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3話 漆黒の鎌と純白の翼 Ⅱ

 





 視点:天霧夜

 地点:人間界 霊装神殿 内部





 アストリアは……抱えられたまま大人しくしている。

 抱えた時に鎌を握る力を弱めてしまったらしく、鎌を落としてしまったらしいが、特に動じた様子もない。

 鎌以外の何かしらの対抗手段があるんだろう。

 もっと暴れると思ったけど、これなら話を聞いてもらえるかもしれない。

 神殿内を駆ける。

 鍛えているとはいえ、人一人抱えての全力疾走はなかなかに厳しい。

 神殿の中が予想以上に広かったのも、俺の心を疲労させる。

 通路の幅は狭いが通路は一直線で、奥までの距離がかなりある。神殿の外見よりどう考えても長い。

 他種族を警戒し、外見の大きさを錯覚させるように出来ているのか? いや、戦争が起こる前からこの神殿があった事を考えるとそれは無いか。

 ……今はそんな事を考えている場合ではないな。とっとと本題に入ろう。


「アストリア、俺と協力してくれ。」

「あなたに何が出来るの?」

「こうやって無様に逃げるくらいしか出来ない。今はな」

「今って、その今が、力が必要な時でしょう?」

「お前がここを襲撃した理由はなんだ?」

「人間は霊装が最大の武器。霊装使いを生み出す前に芽を摘…………まさか!」

「そういう事だ」


 魔族が霊装神殿を襲撃した理由──俺は概ね理解している。

 仮に俺が魔族なら真っ先に霊装神殿を潰す。

 他種族の精鋭を相手に一人の人間がまともに対抗できるとしたら、それは霊装の使い手に限る。……まあ、一部例外はあるが。



 空気中には、【魔素(まそ)】と呼ばれる謎の物質が含まれている。

魔臓(まぞう)】と呼ばれる臓器を介し、その魔素と体内の血液を合成し、魔力を作る。

 合成にはある程度の時間が必要だが、これにより魔法の使用を可能にすると思えば、僅かな時間など安いものだろう。

 魔族にのみ、魔力溜まりと呼ばれる尻尾と角が存在し、そこに魔力を溜めておくことで魔素を魔力に変換する過程を省略し、いつでも魔法を使える状態をキープすることが出来る。

 だが魔力溜まりと魔臓は密接な関係にあり、魔力溜まりを壊されると、溜まっていた魔力を使用する事は勿論、魔素を魔力に変換させることも出来なくなってしまう。


 それに引き換え、人間には魔臓そのものが無い。

 その為に魔力を作ることができず、魔法を使う事ができない。

 幸いにも人間は繁殖力が高いために絶対数が多く、科学力の発展が非常に早い。

 そのおかげで何とか他種族にも対抗できているが、それでも霊装の使い手がいなくなれば人間の敗北は確定する。

 それ程までに霊装は強力な武器であり、他種族にとっては脅威だ。



「成功率は二割よ! それに成功したとしても私が貴方のことを殺す。霊装を持ってない10歳の人間が、ここまでの身体能力を持っている。仮に強力な霊装が生み出せてここを突破出来たとしても、その後、魔界にとって厄介な存在にならない訳がない」

「仮に霊装創造が成功したら、ひとまずお前の()取り巻き達を倒す所まで協力して欲しい。どっちにしろ、このままなら俺もお前も死ぬんだ。それだったら俺は一縷の可能性に賭ける」

「…………はぁ」


 俺の腕をすり抜けて、地面にスッと着地したアストリア。


「来なさい【漆黒の鎌】」


 そして、空間に現れた穴から鎌あのを取り出す。

 なるほど、こうやっていつでも取り出せたのか。

 ……ん、魔力は生み出せないよな? 魔法でもなければ鎌を召喚する事は出来ないだろうし。って事は、これは鎌本体の能力なのか?


「ふっ!」


 そしてアストリアは、取り出した鎌を俺の前で振り上げた。

 駄目、だったか……?


 ──そして鎌が振り下ろされる


 ……俺の真後ろで。

 それと同時に、火が掻き消されたかのような音が鳴る。

 俺の身体は健康体そのものだ。


「何をボサっとしているの! 私がいなかったら、貴方今頃火だるまよ!」

「お、おう」


 これは交渉成立で良いのか?


「ほらとっとと走る! 追い付かれるわよ!」

「お、おう!」


 走り出すアストリア。

 今度は自分で走ってくれるようなので俺も負担が少なくて済む。


「協力してくれるのか?」

「人間と協力するなんて癪だけど、そうも言ってられないわ。貴方の賭けに乗ってあげる。でも窮地を脱したら貴方を殺す。さっきも言ったけど、貴方は間違いなく魔族の害になる」

「解決したら全力で逃げるよ」


 後ろを振り向くと、取り巻き達の姿が見えてくる。急がなければ……




 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 


 最初にうまく不意を突いた事と神殿内が狭い事が幸いして、進軍に時間が掛かっていたアストリアの取り巻き……いや、もう魔族達でいいだろう。

 魔族達とはかなりの距離が空いていた。

 だが今はもう20mもない。

 一見まだ距離があるように思えるが、一般的な魔道士の射程は20m程。

 つまりこの距離は魔族達の射程圏内。危険だ。

 子供の脚力で鍛えた大人を振り切るのは厳しいか。


「アストリアを殺すのです!【風の銃弾(ウィンドバレット)】」

「これでも喰らいやがれ!【氷の槍(アイスランス)】!」

「せいっ! らぁぁっ!! ……はぁっ……はぁっ……!」


 後ろから飛んでくる魔法を、鎌で弾きながら走り続けるアストリア。

 そんな無茶をしているせいで呼吸に余裕が無い。


「大丈夫か!」

「全然、大丈夫よ!」


 俺は魔法を弾く事はできない。

 ……心苦しいが、アストリアに任せるしかない。


「皆さん、力を合わせましょう。私に魔力を」

「あぁ!? 俺にやらせろよ!」

「それは出来ませんね。貴方には協調性がありませんから」

「お? やんのかごらぁ?」


 突然仲間割れを始めた魔族達。……チャンスだ。


「アストリア、今の内に距離を稼……っておいおいおいおい!?!?」


 アストリアは鎌を構えている、その構えから導き出される次の行動、それは──


「せいやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


 ……鎌をぶん投げる事


「な、【物理防御(フィジカルバリア)】!!!」


 奴等のリーダーは投げられた鎌の存在に気付き、即座に防御魔法を展開する。

 反応が早い、腐っても精鋭だ。

 だが風切り音を立てながら回転しながら飛んでいくそれは、防御魔法をも切り裂く。


「くっ、まずいです!」


 防御魔法を撃ち破った鎌はそのまま敵の大群に直撃、狭い空間で放たれる鎌に避ける術は無い。


「「「「「ギャァァァァ!!!!」」」」」


 悲鳴と共に神殿の一部が崩れ道が狭まる。

 これなら敵の進軍もかなり遅くなるだろう。


 ──だが


「……ハァ……ハァ…………魔法が使えれば、もっと簡単に、倒せるのに! ……ごめんなさい、すぐに、ゲホッ……立つわ」

「…………」


 『魔法が使えれば』ね……


「わ、ちょ、また」


 アストリアの呼吸が明らかにおかしくなっていたが、敵がいつ進軍を再開するか分からない。

 彼女には悪いが、再びお姫様抱っこで走る。


「あり……」

「ん!?」

「な、なんでもないわよ!」


 何かを言っていたが、俺が変なタイミングで答えてしまったせいで良く聞き取れなかった。




 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




 地点変更:人間界 霊装神殿 最奥部




 何とか神殿の最奥に駆け込む事に成功した。


「おにいちゃん! ……その、かかえている人って、あの?」

「ハァ……お? 咲! あぁ。でも今は協力関係にある」


 神殿を先に走らせていた咲。前には何もなかったようで何よりだ。


「それはともかく、早く霊装を創らないと。咲、アス……この人の事見ていてくれ!」

「あ、おにいちゃん!」


 神殿の最奥は、白を基調とした大きな空間だった。

 その大きな空間の更に奥は、小さな別の空間になっている。

 聞いた話だと、この小さい空間の奥に大きな水晶玉があるらしい。

 その水晶に触れる事で自分の心が求めた物がイメージとして生まれ、それが実際の霊装になるとか……

 失敗する時はイメージが頭に生まれないらしい。そうなったら賭けは失敗。俺も咲も、アストリアも死ぬ。


「あった!」


 水晶を発見し、意を決して水晶に触れる。




 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




 地点変更:???




「ここ、は?」


 気が付くと、俺は宇宙のような空間にいた。

 その不思議な空間に、一つの翼が浮かんでいる。

 もう一つ何かが浮かんでいた気もするが、まあ気のせいだろう。

 今は見えなくなってしまったし、霊装は一人一つだけの筈だ。


 にしてもこの翼──霊装か?


 純白で大きな翼。

 その翼の名前が頭に流れ込む。

 名前だけじゃない、能力の詳細も……


「俺ってこんなにお人好しだったかな? いや、ただの臆病者なだけかもしれない……なんにせよ、これなら状況を打破出来るかも」



共鳴の翼(レゾナンス・ウィング)

 [能力]

 ・飛行

 ・魔力溜まりを精製

 ・特定の魔族一人に装備可能、装備解除不可。背中に触れる事で、その魔族に装備される。自身は装備不可。

 ・体積の伸縮可能(0.01倍〜1.00倍)。大きくする程、他の能力に+補正。

 ・破壊不能

 ・???? ets……


 俺が触れると翼は白く輝き、その輝きがこの不思議な空間を包み込んだ。

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