22話 WGA入学試験 Ⅳ
視点:天霧夜
「まだまだだな……」
観客席に戻ってきた俺を、咲と月夜が出迎えてくれる。
「お兄ちゃん、あれは相手が悪かっただけだって! それにしても、最初の不意打ちよく避けれられたね」
「ああ、咲との訓練が効いたな。最初の不意打ちで終わる所だった」
「それにしても……月夜さん? なんで固まってるの?」
「だって夜君、強いとは思ってたけど、【月狼】の護衛とまともに戦える程とは思わなかったよ……」
「「【月狼】の護衛!?」」
──【月狼】リンカ
獣人の王女であり、圧倒的な強さを持つ、人型の狼の獣人だ。
なんでも普通の獣人には無い特殊な能力があるらしいが、詳しくは知らない。
とにかく、その名は世界を越えて広まっている。【インビジブル】みたいに眉唾ものの噂ではなく、目撃情報も多々ある。強いのは間違いないだろう。
俺が、その護衛と対等に……いや、それは驕りか。
だが、少しは戦えたんだ。負けはしたが、もっと自信をもっていいかもしれない。
『次、2187番と2264番……お!? 月夜じゃねーか、頑張れよ!』
良い母親なのかもしれないが、入学試験の場で言うのはどうなんだろうか……
月夜も相手側も、何とも言えない気分になるのは間違いない。
「お母さんやめて恥ずかしい//」
案の定頬を染める月夜。
「が、頑張ってこい! 応援してるぞ!」
「ありがとうございますぅ……」
月夜は苦労人だな……
『1341番、3116番!』
「私も!? うぅ、月夜さんの試合見たかったなぁ……」
どうやら咲も呼ばれてしまったらしい。
「ほら、お前の霊装の力を見せてこい!」
「あれ、使ってもいいのかな?」
「いいんじゃないか? 一応霊装だしな」
戦闘試験のルールに『霊装、機械の使用を禁ずる』とは書いてない。
より実戦を想定した訓練になっているのだろう。まあ、咲にとってはそれが功を奏した訳だが。
「じゃあ行ってくる!」
「ああ、頑張ってこい!」
そうして、二人は舞台へと降りていった。
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「な、何とか勝てました!」
「……自分の事だけど、やっぱりあの霊装ずるいと思う」
「お疲れ様」
咲と月夜が試合を終えて戻ってくる。
二人共、余裕を持って戦闘を運び、無事快勝。
結局負けたのは俺だけか……
そこで──
『これで一試合目は終了だ! 一時間の休憩時間をとるから…………一時間もあるのかよ、早く帰らせろ!』
と、とにかく一時間の休憩があるらしい。
一時間か……長いな。
『あ、そうそう。食堂を開放してるらしいから、飯食いたいなら行ってみればいいんじゃねぇか? 流石に頭使って身体動かしたら腹減るだろ。二試合目以降で全力出せるようにしとけよー』
「何か食うには丁度良い時間だな……」
折角だし、何か食べに行ってみよう。
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「ごっはん♪ ごっはん♪」
「咲さん、ご機嫌ですね」
「咲は結構食うからな……太るなよー」
「あれだけ身体動かしたら太らないよ! 失礼なお兄ちゃんはこうだ!」
俺のお腹に頭でグリグリしてくる咲。
髪が擦れてくすぐったい。
「従妹さんと仲いいんですね。呼び方もお兄ちゃんですし」
「あ、あぁ。昔っから度々会ってたからな。今更そう呼ばれる事に違和感は無い」
危ない危ない。咄嗟にそれらしい言い訳が出てきたから良かったが、俺や咲がこんな調子じゃ咲の正体がバレてしまう。
すると──
「お兄ちゃん♪」
「月夜? どうした? 壊れたか?」
「…………なんでもありませんよーだ!」
ぷいっとほっぺたを膨らませて、先を歩いて行ってしまう月夜。
突然『お兄ちゃん♪』なんて……本当にどうしたんだ?
そして──
「いつまでやってんだ」
「いで」
事の間、ずっと頭でグリグリし続けていた咲に手刀を落とした。
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地点変更:空中都市 WGA 5F 食堂
「はいよ、大盛りにしといたよ!」
定番のセリフと共に、大盛りのカレーが渡される。
「ありがとうございます」
「いいのよ、午後の試験も頑張ってね!」
食堂のシステムは、懐かしの券売機式だった。俺が産まれた時には殆ど使われてなかったからな……新鮮だ。
購入を済ませ、席に座って食事を摂る。
割と早く来れたのが功を奏し、ほとんど並ばずに注文する事が出来た。
「お兄ちゃん、早く食べよう! ハァハァ……」
「咲……お前やばいぞ」
すっかり購入を済ませた二人が、席に座って手招いている。
俺も隣に腰を下ろして──
「「「いただきます!」」」
カレーを大きく一口頂く。……美味っ!
ほんとに美味いなこれ……普段から良いものを食べてる俺達だが、それにしても美味い。
「はぐはぐはぐはぐ……」
「ずずずず……」
咲は大量に頼みまくってるから置いておくとして、月夜が頼んだのは『きつねうどん』。
うどんの啜り方も美しく、巫女服だからか凄く様になっているが……そのうどんの中身が所作に合っていない。
「月夜、その、中身……」
「だって油揚げ美味しいじゃないですか! 八枚も入れてもらいました!」
「バクバクバクバク……」
「咲! 落ち着いて食え!」
まあ、食事は楽しむのが一番だな。
さて、俺もカレーに手を伸ばそうとした所で、皿の上に何かが飛んできた。
──芋虫だ。
「おっとぉ!? 人間は虫を食うのかなるほど失敬失敬!」
「はぁ……」
飛んできた方向を向くと、魔族達がこっちを向いて薄ら笑いを浮かべている。
大方あいつらがやったんだろう。
「……芋虫は栄養価高いし食えなくはないが、野生のは毒持ちの場合がある。殺す気か?」
「ん、なんの事だか……」
騒ぎに気付いたのか、周りがざわつき始める。
人間が恨まれてはいるのは知っていたが、ここまで根を張っているとは思わなかった。
多少の事なら流そうと思っていたが、ここまでされて反抗しないと、そういう奴だと思われてエスカレートするのは間違いない。
立ち振る舞いから見ても、そんなに強くはなさそうだ。
俺は席を立って、何事もなかったかのように魔族の一人を投げ飛ばす。
体幹弱過ぎだろ……すると──
「あぁぁう! やっぱり人間は暴力的! こんな所に居ていい存在じゃぁーー無いっ!」
そう騒ぎ始める。
実力は無いに等しいが、人の心理をよく理解している。つくづく苛立たせる行動しかしてこないな……
だが、ここで乗っては向こうを調子に乗らせるだけだ。
さてどうしたものか。
そこで──
「おいおいあんた、そりゃないぜ」
「え、が、ガイア!?」
「ガイア、居たのか」
「おう夜! さっきは世話になったな!」
ニカッと、笑顔で振り向くガイア。
その後、さっきの魔族に何かを耳打ちしている。……聞こえないな。耳の良い咲に後で聞いてみよう。
「そこの人間天霧だぞ」
「あ、天霧!?」
「あんた、殺されるかもな?」
ガイアは魔族から離れてニヤニヤしている。何をしたんだ?
「ご、ごめんなさいぃぃぃ!!!」
そうして、500円玉を置いて逃げていく魔族。……100円足りないんだが。
まあともかく、ガイアには感謝だ。
「助かった、何をしたんだ?」
「ちょっと教えてやっただけだ。それより、俺と……あとこいつも、一緒していいか?」
「ムニャムニャ……ん、どしたのガイア」
「俺は構わないぞ、なあ咲、月夜……どうした?」
咲は頷いて肯定を示しているが、月夜は固まっている。何故だ?
「【月狼】リンカ様ぁ!?」
「な……」
「どうも、私はリン……ふぁぁ……」
なるほど、固まるのも納得だ。
「王女とか気にせず、仲良くしてやってくれ!」
「それでおねがーい……」
と、とりあえず、俺はカレーを買い直して、二人が増えた卓で食事を再開した。
月夜と咲の入学試験は都合上省きましたが、リクエストがあれば番外編として書かせてもらいます!





