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16話 俺の選んだ2000日 Ⅱ

 





 視点:天霧夜

 地点:人間界 天霧邸 咲の部屋前




 ──コンコン


 扉をノックして反応を待つ。

 最近になってから、勝手に開けると咲が怒るようになったからな。

 プライベートな部分を詮索する気もないし、別に気にしてないが。


「ん、いないか」


 部屋に咲の気配も無いし、反応も無い。

 だとすると……まあ、あそこだろう。

 咲の部屋を後にして、三年前に作ったある部屋に向う。




 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




 地点変更:人間界 天霧邸 スタジオ




「……♪」


 中から咲の声と音楽が聞こえてくる。

 約束の時間になった事に気付いた様子も無さそうだ。

 咲は一度歌いだすと時間を忘れるからな……



 あの日以降も咲は歌い続けて、気付けば自分のスタジオを機械に作らせていた。

 更には自分の歌を作り始め、ネットに投稿し始める始末。

 咲曰く、いわゆる『歌ってみた』動画も投稿するやいなや、一週間で数百万回もの再生回数を記録したそうだ。

 ネット上では、顔を隠す仮面と髪の色をとって『仮面の白姫』なんて呼ばれているらしい。

 流石に天霧の隠し子が顔出しはまずいからな。仮面を付けて活動している。

 俺はよく分からんが、一週間で数百万回再生は相当凄いことらしい。嬉しそうに語っていた。


 ──コンコン


 そんな咲の歌が終わったと同時に、スタジオの重い扉をノックする。

 防音の扉だが、咲の耳はとんでもなく良い。聞こえているだろう。


「ん、誰………………うへぁあぃ!?」


 ドアに向かって走ってくる音が聞こえる。

 咲が考えている事になんとなく察しがついた俺は、その場から二歩程下がって待つ。


 ガチャッ!


「お兄ちゃん!? ごめん!」

「時間の事は……まあ、次気をつけてくれ。それより、前も言ったが扉はゆっくり開けろって。後ろ下がってなかったら、また頭ぶつけてたぞ……」

「あ……ごめん!」

「それより、話って何だ?」

「あ、うん! 資料は持ってきてるから、とりあえず中入って!」


 資料が必要な事か……皆目検討がつかない。とりあえず、言われた通り中に入って咲の話を聞いてみよう。




 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




「これ」


 スタジオに入ってすぐに、咲が俺の手に資料を渡してくる。


「まずは見てみて!」

「ああ」


 資料に目を通す。


 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


空中都市(スカイディア)計画 Project1 (ワールド)(ジーニアス)(アカデミア)


 2135年1月に一般公開予定の空中都市

 未だめぼしいものは無い空中都市ですが、メインとなる建物は寄せられた意見に沿った物を増設していきますので乞うご期待

 まずは第一弾として、2135年4月

 五界初となる、五種族共同学校【WGA】が始まります


『あの五界戦争を再び起こさないように、五種族間の仲を深めつつ、その戦を止められる力を持った人材を育成する事』


 WGAはこれをモットーに開校します

 名目上、生徒は各世界の代表とも言えますので、教育費は世界負担になります

 ご存知の通り、空中都市はどの世界からも離れた場所に位置する為、生徒には学生寮が用意されています

 もちろんこちらも無料です

 入学条件も厳しい物になりますので、戦闘能力、知識力共に自信のある方のみ入学をご希望下さい

 途中退学もありますし、テスト等学習レベルも最高クラスですが、卒業後には将来を約束します


 入学お待ちしております


 空中都市代表兼WGA校長

 マイル・アストリア


 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━




 空中都市計画

【炎帝】手動の元、五界の平和条約の象徴として作られ、どの世界からも離れた雲上に位置する都市を作る計画だ。

 ちょっと前からずっとテレビで話題になっている事だし、世間に疎い俺でも知っているが……


「話は分かった。WGAに入学したいんだろ? だが無理だ」

「なんで!」

「咲が出ていったら天霧邸の警備ロボの整備はどうするんだ?」

「ラ、ラトちゃんに頼む?」

「ラトなら確かに出来るかもしれないけどしれないが……ん?」


 俺はもう一度、資料の最後を見る。


「ど、どうしたの?」

「いや……マイル・アストリア、アストリア……何処かで聞いたことがあるが……」

「アストリア…………あ! シャルさんの名字だ!」


 そういえばそうだ。

 シャルのイメージで定着していたから、すっかり名字を忘れていた。

 俺の知らなかった炎帝の名字、炎帝が魔族という事、シャルとの共通点も多く見られるし、彼女を探す手掛かりになる可能性は高い。


「……」

「ほ、ほら! シャルさんも見つかるかもしれないし!」


 いかにも都合の良い理由を見つけたという顔をする咲。

 さてどうするか……そんな時だった。


『お兄さん、咲さん、話は聞かせてもらったよ。私……いや、私達が解決してみせる』

「「!?」」


 俺の胸元から声が聞こえてきた。

 この声……ラトか?

 声の出処──服の中を覗いた時、一匹の蝶が出ていった。

 その蝶はスタジオの扉の方に向かって──

 扉を開けた主の頭に止まった。


「やっぱりラトか、それに裕翔も花梨も」


 蝶の盗聴機……シャレか? 咲が作った機械達は知っているし、ラトが作った機械で間違いないだろう。

 ……ラトの性格上、こういう遊び心を入れてもおかしくないし納得だ。

 にしてもこの盗蝶器、いつ俺の中に入ったんだ? 仮に爆弾が仕掛けられていたら俺は死んでいた。

 ……警戒が足りないな。もっと気を付けないと。


「いつ仕掛けたんだ? 全く気が付かなかったぞ」

「兄さんとの訓練中、着替えの中にこっそり入っててもらった。お兄さんの気配察知能力は凄いから。どの程度の隠密性があるかの実験だったけど、予想以上で満足。だけど、ごめんなさい……一応、ある程度したら戻って来てもらうつもりだったけど、咲さんのスタジオ入っちゃったから抜け出せなかった。……反省」


 釈然としないが、気付けなかった俺が悪いのも事実だ。

 ラトも勝手に俺で実験した事を反省しているようだし、幸い聞かれて困るような事も話していない。

 これで聞かれて困る情報だったら……双方にとって良くない事になるのは間違いない。


「まあ、実験については言ってくれれば何時でも協力する。今回みたいなのはやめてくれよ?」

「分かった、次からはしっかり言う。」


 咲は例の盗蝶器を触りながら、「あ、ここ私が前に教えた所だ!」とか言ってる。

 ……人間界の機密事項がバレるかもしれなかったというのに危機感がなさすぎるぞ、妹よ……


「いで」


 軽めの手刀を落として本題に戻る。


「で、解決してみせるって、どうやって?」

「あ、そうそう。この家、私達に任せられない? 駄目、かな?」

「駄目だ。俺に回ってくる仕事もあるし、何よりお前達の保護者がいなくなるのが問題だ。俺がいない間に襲撃を受けたらどうするんだ?」


 まあこれは建前だ。

 もう三人は並の相手で負けるような実力でもないし、裕翔と花梨には俺の仕事を手伝ってもらってる。

 俺と咲がいなくても、天霧としての義務を果たせるようにはしているのし、聞かれて困る情報も俺の方に直接入るように出来るのだが……問題はそこではない。

 三人に隠しているある部屋がある。


「師匠。地下のあの部屋が気掛かりですか?」

「「!?」」


 花梨……知っているのか?

 俺や咲がバラすはずも無いし、いつから……


「い、いつから知っていたんだ? 裕翔、ラト、お前たちも知ってたのか?」


 二人は首を振って否定する。

 知っているのは花梨だけらしい。


「見つけたのは師匠の手伝いで地下通路を通った時です。壁からとんでもないオーラ? みたいなのを感じて、手を触れてみたら部屋が出てきました。しばらく考えましたが、先に仕事を片付けて……帰ってきたらその部屋は隠されていました」


 ……花梨の気配察知能力は俺と同レベルだからな。失念していた。


「そうか、分かった。あの部屋は絶対に開けるな」

「わかりました。さっきの仕事が……っていうのも建前で、ホントはこっちがメインだったんじゃないですか?」


 ──鋭い


「でもそれがこうやってバレてしまった以上、もうWGAに行かない決定的な理由もないんじゃないですか? それにシャルさん、師匠の探してた人なんでしょう?」


 前もって、弟子達にはシャルの事を言ってある。

 戦争が終わってから異種族との交流も犯罪では無くなったからな。隠す理由もない。

 俺自身もシャルの事を探す手掛かりになるチャンスだ。行っておきたい。

 ……はぁ、仕方ないか。


「……分かった、咲と一緒に入学試験を受けよう」

「!? やった!」

「その代わり、仮に俺達が合格して向こうで暮らすことになった時、毎日定時連絡をしてくれ。何か問題があったかを確認する為だ。もし連絡がなかった時は俺と咲がこの家に直帰する。いいな?」


 三人は頷いて


「じゃあ、また午後の訓練で」


 そう言って部屋を出ていった。

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