18話 雲上の狐巫女 Ⅱ
今回は少し短めです。
視点:天霧夜
地点:空中都市 第四地区(開発区)
「目的地はWGAですか?」
「ああ、そうだが……なんで分かったんだ?」
「人間の方の観光客は少ないですし、入学候補生ではないかと。私も入学候補生ですし、良ければ一緒に行きませんか?」
という訳で、話はWGAに向かいながらする事にした。
巫女を努めているとなれば、空中都市の地理にも詳しいだろうしな。
「そういえばさっきの魔族、月夜さんが巫女だって分かって逃げ出したように見えたんだが、巫女には【神域】の維持以外にも役目があるのか?」
「はい、巫女は総じて魔素変換の上手な者──魔法を扱うのが得意な者ですからね。【神域】維持のお役目の他に、警察としての治安維持のお役目も担ってます……といっても、治安維持の方は厳密に何時から何時までと決まっている訳ではなく『暇な時に見回ってみて下さい』みたいなゆるーい感じですよ? 空中都市のパンフレットには『空中都市の環境維持に務める巫女』なんて大層に書かれてますが、巫女は結構な人数いるので【神域】維持のお役目は一時間の交代制なんです。仮にお役目がこれだけなら、一時間で国から結構なお給料が貰える良い仕事なんですがね」
えへへ、とはにかんだ様に笑う月夜さん。
なるほど……だからさっきの魔族は、月夜さんを見て逃げ出したのか。
ちなみに、月夜さんはあからさまな巫女服を着ている。業務中の制服みたいなものらしい。
……その格好のまま入学試験に行くのか?
さっきの答えで巫女に興味を持ったのか、咲がアホ毛を動かしながら月夜さんに質問する。
咲は何かに興味を持つとアホ毛がピクピク動く。……その事を咲に指摘すると、俺も同じだと言われた。天霧の遺伝なのか?
「【神域】の維持ってどんな風にやるんですか? 少し気になったので」
「巫女はこの空中都市中に240人もいます。一時間毎に10人で【神域】維持に務め、それを繰り返すって感じです。ぶっちゃけ巫女ってなんの面白みもありませんよ? それよりも……」
月夜さんは頭に生えた狐耳をピクピク動かしながら、俺と咲に質問する。
「天霧って、あの柔の天霧ですか!?」
「あ、ああ。そう呼ばれる事もあるな」
「従妹いたんですね……! (さっきの身のこなし……なるほど、流石天霧。柔の二つ名は過言じゃないですね)」
「ん、なんか言ったか?」
「いえ何でも」
何か言っていたが、声が小さくて聞こえなかった。
まあそれはおいておくとして、一番聞きたかった事を質問する。
「何でわざわざ空中に都市を作ったんだ? 平和の象徴にしたかったのはわかるが、それなら五界の何処にも属さない……例えば、海とかに作るんでも良かったんじゃないか? わざわざ【神域】を生成してまで、空中に都市を作る理由がわからないんだが……」
「単純ですよ? 攻められにくいからです。空中都市計画の代表──マイル様は、平和条約を破って都市が攻められる可能性も考えていました。まあ、魔術の叡智を集めた都市がそう簡単に陥落するとは思えませんけどね。それに、空中だと都市内に侵入するのはほぼ不可能。確かに環境の維持は難しいですけど、平和の象徴ですからね。人為的な被害を抑える方に重きを置いているんです」
「なるほど……」
環境面に多少のデメリットを抱えてでも、人為的なトラブルを抑える為に空中に都市を建てたのか……
平和の象徴としては、確かにその方が良さそうだな。
「さ、着きましたよ」
そうして、俺達は目的地──WGAに到着した。
入学試験が始まる。どんな内容なのかは分からないが、まず間違いなく難しいだろう。気を引き締めなければ。





