった。
「菖蒲ちゃーん、お願い出来るー?」
「はーい!」
流石に何もせずに座っているのもどうかと思ったため自分が対応する事にした。ノブを掴んで扉を開ける。
「はいはーい霊魂相談案内所でーす」
相手は客だろうと考えフランクで接しやすい態度で出てみたものの、そこには誰も居なかった。その代わり足元に封筒が一枚落ちていくのが見えた。どうやら扉に挟んであったものが開けられた事によって落下したらしく、間違いなく誰かが意図的にここに置いていった物だった。
何か事情があって身分を明かせない人からの依頼かもしれないと考えた私は、差出人が書かれていない封筒を拾って事務所の中へと持ち込んだ。
「誰だったの?」
「それが誰も居なくて……代わりにこれが落ちてた」
「封筒?」
「うん。賽師匠ー! 何か来てましたー!」
私に呼ばれて賽師匠が小走りにやって来る。
「ごめんねお願いしちゃって。それ何?」
「開けたら誰も居なくて、これが落ちてたんです」
「あーたまにあるんだよね……」
「そうなんですか?」
「うん。肝試しに行ってほんとに呪われちゃったから助けて欲しいってね……。ほら、学校とかじゃ禁止されてるでしょ?」
「あー確かに」
コトサマと共存する社会になってオカルト技術が発展した事によって、幽霊が居る場所居ない場所がより明確になった。更に危険な幽霊、危険じゃない幽霊の区分もより正確に行われ、それによって肝試しなどは何も起きない場所でのみ許可されている。もちろん法律などではないが、ほぼ暗黙の了解といった状態である。そんな社会であるため、本物の霊が出る場所で肝試しを行ったと公になりたくない人も居るらしい。もちろん賽師匠達がそんな個人情報を誰かに話すとは思えないが。
賽師匠は封筒を開けると中から葉書の様な紙を取り出した。それを見た賽師匠は怪訝そうな顔をして固まった。
「あのあの……賽師匠? どうしたんですか?」
「いや……これ、何だろうと思って……」
「何って、依頼内容が書かれてるんじゃないんですか?」
「うん。これ……」
そう言ってこちらに向けられた葉書の表面には奇妙な点があった。まず宛名の部分はこの事務所の名前が書いてあったのだが、何故か差出人の部分には殴り書いた様にひらがなで『わくごうく まがれ』と書かれていた。
「三瀬川さん、それ……」
「やっぱり変だよね? 何なんだろうこれ……」
「三瀬川さんそれをこっちに――」
そう言って命ちゃんがその葉書を取ろうとした瞬間、給湯室から何かが破裂する様な音が聞こえた。あまりにも突然の事に三人共固まってしまったが、一足先に我に返った賽師匠が駆け出し、それに続く様にして私達も給湯室に足を踏み入れた。
「縁ちゃんっ!!」
「えっ……」
「まさか……」
給湯室内にあったガスコンロが小規模な爆発を起こしたらしく、コンロ周りが酷く焦げていた。そしてその向かいの壁にもたれかかる様にして縁師匠が座り込んでおり、その首には小さな筒らしき物が突き刺さっていた。見てみると部屋の隅に口が破損したヤカンが転がっており、爆発の衝撃でその口部分だけが飛んで突き刺さった様だった。
賽師匠と並ぶ様に駆け寄る。
「縁師匠!」
「……落ち、着いて……大丈夫……」
「で、でも……」
「それ、よりっ……何か、仕掛けられてる……急に、急に爆発し、たから……」
「……三瀬川さん、それ」
「え、じゃあ……」
「貸してください!」
命ちゃんは葉書を引っ手繰るとそれに額を当てながら目を閉じて集中し始めた。そんな中、縁師匠の目から生気が消えていき、ついには全身の力がガクリと抜け落ちていった。
「……賽師匠」
「私の責任だ……私がちゃんとしなかったから……」
「落ち着いてください。縁師匠なら大丈夫。それは賽師匠が一番知ってる事でしょう?」
「そうだけど……でも……」
「まずはあの葉書を仕掛けたのが誰なのかを調べましょう。考えたくないですけど、もしかしたらって事もあります……」
命ちゃんが何をしてるのかは分からなかったが、今しなければならない事はまずあの葉書の仕掛け人と、この現象を起こしているメカニズムの解明である。もしあの葉書に呪いの力があるのであれば、必ず何らかのオカルト的なメカニズムが存在する筈である。ここに蘇芳さんが居ればパズルとして簡単に解呪してくれるのだろうが、今は自分達の持てる知識の範囲内で何とかする他無い。
次に何が起こるか警戒しながら、私と賽師匠はゆっくりと腰を上げた。




