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4話 漆黒の鎌と純白の翼 Ⅲ

 





 視点:アストリア

 地点:人間界 霊装神殿 最奥部







「ここは……神殿の、最奥?」


 鎌を投げた後、私は気を失ってしまったらしい。彼がここまで運んでくれたの?

 ……今は協力関係にあるとはいえつくづくお人好しな人間だわ。


 それにしても【腕力強化】や【脚力強化】の魔法が使えない今、()()()5()0()k()g()の鎌を投げただけで身体が軋む。

 ……これからの私は魔法無しで戦わないといけない。帰ってもっと訓練しないと。


 それにしてもこの部屋、高さも横幅も十分ね。

 これだけの広さがあるなら、部屋というより空間と呼んだほうがいいかも。

 この白く巨大な空間の奥にも別の小さい空間が見える。

 今いる大きなこの空間を含め、奥の空間もこの世界とは別離されたような不思議な空間だわ。

 あの空間は一体……


「あ、あの。ここでまっててって、おにいちゃんがいってました」


 考えていても仕方ない。

 彼の妹……咲? が私に話し掛けたのを皮切りに私も思考を切り替える。


「……咲ちゃんだっけ? そんなに怖がらなくても殺したりしないわ」

「は、はい」


 私は彼女の前で人間──彼女の同胞を殺した。でも今は味方。あまり威圧感を出さないようにちゃん付けで呼ぶ事にする。

 そういえば私が戦っていた時、夜は咲ちゃんを神殿に先行させていたっけ?

 戦闘に集中していたからよく覚えてないけど。


「彼は?」

「おにいちゃんはあの中に……」


 咲ちゃんが指したのは異様な雰囲気を感じたあの空間。

 なるほど、あれが霊装創造の……


 色々と考えたかったけど、後ろから忌々しい声が聞こえて振り返る。時間をとってる暇は無さそう。


「ほほう、ここが神殿の。」

「クソッ! アストリアは何処だァ!?」


 とうとう追い付かれてしまったらしい。この空間に身を隠す場所は無い……いや、無くはないけど、そこに隠れたら現状を変えうる可能性である彼を危険に晒すことになる。そんな事をしたら私が死ぬ可能性が高まるし、何より私のプライドがそれを許さない。

 彼らの前に立ちはだかって、彼の思惑を悟らせないようにするのが今の私の仕事。


「来なさい【漆黒の鎌】。 貴女は下がっていなさい!」

「で、でも!」

「戦えない貴女は、今は足手まといでしかないのよ!」

「っ!」


 咲ちゃんが物分りのいい娘で助かった。

 悔しそうにしながらも後ろに下がってくれる。

 それにしても──


「分かってはいたんだけどね……!」


 鎌が本当に重い。

 身体の疲労も少なからずあると思うけど、身体能力強化の魔法が使えないだけでここまで身体が動かなくなるなんて……

 『私がどれだけ魔法依存で戦っていたか』この短時間で何度も痛感させられる。


「おっと、ご自慢の鎌さえ満足に持てないみたいですねぇ?」

「………………」

「んだよ、だんまりかよアストリアさんよぉ!」


 身体の限界が近い状態でギャーギャー騒ぎたてる程私は馬鹿じゃない。


「皆さん! アストリアは弱っています。ここは近接攻撃で一気に畳み掛けましょう!」

「くっ……」


 その言葉がトリガーになって魔族達が私に襲い掛かる。

 私の武器は鎌だけ。でもその鎌は私のせいで使い物にならない。

 ならば──武器を持った大の大人が相手でも素手で相手をするしかない。

 幸いにも体術は少しだけ学んだ事がある。

 付け焼き刃程度のものだけど、やらないで野垂れ死ぬのはごめんだ。

 私はまだ死にたくない!


「うらあっ!」

「せいっ!」


 先頭、単身で切り込んできた魔族の勢いを利用して背負い投げ。その時に手首を捻って剣を奪い取り、その剣を振り向きざまに薙ぐ。

 剣同士がぶつかり響く甲高い金属音。

 子供の筋力と魔法で強化された大人の筋力は比べるまでもない。

 このままではこちらが不利になる。

 ──なら!


「その軌跡を、()らす!」


 私は鍔迫り合いに入る前に、敵の剣の軌道を少しだけ横にずらして、私に向かう勢いを別方向へ逃がす。

 無理な体勢で剣の軌道を変えたせいで剣は落としたけど──


「く゛っ゛!」


 剣の軌道がおかしくなった事に戸惑った魔族のスキを突いて間合いの内側に入り込み、顎に全力掌底を撃ち込む。

 まずは一人!


 敵も馬鹿じゃない。間髪入れずに次が来る。

なるべく体力の消費は少なくしないといけないのに……

 向かって来る魔族に、もう一度背負い投げを決める為に接近。

 その時、私の勘が全力で警告を鳴らし始める。

 だけどもう掴み掛かってしまっている。投げ終わってからその場を避こう。


 ──思えばこの時、手を離してでもその場から引くべきだった。


「チェックメイトです。【暴風雨(テンペスト)】!」

「え……!?」


 不意を突かれた私はその魔法に直撃する。味方を犠牲に最大火力の魔法をぶっ放す程腐っているとは思わなかった。

 瞬間、私の肢体は遠くに吹き飛ばされ壁に叩きつけられた。


「ごふっ……げほっ…………っ!」


 真っ白な床が朱に染まる。

 叩きつけられた衝撃でどこかしらの器官が傷付いてしまったのか、呼吸しようとする度に咳き込んでしまう。

 なんとか壁を伝って立ち上がる。

 三半規管もおかしくなったのか、どっちが床かさえも分からない。


 ──魔法さえ使えれば


 そう思ってしまう自分が情けない。


 ──ないものねだりは虚しいだけ、無いなら無いなりにやる


 これは母さまの言葉だけど、部下達にもそう言ってきたし、自分の中の信念としてもこれを掲げてきた。

 自分がこれではどうしようもない。

 ……そういえば、母さまこんなことも言ってたっけ?



 ──全力でやって、それでも駄目な時はきっと助けてくれる人がいるから



「アストリアっ!」


 夜が壁から出てくる。……いや、そんなわけない。

 視界がぼやけてよく見えなかったけど、私は例の空間の近くに吹き飛ばされたらしい。

 周囲を見回して私の元に駆け寄ってくる夜。


「霊装の創造は成功した。……だがアストリア、俺はお前に物凄く酷な事を頼む。この状況を打破出来る可能性はそれしか無い。」

「……」


 私は黙ったまま頷く。人間の言いなりになるのは(しゃく)だけど、そんな事を言っている場合じゃない。


「背中、触るぞ」

「………っ」


 黙ったまま、彼に背中を向ける。

 この状況で私の障害になるような事はしないだろう。

 そう考えての行動だった。

 いつもなら、人間に背中(スキ)を見せるような真似はしない。

 だけど……夜になら、不思議と身を委ねても良い気がした。

 背中に手が当てられ──


「【装備:共鳴の翼(レゾナンスウィング)】」

「うっ……ぁぁぁぁぁあ!!!」


 ひんやりとしたその手から、熱い何かが流れ込んで来る。

 それと同時に、私からも何かが内側から溢れてしまうような…………!!!

 でもこの感覚、私は知ってる。


「魔力の流れ!? う、あぁぁぁぁぁ!!!!」


 『バサッ』と、背中から何かが広がるような音がする。

 この音、何?

 慌てて背中を触ってみる。


 ふわっ

「ひゃう、げほっ!」


 なんというか……変な感覚だ。思わず変な声が出てしまう。

 ……咳き込んでしまうからやめてほしい。

 首を回して背中を見る。


「……翼?」


 そして私の背中には、何故か純白の翼が生えていた。




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