父の隠し子が見つかったので
父の隠し子が見つかったので
私、弟を可愛がりますわ!
はじめまして、ご機嫌よう。私はアナスタジア・ド・ブルボン。この国の王女です。私の父と母はとても仲が良く子煩悩。優しくて自慢の両親です。兄は王太子で、王家一の天才児。ちょっと俺様なところはありますけれど、能力があり強気で頼りになる兄です。
そして今。その父の隠し子とやらが目の前にいる。
「すまんかった!」
そう土下座する父。いやいやいやいやいやいや、国王が軽々しく土下座すんな。というか、父の隠し子とかいうこの子。全っ然!父に似てない。というかどっちかっていうと…。
「お爺様の幼い頃の絵に似てない…?」
びくっとする父。間違いない。この子父の隠し子じゃない。祖父の隠し子だ…!
祖父は父とあんまり似ていない。そして国王としては立派な人だったのだけど、家庭人としては最低な人だった。たくさん浮気をして、しかも側室として迎えることもなくポイ捨て。年老いてもそれは変わらず、あんまりの所業に祖母はよく泣いていた。というかたくさんの女性が泣かされていた。
しかし、まさか私達と年の近い隠し子がいたとは…。となると、王弟ということになるけれど。
「父上」
兄が父を呼ぶ。
「…はい」
「この方は、弟ではなく叔父ですよね?」
「はい…」
兄のにこにこ笑顔に威圧された父はあっさりと吐いた。どうも、祖父と最後の浮気相手との間に生まれた彼は、その身分を隠しながら母親と二人慎ましくも幸せに暮らしていたそうだ。ところが貴族派の貴族共に見つかり、新たな王として祭り上げられそうになっていたらしい。政治の右も左も分からないこの子を、自分達の言いなりになる傀儡王にしたかったらしい。それをすんでのところで知った父は、自分の隠し子だと言い張って無理矢理引き取ってきたらしい。もちろんこの子の母親の了承を得て。
兄曰く。どんだけお人好しなんだよと。暗殺しておけよと。でも、父には無理だ。たくさんの浮気相手の子を堕胎させてきた祖父の所業に涙を流し俺は絶対こんなことしない!と祖父に怒鳴り込んでいった父にそれは無理だ。
私はうーん、としばらく悩んだが、そういうことなら仕方ない。とりあえず目の前で何もわからない中修羅場を見せつけられている「弟」を抱きしめる。弟はおたおたとしていた。可愛い。
「私、こんな弟が欲しかったんですの!」
そう言って弟をなでなでする。母は仕方ないわね。そういうことにしておきましょう。と受け入れてくれた。兄はその代わり王家の人間として恥ずかしくない人間になれよと厳しくも優しい言葉を投げかける。
こうして、私達に新しい家族が増えましたわ。
「そうだ、あなた名前は?」
「アンドリューです…。…姓はありません」
「では、今日から貴方はアンドリュー・ド・ブルボンよ」
「アンドリュー・ド・ブルボン…」
「愛称は…そうね、アンディ。アンディにしましょう」
「アンディ…」
アンディはちょっと戸惑っているものの、新しい環境に慣れようと頑張っているのがわかった。
「アンディ。そんなに難しく考える必要はないわ」
「えっ」
「最初は慣れないでしょうし、覚えるべきこともたくさんあるわ。でも大丈夫。お姉様が守ってあげるわ」
「おねえ、さまが…」
「アンディ。お姉様ではなく姉上だ」
すかさず兄が割って入る。
「は、はい、兄上…教えてくださってありがとうございます。父上、母上、兄上、姉上。これからよろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げるアンディ。ああ、なんでこんなに可愛いのかしら。
ー…
「アンディ、勉強は捗っている?よかったらお姉様と予習復習しましょう?」
「アンディ、良かったらお姉様とピクニックにいきましょう?使用人達が腕によりをかけてお弁当を作ってくれたのよ」
「アンディ、もしよかったら一緒に馬に乗って遠出しましょう?」
私は初めて会った日からずっと、アンディを全力で可愛がってきた。アンディも満更でもなさそうだ。そしてアンディは勉強の飲み込みが異様に早かった。今では何処に出しても恥ずかしくない第二王子だ。さすがに、王家一の天才児である王太子…兄には敵わないが、それでも相当出来がいい。お姉様にも少しはその頭脳を分けておくれ。
ただ、アンディが来て一つだけ困ったことがある。アンディの侍従として雇われた、侯爵家の次男、ウィリアム・コルベールについてだ。
正直に言うと、私は彼に惹かれてしまった。時折見せる優しい笑顔、温かな眼差し、その有能さ。私は彼に惹かれていく自分を止められなかった。
だけど私は一国の王女。彼は侯爵家の次男。次男なので爵位は継げない。さすがに、彼と結婚するのは難しい。でも、諦めきれない。どうしよう。
私が一人でうーん、うーんと悩んでいると、兄が話しかけてきた。
「どうした?」
「いえ、あの…もし、もしお兄様が好きになった人が爵位を持たなかったらどうします?」
「うん?うーん…適当に功績を積ませて爵位を与える」
「えっ」
「なんだ、好きな人でも出来たか?」
「えっと…は、はい…」
「なら、ちょうど最近貴族派の奴らが調子に乗ってるからな。貴族派の連中の悪事でも暴かせて、その功績で爵位を与えればいい」
確かに、それなら貴族派の勢いを削げるし、ウィリアムに爵位を与えられる。後はお父様におねだりして婚約者にして貰えば…。
「お兄様!ありがとう!」
「どういたしまして」
私は早速、アンディに頼んでウィリアムに貴族派の後ろ暗いところを調べさせた。
結果、貴族派のほとんどの人が真っ黒。横領に人身売買、賄賂。出るわ出るわ、汚職にまみれた貴族派の悪行の数々。その資料をアンディから父に渡してもらい、貴族派のほとんどの者は厳しい処分が下され、貴族派の勢いは失われた。
そしてウィリアムは、今回の功績を称えて伯爵位を授けられた。
私は父におねだりをし、ウィリアムの婚約者となった。私が降嫁したら、公爵位に繰り上げられることになった。
「しかし、王女殿下もやりますね」
「ウィリー?何よ藪から棒に」
「俺を手に入れるついでに貴族派の勢いまで削ぎ落とすとはさすがです」
顔が一気に赤くなる。なんでウィリーが知ってるの!
「ははっ。王女殿下の様子を見てれば分かりますよ。俺の前でだけ頬を染めて、潤んだ熱い瞳で見つめてくるんですから」
は、恥ずかしい…!私、そんなに分かりやすかったの!?
「でも、俺はそんな分かりやすくて可愛らしい、庶子の子にも分け隔てなく接する優しい王女殿下が大好きですよ」
なんせ俺もアンディ殿下が大好きですから。そういうウィリーは、とても優しい、蕩けるような瞳で私を見つめる。
「王女殿下」
「うん」
「愛しています」
「私も、大好きよ」
アンディは私とウィリーの恋のキューピッドだったのね。私、今、とても幸せよ。
「アンディ」
「姉上?どうかされましたか?」
「私、貴方のお陰で幸せになれたわ!ありがとう!」
「?はい、お役に立てたのなら嬉しいです!」
可愛い私の弟。私達の恋のキューピッド。これからも大切に大切に可愛がってあげる!
めちゃくちゃ溺愛しました