第26話:じゃあ何ですか、私の霊素な広告は無意味だったってことですか!?
大百足の背中に乗った私達は凄い勢いで遠野地区を駆け抜けた。時折、急に雪景色が姿を現したりなどここの空間が私達の住んでいる世界とは違って大きく歪曲しているのが窺えた。雪に擬態するコトサマなどは確認されているが、そういった者の影響を受けているのではなく純粋に最初からそういう場所なのだと大百足は語った。遠野地区と私達の世界は基本的にお互いに不干渉を貫いているため、何故そうなっているのか考えたところで恐らく解明出来る日は来ないのだろう。
しばらく走っていた大百足はやがて山の上に乗っかるかの様にその巨体を止めた。どうやらこの場所が境木峠らしく、見てみるとここはまだ開発があまり進んでいないのか山奥にある寂れた村といった雰囲気だった。
「着いたで。我はここで待っとく」
「ありがとうございます。ほーら命ちゃん降りるよー」
「絶対に動かないでくださいねこんな所で遭難するなんてボクは真っ平ゴメンですので」
命ちゃんを抱き抱えながらそっと地面に降りて周囲を見回してみると、草が生い茂っている中に獣道の様なものが一つ出来ていた。普段からそこを誰かが通っているのは確かであり、そこだけ草が踏みつけられた様に倒れているのだ。そしてそんな獣道を塞ぐ様に木で作られた看板が一本立てられていた。
「えーとえーと……『部外者ノ立チ入リヲ禁ズ』?」
「構いませんボクらは仕事で来ているのですからこれは法的措置です、さあ行きましょう」
いつの間にか雌黄さんの映っているスマートフォンは看板の向こうへと侵入しており、命ちゃんの体の自由も戻り始めたため彼女の後を追う事にした。
「ほら命ちゃん行こう。この奥に弥生さんの言ってた『狼』が居るのかも」
「…………帰りは歩くからね」
獣道は本当にそこだけが道になっているだけで、周囲は草が生い茂り木々によって太陽の光もほとんど届かない様な場所だった。命ちゃんはそんな如何にも虫が出そうな場所を歩くせいで常に周囲を警戒していたが、何故かどこにも虫の姿が見えなかった。大百足を見た後だから感覚がおかしくなっているとかではなく、最初からここには虫が存在していないといった様子だった。それどころか他の動物の姿すら見えず、空気が段々と冷えてきているのを肌で感じた。
「ねぇねぇ命ちゃん、ここ何かおかしくない?」
「ずっとおかしいでしょ……何も居ないだけマシ」
「私ね、何となく思ってるんだけど、ここってもしかして――」
突如私の声を遮る様に狼の遠吠えが聞こえてきた。木々によってその声は反射し、どこから聞こえてきているのかも分からない。そもそも基本的にコトサマしか居ないこの遠野地区において、聞こえてきている声が本当に発されているものだと言い切れる保証は無かった。『聞こえてきている』という認識の歪曲を掛けられている可能性すらあるのだ。
「雌黄さん雌黄さん! 今のって!」
「薊さんが語っていた狼でしょうね、今ボクの中にあるデータから該当する鳴き声を検索してみたのですが何故か検索に引っ掛からないのですつまり生意気な事にボクでさえ知らない種である可能性が高いですね」
「じゃあじゃあ、未知の種って事ですか?」
「あるいは既存の生物種から逸脱した存在つまりコトサマの類かもしれません」
「全員気をつけて……何か近付いてる……」
命ちゃんのその一言により一瞬で場がピリつく。足を止めて耳を澄ませてみると遠くからガサガサと何かが近付いてきている音が聞こえてきた。命ちゃんが背中からステッキを抜き構えようとしたその瞬間、木の影から犬の様な見た目をした生物が飛び出してきた。その生物はこちらから少し離れた所で立ち止まっており、威嚇をしながらそれ以上は近付こうとしなかった。更に他の木陰からも似た容姿を持った存在が姿を現し、私達はあっという間に囲まれてしまった。
「まずい、既に囲まれてた……」
「……ここって下手に戦っちゃまずい感じだよね命ちゃん?」
「ええ。一応不干渉体制だから、もし手を出せば問題になるかも……」
「……ふむ。少しよろしいですか皆さん」
雌黄さんが周囲の犬達に語り掛ける。
「鳴き声は知りませんでしたが貴方達の容姿に関してはデータがあります、一度見た事がありますよ」
「えっ、何か分かったんですか雌黄さん?」
「はい、彼らの容姿はかつて確認されていたニホンオオカミに酷似しています」
「ニホンオオカミ……確か、既に絶滅してる?」
「はい。狂犬病や駆除運動、狼信仰など理由は様々語られていますがはっきりとした事は分かっていません、ただ確実なのは彼らが既にボク達の住む現世には存在しておらず絶滅種に指定されているという事だけです」
そんな雌黄さんの言葉を聞いてかニホンオオカミ達は威嚇を止め、散り散りにその場から立ち去り始めた。そんな中、一匹だけ獣道へと足を踏み入れ、こちらを振り返ると上へ上へと登り始めた。
「……付いて来いって事ですかね?」
「恐らくそうでしょうね、ボクに動物の声が分かるアプリでもインストールされいてれば分かったのかもしれませんがあんな怪しさ満点の非論理的なアプリは入れたくないものですね」
「行こう菖蒲ちゃん」
「う、うん」
ニホンオオカミは時折こちらを確認する様にチラチラと振り返りながら獣道を進んでいった。その顔には先程まで感じていた敵意は無く、何を考えているのか分からなかった。しかし、やがて彼が立ち止まった場所に辿り着いた時、私達はこのために案内されたのだと直感した。
目の前には小さな石造りの祠があった。長い間放置されているのか苔の様なものが付着しており、更に所々劣化の影響で欠けている部分も確認出来た。ニホンオオカミはいつの間にかどこかへと姿を消しており、私達とここに居るという『狼』を会わせるつもりだったのだろう。
「……さて、ここが問題の『狼』とやらが居る場所なのであれば対話を行うしかないでしょうね」
「そうですね……命ちゃん、お願いしてもいい?」
「そうだね。こういうのは君にやらせると良くない感じになりそうだし」
「サラッと酷い事言うなぁ……」
「……失礼します! 我々は現世から参りました日本特異事例対策機構の者です! 貴方には嫌疑が掛けられています! 出てきてください!」
数秒後、ギチリという音と共に祠の扉がゆっくり開いたかと思うと白い靄の様なものが飛び出して私達の目の前で人型の形態へと変化し、やがて『ケモっ娘事件』の時に出会った彼女らを思わせる犬の耳が頭頂部から生えた少女の姿になった。
「わおーん! 呼ばれて飛び出てお耳がぴょこん! いつでもあなたの側に居る! おいぬ様だワン!」
「……」
「……」
「……いい病院を紹介しましょうか? 現世ではコトサマも心療内科に掛かれますよ」
「え~? おいぬ様~難しい事分かんな~い♪」
「……殺月さん容疑者は酷い錯乱状態にあるみたいなのでさっさと拘束してください彼女の名誉のためにも」
「……そうだね」
命ちゃんがステッキにお札を貼り鞭へと変化させて近寄ると、『狼』は人間離れした動きで飛び退いた。
「お前ぇ正気かよ!? 来いってそわれでも、俺はうんたじぇ!?」
「……あっ普通に喋れるんだね」
「境木峠の『狼』。間違いありませんね?」
「だったら何だよ。俺は何も悪い事してねぁーぞ」
「ではボクからお話しましょうか貴方は霊素拡散通信塔を利用してボク達が住んでいる現世に特殊な広告を掲載させていますよね?」
「そ、そっだらごと知らね! 証拠でもあるのが!?」
「ネット上で掲載されているその広告をクリックした際に出てくる祠の写真とここの祠の外見が一致しています、言っておきますがボクの記憶力を侮らない方がいいですよ? 全てデータとして記録してありますからね」
「ちっとくらいいいべ!? 生ぎでいぐのもせっちょへぁで!?」
喋る度に聞き慣れない単語が飛び出し、理解をする前にまた次の言葉が出てくるせいで目が回りそうだった。
「あのあの……すみませんちょっと! 標準語で喋ってもらえません?」
「ひょ、標準語っでそっだなこど言われても、俺ぁここの言葉しか知らねぁーがら……」
「……雌黄さん、供述を分かりやすくする事を優先しよう」
「仕方がありませんねボクとしても常に方言を検索しながら記録を取るのは面倒なので好きに喋らせましょう」
「……だって」
「りょ~☆ あのねあのね~? おいぬ様ね~確かにちょ~っと広告出しちゃったかもかも!」
「それが違法だという事は理解してますか?」
「いややばいでしょって話だよね? それはおいぬ様もよ~く分かってるよ? でもねでもね? 『おいぬ様しか勝たん!』ってなってもらわないとやばたんなんだよ~……」
妙に可愛い子ぶった喋り方に少しイラっと来るが、要するに彼女あるいは彼は、自分を信仰してくれる人を探しているという事なのだろう。祠に祀られているという事は何らかの神格として崇められた事があるという事であり、いくらここがコトサマが自由に暮らせる遠野地区だとしても、信仰が完全に消え去れば『狼』も消え去ってしまうだろう。
「要するに分かりやすく纏めると貴方は信仰を集めたかっただけという事ですか?」
「とりまそれな? ここに来てから随分経つけどもうマジガン萎えな訳! やるならナウシカって思ってね? でもここって映えないでしょ? これじゃあおいぬ様詰んじゃう~~ってなったんだけど、あの塔が出来てから『もしかしたら現世に広告出せば微レ存?』って思って出したの~~♪」
「はぁ……分かりました。ではご同行願います。貴女のその行為は不干渉状態を崩す危険な行いです」
「マ? でも~おいぬ様って神ってる神様なワケだし~? 人間さん如きがどうにか出来るって思っちゃダ・メ・だ・ゾ?」
「命ちゃんやっちゃってもいいんじゃない」
「……そうだね」
「わわわっ!? 暴力反対~! そんなの無し寄りの無しだよ~! ぴえん!」
「…………ではこうしませんか? 貴方の拘束はしませんしボクらは現世に帰ります、ついでに貴方を祀った祠も作りましょう」
「お? 話せば分かるね~! あざまる水産!」
「ただし、貴女の行為を黙って見過ごす事は出来ませんしこの事については上層部に報告させて頂きます」
「うんうん! おいぬ様的にはお好きにどうぞって感じだよ~♪」
『狼』は要求が通って完全に図に乗っている様子だったが、次に出た雌黄さんの言葉を聞いて顔色が一気に変わった。
「もちろん遠野地区の管理官にも報告させて頂きますよ、不干渉を破ろうとしたので」
「………………マ?」
「マです、当然でしょう」
「待って待って待ってそれだけはちょっと!」
「待ちませんしボクは意見を曲げる気もありません」
「ちょっぎま待っで!」
「何故待つ必要があるのです?」
「んんっ……だってだっておいぬ様的には信者の皆から見てもらわないとメンブレしそうなワケだし~!」
「貴方がどうなろうがボクの管轄ではないので知らないです本来であれば遠野地区の管理官である日守さんの仕事なんですよ、じゃあ何故ボクらがここに派遣されたかというと答えは単純ですね内々に済ませたい問題だからです」
『狼』は大急ぎで祠に手を触れるとこちらを睨む。
「そ、そんな事したらおいぬ様、ここの事全部バラしちゃうよ~……?」
「出来るのであればどうぞ、言っておきますがボクの事は舐めない方がいいですよ貴方以上にネットワークには精通していますし何なら世界中のネットワークを一瞬で停止させる事も出来ますからね?」
「ま…………マ?」
「マです。ほらこれで理解したでしょう素直に諦めてください、大体何が不満なんですか? 外でちゃんと祠を作って祀ると言っているでしょう」
「ば、バラさないで、欲しいんだ……バレたら契約解消されちゃう……」
「あのあの、解消って……霊素通信の事ですか?」
「うん……外で祀ってくれるのはあざまる水産だけど、この通信が無いとおいぬ様、この姿じゃいられないんだよ……」
「貴方の女装趣味のために要求を聞く訳にはいきません」
「じょ、女装って酷いなぁ! おいぬ様は男でも女でも無いんだよ! どっちでも無いの!」
「知りませんし管轄外です日守さんに報告しますので」
雌黄さんの映っているスマートフォンがそこから立ち去る様な位置に居るかと思うと『狼』は大慌てでスマートフォンの下にある空間にしがみつく様にして引き留めた。
「待ってよぉぉぉ~~~!! やだやだやだやだ!! それだけはぁぁぁ~~!」
「透から離れてください邪魔ですよ」
「透って誰ぇぇぇぇ~~!? お願いだからぁぁぁ!」
「貴方恥ずかしくないんですか神格の癖に情けないですよそんなんだから信仰を失うんです」
「何でそったら酷いごど言うんだよぉぉぉおおお!?」
最早神もへったくれもあったものではない様子であり、その泣き様は母親に玩具を買ってもらおうと縋る子供の様だった。あまりの醜態っぷりに命ちゃんも完全にドン引きしており、私も内心みっともないと思っていた。
「あ、あのあの~……さ、流石に可哀想ですし、霊素通信はそのままにしてあげませんか……?」
「それな~~!? おいぬ様を思ってさぁぁぁぁ!!」
「前科がある時点で認められませんし管轄外ですので日守さんに任せます、もしかしたら許してもらえるかもしれませんよ?」
「絶対無理だよぉぉぉお! 秒で切られちゃうよぉおおお!!」
「そ、そんなに厳しいんですか? その日守さんって人……?」
「ぐすっ……た、黄昏事件のあど、同じごどが起ごらねぁーようにここの規定厳しくするって……」
「はぁ……だったらやらなきゃいいのに……」
「ちょっと命ちゃん……」
「だってこのままじゃ死ぬがもしれながったんだもんっ!」
「うーん……わ、分かりました! じゃあじゃあこうしましょう!」
私が出した意見というのはこういうものだった。まず『狼』が遠野地区から現世へと移住出来る様に管理官である日守さんという人物にお願いをする。許可が出れば外へと連れて行き、身分を隠して犬あるいは狼の姿をしたコトサマとしての戸籍を与えて祠も用意する。もし無理なのであれば、今後不干渉を破る危険な霊素通信は行わないと伝え、このままここで暮らしてもらうというものである。いずれにせよ祠は用意するため消滅を心配する必要は無くなる。
話を聞いた『狼』は私の手を握ると腕をぶんぶんさせながら握手をし、雌黄さんと一緒に管理官である日守さんの所へと向かっていった。
「……疲れたぁ」
「菖蒲ちゃん、いいの?」
「何が?」
「あのコトサマは完全にネットから知識を得てた。悪意を持ってやってた訳では無いにしても、あの吸収力は危険な気もする」
「大丈夫大丈夫。包丁と同じだよ。ネットだってどう使うか、ね?」
「……だといいけど。もし次に何かあったら、その時は容赦無く捕まえるからね」
「うん、それでいいと思うよ。あまりに惨めだからあの案出しただけだし、また悪い事したら今度は私も擁護しないからさ」
その後、『ポータル』を使って帰るために大百足の所へと向かったが、また命ちゃんが乗らないと大騒ぎし始めたため仕方なく『霊拳 蛇痺咬』を再び首筋に打ち込み、大人しくさせてから大きな背中に乗って送り届けてもらった。
街へと戻ってみると既に雌黄さんと『狼』が見知らぬ男性と何か話していた。狼の姿に変身でもしてここまで駆け抜けたのだろうかと思っていると『狼』は男性に頭を下げてこちらへと駆け寄ってきた。命ちゃんを抱えていた私は大百足の背中から降りて一言お礼を告げる。
「もうええんか? また来た時は呼べや」
そう言うと大百足は巨体をスルスルと動かしながら街の奥へと消えていった。
「お待たせしました」
「雌黄さん雌黄さん、どうでした?」
「彼の寛大さに感謝すべきでしょうね」
「それじゃあ……」
「激アツ! 激アツだよーーー! 日守さんすこ! すこ!」
「貴方は少しは静かになれないんですか?」
「雌黄もすこだよ! 好きピ!」
「敢えて汚い言葉を使わせてもらいますね? キモイですキショイですその獣臭い手でボクに触らないでください前足を除けてください」
「それってコトサマ差別だよねぇ!? おいぬ様知ってるよ! 今そういうの厳しいんだって!」
「……やっぱりさっきの話は無しにしてもらいましょう」
「待ってごめんイキりましたごめんなさい!?」
体の自由を取り戻した命ちゃんが私を睨みながらしっかりと地面を踏みしめた。
「はぁ……言っておきますが外で何かしたらすぐに捕まえるので」
「うん! うん! あざです! 命の事もすこだよ!」
「まず勝手な事はしない。次に本部に定期健診を受けに来る事。そして――」
「も~! これからワクテカする事がたっくさんあるんだからぁ~そんなテンション下がっちゃう事言わないで――」
凄まじい速さでステッキが抜かれ、距離を詰めようとしていた『狼』の首筋に突き付けられる。
「立場分かってる?」
「お……おこ……?」
「貴方が問題を起こしたからあたし達はここに派遣された。分かる?」
「か、カムチャッカファイアー……?」
「勝手な行動はしない事。分かりましたか?」
「おけぴ」
「は?」
「分かりました」
命ちゃんの鋭い目つきで怒気を込めた威圧感に圧倒されたらしく、流石にこれ以上ふざけるつもりは無さそうだった。
「……えっとえっと、これで任務完了かな?」
「そうですねひとまずは解決と見て問題無いでしょう。お二人共助かりました」
「いえいえそんな、今回私とかほとんど何もしてないみたいなものですし~……」
「そんな事無いよ~? だって菖蒲とおいぬ様は~お友達になったし~アチュラチュだよね~?」
「…………は?」
「いやあのごめんなさい私一応無宗教なんで……まああんな社会に住んでてこんな事言うのも何だけど……」
「え、あ、あれ……? お、おいぬ様の事信仰して、くれてるよね……?」
「え? いやいや別に信仰とかそういうのは特に……」
「マジレスされた……」
「全くネットばかりをやっているとこういう事になるんです貴方はまず普通のやり取りを学ぶ事から始めるべきだとボクは思いますね、はっきり言いますが貴方のその言動はボクを含めた大勢の人を不快にするものだと思いますもちろん貴方のその仮初の容姿さえあればそれだけでチヤホヤしてくれる人は居るかもしれませんですが全員がそうという訳ではないんですよどちらかと言うとむしろ軽蔑する人の方が多い筈です、もっと言っておきますと貴方のそのデザインは少々古臭いものですねいつの時代のアニメですかといった感じですそんな容姿のキャラクターを描こうものなら編集者から一発でやり直しを宣告されるでしょう少なくともボクならそうしますむしろニホンオオカミの姿をしていた方がいいではありませんか、そっちの方がずっと貴方を貴重がってくれる人が出てくると思いますよボクからすればデータベースにある絶滅動物のリストを書き換えなければならないのでやめて欲しいですがね」
「分かった分かった分かったからもうやめてよぉ!? 菖蒲助けてぇ!」
近寄ろうとする彼女に命ちゃんは鋭い視線を向け、私の手を握ると足早に歩き出した。
「帰るよ」
「あ、う、うん」
「NTRれたぁ……あ、でも何かこれ……あっあっ……これが、これが『てぇてぇ』って感情……?」
「……雌黄さんそいつ送り返そう」
「そうですね」
「すみませんもう言いませんですはい」
何やらよく分からない言葉を喋っていた『おいぬ様』が口を噤み、私達は落ち葉を踏みしめながら現世へと帰っていった。




