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9話 【共鳴】 Ⅳ

 





 視点:天霧咲

 地点:人間界 天霧邸 咲の部屋




「〜〜♪♫…………ふぅ、少し水のまないと……」


 わたしは歌を歌うのを止めて水を()む。

 ずっと歌ってるとのど()かわく(渇く)からね!

 ……そういえばおにいちゃん達のじっけん(実験)どんな感じなんだろ。

 見に行ってみようかな?

 そんな時──


 ゴーーーン


 お客さまが来た時に鳴る鐘の音が聴こえた。お客さま来る予定は無いっておにいちゃん言ってたよね?


『ここに来る人は大体が偉い人だから、鐘が鳴っても咲は出ずに俺に伝えてくれ』


 おにいちゃんはこんなことを言っていた。

 今日はお客さま(?)が来る予定は無かったし、大人のじじょーってやつなのかな?

 丁度おにいちゃん達のようす(様子)も気になってたし、じっけん(実験)室はかね()の音が聞こえないから私がつた()えてあげないと。

 いったん(一旦)歌はきゅうけい(休憩)して、じっけん(実験)室に行こう!


 それにしても、なんで私が出ちゃいけないんだろ……

 これも大人のじじょー?




 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




 視点変更:天霧夜

 地点変更:人間界 天霧邸 トレーニングルーム




 ピッ

 ウィ──ン


「おにいちゃん!」

「咲、どうした?」

「これ唐突(とうとつ)だと驚くわね」


 実験室に来たのは咲だった。

 ……と言っても今この家にいるのは俺とシャルと咲だけだし、俺とシャルが実験室にいる以上、咲以外がこの実験室の扉を開く事はまず無いが。


「お客さま来たから()びに来たよ!」

「なるほど、伝えてくれてありがとうな咲」


 頭を撫でてみる。


「うへへー」


 うん、やっぱり可愛い。

 にしても──もうシャルへの恐怖心は無くなったんだろうか。

 俺はそういうのに慣れざるを得なかったけど、シャルの斬殺は咲の心に大きな衝撃を与えた筈だ。

 ……いや、そんな事もないか。

 咲は()()()心の切り替えは早い筈だ。

 どうあれ、シャルの居る前でこうしてリラックスしてるのだから問題は無いのだろう。

 っと、そんな事考えてる場合じゃなかったな。


「悪い、ちょっと行ってくる。実験はまた後で」

「大丈夫よ。気にしないで」


 咲とシャルを対面させたままで大丈夫かという心配もあったが、スキだらけだった俺に殺意を向けてこなかった事を考えると問題なさそうだ。

 とはいえ、完全に警戒を緩める訳にも行かないが。




 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 


 地点変更:人間界 天霧邸 ホール


 


 俺は実験室を出て玄関口に向かう。

 できれば()()()()に行って来客の正体を知っておきたかったが、時間を掛け過ぎて来客の機嫌を損ねても面倒だ。

 ──一応


『出るまでに暫くの時間がかかります』


 と書かれた看板を建ててはいるが、それでも早く行くに越した事はない。


 ピッ

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ────


 全自動らしい電子音を鳴らして門が開いた。



 天霧家に入るまでには三つの門を介さなければならない。


 内側から数えて一つ目の門はさっき通った自動で開閉する門だ。

 現代の一般家庭の扉と殆ど変わらない。……大きさは大分違うが。


 二つ目の扉は横に開く門。

 大富豪の家に行った時によく見かける感じといえば分かりやすいだろうか。

 これも勿論自動だ。


 そして三つ目の門。天霧家を取り囲む塀の蓋の部分だけあって大きさも性能も規格外だ。

 とんでもなく硬質な合金で出来ており、計算上は核兵器を使っても傷付かない。

 この門だけは人力でしか開けられず、ハッキングによる侵入を防いでいる。


 ちなみに一つ目の門と二つ目の門の間は30m。二つ目の門と三つ目の門との間は100m。

 道中を整備する機械以外何も置かれていない様に見えるが、侵入者を排除する為の設備が大量に設置されている。

 取り囲む塀も純度は三つ目の門より劣るものの、同じ合金で出来ているのに加え20mもの高さがある。

 その塀の上には、侵入者を発見次第警報を鳴らし、その場で侵入者を排除する機能が付けられた警備用の機械が徘徊している。

 挙げ句塀の外には人工の川が流れており、その安全性に磨きをかけている。

 余談だが、人間界を他種族から守る外壁も、天霧邸を参考に開発されたらしい。



 一つ目の門を開け、二つ目の門も開け、三つ目の門にいる人物を確認する。

 俺の視力は5.0以上、割と自慢だ。

 これだけの視力があれば、100m先は余裕で見える。

 そこにいた人物は──


「……ジル・ブラッド……?」


 ジル・ブラッド

(イカズチ)】の異名を持つ人間界の()()侵攻部隊のリーダーであり、霊装使いの最強の一角の男だ。

 そんな男がわざわざここに──魔族のいる所に来た理由なんて一つしかない。

 ジルは俺を目視し不気味な笑いを浮かべる。

 笑みと同時に放たれた殺気は、100m離れているにも関わらず、霊装神殿でのシャルやあの部下の男よりも強烈なものだった。

 二つ目の門から全力で駆け出し、家に駆け込む。

 その時に一つ目の門の内側にあるボタンを押しておく。防衛設備の起動ボタンだ。

 轟音、轟音、轟音。

 何かをぶつけ合った音が、繰り返し外から響いてくる。

 その音を背に、俺は実験室に急ぐ。




 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 


 地点変更:人間界 天霧邸 トレーニングルーム




 ピッ

 ウィ──ン


「あ、夜。お客さんは……」

「シャル! 【雷】にお前がここにいる事が割れたっぽい。だからお前はここを飛んで何処かに身を潜めろ」

「【雷】!? なんで……でも、それじゃあ貴方達はどうなるのよ!」


 魔族の大部隊を幾つも崩壊させたという噂だ。

 その噂が本当なら【雷】を知らない魔族はいないだろう。

 説明が(はぶ)けて助かるが……説明が必要無いという=その噂は本当だという事だ。状況は最悪だな……


「俺達は天霧……人間の要の一族だからすぐに殺される可能性は無いに等しい。でもシャル、お前は間違いなく殺される。だから早く!」


 魔族が人間と共に霊装の実験をする。

 いわば実験中に敵対種族と共同実験をしているのだ。

 バレれば──どうなるかは想像に難くない


「………………私は神殿の最奥でガレキに潰されて圧死(あっし)、外で私を見た兵士の報告は、咲ちゃんをおぶった夜を見て勘違いしたもの。夜と魔族との関わりは何にも無い」


 これはそういう事にしておけというシャルの提案だ。

 多分だが、たまたま俺を見た兵士が【雷】に報告したんだろう。それでここに魔族かいる事がバレた。

 クソっ……人間の平和ボケを信用しすぎた。

 良くも悪くも天霧家は有名だし、位置を特定する以前に元から割れていると言っていい。

 正直微妙な気もするが、シャルの提案したシナリオ以外に言い訳できなさそうなのも確かだ。採用させてもらおう。


「またいつか、何処かで」

「ああ、またな」

「シャルさん、また!」

「ええ、咲ちゃんもまたね」


 シャルは実験室から出て、門の反対側の窓から飛んで行く。

 いつの間に咲と仲良くなったのか……

 同時に天霧家が揺れる。ジルが家に入って来たらしい。


「咲、お前は……」


 俺は咲にある指示を出す。俺は意を決して玄関ホールに向かう。当然武器を持ってだ。

 到底勝てるとは思っていない。ただ……シャルを逃がす時間と、咲に出したとある命令を完遂する為の機会を与えられればそれでいい。

 

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