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7話 【共鳴】 Ⅱ

 





 視点:シャル・アストリア

 地点:人間界 天霧邸





「何よ、これ!」


 部屋から出て、私が最初に目にしたのは日本庭園。実物を見るのは初めてだけど、周りに音が無いのも相まって風情(ふぜい)がある。

 それにしても……二人で住んでいるにしては整備が行き届き過ぎている。何故?

 次に目に入ったのは廊下。とてつもない長さね……思いっきり走ったら気持ち良さそう。

 一定間に部屋があったけど彼と私以外の気配を殆ど感じない。咲ちゃんと二人で住んでるっていうのは嘘じゃなさそうね。


 ……親は戦場に行ってる?

(やわら)の天霧】なら行ってない方がおかしいかな? まあ触れないでおきましょう。


「そういえば咲ちゃんは?」

「咲は自室で歌ってるんじゃないかな? あいつ歌好きだし」

「そうなの? 声が全く聞こえないけど」

「咲の部屋はそこの廊下を曲がって、次の廊下を右に曲がって、別館に入って階段を登って、正面の廊下を真っ直ぐに歩いた8番目の部屋だから遠くて聞こえないだけだな」

「はぁ……」


 一々突っ込んでいたらキリがなさそうだ。そういうものだと受け入れよう。


「そういえばこの翼、夜の霊装(れいそう)って認識でいいのよね?」

「あぁ、間違いない」

「じゃあ何で能力が分からないの? 霊装の使い手は自分の霊装が出来た瞬間から使いこなせるって聞いていたけど」

「うーん……正確には能力が分からないんじゃなくて、能力の発動条件が分からないのっていうのが正しいと思う。例えばその翼、縮小出来るみたいなんだけど俺にはやり方が分からん。視覚の共有は俺も知らなかった能力だから、知らない能力もあるとは思うけどな。…………それをここで試す」

「……合わないわね」

「俺もそう思うよ……」


 廊下を歩く事ニ分。私の前にはやたらとメカニックな扉が構えている。

 道中の(おごそ)かな雰囲気とはかけ離れているわね。

 彼は扉の横のパネルに触れて扉を開ける。


「触れば開くの?」

「そういう訳じゃないが、どうかしたか?」

「単純に気になっただけよ。気にしないで」


 そうして部屋の中へと足を踏み入れた。




 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




 地点変更:人間界 天霧邸 トレーニングルーム




「人間ってみんな白が好きなの? 目がチカチカするわ……」


 部屋の中は白一面で、高さも広さも十分。……霊装神殿の最奥を彷彿(ほうふつ)とさせるわね。

 でも各所にカメラが設置されていて、壁の所々に穴や溝が空いている。


「この穴とかカメラとか、一体何なの?」

「それは実験を始めてからのお楽しみという事で。何から実験する?」


 どうせ全部試すし順番は適当で良いわね。


「じゃあ飛行能力の実験でいい? この高さなら十分試せると思うのだけど」

「なら飛行速度と飛行時間の限界とか、その辺りを検証してみるか」

「できるならお願いしたいけど……そんな実験できるの? 全力で飛ぶには流石に小さいと思うけど……」


 この部屋は確かに大きいけど、それでも全力で飛びまわるには小さい。


「大丈夫、じゃあ早速飛んでくれるか?」

「……分かったわ」


 独特のフワッとした感覚が身体を包み、私の身体が宙に浮く。私、あの土壇場でこの浮遊感によく対応出来たわね……


「ふふっ」

「……空を飛ぶって楽しそうだな」

「え、ええとっても」


 ここが敵陣の重要地点であることは分かっているのに、それでも頬が思わず緩んでしまう。……いけない、気を引き締めないと。


「そろそろ実験を始めよう。シャル、今からこの部屋に強めの風が吹く。それに抵抗するように飛んでみてくれ」

「室内で風を起こせるの!?」


 ……ホントに人間の技術って凄まじいわ。

 この部屋の隅にある別室に移動して、何やら機械を(いじ)り始める夜。

 実験環境を整えているのでしょうね。


「私の事見えてる?」

『大丈夫だ。カメラで見えてるからな! じゃあ風流すぞー!』


 そうして風が吹き始める。む、結構強いわね……


『ここからはスピーカーで指示させてもらう。聞こえてたら身体のどこでもいい、二回叩いてくれ』


 パンパン

 右腰を二回叩く。

 特に腰を叩いた理由はない。叩きやすかっただけだ。


『了解、以降【はい】の時は右腰、【いいえ】の時は左腰を二回叩いてくれ。質問は【はい】か【いいえ】で答えられるものだけに厳選する。詳しい部分は実験が終わってから話す。それで大丈夫か?』


 右腰を二回叩く。

 確かにこの方が実験効率は良いわね。


『了解、早速だが風を少し強くしてみる。抵抗するように飛んでみてくれ。キツくなったら左腰を叩いてくれ』


 右腰を二回叩いて、そのまま風に抵抗して飛ぶ。にしても……風が強くなったらしいけどあまりそんな感じはしないわ。


『よし、安定してきた。じゃあ…………少し見た目が変わるかもしれないけど、気にしないで飛び続けてくれ!』


 ……見た目? なんの事?

 取り敢えず、右腰を二回叩いてそのまま飛び続ける。

 すると──


 《立体映像起動 仮想(イメージ):空》


「うっ!」


 アナウンスと共に、空間が(まばゆ)い光に包まれる。

 思わず目を(つむ)って、光の収束と同時に目を開けると──


「う、うそ……!」


 そこに広がっていたのは空。

 青い空、白い雲、緑に映えた森まである。

 風も相まって本物と錯覚しかねない程にリアル。


『とてつもなく本物に近いけどあくまで映像だ。先行しすぎると壁にぶつかるから気を付けてくれ』

「了解……あ、いけない」


 右腰を二回叩く。

 確認作業を忘れる程に、その映像は素晴らしかった。




 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




 視点変更:天霧夜



「……凄まじい性能だな」


 最初の風の抵抗は20km/h(時速20km)、大体自転車の走行速度と同じくらいだった。

 だが今は速度を上げ続けて80km/h(時速80km)、車の走行速度にまで達しているのにも関わらず、空中できりもみ回転をする余裕まで見せている。


「最奥での戦いで使った【飛翔(ひしょう)】を見る限り初速も問題なさそうだしな」


 ……一気に速度を上げてみよう。


『シャル、速度上げるぞ!』


 右腰を二回叩いたのを確認して、風の勢いを更に強める。

 120km/h(時速120km)

 この実験室の出力限界であり、昔の人間界で使われていた鉄道がこのくらいだ。

 ……見ている限りこれでも余裕がありそうだ。

 本当にとんでもない霊装だな……いや、シャルがとんでもないのか? 俺は使えないから分からないけど。

 最奥での戦闘で魔法も使っていたし、空中でもある程度の戦闘能力は維持できるんだろう。


 ──そして、そのまま一分が経過した

 余裕のある表情は崩れなかったし、色々と分かった事もある。


『シャル、一旦休憩だ。ゆっくり風を弱めていくから降りれそうな時に降りてくれ』


 右腰を二回叩くのを目にして、風を弱めていく。

 急に風を止めるのは危ないからな。

 シャルが着地した所で俺も部屋を出てシャルの元へと走る。

【飛翔】の実験は終了だ。




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