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第10話 晩餐

王家からの登場人物紹介回です。

そしてブラコン王女様も登場しました。

 

 しばらくして、城のメイドがドレスを持ってやってきた。びっくりして何事か聞くと、もうすぐ準備ができるから晩餐用のドレスに着替える必要があるのだと。

 晩餐用のドレス!?そんなの初めて聞いたわ。

 わざわざ着替えるのは面倒だけれど、それが王城のマナーだと言うなら仕方がない。


 それにしても高そうなドレスで、かなり気後れしながらも手伝ってもらって支度を済ませる。

 きっちり髪を結い上げられ、メイクもされた。ドレスの値段は怖くて聞けなかった。

 ご飯を食べるだけなのにここまでする必要があるのかは疑問だけれど、王家の方への初挨拶の場と考えれば、妥当なのかな?


「いよいよね、緊張してきた…」

「お嬢様、私は付いて行くことができませんが、ご無事のお戻りを祈っております」

「ええ…頑張るわ!」


 サラに応援されて部屋を出ると、お父様とお爺様がこちらへ向かって来るところだった。


「お父様、お爺様」

「…………おお!ミュリエル、さすが儂の孫。美人だな!」

「……!?ああ、いつも通り可愛いな!」

「2人とも今私だって気づかなかったでしょ!お父様は驚きすぎよ!」


 一拍どころか二拍遅れて返事を返してきたお爺様と、お爺様の言葉で肩を揺らしたお父様。

 2人とも、私が声をかけなかったら気づかず通り過ぎたに違いないわ。しかも褒め言葉で誤魔化そうなんて、甘いわね。


「いや、そんなことはないぞ!なあ息子よ」

「そうだぞ、娘を見間違える親なんているものか!」

「さあさあ、早く移動せねばな。王族を待たせるわけにはいかんぞ」

「説得力ないわよ」


 普段礼儀だとかを気にすることのないお爺様に言われてもね。

 それでも言ってることは正しいのであきらめて移動を開始する。


「ねえ、今さらだけど私王族相手の礼儀作法とか知らないのだけれど…」


 簡単なテーブルマナーくらいは子爵出のお母様が教えてくれたけれど、他はさっぱりだぞ。


「大丈夫だ、儂も知らん!」

「えっ」

「私も知らない」

「えっ」

「ははは、皆知らんなら問題ないじゃろ!」

「いやそんな、みんなで渡れば怖くないみたいに言われても」


 ちょっとーーーー!?

 お爺様は前国王様と知り合いなのに何も知らないの??たしか王城のパーティーで婚約の話したんじゃなかった?よくそれで今まで首が繋がってたわね!?


「で、でもお父様は伯爵様に会いに行ったりしてたわけだから、高位の方への作法は知ってるんでしょ?」

「いやぁ、あの伯爵は適当にお世辞並べとけば良い感じに受け取ってくれるもんだから…。ポジティブって素敵だな」

「ああぁぁ…」


 たしかにあのブタ伯爵はちょっとくらいやらかしてもお世辞で言いくるめられそうよね、わかるわかる。


「じゃあ今からの晩餐はどうするの!?」

「大丈夫大丈夫。エルも儂のことはよく知っとるし、今さら目くじらは立てんじゃろ」

「本当に?信じるわよ?」

「爺ちゃんに任せとけ!」


 とてもとても、それはもうとても心配だけど、誰も知らないなら焦ってもどうしようもない。お爺様の言葉を信じて、私はなるべく黙っていよう。


 そう決心したところで、大きな両開きの扉の前でメイドさんが立ち止まる。


「お客様をお連れしました」


 メイドさんが声をかけると扉が内側へと開いていく。


「どうぞ、お入りくださいませ」

「は、はい。ありがとうございます」


 お爺様とお父様の後に続いて中へ入ると、そこには大きなテーブルがあり、すでに7人の人物が席に着いていた。


 一番奥の席に座っているお父様と同じ年頃の綺麗な銀髪の男性が、おそらく国王陛下。だとすると、隣の少し若めの女性が王妃様だろうか。

 ユリウス王太子殿下に、私より少し年下だろう少女、カールと同じくらいの少年。こちらは王女様と第2王子様だろう。

 そして、私たちが入った途端に声を上げて立ち上がった老年の男性と、その頭を手にした扇子でぶっ叩く老年の女性…。


「モルドー!よく来…っ!!」

「おほほ、あなたったら、急ぎすぎですわ」

「す、すまんリーシャ。しかし叩かなくとも…」


 お、恐ろしい…!

 何がって笑ってるのに笑ってないその瞳が。

 そして早くもお爺様を相手にした時のカオスの気配がすることが。


「父上。旧友との再会が嬉しいのはわかりますが、私の挨拶を先にさせていただきたいのですが」

「ああ、すまない。つい心が早ってしまったのだ」

「わかっております。さて、フィオーレ男爵、モルドー様、ミュリエル嬢、ようこそステラータ国へ。挨拶が遅れたが、ステラータ国国王アルベルト・ステラータだ。よろしく頼む」


 やはり奥の男性が国王陛下だった。しかしこの陛下、すでに苦労人臭がするぞ。


「モルドー・フィオーレと申す。エルの息子に会えるのを楽しみにしておったのでな、よろしく頼む」

「ラルフ・フィオーレと申します。ルーナリアでは男爵の位を戴いております」

「ミュリエル・フィオーレと申します。よろしくお願いします」


 なんとかお父様の名乗りを真似して、出来の怪しいカーテンシーをする。笑顔は引きつってないだろうか。


「皆を紹介しよう、座ってくれ」


 陛下の正面の席に当主であるお父様が座る。私の隣はユリウス殿下、お爺様の隣は前国王様になるよう調整がされていたようだ。たぶん正式な席順ではないのだが、わざと変更しているのだろう。


 私たちが座ると陛下が王家の方々を順に紹介してくれる。

 王妃ナターリア様は柔らかいアッシュブラウンの髪に青の瞳のおっとりした雰囲気の方。ユリウス殿下の銀髪は王様、青目は王妃様からの遺伝なのだろう。


「王妃教育は任せてください。立派な王妃になれるよう、一緒に頑張りましょうね」

「は、はい。よろしくお願いします」


 次の王女ユリア姫は2つ年下の12歳。濃い金色の髪に青紫の将来の約束された可憐な少女だ。未来の妹なのだし仲良くしたいと思う。どうやらすでに嫌われているようだが。


「……ふんっ」

「(めちゃくちゃ睨まれてる…)」


 第2王子のユアンくんはカールと同じ8歳らしい。灰色の髪と紫の瞳を持つ大人びた少年だ。


「よろしくお願いします」

「ええ、よろしくお願いします」


 そして前国王夫妻、エルハルト様とリースティア様。力関係はどうやらリースティア様の方が上のようだ。


「モルドーの言うことだから本気にはしてなかったのだが、本当に美人に育ったのだな。会えて嬉しいぞ、ラルフもミュリエルも本当の父、祖父と思ってくれ」

「ほほほ、私もかれこれ40年モルドー様との話を聞き続けて来ましたからね。なんだか初めて会う気がしませんわ」

「あ、ありがとうございます。私もお会いできて嬉しいです」


 自己紹介と挨拶の間に料理と飲み物が配膳されており、グラスを手にした陛下がそれを掲げる。


「では、さっそくだが食事にしよう。新たな家族の歓迎と未来の幸福を祈って、乾杯」


「「「「乾杯」」」」



 ◇◆◇



 今まで見たこともないような高価な食事。これが実家で出てきたなら食べられる時に詰め込めとばかりに頬張るのだけれど、そんなことできるはずもなく。

 むしろ緊張で喉を通らない中必死に飲み込む食事の時間もようやく終わりを迎える。


 大人はこの後もサロンに移ってお酒を飲みながら話をするようなので、私は王子様王女様達と共に退出することになった。


「ではミュリエル嬢は私が部屋まで送ろうか。お手をどうぞ」

「え、あ、はい」


 ま、眩しい。夜だというのに王子様の完璧スマイルが眩しくて私はそっと目を細める。

 食事中も話しかけてくれたけれど、どれも微妙に的を外したことばかりでとても返事に苦労した。好きな料理がそんなに何十個もあるわけないのに、なぜかそれしか聞いてこないんだもの。

 さらに彼が私に話しかけるたびに突き刺さる視線もあったせいで最後まで冷や汗が止まらなかったのだ。


「お兄様!ミュリエル様はユリアがお送りしますわ!」

「えっ」

「ふふ、未来のお姉様ですもの。お食事の時にはあまりお話もできなかったので、少し2人でお話してみたいんですの」

「そうか、ユリアは優しいね。それなら残念だけど今日は譲ろうか」


 私を無視して進む会話。

 まさかここで王女様が出てくるとは思わなかった。食事中にずっと私に鋭い視線を送り続けた王女様と2人きりなんて、嫌な予感しかしないぞ!


「あ、あの、私はーー」

「ミュリエルお姉様って呼ばせていただいても良いですか?」

「えっ!」

「ダメ…ですか?」


 こ、こいつやりよる…!

 私に口を挟む間を与えず、さらに隙あらばこちらを悪者にしようとする。明らかに年季の入った流れるようなスキルコンボ。ここでダメと言ったら次に来るのは涙に違いない。


「い、いえ、もちろん構いませんよ」

「ありがとうございます!ミュリエルお姉様!それではさっそく参りましょう」

「もう仲良くなるなんて、すごいね。また明日。おやすみなさい、ユリア、ミュリエル嬢」

「おやすみなさいませ、お兄様!」

「……お、おやすみなさいませ」


 王女様に腕を引かれ、爽やかに手を振る殿下と無言で頭を下げるユアンくんから離れていく。

 頭の中で子牛を出荷する歌が流れ始めた。


 しばらく歩いて人気のなくなったところでユリア姫が立ち止まる。

 くるっと振り向いたその顔は、まさしく鬼の形相と言って良いものだった。


「あなた!なんでここまで来たの!?男爵の娘風情がお兄様と結婚だなんて、身の程知らずにも程がありますわ!」

「うわぁ」


 わかってはいたけど、まさかの最初からフルスロットルである。


「しかもこんな田舎臭い人間が共に食事をしようなどと、信じられませんわ!そもそもお兄様とあなたが釣り合うわけもないのだから、最初から断るのが当然なのに!」

「アッハイ」

「あなたなんかがお兄様の婚約者なんて、わたくし認めませんわ!」

「ソウデスカ」

「ふんっ」


 言いたいことだけまくし立てると王女様は甲高いヒールの音を立てて去って行ってしまった。


「はあ〜」


 思わずため息が出てしまう。

 そもそも私だって来たくて来たわけではないし、そんなこと言われても困るのだ。

 しかもきっと今のがこの国の令嬢達の共通認識だろうことが分かっているだけに、先が思いやられる。

 前途多難とはまさにこのこと。

 そして、すでに目の前に問題が転がっている。と言うよりぶつかっている。


「ここ、どこかしら」


 そう、ここで放り出されると私は部屋に戻れない。


「人を、探すしかないか…」


 とにかくさっきの広間に戻れば誰かいるだろうと、私は来た道を引き返すのだった。


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