23話 WGA入学試験 Ⅴ
昨日は休んで申し訳ないです。
体調不良だったんです。
許してください、何でもしますから。
視点:天霧夜
地点:空中都市 WGA 5F 食堂
「ガイア、これ美味しい……」
「おい、口の周りにくっついてるぞ」
「とってとって」
ふきふき
「ありがと」
口角を少し上げ、優しげな笑みを浮かべるリンカ。何とも和む光景だ。
だが……とても一界の姫と、その護衛の関係には見えないな。
その事を聞いてみると──
「俺とリンカは幼馴染でな、昔からよく遊んでたんよ。そんで、いつからか『リンカに護衛を付けるべき』という意見が獣界から上がってな。リンカと交友があって、自分で言うのも何だが腕もそれなりに立つ俺に白羽の矢が立った訳よ。リンカは滅茶苦茶強いが、まあ色々な理由で護衛は必要だ。だがまあ、実際やってる事は世話係みたいなもんだ」
「……ガイア、いつもありがと」
そう言うリンカの頭をグシャグシャと撫でるガイア。……種族系統も同じだし、仲のいい兄妹にしか見えない。
「なんか……王女だからって、どう対応すればいいか悩んでいたのが馬鹿らしくなってきた」
「咲ちゃんに同意です」
「気にしないで接してくれると嬉しい……」
「そういえば、自己紹介がまだだったな。俺は──」
俺、咲、月夜の順に、簡単な自己紹介を済ませる。
「ガイア・スプラウト、ガイアって呼んでくれ。見ての通りの獣型狼人で、主武器は槍。見た目と似合わないのは重々承知しているが、趣味は料理だ。よろしく頼む」
「……リンカ・ソフィーティア。人型狼人で、一応獣界の王女やってる。主武器は……素手? 趣味は惰眠を貪る事。特技は何処でもすぐに寝れる事。ふぁぁ……」
「リンカ、あいつらの紹介はしなくていいのか?」
ん、あいつら? 他にも誰かいるのだろうか……
「今は面倒だしいい。後で紹介する」
「そうか、まあいきなり言っても混乱するだろうしな。その方がいいか」
二人で納得しているし、教えたくない訳でもなさそうだ。
無理に詮索する事なく、向こうから言ってくれる時に話してくれればいいか。
自己紹介の間に皆食べ終わり、再び闘技場に戻る事にした。なんでも、リンカも同じ闘技場らしい。
あいつらは別の闘技場なんだろうか。
そういえば──
「ガイアー」
「あいよ、よっと」
「Zzz……Zzz……むにゃむにゃ……」
リンカがガイアの背中に乗り、すぐさま寝息を立て始めた。俺が言うのは下世話だが、ガイアはそれで良いのか?
……まあともかく、五人で闘技場に向かう。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
地点変更:空中都市 WGA 第一闘技場
休憩時間も終わり、既に試験は開始されている。
俺達は客席で、既に戦いに身を投じるリンカを見ていたのだが──
「な? リンカ強いだろ?」
ガイアの言う通り、リンカは理不尽なまでに強かった。
立ち回りや太刀筋から、対戦相手のエルフも相当な手練である事が見て取れるが、リンカの圧倒的なパワーによって、エルフは持ち前の技量を活かしきれていないようだ。
「相手が可哀想なんだが……にしても、一戦目は全く気が付かなかったな。いつ戦っていたんだ?」
「一戦目は試合開始直後にワンパンで終了だったからな。見逃したんじゃねぇか?」
つくづく滅茶苦茶だな……
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
視点変更:リンカ・ソフィーティア
「むむぅ……」
私の戦闘スタイルは超近接。
素手で相手を殴ったり、蹴り飛ばしたり、投げ飛ばしたりするだけ。
人型獣人だし魔法も使えるけど、殴るより疲れるから使わない。
大体の敵は殴るだけで終わるしね。
でも今回の対戦相手のエルフ、殴るだけじゃ倒せそうにない。
いつもなら不意打ちの初撃で終わるのに回避されちゃったし、強引に殴っても剣でいなされちゃう。
剣で防いだだけなら殴り飛ばせば良いだけなんだけど、いなされちゃうと困る。
最初の一回目は防いでくれたんだけど、次からはいなす方向にシフトしたみたい。
判断力もあるし、もしかしたらガイアより強いかも。
なら──
「【憑依:月下獣】」
早く寝たいし、そろそろ本気だそうかな。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
視点変更:天霧夜
「あのエルフ、リンカに【憑依】を使わせるとは……やるな」
「【憑依】?」
「獣人の王族が使える能力でな、自身が倒した魔物や動物の能力を借り、その上で自分の身体能力も飛躍的に上昇させるっつう能力だ。一応、三分しか使えない弱点付きだ。が──」
そこでわざとらしく言葉を切り、ニヤリと笑って続けるガイア。
「リンカが【憑依】を、ましてやその憑依の対象が月下獣の時、三分で決着がつかなかった事は無い。無論、リンカの全勝だ。あの面倒臭がりなリンカが【憑依】を使う事すら稀だ。滅多に見られないからしっかり見とけよ」
だそうだ。
俺はリンカの様子が変わったのを感じて、再び戦場へと視線を戻した。





