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10話 【共鳴】 Ⅴ

魔界侵攻部隊長【雷】ジル・ブラッド

今回は彼の視点でお話を振り返ります。

 





 視点:【雷】ジル・ブラッド

 地点:人間界 他種族対策本部




 〜天霧邸襲撃 一時間前〜




「無事帰還したぜ!」

「「「お疲れ様です、ジル・ブラッド魔界侵攻部隊長!」」」

「おう、お疲れさん! ったくお前ら、なんでそんなに(かしこ)まってんだよ」

「だってここ本部ですよ? 流石に他の部隊の前であんなフレンドリーに話せませんよ」

「そんなもんか?」


 三ヶ月に渡って行われた大規模魔界侵攻。

 その将を務めていた俺は、この計画が終わってスッキリしていた。


「親父、帰ってきたのか! 久し振りに酒でも飲みに行こうぜ!」

「悪いなオルフィリア。今日は、な」

「ん? あー……最近仕事詰めですっかり忘れてたよ。わーった、話したい事もいっぱいあるし、また今度な! ……後で私も行くよ」

「ああ、すまん。次飲む時は俺の奢りな!」

「にひ、やりぃ!」

「お前らも今日はゆっくり休め!」


 ──【蒼炎】オルフィリア・ブラッド

 17才で神樹界、エルフ生息圏の侵攻部隊長になった天才。

 こんな喋り方だが女だ。俺の弟子であり、そして娘でもある。訓練中も扱いがどうしても甘くなってしまうのが傷だな。

 そのせいで部隊の皆からは親バカ扱いされる。

 くそう、娘と話しているだけなのになんでこうなるんだ……


 そんな娘の酒の誘いを断った俺は、魔界侵攻の記録を本部に提出した後、家に直行した。




 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




 地点変更:人間界 ジルの家




「ただいま」


 ──おかえり

 その声が帰ってきたのは三年前までだ。


「…………」


 靴を脱いで、風呂に入って、そして妻の前に座る。

 今日は妻の三周忌(さんしゅうき)だ。


 妻は三年前まで、俺が率いる魔界侵攻部隊の隊員の一人だった。

 いつもの様に魔界侵攻に向かった俺の部隊は化け物に蹂躙(じゅうりん)された。

 その侵攻で俺の妻も、俺を(した)ってくれていた部下も失った。

 後から聞いた話によると、その化け物は魔界最強の兵であり、その姿を見て生きて帰ったやつはほとんど居ないそうだ。

 周りからは『よく生き残った』と褒められたが、当時の俺にそんな事を気にする余裕がある訳がない。

 最愛の妻が目の前で殺された。

 その事実は俺の心を大きく(えぐ)った。

 オルフィリアが居なければ、俺は妻の後を追って死んでいたかもしれない。


 そんな最愛の妻、アイシャの前では、できるだけ綺麗で居たかった。


「アイシャ。オルフィリアは強くなった。……まだまだ、俺の方が強いけどな! さて、今日のご飯は俺が作る。最近はオルフィリアに任せてばっかりだからな」


 俺はその場を立ってキッチンへと向かう。

 いざ料理を始めようというところで……


 ──prrrr


 ()()()の携帯から電話が掛かってきた。

 この電話は魔族、魔界関連の所からしか掛かってこない仕事用の携帯電話だ。

 こうして携帯電話を分ける事で、仮に緊急事態であってもある程度の情報を得る事ができる。

 どちらかと言えば武闘派な俺だが、情報が武力よりも強い事は承知している。


「こちら魔界侵攻部隊長ジル・ブラッド」

『ジル、今日は君の妻の三周忌だろう。……そんな日に悪いが頼みがある』

「知ってるなら俺じゃなくて、他の誰かに頼んでくださいよ総司令」


 ──人間界の総司令 蒼宮刃(あおみやじん)

 戦争の開始と共に人間をまとめ上げ、力で他種族に劣る人間が他種族に対抗できる環境を瞬時に整えた人物だ。

 現在では緊急事態に行動できなかった政府に変わって、人間界のリーダーとしての責務を負っている。

 霊装が特殊な事でも有名だな。


『いや、この案件は君、魔族のエキスパートでないと手に負えない』

「はぁ……なんですか?」


 そうして俺は、霊装神殿襲撃についての報告を受けた。


『しかもその時にね、魔族の女の子が天霧の長男に捕虜として捕まっていたみたいなんだよ。おかしいと思わない?』

「確かにおかしいな」


 平和ボケした一般人ならともかく、天霧なら魔族の恐ろしさくらい知ってるだろう。

 ……これは事情がありそうだな。


『しかもその女の子、見た目の情報から察するにシャル・アストリアで間違いなさそうだ』

「……!?」


 シャル・アストリア

 8歳で魔族の部隊長になったと噂になっている。

 それに……あの忌まわしき化け物の娘だ。何があっても不思議じゃない。

 問題なのは──


「天霧……一体何を考えていやがる」

『それを君に確かめに行ってほしいって訳だね』

「なるほどな。確かにあの家相手じゃ俺が出る方が確実だな」


 仮に魔族と内通でもしているなら、その証拠が俺の目に止まらない事は無い。


『本当にすまない。頼んだよ』


 妻の三周忌だがこればかりは仕方ない。

 オルフィリアに置き手紙を残した後、仏壇(ぶつだん)に妻の好物である林檎(りんご)を置いて、俺は天霧の家に向かった。




 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




 地点変更:人間界 天霧邸 近郊




「相変わらずえれぇ厳重だぜ」


 部下も連れずに一人で天霧邸に来た俺。

 こと魔族との戦いにおいては単独で戦地に突っ込むなんて真似はしないが、この家の警備を考えると俺一人の方が良いだろう。

 横の壁をぶっ壊しても良さそうだが……これは流石に無理か。

 高さも十分、厚さは1mはありそうだ。

 俺の霊装をフルスイングさせても無理だな。


「なら……ここしかねぇな」


 ──正面玄関口

 見たところ、外壁の素材と同じ様だが厚さが無い。

 何回かぶっ叩けばいけそうだ。

 だが最初からそういう強硬手段に出るつもりは毛頭ない。

 まずは鐘をならして、普通の客の対応をしてみる。




 〜10分後〜




「遅え……」


 確かに入り口には


『出るまでに暫くの時間が掛かります』


 とは書いてあるが、いくらなんでも音沙汰無しで10分は長すぎる。


「もうぶっ壊すか……ん?」


 遠くの門に天霧の長男が見えた。

 訝しむ様な目でこっちを見ている。

 殺気を飛ばしてみる

 これでボロが出れば……


「……ビンゴだぜ」


 天霧の長男は家の方に駆けていった。

 門から本邸までの道に警備用の機械らしき物が地面から出てくる。

 俺は背中に携えた霊装【雷斧(らいふ)アルゴノート】を引き抜いて──


「おーらよっっっ!!!」


 門に叩きつける。

 二回、三回、四回目でやっと壊れた。

 岩くらいなら一回で粉々に出来るんだがな。

 壊した門を通り抜けて中へと進む。


『シンニュウシャ! シンニュウシャ! ショブン! ショブン!』


 大量の機械共が俺に銃口を向ける。だからどうした。


「うるせぇぞ機械共! 【狂化(きょうか)】!」


 【狂化】

 理性を引き換えに戦闘力を得る【雷斧アルゴノート】の特殊能力だ。

 部下を連れてこなかった理由は理性を失って味方に攻撃しかねない事と、この能力で引き出される戦闘力、突破力が凄まじいものだからであり、天霧邸の罠を突破するなら、こっちの方が効率が良いと思ったからだ。

 その予想が当たっていた事を、俺は後に理解する。




 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




 地点変更:人間界 天霧邸 ホール




「……我ながら出鱈目(でたらめ)な能力だぜ。」


 俺が意識を取り戻した時、既に天霧邸の内部にまで来ていた。

 確認はしてないが、外部の罠は全て破壊したんだろう。

 因みに俺はほぼ無傷だ。

 ほぼ、というのは、外傷は無いが【狂化】による強引な身体能力強化の影響で身体のあちこちが(きし)むからだ。

 強烈な筋肉痛みたいなものだ。別に大したことではない。


「さてと、探索しますかね」


 捜索に移ろうと歩を進めた時だった。


「……そっち登場してくれるとは、時間が省けて助かるぜ」


 俺が意識を取り戻したと同時に、俺の目に刀を持った一人の少年が映り込んだ。

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