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特異事例調査員 日奉菖蒲の調査ファイル  作者: 龍々
case7:無怨
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第21話:怨熟

 『餓鬼裏取引事件』から数週間経ち、あの一件に関与していたという裏組織のメンバーが次々と検挙された。閻魔様が貸してくれた浄玻璃鏡じょうはりのかがみの複製の力は間違いないらしく、裏を洗うと彼らが関わっていた立証が出来たそうだ。その後、JSCCO渉外部門の架家梯かけはしさんの手によって手鏡は井戸へと返却され、閻魔王界とJSCCOの間に『超常平和条約』が結ばれたそうだ。これは私達が住んでいる現世とは違う常世などとの間に結ばれるものであり、『双方に超常性を利用した問題が起きた場合、共同で捜査をする』という条約である。

 しばらくは特に事件も起きず、真夏日に熱されながら授業を受けるという毎日が続いていた。しかし、休日という事もあって自宅でぐでっと過ごしていたある日、スマートフォンに蒐子さんから連絡が入っていた。見てみると、『ある村で呪術の類が発見されたものの数が非常に多いため動ける人員には来て欲しい』というものだった。

 特にこれといって趣味がある訳でもなくやる事が無かった私は、この調査に参加する事にした。適当にリュックに荷物を詰め込むとアパートから出て現場への行き方をチェックする。すると私達が住んでいる東京にある片田舎が現場らしかったため電車に乗ってそのまま向かう事にした。


 電車をいくか乗り継いでしばらくするとようやく現場である匪廼原ひのはら村へと辿り着いた。東京にもこんな場所があるのかという程の絵に描いた様な田舎であり、まさに村というのに相応しい場所だった。村中の至る所にJSCCOの調査員らの姿があり、まだ調査は進められている様子だった。そんな中に他の調査員から指示を受けている殺月さんの姿があったため、相棒としての役目を果たすために駆け寄る。


「殺月さーん!」

「……遅かったね」

「これでも急いだ方なんだけどね~……」

「んんっ! しっかり聞いてくださいます?」


 殺月さんに指示を出そうとしていた女性が咳払いをする。日本人離れした美しい金髪に碧眼という『いかにも外国人です』といった容姿をした女性だった。プロポーションのいいスラっとした体に美しい顔、丁寧な喋り方というお嬢様めいた人物であるにも関わらず、山登りでもするかの様な長袖長ズボンという本気の恰好が何ともアンバランスだった。


「すみません」

「反省しているのならいいです。それでそちらは?」

「あっ、えっとえっと! 私は日奉菖蒲です!」

「あら、貴女もそうなんですの? わたくしと同じですね」

「え? じゃあじゃあ、お姉さんも日奉一族の?」


 女性は存在しないスカートをヒラリと手で摘まむ動作をしながら優雅にお辞儀をする。


「日奉蘇芳すおうと申します。どうぞ覚えて帰ってくださいな」

「蘇芳さんですか! えとえと、私も日奉一族の全員を覚えてる訳じゃないんですけど、蘇芳さんっていつからやってらっしゃるんですか?」

「まあそれは追々機会があればお話しますわ。それよりみことさん、菖蒲さん、ここでは私が現場指揮を任されています。しっかりと聞いてくださいまし」

「はい。お願いします蘇芳さん」

「私もよろしくお願いします!」


 蘇芳さん曰く、ここ匪廼原村で呪術らしきものが確認されたらしい。村の至る所で呪いを発生させる事を目的としたであろう札や物品が発見されており、まだ何も起きてはいないもののもしもに備えてこうしてJSCCOが駆り出されたそうだ。村人達は全員村外へと避難させて事情聴取を行っており、何か分かった際にはすぐさま現場に居る蘇芳さんの下へと連絡が入る様になっているとの事だった。


「つまりつまり、私達はその呪い用の道具とかを見つけて、回収すればいいんですよね?」

「そういう事になりますわね。ですが相手はオカルトを使った危険物です。触るのが危険そうであれば必ず手出しはせずに私に報告してくださいな。下手に起動させるすっとこどっこいな真似はしない様にお願いしますわね」

「蘇芳さん。他の方々が発見した呪物に何か異変はありましたか?」

「そういう困ったちゃんは今のところありませんわ命さん。私の方でもチェックしましたが問題ありませんでした」

「でもでも、何かおかしくないですか? それって本当に呪物なんですかね?」

「何とも言えませんわね……呪い専門の私が呼ばれたのですからそうだと思うのですけど……」

「……とにかくあたし達も探してみます。何かあったらお声がけします」

「お願いしますね。私はこの辺りに居ますから。それではお二人には……」


 蘇芳さんから調査ポイントを指示された私達はうだる様な暑さの中その現場へと向かった。殺月さんはこんな真夏日だというのにいつもの様に暑いのか寒いのか分からないアンバランスな服装をしていた。いつも仕事をする時はこの恰好をしているため、恐らく何らかの意味合いがあるのだろうが蘇芳さんも含めて見ているだけでこっちまで暑くなりそうだった。


「殺月さん、蘇芳さんの事は名前で呼ぶんだね~」

「当たり前でしょ。君もあの人も同じ苗字なんだから」

「私の事も菖蒲って呼べばもっと分かりやすくなると思わない?」

「思わない。あたしも君もあくまで仕事上の関係だよ。公私は分けるべき」


 相変わらず釣れない態度だった。彼女の中で私の印象が良くない方だというのは何となく予想が出来ているが、個人的には名前で呼びたかった。幽ヶ見かすがみさんの様にあくまで他人というならともかくとして、仕事上とはいえ私達は相棒なのだ。昔幼い頃に見たアニメでは相棒同士は名前で呼び合っていた。所謂いわゆる魔法少女系の作品で、最初は苗字で呼び合っていた二人が名前で呼び合う様になっていた。私がああいった作品を好きだったとバレればキャラが違うという目で見られるかもしれないが、そんな彼女らの姿に憧れていたのだ。そしてその憧れは、今でも私の中にこびりついている。

 十数分歩き続けた私達はボロボロの民家へと辿り着いた。田舎という事もあって一件一件の距離が離れていたが、この民家は遠目に見ても明らかに老朽化が進んでいるのが目に見えた。周辺には雑草が鬱蒼と生い茂っており、かつて使われていたであろう自転車は長年の屋外での放置ですっかり錆びてしまっていた。


「ここだね」

「殺月さん殺月さん」

「何?」

「私が見てくるよ。殺月さんはここで待ってて」

「何で?」

「や~だってほら……殺月さんって虫苦手――」


 私の口は殺月さんの手によって凄い速さで塞がれた。


「……如月さん」

「えっ、あっはい」

「……過去の呪殺に関する資料をまとめててもらえる?」

「あーはい分かりましたー。もう何か見つけられたんですか?」

「……いいから。やって」

「は、はぁ」


 イヤホンの向こうからゴソゴソと音がし始めたのを確認すると殺月さんは自分のイヤホンのスイッチを切った。


「……日奉さん」

「はい」

「発言には気をつけて」

「いやいや別に隠す様な――」

「返事は」

「はい」

「よし」


 殺月さんは大きく深呼吸をすると雑草の中へと足を踏み入れた。片足がももの辺りまで出ており虫が苦手な彼女からすれば相当な勇気が必要な行為だろう。その表情には鬼気迫るものがあったが彼女のプライドのためにこれ以上は指摘しない様に隣を歩いた。

 玄関口に辿り着き引き戸に手を掛けて力任せに引いてみるとガタつきながら扉が開いた。どうやら鍵すら掛けられていないらしく、中に入ってみると廊下も畳敷きの部屋も酷く散らかっていた。しかも随分長く放置されているからか埃が溜まっており、少し動くだけで埃臭かった。


「……あたしは居間の方を見てみる。日奉さんは台所をお願い」

「分かった。気をつけてね」


 言われた通りに廊下を通って台所へと入ってみる。シンクには洗われずに放置されている皿が入っており、元々何の汚れだったのか分からない程に黒ずんでいた。試しに蛇口を捻ってみるときちんと機能していたが、普通の水ではなく赤茶けた水が出てきた。


「……錆びてるのかな」


 蛇口を閉めて冷蔵庫を開けて見てみると、中には以前ここに住んでいたであろう人物が入れたと思われる物が入っていたが、これもまた黒く変色しておりどんな食品だったのか想像がつかなかった。しかも隙間から侵入したであろう小蝿の死体が冷蔵庫内部にびっしりと落ちており、流石に気分が悪くなったため急いで閉める。気分を落ち着かせるために台所の窓を開け、空気を入れ替える。外はむせそうな熱気だったが、密室になっていたここと比べればまるで天国の様な涼しさだった。

 落ち着いてきた私は調査を再開し、中を確認するためにシンク下の戸棚を開ける。これまたいつから置いてあるのか分からない調味料が並んでいたが、ふと違和感を覚えて下から見上げる様にして覗く。すると戸棚の中の天井部分に一枚の紙が貼り付けられていた。薄暗いせいでよく見えないためスマートフォンを開いて画面の光で照らしてみると、その紙には不可解な古代文字の様なものが書かれていた。そういった方面の勉強はしていない私には何と書いてあるのか分からなかったが、蘇芳さんや他の調査員なら分かるかもしれないと考え、一枚写真を撮っておく事にした。


「殺月さーん! 何かあったよー!」


 そう呼び掛けてみたものの返事が無い。


「……殺月さーん?」


 何かあったのではないかと嫌な予感がし、急いで台所を出ると廊下を通って殺月さんが向かったであろう居間へと駆け込んだ。そこは家に入った時に見えた部屋と同じ様に畳敷きであり、箪笥や掛け軸などが置かれている場所だった。そんな部屋の隅に殺月さんは屈んでおり、何かを見つめている様だった。


「殺月さん、どうしたの?」

「……これ」


 覗き込んで見てみるとそこに置かれていたのは一体の日本人形だった。異常に長く伸びた髪に着物といういかにもな見た目だったが、一番目を引いたのはおでこの辺りに貼り付けられている小さな紙片だった。その紙片には縦書きで『まき』と書かれていた。


「殺月さん殺月さん、それ触らない方がいいよ」

「分かってる……」


 殺月さんの呼吸が少し早くなっている様に見えた。何か分からなかったがこの人形を見てそうなっているのは明確であったため、これ以上ここに居るのはまずいと感じた私は素早く人形の写真を撮ると、殺月さんの手を掴んで引っ張る様にして家の外へと飛び出した。

 外へと出た殺月さんは眉間に皺を寄せながら家を見つめていた。いったいあの人形のどこに引っ掛かったのかは分からないが、この家をこれ以上殺月さんに調べさせるのは危険だろう。


「殺月さん」

「……」

「殺月さん!」

「えっ」

「大丈夫……? どうしたの? さっきのアレ、何かあったの?」

「いや…………何でもないよ」

「何でもない訳ないじゃん。さっきの人形、見た事あるの?」

「……無い」

「……じゃああの紙に書かれてたやつ?」

「……」

「実はね、私も台所でこんなの見つけたんだ」


 戸棚の天井に貼り付けられていた紙の写真を見せる。


「多分何かの古代文字だと思うんだけど……」

「……読めないの?」

「私にも読めない。蘇芳さんなら読めるかもだけど」

「……そうだね。一回報告に行こうか……」


 殺月さんの中では何かが引っ掛かっている様子だったが、私には話してくれそうになかった。とはいえ異常な物が二つも見つかった以上は報告しない訳にはいかないため、私達は蘇芳さんの所へと戻る事にした。

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