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26話 WGA入学試験 Ⅷ


 視点:天霧夜

 地点:空中都市 WGA 第一闘技場





 俺が【流墜】を使用したのには二つの理由がある。

 一つは衝撃の方向を変え、ラウラの突進を受けるため。もう一つは竜装に衝撃が通るかを判明させる為だ。

 結果──【流墜】を直撃させ、竜装にも衝撃は通ることが判明した。

【流墜】は斬る事を目的とした他の技と違い、受け流す──衝撃の方向を変えることに重きをおいた技だ。

 この技が通るというのは、竜装に衝撃が通るのと同義だ。

 衝撃が通るなら……当初に予定していた秘策が使える。

 当たれば強力だが、効果が無ければまるで意味を成さない。

 これで効果がある事が分かったのは大きい。後はその秘策を当てる為のスキを作るだけだ。


「ふっ、せいっ!」


 左下から右上に一閃。バックステップで躱された所を踏み込み、折り返す様に右上からの袈裟斬り。

 その袈裟斬りは当たったものの、軽い金属音が響いただけだ。

 こうなることは目に見えているし、この袈裟斬りに大した力は込めていない。

 威力よりも攻撃後のスキを減らす事に重きをおいたからだ。

 それも全て、俺の秘策へと繋げるための布石。


「斬撃は私には効かないのです!」


 踏み込みしゃがんだ状態の俺に迫るラウラの強化された拳。

 当たれば一撃で昏倒しかねない全力の踏み込みパンチ。


 ──これを待っていた! 


「【変更(チェンジ)】!」


【感覚拡張】から【集眼】への変更。

 あのパンチを利用しての攻撃だ。極限まで集中しないと成功するか危うい。

 そして──


(すまん、今日はいつもより念入りに磨く!)


 右手に持っていた刀を地面に落とし、その手でラウラの襟元を。刀に添えるはずの左手は伸ばされた腕の裾を捕える。

 そして──


「ふっ!」


 ラウラを巻き込んでの後方宙返り。

 その際に片膝をラウラの腹に付ける。

 ラウラの背を地にした着地は──


「!?!?」


 彼女にとてつもない衝撃を与える。



 天霧に伝わる最高難易度の武術【舞旋衝(ぶせんしょう)

 相手の攻撃の勢いと落下の勢い、更に自身の体重分を、逃げ場の無い地面で腹にぶつけるえげつないカウンター技だ。

【舞旋衝】による衝撃は柔らかい身体の中で暴れまわる為、防御力は意味を成さない。

 竜装相手でもダメージを通すだろう。



【舞旋衝】の衝撃で土煙が舞う。

 念の為、【集眼】を【感覚拡張】に戻して距離をとる。

 その際に落とした愛刀を拾う事も忘れない。


 竜族、ましてや二つ名持ちとなれば何をしてくるか分かったもんじゃない。

 完璧な体勢で入った上に手応えもあった。本来なら一撃で昏倒する衝撃だが……


「…………」


 土煙が霧散していく。そこには──


「い、意識が飛びかけたのです」

「ダメージは入った、か?」


 苦渋の表情を浮かべ、腹部を抑えながら起き上がるラウラ。

 前と比べて呼吸がかなり乱れている。一矢報いる事は出来たみたいだ。

 やがて俺を見つけ、浮かべた苦渋を隠すように笑う。


「体技のみで私が追い詰められたのは今日が始めてなのです。前の試合を見て警戒はしていた……と思ったのですが、まだ自分の中で人間だからと舐めている部分があったのです。でも──もうそんな事は考えない。その技に敬意を表して、私の全力で相手をさせてもらうのです!」


 そうして天に手を掲げ、もう片方は心臓に置く。

 そんなラウラの様子を見て、自分から開けた距離を詰める。


『このまま放っておけば俺に勝機が無くなる』


 ただの直感だがそんな気がした。

 クソ……警戒して距離をとったのが仇になった。

 大体10mの距離を一気に詰め、竜装の合間を縫って突きを入れる。

 が──


「くっ!」


 ラウラを中心に強烈な風が渦巻き、砂塵が舞う。俺の刀は僅かに届かなかった。

 その砂塵はすぐに散り、()()()は姿を現す。


「これが竜化か……」

『さあ、覚悟するのです!』


 中から現れた巨大な(ラウラ)は不敵な笑いを浮かべている気がした。

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