第零話 LIVOT(リボット)
「ハァハァ…ッ―――」
大変なことになってしまった。この時代、心拍数がここまで上昇することは少ない。安全で安心して過ごすことのできる日本。この300年はそんな謳い文句が世界の共通認識であったはずだが、今この場で、少年がそれを実感することはできない。
「……」
銃声が飛び交う中、少年のネコ型リボットが怯えたような、心配するような、そんな眼差しを少年に向けている。
「大丈夫だよアイ、大丈夫だから安心して。」
自分自身に言い聞かせるようにネコ型リボットの頭をなでながら話す少年は、ゴクリと喉を鳴らし、グッと左手を握り締めた。ネコ型リボットはそれでも心配そうな眼差しを向けている。
背にした柱の向こうでは、安全維持機動隊らと奇妙な形状をしたヒト型リボット《ヒトガタ》が交戦状態にある。
ダダダダダダッッ!
ゴォアアァア!
ガダンッ!!
大きな音と白煙が静寂をもたらした。安全維持機動隊らの怒声とともに、再び安全な日本が戻ってきたことに少年は安堵した。
「ふぅ…行こうかアイ」
そう言ってネコ型リボットを床に放って立ち上がり「一般人です。助かりました。保護してください。」と大声で言い放とうとしたその瞬間、奇妙な形をしたヒトガタが尖ったその指先を少年の方へ向け、発射した。
「あっ―――」
しまった、と思ったときにはもう遅い。少年に死が迫った瞬間、目の前に猫の姿をしたペット型リボットが飛び出し、指の銃弾を体に受け吹き飛んだ。
「―――アイ!!」
ネコ型リボットのボディは胸から下がバラバラになり、少年がそれに駆け寄って泣き叫ぶ頃、奇妙な形状をしたヒトガタは安全維持機動隊らによって完全にその生命維持活動を停止させていた。
自律型サポートAIが人間社会に欠かせないものとなり心と体を獲得した現代、精密な自己管理プログラム《ココロプログラム》によって自律型サポートAIは更なる進化を遂げた。進化した自律型サポートAIを搭載したロボットは《LIVOT》として新たな生命に定義され、人間に寄り添って“生きて”いる。
現代科学においてリボットはココロプログラムによって自己管理することができ、人為的な操作がない限り人に危害を加えることはない。リボットと人は支え合いながら生きている。