序
イメージは明治/大正あたりの日本。
近似世界であり、ファンタジーです。
パピコ好き。
カタン…
両方の針がどちらも天辺を回り、いつもなら人も猫も寝静まる深夜。
「僕」以外いるはずのない部屋で微かな物音がした。
外でなにかあったらしく喧騒が聞こえた。
そういえば今日は、近くのお屋敷に世を賑わしている天狗組から予告状が届いたらしい。
なんでもこないだそこの主人が手に入れた高価な藍玉でできた鈴が目当てだという。
カフェで会ったそこの一人息子が楽しそうに話していた。
そいつは「僕」の友人だ。
「僕」が天狗組について知っていることは以下のことである。
壱.花札から名前をとっていること
弐.なぜか高級デパート街で毎回見失ってしまうこと
参.代替わりを繰り返し、庶民から貴族と幅広い構成員がいて、人数は決まって12人
四.年齢や性別、男女比は不明
伍.宝石でできた鈴を集めている
(天狗組を誘き出そうとわざわざ探したり、偽物を作る奴もいる)
とまぁ、長年追っている警察でさえあまり把握できていないらしい。
謎が謎を呼んでおり、天狗組のボスは化け猫だとか、警察内部に潜入しているだとか、花も恥じらう女学生や有名な文化人、果ては超絶美人な女装家までいるとの噂だ。
あくまで噂の範疇だけど。
さて、物音に気付いてしまった「僕」はもう一度瞼を下ろせるわけもなく、音の鳴った窓へと目を向けた。
月明かりに照らされた窓枠に佇む一つの影。
鮮やかな花が散る猫の形の面の下、少女のように紅い唇が弧を描く。
夜風に翻された華やかな羽織に目を奪われた。
「君は、一体………」
「天狗組、弥生の花見。煩くてごめんなさい。私のことは内緒にして下さいね」
次の瞬間にはその姿はなく、ただ桜の花びらが落ちているだけであった。
これが、僕と天狗組との初対面である。
序文に出てきて申し訳ないが、この話は、「僕」ではなく巷で話題のあの天狗組の物語だ。