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特異事例調査員 日奉菖蒲の調査ファイル  作者: 龍々
case5:ケモっ娘だいしんげき計画!(仮)
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第16話:こんなもののために生まれたんじゃない

 拘束した取引相手と彼が所有していた猫の様な耳を持つ少女二人をJSCCOへと連れて行くと、取引相手である夢廻むかいはすぐに取調室へと通された。未来みくと呼ばれていた少女は生体検査を行うという事で専門の検査員に抱かれて検査へと回された。私の魂に固着させている彼女をいつまでもそのままにしておくのは忍びないため、普段は『八尺様』の様なコトサマを収容するために使われている牢へと入り彼女を解放した。この部屋には霊体でも実体化する結界が張られているため、格子をすり抜けて外へ出る事が出来ない様になっている。そのためここに入れれば、霊魂しか残っていない彼女でも取りあえずは実体化出来るのだ。

 牢内で解放してみると今まで一切その姿が分からなかった彼女の姿が朧気ながら見えてきた。未来と同様に人型をしているが、頭頂部からは何らかの動物の耳に類似した器官が生えていた。しかし、生まれる事が出来なかったという事もあってか彼女の姿は不定形であり、顔もどんな見た目なのかが安定せず常に乱れていた。彼女の様に自分の外見を正確に知らない者はこうして実体化しても不安定な見た目になるのかもしれない。


「お疲れ様。ここなら安心だよ」

「あれ……あたし……」

「この部屋の中だったら一時的に実体化は出来るんだ。まあ……ちょっとあなたみたいな人は初めて見る例外だけど……」

「……君はあの未来って子と同じ存在……って見てもいいの?」

「あたしは、うん、多分そう。あいつが作った。多分」

「その人の顔は覚えてる?」

「声しか知らない。ずっと真っ暗で。気が付いたら死んでた。生まれる前に死んでた」

「殺月さん殺月さん、多分この子はあの卵みたいな物から出た事が無いんだと思うんだ」

「じゃあ声は聞いたのね?」

「うん」

「ちょっと待ってて」


 そう言うと殺月さんは一旦牢から離れると、緊急人間用留置施設に入れられている一番最初の容疑者の所へと向かった。施設の職員へと要請して牢から出すと彼女の下へと歩かせた。どうやら直接彼女の前で声を発させて当該の人物かどうかを確認するつもりなのだろう。

 彼女の所へと戻ると殺月さんは売人に喋る様に指示した。


「あー……久し振り、か?」

「その声……」

「どう? 聞いた事ある?」

「ある……その声。その声だよあたしが聞いたのは」

「……決まりね」

「おい待ってくれ! 俺が何かしたか? 何も法に触れる様な事はしてないだろ!」

「いえいえ。超常法、第一条、『いかなる理由であっても超常技術及び超常能力を用いて人権及び異権を侵害してはならない』に抵触するかもです」

「日奉さんの言う通りよ。仮にそれに抵触してなくても『ヒトに関するクローン技術等の規制に関する法律』第三条が適用される」

「馬鹿を言うな。あれが人間に見えるのか?」


 売人曰く、彼女らは全く新しい生命でありヒトには分類されないというのだ。外見的特徴はヒトに似ているが遺伝子情報はどちらかと言えば猫やその他の動物に近く、人権も異権も適用されない。あくまで愛玩動物であり違法な部分は何も無く、隠れて売買していたのもまだ一部の顧客にしか売っていないからにすぎない、というのが彼の持論だった。


「あれはあくまでペットだ。君らも犬猫を飼った事があるだろう? 無くても学生の頃に飼育されていたメダカやら何やらを見た事がある筈だ。ペットを飼っている人間全員を罰する気か?」

「殺月さん殺月さん。滅茶苦茶だよ。もういいんじゃない?」

「……分かった。ほら、歩く!」


 流石に胸糞が悪くなってきた上に、奥にある牢の方から『八尺様』が殺気の様なものを飛ばしてきていたので元の人間用留置施設へと送ってもらう事にした。


「……ごめんね。大丈夫?」

「うん。人権がどうとか言われても、よく分かんないし……」

「安心して安心して。絶対私達が何とかするから」

「あたしの事はもういいよ。でも多分、まだ他にもあたし達みたいな子が居る。何となくだけど、どこかに居るのが分かる……」

「テレパシー的な?」

「分からない……でも居る。それだけは確か」


 話し終えて何やら眠たそうに部屋の隅で丸くなったため、ゆっくり休ませようとその場から離れて殺月さんの所へと向かう。その途中、受付辺りで再会出来た私達がこれからどうしようかと話し合っていると蒐子さんから無線が入った。


「日奉さん、殺月さん」

「あっ蒐子さん。確保は完了しました」

「はい。上層部から連絡が入りましたー。それでですねー……さっきお二人が確保してくれた夢廻という人なんですけど、細かい情報が分かりまして」

「細かい情報? 如月さん、お願い」

「えっとですねー、カメラ映像追跡に協力してくれた日奉一族の方に彼から押収した携帯を調べてもらったんですが、そこに怪しいメールがありましてですねー……」


 蒐子さんによると、そのメールというのは『あわあわ』なる人物との間に交わされたものらしい。夢廻はその『あわあわ』という人物と共にあるコミュニティに参加しており、そのコミュニティを通して逮捕された日超生の職員と関わりを持っていたそうだ。そしてそのコミュニティに所属している『あわあわ』は何らかの超常技術を持っていたらしく、日超生に技術提供をしていたのだ。

 そのコミュニティの名は『サブカルアニゲーマリッジ研究会』というらしい。初めて聞く団体であったが、どういった活動をしているかは名前からして嫌でも想像がついた。現在、カメラによる追跡を行った日奉一族の人が『あわあわ』の現在地を調査中らしく、それが分かり次第すぐにでも現場に向かって欲しいとの事だった。


「じゃあじゃあ、その人が容疑者と関わってるっ事ですよね?」

「はい。それに夢廻とも繋がっていますから、他の違法超常技術の摘発も出来るかもしれませんねー」

「如月さん。そのサブカルなんちゃらっていうのはどういう組織なの?」

「それがですねー……うーんと……あ痛っ!? つつつ……それが資料にも載ってないんですよねー……」

「未知の団体って事?」

「少なくとも国から認められてる団体じゃないですね。メールには『SAGMS』っていう表記があったんで、多分これが略称じゃないかと……」

「サグムスサグムス……『Subculture Anime Game Marriage Society』の略かな?」

「日奉さんの予想で合ってると思います。名前からするに二次元のキャラクターと結婚する事を目的にしてるんじゃないですかねー?」

「……冗談でしょ?」

「私に言われても……」


 殺月さんの目つきが嫌なものでも聞いたかの様に蔑んだものになっていたが、この空気を切り替えてくれるかの様に検査職員の人から声を掛けられた。どうやら未来の検査が終わったらしく、回収を担当した調査員である私達にも念のため情報を共有したいとの事だった。

 検査室まで行ってみるとベッドの様な台の上に未来が寝かされており、薬か何かで眠らされている様だった。検査職員の人曰く、遺伝子検査を行った結果、ヒトではなく猫に近い遺伝子を持っているらしかった。もちろん完全に猫という訳ではなく、僅かながら人間の遺伝子に類似した遺伝子も確認されていた。しかし、あくまで類似した遺伝子であり、完全にヒトと言えるものではなく未知の遺伝子だったらしい。


「それとこちらも見て頂きたいんですが……」


 そう言って次に見せられたのは複数のレントゲン写真だった。未来の頭部を正面から写したもの、横から写したもの、全身を写したものなど彼女がどういった身体構造をしているのかが一目瞭然な写真だった。その写真を見ると、やはり本来であれば人間の耳があるべき場所には何も無く、その名残すら存在しなかった。代わりに頭頂部から生えている耳にはきちんと骨が入っているのが確認出来、問題無く耳として機能しているらしかった。

 更に服の上からでは隠れていたため確認出来なかったが、尾骶骨びていこつからは尻尾が生えていたらしく、そこにも血管や神経、骨が通っており通常の尻尾と同様に動かす事が出来たそうだ。人間にも時折こういった尻尾が生えて生まれてくる人が居るらしい。『先祖返り』とも言われており、非常に低確率な現象らしい。だが恐らく彼女はそうなるべくして生まれてきたのだろう。初めからそういう遺伝子の設計図になっているのだ。


「他に異常な部分はありましたか?」

「まだ実際に動いているところを確認出来ていないので何とも言えませんが、筋肉も同年代の人間と比べて非常に発達していました。外部からは発達した筋肉を観察出来ないのが奇妙ですが……」

「……日奉さん、どう思う?」

「うーん……『八尺様』がやってたみたいな認識改変、もしくは認識阻害能力があるのかも?」

「それも有り得るね……」

「それとですね、お二人にはもう一つ見て頂きたいものが……」


 そう言って見せられたのは未来のうなじを撮影した写真だった。丁度毛の生え際の少し下辺りに、小さな文字が入れ墨の様に彫られていた。そこには『C-0039』と書かれており、恐らくシリアルナンバーの機能を果たしているものと思われた。日超生の彼が言っていた様に彼女らはあくまで愛玩動物なのだろう。


「見ての通り非常に正確に彫られています。機械を使ったのではないかと」

「多分そうっぽいですね。あのあの、これってオペレーターの如月蒐子さんにも伝えてもらう事って出来ますか?」

「かしこまりました。ではすぐに検査結果を回しておきます」

「ありがとうざいます!」

「……日奉さん、行くよ」


 殺月さんは耳に付けているイヤホンを指で押さえながら私の手を引いて部屋を出た。丁度蒐子さんから連絡が来たらしく、私よりも一瞬早く気付いた様だ。


「こちら殺月。場所は分かった?」

「何とか見つかったみたいです。どうやらSAGMSの中にはネットワーク回線や電波を弄れる人が居るらしくて時間が掛かったみたいです」

「じゃあじゃあ、相手も私達みたいな力を持ってるかもって事ですね」

「はい。通販の配達トラックの記録から探り出したみたいです」

「余計な事は言わなくていいから。それより場所は?」

「す、すみません。えっとですねー……」


 蒐子さんが教えてくれたのは海辺にある一軒家だった。一軒家と言ってもそこまで広い家という訳ではなく、周囲から隔絶されたかの様にポツンと立っている小さな家である。そこには週に一回配達のトラックが来るらしく、配送所の記録によると食料や飲料、娯楽品などが配達されているらしい。外見はかなり寂れているが間違いなく誰かがそこに住んでおり、クラッキングを防ぐためか特殊な攪乱電波が飛んでいる事から『あわあわ』あるいは『SAGMS』の構成員が潜んでいるのはほぼ確実と言えた。

 情報を貰った私と殺月さんは早速確保に向かうため、JSCCO本部から外へと足を踏み出した。

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