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17話 雲上の狐巫女 Ⅰ






 〜2131年 2月15日〜




 視点:天霧夜

 地点:人間界 神戸ゲートターミナル




「「…………」」


 俺達兄妹の前には、人間界と空中都市を繋ぐ【ゲート】が(そび)えている。でかいな……



 ──ゲート

 終戦後、他種族の協力の元、魔法と科学を合わせた技術──通称『魔術(まじゅつ)』が全世界で発展した。

 ゲートは魔術の最たる例であり、一定間の空間を繋げる事が出来る。

 だが出口として設定出来るのは対になる専用のゲートのみであり、設置にかかる費用も馬鹿にならない。その上制限も厳しいとデメリット尽くめだが、ゲートを潜れば短時間──僅か数秒で目的地まで行ける事を考えると、ゲートの増設が止まらないのも頷ける。

 ゲートの増設に伴って旅客機が衰退。開発されて僅か2年余りで、旅客機を空で見かける事は殆どなくなった。

 だが空港は土地を広くとっている為、閉鎖するにも莫大な金が掛かる。

 その為、空港は扱いを飛行機からゲートへとそのまま移行。エアターミナルはゲートターミナルへと名を変えることになる。

 国を越えるのにも手続きが必要だし、そういった設備一式が揃っている空港は、ゲートターミナルを1から作るより効率が良かったらしい。



 手続きを終えた俺と咲は、二人でゲートへと足を踏み入れた。

 その先にある、あの学園(WGA)に向かう為に。




 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




 地点変更:空中都市 第七地区(連絡島) ゲートターミナル




 ゲートをくぐり抜けた俺達は、入国手続きを済ませて空中都市に入る。

 そのまま屋内を出て、空中都市本島に入る為の連絡橋を渡る。


「す、すごい……!」

「これは予想外だな……!」


 その連絡橋から見える光景に、俺達は思わず声を上げてしまう。


 まず、橋の横からは雲が見えている。それも上ではなく下にだ。

 雲上にいる──その事実に興奮を隠せない。


 ここに来る前に調べたんだが、雲の上に存在する空中都市は雨が降らないそうだ。

 資源が心配だが、人と同じ様に資源もゲートで運ぶ事ができるから問題無い。

 それでも気圧とか環境には問題が出る──と思ったんだが、【巫女】と呼ばれる人達が【神域(サンクチュアリ)】という魔法を多人数で使用する事でカバーしているらしい。詳しくは分からなかったが、環境を変化させる魔法のようだ。


 続いて上を見上げてみる。

 鮮やかな蒼空(あおぞら)と、その蒼空で一際白く輝く太陽が美しい。

 いつもより太陽が大きく見えている気がするが、勘違いでは無いのだろう。

 天候に左右されない──つまり、学園に合格すれば、毎日この景色が見れるという事だ。

 合格しないといけない理由が増えたな……


 地面は一転して、白を基調としたメカニックな地面だ。

 聞くだけでは空の蒼と合わなそうだが、これが不思議とマッチしている。

 太陽の光が反射して輝いているからだろうか? 


 そして最後に、それらを背景に建つ建物──空中都市の象徴【WGA】。

 直径約10kmの空中都市。その中心に位置しているらしいが、端から見てもその存在は際立っている。


 ……俺はさっきから何を語っているんだ。


 取り敢えず、入学試験はWGAで行うらしい。時間に余裕はあるが、何分空中都市の地理には疎い。

 観光は後にして、まずはあそこに向かおう。




 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




 地点変更:空中都市 第四区画(開発区)




 道中を歩く事約30分。

 WGAへと繋がるメインストリートを()()()()()で避け、裏道を通ってWGAに向かう俺達だが、慣れない土地で裏道を通ったせいで道に迷った。

 幸いにもWGAは大きく何処からでも見える為、目測で近づいてはいる事が分かる。

 時間にも余裕があるし、道に迷った事は問題ないのだが──


「おいクソ人間、なんでてめぇらがこんな所にいるんだよ!」

「大人しく下界に帰りやがれ!」


 ……開発区画なのか治安が悪い。

 まあ『俺達が人間だから』というのが一番の理由なのは間違いないが。

 メインストリートを通らなかったのもこの辺りが理由だ。


 各界上層部で平和条約が締結し、その象徴として空中都市が建てられた訳だが、それはあくまでも見せかけの平和。個人の鬱憤が解消された訳じゃない。

 特に、他種族からの人間の評価は最悪だ。

 戦争の原因を作ったのは人間、そして戦争の被害が一番少なかったのも人間。

 不満をぶつける矛先は、当然人間に向くだろう。

 その人間がメインストリートを堂々と通るのはどうだろうか。

 俺達人間も、他種族側も良い気にはならないだろう。


 だから裏道を歩いていたんだが──これじゃ意味が無い。

 まあでも、ここまで来てWGAの入学試験をサボるわけにもいかない。

 直接攻撃されない限りは攻撃する気も無いし、そんな事をする奴も少ないだろう。


 ──少ないだけで、居ないわけではないが


「死ねっっっ!」


 ……まさか本当に斬り掛かってくるとは思わなかった。魔族の男が刃物で咲に斬り掛かる。

 咲もそれに気付いて、左脚を軸に回し蹴りの構えに入っている。

 その蹴りが魔族の腹に入ろうかという瞬間──


「ストップ、ストーップ!」


 何処かから聞こえた声に反応して、蹴りを止める咲。だが相手の斬り込みは止まらない。このままでは咲に刃物が当たる。……ああもう!


「きゃっ!?」


 咲を突き飛ばす。刃物が俺に迫る。最善の方法を模索し、刃物を奪い取るのが得策だと判断した俺は、魔族の得物に手を伸ばす。

 が──


「ストップです!」


 刃物を奪い取ろうと伸ばした俺の手は、小さな白い手に受け止められていた。俺に迫っていた刃物も同様だ。その手に受け止められている。


「いきなり斬り掛かるとかダメですよ?」


 そう言って、俺達を止めた主は魔族から刃物を取り上げる。


「巫女!? いや、その、す、すみませんでしたぁ!」

「まったくもう……」


 逃げ出す魔族。

 人間界で後ろから斬り掛かれば殺人未遂で捕まるが、他種族の法律では実害が出なければ犯罪にはならない。治安が人間界より悪いからな。それくらいの事で捕まえてたらきりが無いんだろう。


 それよりも──


「ありがとう、助かった」

「私がいなくても大丈夫そうでしたけど、私が止めたほうが遺恨が残らずに済みますからね。それにしても……お兄さん人間ですか? 珍しいですね!」


 この一連を止めてくれた主──少女にお礼を言う。


「俺は人間の天霧夜だ。で、こっちは従妹(いとこ)の咲」


 咲と俺の関係は従兄妹と言うことになっている。

 天霧に分家は無いのだが、その辺りの血縁関係も公表してないから問題無いだろう。

 天霧に隠し子がいる事が知れた時の方が面倒だからな。


「よろしくお願いします、夜さん、咲さん! 私は皇月夜(すめらぎつくよ)、巫女を務める狐の獣人です。月夜とお呼び下さい」


 そう言って、少女──月夜さんは頭を下げる。見た所同い年位か?

 狐の獣人で、この空中都市の要である巫女を務めているらしいが、彼女には人間への敵愾心(てきがいしん)は無さそうだ。

 気になっていた事もあったし、少し話してみよう。

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