21話 WGA入学試験 Ⅲ
視点:天霧夜
さて……槍は持ち主の手に戻った
ガイア自身は一歩も動いていないのに、地面に刺さった筈の槍が後ろから迫って来た事を考えると──武器自体に付与された特殊能力が関係していると見た方がいいな。
【特殊能力付与状態】──何らかの形で、武器に特殊能力が付与されている状態を指す。
本人から聞いた訳ではないが、おそらくシャルの漆黒の鎌もこの状態にある。
魔素の多い場所に長年放置された武器や、魔法を込めて造られた場合に特殊能力付与状態になるが、詳しい事は未だに分かっていない。
……まあ、とにかく。
あの槍には特殊能力が付与されているのだろう。
それに、あの余裕のある表情を見る限り『持ち主の手に一直線に戻ってくる』……ってだけじゃなさそうだしな。
戦闘前は近接戦になるだろうから有利と思っていたが、相手に遠距離攻撃の手段がある以上、その考えは改めざるをえない。
なら──
「次は俺から行かせてもらう!」
駆け出す俺に対し、槍を構えて受けの体勢に入るガイア。
俺の攻撃を一旦受けて、攻撃の特徴を見つける意図もあるんだろう。
だが──
『武器での受けに徹した相手を崩せる技』
そんな技を、俺は六年間で習得した。
その技を使うには丁度良い状況だ。
まずは──
「【変更】!」
今の俺の状態──広範囲を感覚で捉える【感覚拡張】から、視覚以外の五感を代償に、狭い範囲での集中力を爆発させる【集眼】に変える。
多角的な攻撃には弱くなるが、相手が受けの体勢の今、その可能性は低いとみた。
「…………」
俺の変化を感じ取ったのか、ガイアの顔が少し強張る。
鞘に収められた刀に手を掛け、抜刀の構えをとりながら突撃。
それに対し、槍を突き出すガイア。
剣にリーチで勝る槍は、対剣の戦闘において先手を取りやすい。
だからこその突き出しだったのだろう。
だが──
「それは読んでいる!」
「なんっ!?」
俺は突き出された槍を回避し、槍の柄を横から掴み、そこから右手──槍の持ち手を、回し蹴りで蹴り上げる。
槍の能力がよく分からない以上、槍を弾き飛ばし、その間に決着をつけるのが最善だと考えての行動だ。
「くっ……」
完璧な軌道で入った蹴りは、予定通りガイアの槍を宙に舞わせる。
その瞬間を俺は見逃さず、すかさず体勢を整えてガイアに斬り掛かる。
あと一歩で刀身が触れようか、という所で──
「【風の弾丸】!」
「届、かない!」
至近距離で放たれた風魔法は、俺に回避を許さない。
やむを得ず刀身で風魔法を受ける。
風魔法は対象にダメージを与えるより、吹き飛ばす事に重きを置いた魔法。
近接戦闘が得意なものにとって、強引に距離を開く風魔法は厄介極まりない。
そうして距離を強引に開かれてしまったが、俺に遠距離攻撃の手段は無い。
再び距離を詰めようとした所で、俺は気付いた。
蹴り上げたガイアの槍に、遠距離攻撃の手段があるかもしれないという事に。
【集眼】状態の俺は、その槍を視覚に捉えていない。
その状況を理解し、槍を蹴り上げた方向に視線を向ける。
──が
「うあっ!?」
気付いた時には、もう遅かった。
目の前には槍が迫っている。咄嗟に刀身で受けようと身体を動かすが、間に合いそうにない。
このままじゃ刺さ──
「【物理防御】!」
る。
……筈だったが、俺の目の前に防御魔法が展開されている。
【集眼】を解除し、ふと試験官を見るとこちらに手を向けていた。この防御魔法は彼が展開したものなのだろう。
俺は試験官に頭を下げ、両手を上げで敗北を認める。
「勝者、2337番!」
「「「うぉぉぉぉおおお!!!!」」」
観客席から声援が送られる。
勝負には負けたが、自分の弱点を再確認出来た良い試合だったと思う。
「お疲れさん、天霧夜、良い勝負ができた。ありがとう」
近付いてきたガイアが、俺に手を差し伸べる。
その差し伸べられた手を握って
「あぁ、こちらこそありがとう。楽しかった」
こちらも感謝の意を示す。
先程よりも大きな歓声が、観客席から響き渡った。





