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特異事例調査員 日奉菖蒲の調査ファイル  作者: 龍々
case5:ケモっ娘だいしんげき計画!(仮)
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第14話:この腐敗した世界に落とされて

 幽ヶ見かすがみさん絡みの『イーハトーブ』に関する一件はそれ以降調査が出来なかった。一応私達が発見したあの公園のポータルについての報告は殺月さんによってされたらしいが、他の時空間異常専門の調査員が調べても何も見つからなかったそうだ。念のために幽ヶ見さんにも協力してもらったらしいのだが、それでもやはり何も発見されず、やはり『イーハトーブ』は既に現実リアルへと希釈されてしまったのではないかとの事だった。

 あれから数週間が経ち、『クラムボン』に関する生態観察日記がJSCCOへと送られ始めた中、もうすぐ6月にもなろうかとした日に蒐子さんからメールが届いた。どうやら新たな仕事の話らしい。


『不可解な取引を行っている売人が確保されました。売人の所持品から正体不明の不審物が確認されたため一度JSCCOへとお越しください』


 正体不明の不審物というものを調べるのに何故私が呼ばれたのかは不明だったが、幸いにも今日は日曜日で休日だったためすぐに本部へと行く事にした。

 家を出て本部へと辿り着き受付に話を通すとある取調室へと通された。そこにはJSCCOの尋問官や殺月さんを含めた他の調査員が居り、マジックミラー越しに取り調べを受けている容疑者の姿があった。


「殺月さん、一体何が?」

「……これ」


 そう言って殺月さんが渡してきたのはびっしりと下まで書かれた一枚の調書だった。どうやら重要な要素だけを殺月さんが選んで書いておいてくれたらしい。それに目を通してみると、そこには確かに気になる点がいくつかあった。

 まず、今捕まっているのは『日本超常生物学研究所』、通称『日超生にっちょうせい』と呼ばれる機関の研究員だった。『黄昏事件』以降に設立された機関であり、生物学、植物学、海洋生物学、細菌学などの生物に関わる一流の学者達によって構成されている。様々な科学やオカルト学を用いて、かつて『妖怪』と呼ばれていたコトサマや新たなに発見された超常生物の研究を行っている組織であり、今の超常と正常が混ざった世界では必要不可欠と言えた。


「日超生の人……」

「そこも重要だけど、押収された不審物……ほら、写真貼ってあるでしょ」


 確かに調書には二枚の写真が貼られており、一枚目に写っていたのは何かの卵の様な物品だった。白い殻をしており、計測によれば両手で腹部に抱えられる程度の大きさであるらしい。そして二枚目の写真には何かの赤ん坊の様な生物が写っていた。どうやら一枚目の写真に写っていた卵から孵化したものらしく、その風貌は人間に酷似してはいるものの、本来耳があるべき場所には何も無く、代わりに頭頂部辺りから一対の人間のものとは思えない耳が生えていた。


「ねぇねぇ殺月さん。これってどういう?」

「こういう生物は今のところ他では確認されてない。でも、あの売人はこれを売ろうとしてる所を確保された。多分意図的に作られた生命……」


 生物学に詳しくない私にはそういった事が可能なのかどうかは分からなかったが、こうして実際にそういった品が押収された以上は事実可能なのだろう。しかし疑問なのは何故こんな変わった生物を作ったのかだ。詳しくない私でも人間のクローンなどを作る事は倫理的に禁止されていると聞いた事がある。それはこの超常社会でも同じ事である。

 調書を書いていた職員が口を開く。


「……容疑者が黙秘を続けています。これ以上の尋問は時間が掛かるかと……」

「分かりました。日奉さん。行こう」

「どこに行くの? 日超生の本部?」

「多分あそこに行っても意味が無いかも……。売買ルートから関係者を探した方がいいかもしれない」


 今回確保された人物から売買ルートは既に割れているらしく、殺月さんはそこから調査を進めるつもりらしい。私としては賽師匠を呼んであの容疑者の記憶を読んでもらう方が早い様な気はしたが、縁師匠が嫌がるだろうと考え、今回は自分達だけで調べる事にした。

 本部から出た私達はイヤホンを片耳に付け蒐子さんと繋げる。


「もしもし如月さん。これより調査を開始します。確保場所までのルート案内お願い出来る?」

「お疲れ様です。すみません休日にお呼びして……」

「いえいえ大丈夫ですよ蒐子さん! 平日よりは大丈夫です!」

「ありがとうざいますそう言って頂いてー……えーとそれではですねー……」


 そこから蒐子さんによるナビゲートが始まった。案内によると容疑者はある裏路地で取引をしていたところを確保されたらしい。どうやら何者かから『怪しい人物がビルの裏で取引をしている』という通報があり、そこに向かった警官が現場を押さえたそうだ。

 現場に到着して見てみるとそこはどこにでもある裏路地だった。一方通行な行き止まりになっており、もし一つしかない出入り口を塞がれたらどこにも逃げられないであろう場所だった。


「ここ?」

「はい。通報を受けて警官の方が駆け付けたそうですねー」

「もう現場の調査は終わってるんですか?」

「化学検査は終わったみたいですね。ただ、オカルト関連の調査は済んでないみたいで、そこで続きの調査をJSCCOに委任されたんです」

「……日奉さんお願い出来る?」

「えっ私!? いやいや、私ってそういうの無理だよ!? ほらほら、殺人とかなら降霊出来るけどさ……」

「世界中の色んな場所で人が亡くなってる。ここで亡くなってまだ成仏出来てない人が見てたかもしれないでしょ」

「えー……まあやってみるけどさー……」


 自分には不向きな仕事ではないかと思いながら『不死花しなずばな』の形を手で作り降霊の準備を整える。すると言われた通り、やはりこの場所で亡くなり未だ成仏出来ていない霊魂がいくつか確認された。あまり強力な霊力を持っておらず、更にこの世への未練なども無く、ただ単に偶然上手く成仏出来なかっただけの霊達だった。しかしそんな低級霊達の中に一つだけ奇妙な霊魂があった。上手くは表現出来ないが、今まで私が感じた事の無い雰囲気を放っている霊魂だった。

 少し不安もあったが、何か事件に関連しているかもしれないと考え、自らの魂の表面を変形させて歯車の様にその霊魂を固着させた。


「っ!」

「どう?」

「あ、あれあれっ……ちょ、ちょっと待ってね……。これってどういう……」


 奇妙な感覚だった。何らかの生物の霊魂である事は間違いないのだが、今まで私が同調してきたどの霊魂とも一致しない雰囲気をまとっていたのだ。人間的な雰囲気を持ちながらも、どこか猫を思わせる雰囲気もあった。どちらも師匠達との訓練の過程で固着させた事があったが、今回の様に二つが混ざり合っているかの様な前例は無かったのだ。

 それが何者なのか確かめるためにその霊魂に語り掛ける。


『あなたは誰?」

『そういう貴方は?』

『私はJSCCOの日奉菖蒲。ここで起きた不審物取引について調べてるんだ』

『もしかして……あいつの事?』

『あいつ?』

『あたし達を作った奴……あいつじゃないの?』

『日超生の人の事?』

『ニッチョウセイ……?』


 その霊魂曰く、日超生という名前は知らないが彼女は誰かに作られた存在であるらしい。一番最初の記憶は暗闇だったらしい。手足を伸ばしてもあまり動く事が出来ず、ただ外から誰かの声が聞こえてきたらしい。その声は男であり話している内容から自分達を作った張本人なのだと理解したそうだ。そして完全な暗闇の中で何日もの間過ごしていると、ある日急にどこかへと運ばれ始めた。しかしその途中で急に自分が閉じ込められている空間が落下し始めたかと思うと、気が付けば今の状態になっていたとの事だった。


「殺月さん、さっきの二枚目の写真だけど、あそこに写ってた赤ん坊みたいなのって死んじゃってるの?」

「ううん、生きてる。今は病院に移送されて観察中」

「じゃあじゃあこの子とは別人か……」

「どうしたの? 誰か居たの?」

「うん。実はね……」


 殺月さんと蒐子さんに今知った事を伝えると蒐子さんが手元にあるという資料を確認してくれた。どうやら押収された卵はあの写真の一つだけであり、他にはまだ発見されていないらしい。しかし警察でもJSCCOでも、あの卵が他にもあるであろうと推察されているらしく、聞き取り調査が進められているそうだ。だがそうだとすれば少し奇妙な点がある。彼女がここで降霊出来たという事は、少なくともこの辺りで死亡したという事である。もしそうなのであれば、どこかにその痕跡が残っている筈なのだ。しかし化学調査でもそういった痕跡が発見されなかったという事は、彼女が死亡したのはかなり前なのか、あるいは何らかのオカルト的な手法によって隠蔽された可能性がある。


「容疑者と卵一個しか現場からは見つからなかったんですよね?」

「そうですねー……ええ、他には何も見つからなかったみたいです」

「だとしたら妙ね……日奉さんに憑いてるその人はいつ亡くなったの……?」

「うんうん、そこなんだよね……誰かが隠したんだとしてもどうやって……?」


 固着させている彼女が何か知っているかもしれないと考えもう一度語り掛ける。


『ねぇねぇ。あなたが死んだ後に何か見たりした?』

『何も見てない。あたし、何も見た事無い。今までずっと真っ暗……』

『んー? じゃあじゃあ、今でも外の状況は音でしか確認出来ないって事かな?』

『そう。でも貴方の中……変な感じ。同じものが見えてるの……?』

『そうかも。えーとえーと……じゃあじゃあ、音だけでいいから、何か変なもの聞かなかった?』

『分からない……何かブーンって鳴ってるくらいかな……』

『今も聞こえてる?』

『うん』

『じゃあ多分それは関係ないかな。室外機の音だと思うし』


 どうやら彼女は何も聞いていないらしい。何も変な音が聞こえなかったのであれば誰かが偽装を行ったという可能性は考えられない。そうだとすれば事前に彼女が死亡した際に偽装が発動する様な技術が使われたのかもしれない。そうであればこれ以上ここを調査しても無意味だろう。調べるのであればやはり取引をしていた顧客を当たってみるべきだろう。


「蒐子さん、取引相手の身元は分かってますか?」

「近場の監視カメラ映像から何となくの推察は出来てます。現在、日奉一族の人が追跡中です」

「分かりました。じゃあじゃあ、判明したら教えてくれませんか?」

「分かりましたー。それでは連絡が入り次第連絡しますねー」

「お願いします。……さてさて殺月さん。それまでちょっとその辺ぶらつこうか」

「君……仕事中だって分かってる?」

「分かってる分かってる。でも今は他に調べようが無いんだしさ、一旦中断しようよ」

「殺月さん、日奉さんが仰る様に少しお待ちください。オ……ワタクシ達の方で分かり次第報告しますので」

「……分かった」


 殺月さんは他に調査する場所が無いと諦めたのか小さく溜息を吐いて私と共に路地裏から足を踏み出した。

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